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94話
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袁術は総大将でありながらも呂布に討たれてしまい、その身内達は混乱して収拾の付かない事態に陥りかけていたが、そこに現れたのが袁家最強の猛将・紀霊であった。
紀霊が暴れまわるのを見て、袁家の諸将は我に返って再び指揮下に入る。呂布軍の侵攻は一時的に止まるものの、それでも勢い付いた袁術軍による曹操軍の包囲殲滅は免れず、そのまま戦闘は長期化していく。
曹操軍の本隊である夏侯惇はこの時、混乱状態にあった自軍をまとめ上げようと必死だった。
呂布が討てないまでも、せめて副将の夏侯淵を討ち取ってその首を持ち帰りたいところだったが、呂布の率いる精鋭部隊は呂布自身が陣頭に立っていた事で連携が全くとれず、討ち取れる機会すらほとんど無かった。それどころか呂布はまるで自分達の動きを読んでいるかのように動き回り、その行動は神速と言うに相応しい速さだったのでまともに相手をするのは難しく、むしろこちらから隙を見せて誘い込んでしまった結果になる事も多々あったほどだ。
そしてその動きに合わせて動くように、呂布の妻達の矢も乱れ飛ぶ。
しかも恐ろしい事に、妻達の矢はほとんど狙いを外さない。狙った相手に必ず命中させる。しかも矢筒の矢を使い切ってしまった時には自分の矢を使う事も厭わず、次々と矢を放っているので矢の消耗も最小限に抑えている。
呂布の妻達の矢は文字通り矢雨となって降り注ぎ、それを食らわない為には後退せざるを得ない。その結果として戦線は徐々に下がっていき、ついに曹操軍は呂布軍の射程圏まで追い込まれる事になった。呂布は弓の名手ではないが、その配下である呂布軍の武将達はいずれも名手ぞろいで、中には達人級の腕前を持つ者もいる。
曹操軍は数で勝っていても士気や練度は呂布軍に大きく劣っていた事もあり、このままでは呂布軍の思うがままに蹂躙されるのを待つばかりになってしまった。
だがその時、曹操軍の左翼を指揮していた許緒が呂布軍に飛び込んだ。
「うわーっ!」
雄叫びを上げながら突っ込む許緒に、呂布軍も迎撃の体勢を取る。
が、次の瞬間、呂布軍の中からも一人の少女が飛び出すと、許緒を迎え撃つ形で戟を突き出していた。
張遼である。
二人は激突し、激しい剣劇を演じる。この乱戦の中である。二人の武器も槍では無く、長刀を用いている。だが、二人ともその一撃は致命傷を与える為のものであり、相手の身体を引き裂こうとしている。
お互いの気迫が込められた一閃に周囲の戦いが一瞬止まったかの様に見えたのだが、次の瞬間には二人は距離を取り合っていた。
互角……いや、僅かだが許緒の方が速い。
それは張遼にも解っている事だろう。それでもなお一歩も退かない姿勢で、呂布軍に向かってきたのは、ただそれだけの実力差があったという事である。
呂布軍は張遼が引き受けてくれるのであれば、それで良いと考えた。
張遼ほどの実力があれば、曹操軍の中でも呂布軍を相手にしても十分に戦える。
それは呂布軍も認めるところなのだが、だからと言って張遼一人を呂布軍の相手だけにさせているわけにもいかない。
何しろ呂布軍の中にはまだまだ曹操軍と戦う力を残している者も多いのだ。
それに、いくら実力が伯仲しているとはいえ、今の攻防でも実力の差がはっきりと出てしまっていた。
許緒の突きに対して、張遼はその懐に踏み込みつつの刺突により、その刃の軌道を変えた上でその腕を切り落とそうと試みたのだが、許緒の反応は速く、張遼の攻撃より早く間合いを空ける事に成功していた。その分だけ、呂布軍が受けるはずだった攻撃を一人で受け持つ形になり、結果的に呂布軍の被害が大きくなったと言える。
呂布軍と華雄軍が戦い始めた時、曹操軍の中では右翼の袁紹軍が崩壊の危機に直面していた。
曹操軍右翼を率いる夏侯兄弟だったが、華雄の猛攻の前に大きな被害が出ており、さらに夏侯惇の指揮能力が低下傾向にあるのを見て、夏侯兄弟は一旦曹操軍に撤退の指示を出した。
この判断自体は正しかったと言えるのだが、それでも袁紹軍が完全に崩壊するのを防げなかった。曹操軍は夏侯惇と共に撤退し、紀霊はその後を追っていったのだが、そこで袁術軍と遭遇してしまう。
