三国志英雄伝~呂布奉先伝説

みなと劉

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99話

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「兄ちゃんも一緒にいてやってくれ」
と寂しげな声で言われてしまった。
それからしばらくの間ずっと三人で過ごしてきた。
あれから三年経った。この世界に来てから約五年も経ってしまったことになる。今頃、元の世界ではどんなことになってしまっているのだろうか。
そう考えていると、
「呂布、どうしたのだ?」
と声がしたので振り返ってみると、そこには、俺の妻の一人になっている劉備がいた。
「なんでもないですよ」
と俺が言うと、劉備は、
「嘘をつくな。呂布、お主は何か隠し事でもあると必ずと言っていいほど眉間にシワができる」
と指摘されてしまった。確かに思い当たる節があるだけに否定できないのが辛いところである。俺は仕方なく白状した。すると劉備はすぐに理解したようで、笑顔を浮かべた。
「なるほどのぅ。まぁ仕方ないことだ。しかし、心配することは無い。きっと帰れるようになるはずじゃ。お主はそれまでここでのんびり過ごせばよい」
と劉備が言う。
だが俺の心の中はそれどころではなかった。劉備が言ったように、俺はいつか元いた世界に戻らなければならない日がくるかもしれないと思っていた。その時、自分は一体何をすれば良いのだろうかと悩んでいたからだ。俺は劉備にそのことを話そうとしたその時だった。
突然大きな音がしたと思うと地面が大きく揺れた。何が起きたのかと思い、外に出るてみるとそこにはなんと関羽の姿があった。俺はすぐに劉備の所へ行き、関羽のことを説明した。すると劉備はすぐに理解したようだ。
すると劉備は俺の手を掴み、俺の目を見つめて言った。
「呂布、よく聞いてくれ」
と。俺が黙ったままうなずくと、劉備は、
「お主はこの国の王にならねばならぬ」と告げてきた。俺の口から自然と、
「えっ?」
という言葉が出た。劉備の話によると、俺のことを信頼して、王として育て上げたいと言う。だが当然俺は断った。それを聞いて、劉備は俺の手を握った。そしてもう一度頼み込む。俺にはその手が震えているように見えた。それほどまでに劉備にとって切実なことなのだろう。だが俺には無理だった。
俺は断り続けるが劉備は決して諦めようとしなかった。そしてついに俺が折れた。劉備は俺に何度も頭を下げて感謝していた。それからしばらくの時が過ぎたある日、
「呂布よ。私はそろそろ行かなければならなくなってしまった」
と劉備は言い出した。俺は慌てて止めようとした。なぜなら劉備が向かった先はおそらく、曹操の元にだと思ったからだ。
だが劉備が俺を止めるよりも早く、劉備はどこかへ行ってしまった。それから数日が経って、俺は曹操の城を訪れた。理由はただ一つ、劉備を迎えに行くためである。だがその時既に遅かったようだ。
曹操に捕まった劉備は、牢に閉じ込められてしまっていた。俺が必死に呼びかけるが返事はない。俺は、力づくでも助け出そうとしたが無駄だった。そうしているうちに夜が明けてしまい、朝になってしまった。すると、曹操が現れた。
「お前さんは確か、董卓の部下の……」と俺が言いかけると、曹操が俺を遮るように、
「呂布、お主は劉備を助け出すために来たのか?それとも私の首を獲るために来たのか?」
と言ってきた。俺は、少し間を空けてから、
「両方だ」と答えた。俺の言葉を聞いた瞬間、
「フハハッ!面白い!」と言って笑い出していた。
「お主のような豪傑ならば私は歓迎するぞ!ついて来い!私が案内してやる」そう言って、俺を牢に連れて行こうとした。
その途中、関羽が、曹操に立ち塞がっていた。
「お前は呂布の味方ではないのか?」
と曹操は聞くと、関羽は答えた。