本来なら曹操軍が撤退していく姿を追うのであって、その曹操軍を追撃してくるはずの紀霊軍の姿を見た袁術軍は撤退していく曹操軍に襲いかかろうとしていたのだが、そこで紀霊軍が袁術軍に襲いかかったのである。
まさに背水の陣。
袁紹軍が撤退するとあって袁術軍の兵も気が緩んでいた事と、紀霊軍に襲いかかられて混乱した事も相まって、袁紹軍は完全に崩壊した。そしてそのまま袁紹軍は撤退していったのだが、ここで紀霊軍の足並みが乱れてしまった事が致命的だった。
混乱の中、呂布軍は追撃に出た紀霊軍の背後から斬りかかったのだが、そこで呂布軍は呂布自ら戦場に姿を現した事で士気が爆発的に高まったのである。これによって、紀霊軍は壊滅の憂き目に会う事になった。
紀霊軍の壊滅後、呂布は反転攻勢に移る。
呂布は夏侯惇を追いかける為に全軍で反転しようとしたのだが、この時になって陳宮がそれを止める。
「奉先様、夏侯惇殿は我が手中にあります。このままお引きください」
呂布軍は曹操軍の中で孤立無援の夏侯惇を捕らえる事に全力を注ぐ事になる。
曹操軍の左翼を担っていた荀イクがこの時、ようやく夏侯惇の元へとたどり着いた。夏侯惇が呂布の奇襲を受けて討たれた事を知らされてはいなかったが、状況から考えて曹操軍の陣形が乱れている事には気づいた。そしてその中央にいるはずの呂布の位置が変わっている事から、何らかの手段で曹操軍から抜け出してきた事は間違い無いと思われたが、そこに夏侯淵の部隊が現れ、呂布の部隊は曹操軍の中でも孤立した位置にいる事が明らかになった。
荀イクはすぐに兵を割いて、呂布軍へと向ける。
この時点で曹操軍は大きく二つに分かれていた。一つは袁紹率いる本隊であり、こちらは完全に包囲されてしまっているものの、その包囲網はそれほど厚いものでは無い上にその外側にいる部隊が内側から突破する為に奮戦してくれている。
もう一つの部隊は夏侯兄弟の指揮による左翼で、こちらは呂布軍と戦闘中で、こちらもまだ崩れていない。
つまり呂布は今、曹操軍の陣形の中心とも言える部分に取り込まれていると言う事だ。これは好機でもある。荀イクは自ら率いていた部隊の精鋭のみで、曹操軍の中心部へと向かう。だが、その途中でまたしても曹操軍の武将が立ち塞がった。
呂布の妻の一人である厳氏によって。
夏侯姉妹に続いて呂布の妻までが戦場に現れた事で、曹操軍の動揺はさらに広がっていく。しかも妻達は夫である呂布の為ではなく、自分の為に動いている。その事実に曹操軍の武将達は戦意を喪失していく。
呂布軍の精鋭部隊に正面からの戦いを挑んだとしても、おそらく敗北は免れない。そう判断して曹操軍の武将達は逃げるように呂布軍の包囲網を突破しようとするが、そこに立ち塞がるのは呂布の妻達である。
特に夏侯姉妹は武勇の誉れ高く、戦場でも勇名を轟かせていたが、厳氏の実力はその上を行くものだった。呂布も認める程の弓の腕前を誇り、また呂布の妻達の中では唯一呂布と一対一の戦いをして勝てる人物なのである。
もちろん一騎打ちでは夏侯惇には及ばないし、他の武将には負ける事も珍しくはないが、それはあくまでも一対一の戦いの場合であり、多人数を同時に相手にする場合は実力差が大きくものをいい、ほぼ無双状態と言って良い活躍を見せる。
ただ、そんな実力を持っていながらも、厳氏は戦う事を避ける傾向があった。その為、これまでは戦場で目立つ事も無く、名前を聞く事もほとんど無かったのだが、夏侯惇や夏侯淵は彼女の武勇を知らないはずが無かった。だが、彼女一人だけならば何とか出来るのではと考え、曹操軍の猛将二人が一騎討ちを仕掛ける事にした。
しかし、それが仇となった。
猛牛が突進してくるかのような勢いを見せる二人の猛攻を、彼女は苦もなくかわす。まるで舞いでも舞っているかのように優雅に見えるその動作からは想像出来ないほどの動きを見せるが、それでも二人の攻撃は当たらない。
焦れた二人は渾身の一撃を放ったのだが、それさえもあっさりと回避すると厳氏が矢を放つ。
たった一本の矢だが、その鋭さはまさに絶技。夏侯惇は胸の真ん中から血を吹き出しながら倒れる。一方、もう一人の猛将である曹仁も必死の形相を見せながら剣を振りかぶって切りかかるが、これもあっさりと避けた厳氏は矢を構える。そして狙いを定めたかと思ったら即座に放つ。矢は曹仁の首筋を貫き、さらにそこから放たれる二の矢が眉間に突き刺さる。