「我が名は関羽。義によって立つ者である。呂布とは共に戦い、劉備様を助けるべくここまで来ました。あなたがこの男をどうするかわかりません。ですが私はこの男が劉備様を傷つけるようなことをしないということを信じています」
とはっきりと言い切った。俺は嬉しかった。この男は俺を信じてくれていたんだと改めて感じることができた。その後、曹操と関羽の間でひと悶着あったものの何とか説得し、俺は劉備がいるという部屋に向かった。劉備が捕らえられている部屋に着くと、俺は扉を思い切り蹴破った。すると劉備が、こちらに駆け寄ってきた。そして、俺に抱きつく。
「お主、よく来てくれたな。私も会えて嬉しいぞ」
と涙を流しながら喜んでいた。すると後ろから、
「劉備殿ー」と叫びながら誰かが来たようだ。その正体はすぐにわかった。趙雲である。俺達が話を始めると、横から突然声をかけられた。
それは曹操であった。
「劉備よ。お主は私の元へ来るべきだ」
と。劉備は即座に、断ると言ってきっぱりと拒否した。すると、今度は趙雲の方を見て、同じことを言う。すると今度は、
「この方は私と運命を共にしてくれる方だ。貴公には付いて行くわけがない」
と即答した。すると今度は俺の方に視線を向けてきた。俺が何も言えずにいると、曹操は再び口を開いた。
「呂布よ。お主は劉備と一緒にいた方がいい。お主の力があればこの国で安泰に暮らせることだろう。お主にはそれだけの強さがあるのだ」
と言った。俺はそれを聞くとすぐに、劉備に言った。
「一緒に行きましょう」と。劉備は最初、困惑していたが、やがて決心したようだった。
「お主ら二人の決意は固いらしいな。残念だ。実に惜しい人材を失うことになった。だが、またいつか会える時が来るはずだ。それまではお別れだ」
とだけ残して立ち去って行った。そして俺達はついに旅立った。まずは、荊州へ向かう。そこには、劉備の元義弟の劉備玄徳が治めている地であり、そこを拠点とし、勢力を拡大するつもりだった。そこで、荊州に向かって出発したのだった。
あれから二ヶ月経ったが、俺はまだ劉備達と共に過ごしていた。というのも荊州に向かう道中で盗賊に絡まれてしまい、俺と張飛と劉備の三人は戦闘をしていた。
しかし、俺は正直に言うと戦いは苦手だ。だがここで弱音を吐くと俺だけではなく、二人まで危険な目に合わせてしまうので必死になって戦っているとなんとか倒すことができた。
それからしばらくして、俺はあることに気づいた。
「劉備さん。あなたは、本当は優しい人なんです」
と劉備の目をまっすぐに見つめて言った。すると劉備はすぐに、
「何を言う!私はいつものように優しくしていたではないか」
と反論してきた。だが、俺には確信があった。劉備は、今まで自分の心を殺してきたのではないかと、劉備は自分の心をさらけ出すことは絶対にしなかったのだから。そう思った俺は、
「あなたはずっと前から変わっていました。俺に会ったとき、あなたの目はまるで別人のように冷たいものでした」
と言うと劉備は、
「私は最初からこのようなものだった」
と嘘をつくが俺はそれを否定しようとした。
すると張飛が言った。
「俺には兄者の気持ちがよくわかるぜ。劉備の兄者は本当にいい奴なんだ!ただその優しさが邪魔をして、皆に理解されなかった。だけど呂布の旦那だけはわかってくれたんだ。それに、あの日も劉備の兄者が助けてくれなかったらとっくに死んじまってたかもしれねえ」
と言うと、続けて、
「呂布の旦那がいなかったら今頃俺たちはどうなっていたか……」
と言ってきた。確かにそうかもしれない。俺がいなければ二人はもう殺されてしまっていた可能性もあっただろう。だが、俺が言いたいのはそういうことではない。俺が劉備に言いたかったことは劉備が自分のことを偽らずに生きていくようにして欲しいということだ。
俺はそう告げたが劉備は全く納得してくれないようだった。仕方ないので俺はある策に出ることにした。俺は劉備の手を握って、じっと見つながらこう言った。
「劉備さん。俺は劉備さんのことを尊敬しています。ですから、どうか本当のあなたを見せてください」
と真剣な眼差しで劉備の目を見つめながら言った。すると劉備の顔は次第に赤くなり、俺から手を離すと恥ずかしそうにしながら、
「わ……わかった。善処しよう」
と照れ臭そうにしながらもそう答えてくれた。これで大丈夫だろうと、思っていたが、甘かった。なぜならこの後、劉備の態度が急変したからである。そう、あの出来事が起こったのである。
~呂布side end~ 時は少し遡る。
呂布は劉備のことが大好きなのでよく話しかけたりしていたのだが、劉備はその度に戸惑っていた。
そんな時、劉備は突然倒れてしまった。心配した呂布は劉備を抱きかかえて、「劉備殿!」と呼びかけるが反応がない。急いで城に戻ると関羽と趙雲が駆けつけてくれた。そして呂布に、
「劉備様は!?」
と関羽が聞いてくるが呂布はわからないと答えた。関羽が趙雲の方を見ると趙雲もわからないと答えていた。とりあえず医者に見せないとと思い、呼んでみたが、関羽は「無駄ですよ」と言い放った。どういうことなのかと、関羽に尋ねると、関羽曰く、劉備は元々体が弱いため長くはないということらしい。呂布も趙雲も愕然とするしかなかった。
その数日後に関羽は亡くなったが、関羽の死を悲しみつつも、関羽との約束を果たすべく趙雲は荊州へ旅立つことを決めた。劉備はというと、しばらく安静にしているとのことだ。劉備は、
「私のことなど放っておいてくれ」
と言っていたが、俺がしつこく説得するとようやく了承してくれた。その後劉備は俺のところに来ると、
「お前のその真っ直ぐな心、私は好きだぞ」
と言って去っていった。
俺は劉備の言葉を噛み締めるように思い出し、胸が熱くなるのを感じていた。
荊州に着いた。ここは曹操の領地であり、今は曹操の支配を受けているようだ。だが劉備達にとっては曹操の方がいいのか?とも思い、劉備達に聞くと劉備は、曹操とは面識があり仲が良いのだと教えてくれた。それを聞いた俺は安心したと同時に、劉備達が俺に話さなかったのは、信用されていないのではないかと不安になり劉備に、
「なぜ俺に隠し事をしていたんですか?」
と聞いた。すると劉備は、
「いやーそれはだな……。お主が傷つくと思ったのだ」
と言った。俺は正直嬉しかった。劉備が自分を心配していてくれたと思うと、自然と笑みが溢れてくる。俺は劉備にお礼を言ってから曹操の元へ向かうことに決めた。まずは荊州の主の元へと向かい、そこで情報を集めようと思っていた。劉備達は俺と一緒に行きたいとのことだった。
荊州の城は厳重な警備体制が取られていたが、俺達は簡単に侵入することができた。そして城内を探していると、兵士に見つかったが難なく倒した。
それからしばらくすると、一人の男が姿を現した。その男こそ、この荊州の支配者であり劉備達の元義弟、劉備玄徳だった。俺達は早速劉備に会いに行った。そこで劉備は、俺に自分の真名を教えるからお前にも名前を教えて欲しいと頼まれたので俺は、呂布奉先と名乗り、それからすぐにお互いの真名を交換して、話をすることになった。劉備によると、劉備の義弟の張飛と、俺の仲間の張遼は、劉備にとって大切な仲間だそうだ。だが張飛は俺のことを知っているような感じだったが。それからしばらくして、張飛は、俺達に協力することを決めてくれた。俺としても嬉しい限りだった。
だがここで一つ疑問がある。何故劉備は俺の誘いに乗ってくれたのだろうか。そのことを劉備に問うと、意外な言葉が返ってきた。
「実は私にはもう戦う気力がなかった。私は張飛と関平と別れて以来ずっと独りで寂しい思いをしていた。そんな時に張飛が訪ねてきたんだ。最初は張飛のことを警戒していたが、張飛が優しい奴だということはわかった。だが張飛には、まだ私の知らない力が眠っている。だから呂布よ、私の力になってくれぬか?」
と言われたので、俺はその問いに答える代わりにこう言った。
「あなたの力になれるなら喜んでなりましょう」