二人とも歴戦の猛者だったが、それでもこの場に立った事が失敗だったと言える。曹操軍の中でも最強を誇るこの二人を相手に、厳氏は一切の容赦無く葬り去った。この光景を見ては、もはや誰も彼女に襲いかかろうなどとする者はいなかった。その厳氏の活躍もあって、ついに呂布は曹操軍の中央部を突破する。曹操軍はこの事態にも素早く反応し、陣形を組み直そうとしたのだが、それも遅かった。すでに呂布は曹操の目前にまで迫っていたのだ。
曹操軍は袁紹軍との交戦の為に多くの将兵を失っていた事もあり、呂布を止める事が出来なかった。さらに夏侯兄弟を失って混乱していた事も原因の一つだったが、それ以上に大きな理由は、曹操軍にはもはや打つ手が無くなったからである。
呂布は大軍である。いかに華雄と言えども数万に及ぶ兵を呂布の足を止める為だけに使う事は出来ず、張遼もそれを理解していた。
陳宮はこの期に及んで呂布を呼び戻す事はしなかったのだが、この時になってようやく呂布に指示を出す。
呂布軍を迂回させたまま袁紹軍の援護に向かわせるという、あまりにも常識的な内容であった。袁紹軍が壊滅する前に呂布軍を合流させ、袁術軍に対処するべきというのである。陳宮は袁術軍を放置しておけば曹操軍が崩壊しかねないと判断したが、同時に袁術軍が曹操軍に襲い掛かるとは考えていなかった。
そもそも袁術軍は袁家の血筋である。名門であり大貴族である袁家の出身であるにも関わらず、袁紹軍の撤退に乗じて略奪を行うような連中なのだ。名門意識と言うものは持っているのかもしれないが、その程度で名門としての誇りを保てるわけが無い。そんな程度のプライドで生きていける世の中ではない事ぐらい、袁家は知っているはずである。
もし仮にここで袁術軍が動いたとしても、曹操軍は瓦解する恐れはない。袁術軍はあくまでも袁家に従属している一族であり、一族の長が曹操ではなく劉表である以上、曹操軍の救援に向かう事はしないはずだからだ。
曹操軍の崩壊を防ぐ為に、呂布を援軍に向かわせると言う策は理に適ったものだと思われたが、そこで問題になるのが袁紹軍だった。呂布が袁紹軍の方に向かっているのは一目瞭然であり、それを阻止しようとする部隊がいない。陳宮は呂布を呼び戻した方が良いのではないかと思ったが、呂布は既に呂布軍と合流しようとしているところだったらしく、そのまま行かせる事になった。
曹操軍と袁紹軍は激戦を繰り広げた。お互いの総力を持っての戦いであったが、やはり戦力の差は大きい。袁紹軍の兵の中には曹操軍との戦いに敗れて捕虜になっていた者もおり、そういった者達は武器を持たずに逃げ出そうとしたが、それを許す曹操軍ではなかった。
だが、その時である。
呂布は見た。
天幕が降りてきた事を。
呂布はそれが、ただの布では無い事に気付く。おそらくは巨大な鳥の羽を使ったもので、その数は一頭では無く三、四頭はあると思われるほどの量だった。
「何事だ!」
曹操が声を上げる。
呂布も突然の事なので驚いたが、よく見ればそれが曹操の旗だと分かる。
呂布が袁紹軍の方へ向かっている間、袁紹軍と交戦状態にあった曹操は本陣の留守を任されていたのだが、その時に袁紹軍の精鋭部隊が急襲してきた。
曹操はその襲撃に対して、袁紹軍の騎馬隊を使って迎え撃った。その手並みは極めて鮮やかなものだったが、それでも敵将を討ち取るまではいかなかったので、まだ曹操軍の勝利が確定したわけではない。
そこへ、上空から降ってきた巨大旗。それも三本もの巨大な旗である。その一本が曹操軍に降り注ぎ、それに絡みついた兵が曹操軍の兵を切り刻んでいく。
「孟徳殿、あれを」
呂布が指差すと、曹操もその光景を見ていた。そして、曹操軍の中で最大の武勇を誇る典韋に迎撃を命じる。
しかし、曹操の判断がわずかに遅かった。
呂布は見逃さなかった。
巨大旗を掲げて現れた兵の背後から、曹操軍の精鋭部隊の突撃を。
その一撃は呂布から見てさえ、見事な攻撃だった。
馬上槍を構え、まるで猛獣のような目で曹操軍を睨みつける武将の姿。その武人としての迫力、あるいは凄味は他の誰にもないモノがある。
その武将こそが曹仁。夏侯惇や夏侯淵と共に猛勇を振るった人物だが、今は負傷の為か戦えない状態にあるらしい。だが、それでもその武将の放つ覇気は健在で、呂布の目にもその猛々しさは焼き付いた。