こうして、俺は劉備の力になることになった。だが、この時はまだ誰も知る由もなかった。この後起こる大事件のことを。
荊州での日々は、穏やかだった。平和と言ってもいいかもしれない。だが、俺はそのことに違和感を感じ始めていた。俺がいた場所は常に戦いの渦中にあったからだ。だがここでは違う。俺達は劉備に言われるまま過ごしていたが、ある日俺は、その日常に疑問を持つようになり始めた。
「劉備殿、俺はあなたに聞きたいことがあるのですが」
「なんだ?なんでも聞いていいぞ」
「では失礼しますが……あなたは何のために戦っているんですか?」
俺が劉備にそう聞くと、劉備は何も答えずに黙り込んだ。やはり聞いてはいけないことだったのかもしれない。そう思って謝ろうとしたその時、劉備は口を開いた。
「すまないが、今はそれを言うことはできない」
そう答えた後劉備は、
「もし話す機会があったらいつか必ず話そう」
そう答えてくれたので、俺はそれで納得することにした。
その日の夜、関羽は呂布にあることを言った。
「呂布殿はこれからどうするのですか?我々と共に行動するのか?それとも、曹操のもとへ帰るのか?私はあなたの判断に任せます」
そう言われたので、俺はしばらく考えてから答えを出した。
「俺は曹操の元へは帰らない」
そう答えた途端関羽の顔が険しくなった。
「呂布殿!まさか曹操殿を見捨てるというのではないでしょうね!?」
俺は首を横に振った。
「曹操とは共に歩めない」
その一言を聞いた関羽は怒りに満ちた顔になった。
「貴様ぁ!!それでも呂布軍の頭領か!!」
そう叫んだ関羽に対し俺は落ち着いた口調で言う。
「確かに俺は曹操とは違う道を歩むことを決めた。しかし曹操は敵だが、同時に恩人でもある。俺にとってはどちらも大事な存在だ。だからこそ、俺の決断をわかって欲しい」
その言葉を聞いて関羽も少し落ち着いてきたようだったのでさらに続ける。
「それに劉備殿も言っていただろう。曹操は張飛の本当の父親のようなものだと。俺はあいつらの絆を信じている。ならば俺もそれに従い、あいつらが信じる道を進むまでだ」
俺が言い終わると関羽も渋々ではあるが理解してくれたようだ。そして次の日になり、俺達はいつも通り過ごしていた。すると突然城が揺れ出した。地震にしては変だ。そう思った瞬間外から爆発音が聞こえた。俺は急いで外に出ると、劉備達も一緒に出てきた。
外に出ると戦いが繰り広げられていた。だがそれは今まで見たこともないような戦いだった。一方的な蹂躙という方が正しい表現だろうか。劉備達が止めようとしたが無駄だった。俺達も加勢しようとしたその時、劉備に腕を掴まれた。
「ここは任せろ。お前は早く逃げるのだ!」
そう言って劉備は行ってしまった。だが俺はその場に留まった。いや留まろうと決めたのだ。ここで逃げてしまえば、俺はきっと後悔すると思ったから。
それからどれくらい経ったのだろうか。辺りは血の海だった。俺は呆然と立ち尽くしているだけだった。劉備の姿は見当たらない。すると遠くの方で叫び声が聞こえる。行ってみると、そこには劉備がいてその前には一人の少女がいた。その少女を見た時俺は思わず目を奪われた。なぜなら、そこにいた少女はとても美しかったから。だが俺はすぐに劉備の元へ駆け寄ろうとしたが、そこで足を止めてしまった。劉備が笑っていたのだ。その表情を見て俺の中で嫌な予感が走った。俺はもう一度劉備の元に行こうとした。だが俺が近づこうとすると、少女はこちらを振り向き俺に向かって剣を突き刺そうとした。俺はすぐにそれを弾き返した。すると今度は背後から殺気を感じた。後ろを見ると、もう一人の男が俺に迫ってきていた。
まずいなと思い、俺はとっさに男の動きを止めるため、男の顔面に蹴りを入れた。男は吹き飛ばされ、倒れた。それから俺は劉備の方に目をやった。
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