曹仁は猛然と斬り込み、曹仁に襲いかかろうとした袁紹軍の兵士達が返り討ちに遭う。それを見て呂布と曹仁は一瞬だけ視線を交わすと、お互いの意思を理解し合ったようにそれぞれの戦場へと駆け出していく。
呂布も夏侯惇達との戦いで傷ついていたが、まだまだ十分に動ける状態であり、しかも目の前には強敵の夏侯惇と夏侯淵がいる。
夏侯兄弟は曹操軍の中でも屈指の実力の持ち主だったが、その猛攻をもってしても呂布を倒す事は出来ず、結局呂布によって討ち取られる事になる。
それでもなお呂布を止めようとする二人だったが、呂布の剛腕の前には為す術も無い。呂布が繰り出す一撃の前に二人の身体は弾け飛び、呂布はそのまま袁紹軍の中に突っ込んでいく。
袁紹軍は呂布の勢いに飲まれた形だったが、そこに今度は曹操軍の主力部隊が現れる。それはまさに曹操軍の総力を集結させた攻撃であり、呂布の率いる徐州軍にとっては致命的な状況と言える。
この期に及んでも呂布はまだ冷静さを保っていたが、この乱戦で曹操軍と呂布軍の将兵が入り乱れ、もはや誰と戦っていて誰が味方で、自分が今どこへ向かっているのか分からなくなりつつあった。
そんな時、曹操の声が聞こえる。
「奉先、こちらだ!お前は私が必ず殺す!」
呂布が振り返ると、そこには白馬に乗った曹操がこちらへ駆けつけているところだった。呂布は袁紹軍の将兵をなぎ倒して道をこじ開け、曹操と合流する。
この時、袁紹軍では曹操に使者を送る事になり、それによって曹操軍はなんとか窮地を脱する事になった。曹操軍の武将達が呂布を討つ事に固執せず、曹操の元に馳せ参じた事も幸いしたと言える。だが、そうして曹操軍の本隊と合流した呂布軍にさらなる災難が待ち受けていた。
曹操軍が到着した直後、曹操軍は張飛率いる袁術軍に急襲される事になったのだ。張飛は曹操軍が援軍に駆けつけたのを見ると袁術軍に退却を命じ、そのまま呂布軍に襲いかかる。
呂布軍は数こそ袁術軍に勝っていたものの、呂布軍の兵は大半が徐州兵であり曹操軍とは練度が違う上に連携が取れていない。その上徐州兵達は張飛との激闘の中で多くの犠牲を出しており、呂布軍の動きは明らかに鈍かった。そこを突いての強襲である。
曹操軍もまた奮戦したが、数の上では圧倒的に劣勢なだけに苦戦を強いられ、呂布軍を救出するまでには至らなかった。曹操軍の援軍を得た呂布は袁紹軍の方に向かい、曹操はその援護に向かったがそこでまたしても悲劇が起こる。袁紹軍主力部隊が現れたのである。
こちらは劉備軍を中心とした軍勢であり、おそらくは袁紹軍の精鋭部隊と思われる。
こちらも曹操軍と互角以上の戦いを繰り広げていたが、袁紹軍主力部隊の背後にいた騎馬隊に不意打ちを食らって曹操軍は大混乱に陥った。曹操軍は大軍ではあったが、やはり騎馬隊はさほど多く無い。まして曹操軍にとって最大の戦力である騎馬隊には呂布との戦いによる消耗もあるので、ここで一気に押し込まれてしまう。
呂布は曹操を助ける為に袁紹軍の主力部隊に突撃をかけたが、すでに曹操軍はかなり苦戦しており呂布もそちらを気にかけている余裕は無かった。
そして呂布は、その時見た。
袁紹軍本陣の方から、何か巨大な影が迫ってくるのが見えたのだ。その大きさは人一人を大きく上回るくらいの大きさであり、その姿はまるで猛獣の様な巨体であった。
それが何であるか理解する前に、呂布はその正体に気付いた。
それは、あの巨大旗を振り回している張遼だった。
その巨大な馬上で巨大旗をブン回し、張遼は暴れ回る。巨大旗を掲げる事によって呂布達の目を眩まし、その隙に乗じて敵陣をかき回す。その動きはまさに野生の虎か熊のように猛々しく、呂布はそれに目が離せなかった。
張遼が暴れると言う事は、それに従っている武将も同じ。いや、張遼に比べれば小柄であるにもかかわらず張遼に劣らぬ活躍を見せている武将こそが、その人物の真骨頂とも言えるだろう。
猛将、高順。
馬上から戟を振り回し、一振りごとに何人もの敵兵が斬り伏せられる様はもはや芸術と言っても過言ではないほどに華麗かつ豪快な動きを見せる。そして巨大旗を掲げた張遼と高順という二頭に率いられた猛牛軍団は袁紹軍の兵を蹴散らし、袁紹軍の本隊にも甚大な被害を与えていた。
だが呂布が驚いたのは、その圧倒的な強さよりも張遼と高順が揃って戦場に現れた事である。
その二人を従えて戦っているのは誰なのか。
答えはすぐに分かった。
袁紹軍の中から飛び出してきたのは、一人の少年だった。見た目だけで言えば張飛に匹敵するような巨漢であるが、その体格に見合わない速度で敵兵を切り刻んでいく。
それは、呂布も良く知っている武将。
紀霊が暴れまわるのを見て、袁家の諸将は我に返って再び指揮下に入る。呂布軍の侵攻は一時的に止まるものの、それでも勢い付いた袁術軍による曹操軍の包囲殲滅は免れず、そのまま戦闘は長期化していく。
曹操軍の本隊である夏侯惇はこの時、混乱状態にあった自軍をまとめ上げようと必死だった。
呂布が討てないまでも、せめて副将の夏侯淵を討ち取ってその首を持ち帰りたいところだったが、呂布の率いる精鋭部隊は呂布自身が陣頭に立っていた事で連携が全くとれず、討ち取れる機会すらほとんど無かった。それどころか呂布はまるで自分達の動きを読んでいるかのように動き回り、その行動は神速と言うに相応しい速さだったのでまともに相手をするのは難しく、むしろこちらから隙を見せて誘い込んでしまった結果になる事も多々あったほどだ。
そしてその動きに合わせて動くように、呂布の妻達の矢も乱れ飛ぶ。
しかも恐ろしい事に、妻達の矢はほとんど狙いを外さない。狙った相手に必ず命中させる。しかも矢筒の矢を使い切ってしまった時には自分の矢を使う事も厭わず、次々と矢を放っているので矢の消耗も最小限に抑えている。
呂布の妻達の矢は文字通り矢雨となって降り注ぎ、それを食らわない為には後退せざるを得ない。その結果として戦線は徐々に下がっていき、ついに曹操軍は呂布軍の射程圏まで追い込まれる事になった。呂布は弓の名手ではないが、その配下である呂布軍の武将達はいずれも名手ぞろいで、中には達人級の腕前を持つ者もいる。
曹操軍は数で勝っていても士気や練度は呂布軍に大きく劣っていた事もあり、このままでは呂布軍の思うがままに蹂躙されるのを待つばかりになってしまった。
だがその時、曹操軍の左翼を指揮していた許緒が呂布軍に飛び込んだ。
「うわーっ!」
雄叫びを上げながら突っ込む許緒に、呂布軍も迎撃の体勢を取る。
が、次の瞬間、呂布軍の中からも一人の少女が飛び出すと、許緒を迎え撃つ形で戟を突き出していた。
張遼である。
二人は激突し、激しい剣劇を演じる。この乱戦の中である。二人の武器も槍では無く、長刀を用いている。だが、二人ともその一撃は致命傷を与える為のものであり、相手の身体を引き裂こうとしている。
お互いの気迫が込められた一閃に周囲の戦いが一瞬止まったかの様に見えたのだが、次の瞬間には二人は距離を取り合っていた。
互角……いや、僅かだが許緒の方が速い。
それは張遼にも解っている事だろう。それでもなお一歩も退かない姿勢で、呂布軍に向かってきたのは、ただそれだけの実力差があったという事である。
呂布軍は張遼が引き受けてくれるのであれば、それで良いと考えた。
張遼ほどの実力があれば、曹操軍の中でも呂布軍を相手にしても十分に戦える。
それは呂布軍も認めるところなのだが、だからと言って張遼一人を呂布軍の相手だけにさせているわけにもいかない。
何しろ呂布軍の中にはまだまだ曹操軍と戦う力を残している者も多いのだ。
それに、いくら実力が伯仲しているとはいえ、今の攻防でも実力の差がはっきりと出てしまっていた。
許緒の突きに対して、張遼はその懐に踏み込みつつの刺突により、その刃の軌道を変えた上でその腕を切り落とそうと試みたのだが、許緒の反応は速く、張遼の攻撃より早く間合いを空ける事に成功していた。その分だけ、呂布軍が受けるはずだった攻撃を一人で受け持つ形になり、結果的に呂布軍の被害が大きくなったと言える。
呂布軍と華雄軍が戦い始めた時、曹操軍の中では右翼の袁紹軍が崩壊の危機に直面していた。
曹操軍右翼を率いる夏侯兄弟だったが、華雄の猛攻の前に大きな被害が出ており、さらに夏侯惇の指揮能力が低下傾向にあるのを見て、夏侯兄弟は一旦曹操軍に撤退の指示を出した。
この判断自体は正しかったと言えるのだが、それでも袁紹軍が完全に崩壊するのを防げなかった。曹操軍は夏侯惇と共に撤退し、紀霊はその後を追っていったのだが、そこで袁術軍と遭遇してしまう。
本来なら曹操軍が撤退していく姿を追うのであって、その曹操軍を追撃してくるはずの紀霊軍の姿を見た袁術軍は撤退していく曹操軍に襲いかかろうとしていたのだが、そこで紀霊軍が袁術軍に襲いかかったのである。
まさに背水の陣。
袁紹軍が撤退するとあって袁術軍の兵も気が緩んでいた事と、紀霊軍に襲いかかられて混乱した事も相まって、袁紹軍は完全に崩壊した。そしてそのまま袁紹軍は撤退していったのだが、ここで紀霊軍の足並みが乱れてしまった事が致命的だった。
混乱の中、呂布軍は追撃に出た紀霊軍の背後から斬りかかったのだが、そこで呂布軍は呂布自ら戦場に姿を現した事で士気が爆発的に高まったのである。これによって、紀霊軍は壊滅の憂き目に会う事になった。
紀霊軍の壊滅後、呂布は反転攻勢に移る。
呂布は夏侯惇を追いかける為に全軍で反転しようとしたのだが、この時になって陳宮がそれを止める。
「奉先様、夏侯惇殿は我が手中にあります。このままお引きください」
呂布軍は曹操軍の中で孤立無援の夏侯惇を捕らえる事に全力を注ぐ事になる。
曹操軍の左翼を担っていた荀イクがこの時、ようやく夏侯惇の元へとたどり着いた。夏侯惇が呂布の奇襲を受けて討たれた事を知らされてはいなかったが、状況から考えて曹操軍の陣形が乱れている事には気づいた。そしてその中央にいるはずの呂布の位置が変わっている事から、何らかの手段で曹操軍から抜け出してきた事は間違い無いと思われたが、そこに夏侯淵の部隊が現れ、呂布の部隊は曹操軍の中でも孤立した位置にいる事が明らかになった。
荀イクはすぐに兵を割いて、呂布軍へと向ける。
この時点で曹操軍は大きく二つに分かれていた。一つは袁紹率いる本隊であり、こちらは完全に包囲されてしまっているものの、その包囲網はそれほど厚いものでは無い上にその外側にいる部隊が内側から突破する為に奮戦してくれている。
もう一つの部隊は夏侯兄弟の指揮による左翼で、こちらは呂布軍と戦闘中で、こちらもまだ崩れていない。
つまり呂布は今、曹操軍の陣形の中心とも言える部分に取り込まれていると言う事だ。これは好機でもある。荀イクは自ら率いていた部隊の精鋭のみで、曹操軍の中心部へと向かう。だが、その途中でまたしても曹操軍の武将が立ち塞がった。
呂布の妻の一人である厳氏によって。
夏侯姉妹に続いて呂布の妻までが戦場に現れた事で、曹操軍の動揺はさらに広がっていく。しかも妻達は夫である呂布の為ではなく、自分の為に動いている。その事実に曹操軍の武将達は戦意を喪失していく。
呂布軍の精鋭部隊に正面からの戦いを挑んだとしても、おそらく敗北は免れない。そう判断して曹操軍の武将達は逃げるように呂布軍の包囲網を突破しようとするが、そこに立ち塞がるのは呂布の妻達である。
特に夏侯姉妹は武勇の誉れ高く、戦場でも勇名を轟かせていたが、厳氏の実力はその上を行くものだった。呂布も認める程の弓の腕前を誇り、また呂布の妻達の中では唯一呂布と一対一の戦いをして勝てる人物なのである。
もちろん一騎打ちでは夏侯惇には及ばないし、他の武将には負ける事も珍しくはないが、それはあくまでも一対一の戦いの場合であり、多人数を同時に相手にする場合は実力差が大きくものをいい、ほぼ無双状態と言って良い活躍を見せる。
ただ、そんな実力を持っていながらも、厳氏は戦う事を避ける傾向があった。その為、これまでは戦場で目立つ事も無く、名前を聞く事もほとんど無かったのだが、夏侯惇や夏侯淵は彼女の武勇を知らないはずが無かった。だが、彼女一人だけならば何とか出来るのではと考え、曹操軍の猛将二人が一騎討ちを仕掛ける事にした。
しかし、それが仇となった。
猛牛が突進してくるかのような勢いを見せる二人の猛攻を、彼女は苦もなくかわす。まるで舞いでも舞っているかのように優雅に見えるその動作からは想像出来ないほどの動きを見せるが、それでも二人の攻撃は当たらない。
焦れた二人は渾身の一撃を放ったのだが、それさえもあっさりと回避すると厳氏が矢を放つ。
たった一本の矢だが、その鋭さはまさに絶技。夏侯惇は胸の真ん中から血を吹き出しながら倒れる。一方、もう一人の猛将である曹仁も必死の形相を見せながら剣を振りかぶって切りかかるが、これもあっさりと避けた厳氏は矢を構える。そして狙いを定めたかと思ったら即座に放つ。矢は曹仁の首筋を貫き、さらにそこから放たれる二の矢が眉間に突き刺さる。
二人とも歴戦の猛者だったが、それでもこの場に立った事が失敗だったと言える。曹操軍の中でも最強を誇るこの二人を相手に、厳氏は一切の容赦無く葬り去った。この光景を見ては、もはや誰も彼女に襲いかかろうなどとする者はいなかった。その厳氏の活躍もあって、ついに呂布は曹操軍の中央部を突破する。曹操軍はこの事態にも素早く反応し、陣形を組み直そうとしたのだが、それも遅かった。すでに呂布は曹操の目前にまで迫っていたのだ。
曹操軍は袁紹軍との交戦の為に多くの将兵を失っていた事もあり、呂布を止める事が出来なかった。さらに夏侯兄弟を失って混乱していた事も原因の一つだったが、それ以上に大きな理由は、曹操軍にはもはや打つ手が無くなったからである。
呂布は大軍である。いかに華雄と言えども数万に及ぶ兵を呂布の足を止める為だけに使う事は出来ず、張遼もそれを理解していた。
陳宮はこの期に及んで呂布を呼び戻す事はしなかったのだが、この時になってようやく呂布に指示を出す。
呂布軍を迂回させたまま袁紹軍の援護に向かわせるという、あまりにも常識的な内容であった。袁紹軍が壊滅する前に呂布軍を合流させ、袁術軍に対処するべきというのである。陳宮は袁術軍を放置しておけば曹操軍が崩壊しかねないと判断したが、同時に袁術軍が曹操軍に襲い掛かるとは考えていなかった。
そもそも袁術軍は袁家の血筋である。名門であり大貴族である袁家の出身であるにも関わらず、袁紹軍の撤退に乗じて略奪を行うような連中なのだ。名門意識と言うものは持っているのかもしれないが、その程度で名門としての誇りを保てるわけが無い。そんな程度のプライドで生きていける世の中ではない事ぐらい、袁家は知っているはずである。
もし仮にここで袁術軍が動いたとしても、曹操軍は瓦解する恐れはない。袁術軍はあくまでも袁家に従属している一族であり、一族の長が曹操ではなく劉表である以上、曹操軍の救援に向かう事はしないはずだからだ。
曹操軍の崩壊を防ぐ為に、呂布を援軍に向かわせると言う策は理に適ったものだと思われたが、そこで問題になるのが袁紹軍だった。呂布が袁紹軍の方に向かっているのは一目瞭然であり、それを阻止しようとする部隊がいない。陳宮は呂布を呼び戻した方が良いのではないかと思ったが、呂布は既に呂布軍と合流しようとしているところだったらしく、そのまま行かせる事になった。
曹操軍と袁紹軍は激戦を繰り広げた。お互いの総力を持っての戦いであったが、やはり戦力の差は大きい。袁紹軍の兵の中には曹操軍との戦いに敗れて捕虜になっていた者もおり、そういった者達は武器を持たずに逃げ出そうとしたが、それを許す曹操軍ではなかった。
だが、その時である。
呂布は見た。
天幕が降りてきた事を。
呂布はそれが、ただの布では無い事に気付く。おそらくは巨大な鳥の羽を使ったもので、その数は一頭では無く三、四頭はあると思われるほどの量だった。
「何事だ!」
曹操が声を上げる。
呂布も突然の事なので驚いたが、よく見ればそれが曹操の旗だと分かる。
呂布が袁紹軍の方へ向かっている間、袁紹軍と交戦状態にあった曹操は本陣の留守を任されていたのだが、その時に袁紹軍の精鋭部隊が急襲してきた。
曹操はその襲撃に対して、袁紹軍の騎馬隊を使って迎え撃った。その手並みは極めて鮮やかなものだったが、それでも敵将を討ち取るまではいかなかったので、まだ曹操軍の勝利が確定したわけではない。
そこへ、上空から降ってきた巨大旗。それも三本もの巨大な旗である。その一本が曹操軍に降り注ぎ、それに絡みついた兵が曹操軍の兵を切り刻んでいく。
「孟徳殿、あれを」
呂布が指差すと、曹操もその光景を見ていた。そして、曹操軍の中で最大の武勇を誇る典韋に迎撃を命じる。
しかし、曹操の判断がわずかに遅かった。
呂布は見逃さなかった。
巨大旗を掲げて現れた兵の背後から、曹操軍の精鋭部隊の突撃を。
その一撃は呂布から見てさえ、見事な攻撃だった。
馬上槍を構え、まるで猛獣のような目で曹操軍を睨みつける武将の姿。その武人としての迫力、あるいは凄味は他の誰にもないモノがある。
その武将こそが曹仁。夏侯惇や夏侯淵と共に猛勇を振るった人物だが、今は負傷の為か戦えない状態にあるらしい。だが、それでもその武将の放つ覇気は健在で、呂布の目にもその猛々しさは焼き付いた。
曹仁は猛然と斬り込み、曹仁に襲いかかろうとした袁紹軍の兵士達が返り討ちに遭う。それを見て呂布と曹仁は一瞬だけ視線を交わすと、お互いの意思を理解し合ったようにそれぞれの戦場へと駆け出していく。
呂布も夏侯惇達との戦いで傷ついていたが、まだまだ十分に動ける状態であり、しかも目の前には強敵の夏侯惇と夏侯淵がいる。
夏侯兄弟は曹操軍の中でも屈指の実力の持ち主だったが、その猛攻をもってしても呂布を倒す事は出来ず、結局呂布によって討ち取られる事になる。
それでもなお呂布を止めようとする二人だったが、呂布の剛腕の前には為す術も無い。呂布が繰り出す一撃の前に二人の身体は弾け飛び、呂布はそのまま袁紹軍の中に突っ込んでいく。
袁紹軍は呂布の勢いに飲まれた形だったが、そこに今度は曹操軍の主力部隊が現れる。それはまさに曹操軍の総力を集結させた攻撃であり、呂布の率いる徐州軍にとっては致命的な状況と言える。
この期に及んでも呂布はまだ冷静さを保っていたが、この乱戦で曹操軍と呂布軍の将兵が入り乱れ、もはや誰と戦っていて誰が味方で、自分が今どこへ向かっているのか分からなくなりつつあった。
そんな時、曹操の声が聞こえる。
「奉先、こちらだ!お前は私が必ず殺す!」
呂布が振り返ると、そこには白馬に乗った曹操がこちらへ駆けつけているところだった。呂布は袁紹軍の将兵をなぎ倒して道をこじ開け、曹操と合流する。
この時、袁紹軍では曹操に使者を送る事になり、それによって曹操軍はなんとか窮地を脱する事になった。曹操軍の武将達が呂布を討つ事に固執せず、曹操の元に馳せ参じた事も幸いしたと言える。だが、そうして曹操軍の本隊と合流した呂布軍にさらなる災難が待ち受けていた。
曹操軍が到着した直後、曹操軍は張飛率いる袁術軍に急襲される事になったのだ。張飛は曹操軍が援軍に駆けつけたのを見ると袁術軍に退却を命じ、そのまま呂布軍に襲いかかる。
呂布軍は数こそ袁術軍に勝っていたものの、呂布軍の兵は大半が徐州兵であり曹操軍とは練度が違う上に連携が取れていない。その上徐州兵達は張飛との激闘の中で多くの犠牲を出しており、呂布軍の動きは明らかに鈍かった。そこを突いての強襲である。
曹操軍もまた奮戦したが、数の上では圧倒的に劣勢なだけに苦戦を強いられ、呂布軍を救出するまでには至らなかった。曹操軍の援軍を得た呂布は袁紹軍の方に向かい、曹操はその援護に向かったがそこでまたしても悲劇が起こる。袁紹軍主力部隊が現れたのである。
こちらは劉備軍を中心とした軍勢であり、おそらくは袁紹軍の精鋭部隊と思われる。
こちらも曹操軍と互角以上の戦いを繰り広げていたが、袁紹軍主力部隊の背後にいた騎馬隊に不意打ちを食らって曹操軍は大混乱に陥った。曹操軍は大軍ではあったが、やはり騎馬隊はさほど多く無い。まして曹操軍にとって最大の戦力である騎馬隊には呂布との戦いによる消耗もあるので、ここで一気に押し込まれてしまう。
呂布は曹操を助ける為に袁紹軍の主力部隊に突撃をかけたが、すでに曹操軍はかなり苦戦しており呂布もそちらを気にかけている余裕は無かった。
そして呂布は、その時見た。
袁紹軍本陣の方から、何か巨大な影が迫ってくるのが見えたのだ。その大きさは人一人を大きく上回るくらいの大きさであり、その姿はまるで猛獣の様な巨体であった。
それが何であるか理解する前に、呂布はその正体に気付いた。
それは、あの巨大旗を振り回している張遼だった。
その巨大な馬上で巨大旗をブン回し、張遼は暴れ回る。巨大旗を掲げる事によって呂布達の目を眩まし、その隙に乗じて敵陣をかき回す。その動きはまさに野生の虎か熊のように猛々しく、呂布はそれに目が離せなかった。
張遼が暴れると言う事は、それに従っている武将も同じ。いや、張遼に比べれば小柄であるにもかかわらず張遼に劣らぬ活躍を見せている武将こそが、その人物の真骨頂とも言えるだろう。
猛将、高順。
馬上から戟を振り回し、一振りごとに何人もの敵兵が斬り伏せられる様はもはや芸術と言っても過言ではないほどに華麗かつ豪快な動きを見せる。そして巨大旗を掲げた張遼と高順という二頭に率いられた猛牛軍団は袁紹軍の兵を蹴散らし、袁紹軍の本隊にも甚大な被害を与えていた。
だが呂布が驚いたのは、その圧倒的な強さよりも張遼と高順が揃って戦場に現れた事である。
その二人を従えて戦っているのは誰なのか。
答えはすぐに分かった。
袁紹軍の中から飛び出してきたのは、一人の少年だった。見た目だけで言えば張飛に匹敵するような巨漢であるが、その体格に見合わない速度で敵兵を切り刻んでいく。
それは、呂布も良く知っている武将。
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