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78話
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そして、俺は思った。この人は本当に凄いと。この人の観察力、洞察力は天下一品だと確信した。
そして今、俺は牢獄に入れられている。幸いにも、見張りはいなかった。恐らく、曹操軍の人たちが忙しいのだろう。だから、今のうちに策を考えようと思う。まずは、ここから逃げ出す方法を考える必要がある。そして、どうやって曹操軍の包囲網を突破するかも考えなければ。
そう考えていると、誰かが入ってきた。俺は警戒したが、すぐに安心する。
それは、徐栄だったからだ。
徐栄は俺に向かって
「大丈夫ですか?今すぐここを出ていきましょう。曹操軍の連中は今、手が離せないはずです。だから早く逃げましょう」
と言ってきた。
確かに今は絶好の機会なのかもしれない。今なら脱出することが出来る可能性は高い。
しかし、一つ問題がある。それは徐栄が戦える状態でないということだ。いくらなんでも女の人に戦場を任せて自分だけ逃げるというのは嫌だった。
そこで、俺は徐栄にあるお願いをした。それは自分の身体を鍛えて欲しいというものだった。徐栄は最初は戸惑っていたが、最終的には了承してくれた。
こうして、俺の地獄のような日々が始まった。
まずは基礎体力の向上から始まった。
腕立て伏せから始まり、腹筋、背筋、スクワットなど、様々なメニューをこなしていった。
そして、次は剣術の指導に入る。
剣を握ったことも無ければ振ったこともない俺にとって、これはかなりの難易度であった。
しかし、徐栄の教え方は上手く、コツを掴むことが出来てからは少しずつ上達していった。
そして、気付けば徐栄との稽古が始まってから三ヶ月が経っていた。
その間、何度も死にかけたが何とか乗り越えることができた。
そして、ついにその成果を見せる時が来た。
徐栄との試合形式の打ち合いをする日がやってきたのだ。
お互い木刀を持ち向かい合う。
そして、審判役の兵士が試合開始の合図を出す。
試合が始まり、お互いに間合いを取る。
先に仕掛けたのは徐栄だった。
一気に距離を詰めてくる。
そして、上段から振り下ろした一撃は恐ろしく早かった。
だが、俺はその攻撃を難なく受け止めることに成功した。
そこからは徐栄の攻撃を次々と受け流していった。
そして、反撃の隙を見つけ攻撃していく。
その攻撃は見事に決まり、徐栄の胴にクリーンヒットした。
その瞬間、試合は終わった。
徐栄が気絶してしまったからだ。
その光景を見た兵士は驚きを隠せなかったようだ。
だが、一番驚いていたのは他でもない俺自身であった。
なぜなら、今の自分の身体能力が想像以上だったことに驚いたからだ。
だが、これくらい出来なくては徐栄の相手は務まらない。
それに、徐栄にはもっと強くなって貰わなくてはならない。
徐栄にはこの先も一緒に戦ってもらうつもりなのだから。
こうして、俺と徐栄の戦いは幕を閉じた。
徐栄との戦いで俺の実力は確かなものとなった。
俺は改めて自分の力を実感し、この先のことを考えることにした。曹操軍との戦いが終わったら劉備たちの救出に向かう。
しかし、それをするためには曹操軍を倒さなければならない。
しかし、それではダメだ。曹操軍は圧倒的だ。
もし、劉備たちを救い出すことが出来たとしても、その後に待ち受けているのは曹操軍との決戦だ。
俺たちが勝つにはどうすればいい? 俺は考えた。そして、一つの結論に至った。
曹操軍が負けない理由。それは圧倒的な兵力があるからだ。
ならば、俺たちが曹操軍に勝てる方法とは? 答えは簡単だ。俺たちが曹操軍よりも多く兵を集めればいい。
俺は徐栄と共に徐州の各地を巡り、劉備たちを救うための兵を募った。
もちろん、ただで助けることは出来ない。
その代わりに曹操軍の情報を色々と教えて貰った。
例えば、曹操軍の将の中で最強と言われているのは曹仁という武将らしい。
その強さは半端ではないらしく、あの呂布でさえ苦戦したとか。
他にも、夏侯惇や張遼といった名のある将軍たちも強いそうだ。
他には、参謀として名高い荀イクや郭嘉などがいる。
そして、何よりも警戒すべきなのは曹操軍きっての名軍師である賈クの存在だろう。この人物がいる限り、曹操軍は決して敗北しないとも言われている。
それほどの人物と聞いている。
そんなことを思いながら、俺は徐栄と一緒に各地を回って兵の募集を行った。
それから一年が経った。
各地で集めてきた兵は二万を超えた。
これだけいれば十分だろう。
そう思っていたのだが、徐栄はもっと集めるべきだと言った。
確かに、今の状態では足りないかもしれない。なので、俺はまた各地の諸侯たちに協力を呼びかけた。
そして、今度集まったのは四万人。
さらに、呂布の配下だった者や義勇軍の者たちも続々と集まってきた。
そして、俺はこの人たちに誓いを立てた。
必ず、この乱世を終わらせると。
俺はこの時、初めて決意というものを持った気がする。
俺はこの場にいる人たちに向かって言った。
「みんな、よく来てくれた!これから、お前たちは俺の仲間になる。だから約束してくれ。絶対に死ぬな。そして、俺の為に命をかけて戦ってくれ!」
すると、最初に手を上げたのは元黄巾党の男だった。
男は言う。
「任せてくれよ大将。俺はあんたの為なら死んでもいいと思ってんだ。こんな俺を受け入れてくれるだけじゃなく、俺に居場所を与えてくれた恩を返さなきゃいけねぇからな」
俺は嬉しかった。俺の話をちゃんと聞いてくれて、俺のことを信頼してくれる人がいたなんて。
俺は泣きそうになっていたが、何とか堪えて次の言葉を紡ぐ。
「ありがとう。それなら、俺についてこい。俺たちはこの乱世を終わらせに行くぞ!!」
こうして、俺の新たな戦いが始まった。
徐州城にて、俺は徐晃と話をしていた。
徐晃は俺と同じタイミングで義勇軍に参加してくれた仲間の一人だ。
見た目からは想像出来ないが、彼はかなりの実力者であり、俺が最も頼りにしている人物である。
徐晃は俺に対してこう言ってきた。
「主君、いよいよですな」
徐晃の言葉の意味はすぐに理解出来た。何故なら、俺たちが集めた兵力は約五万にまで膨れあがっていたからだ。
この数は正直、異常とも言える数だ。普通であればあり得ないほどの大軍と言っても過言ではないだろう。
だが、これくらいの数を集めていなければ勝機はない。それだけ相手は強大なのだ。
だからこそ、俺たちは勝つ必要がある。そのために、ここまで頑張って来たのだから。
しかし、一つだけ問題もあった。
それは徐州の治安の問題だ。徐州は広いが故に統治しきれてない地域も多い。そのため賊徒の集団が数多く存在しているのだ。
このままだと、徐州で大規模な戦闘が起きてしまう可能性がある。
そこで、俺はある策を思いつく。それは、徐州の民たちを俺たちが支配している領地へと移住させようというものだ。
これには二つのメリットがある。まず、賊徒から守ることが可能になるということ。もう一つは民たちからの支持を得ることができるという点だ。
徐州の民たちは困っている。それならば、その問題を解決してあげれば自然と支持を得ることができるはずだ。
もちろん、それだけではなく徐州の統治を任せたいという気持ちもある。
俺が考えていることはつまりこういうことだ。
俺が治める土地に住めば、少なくとも食料に困ることはない。それに、住む場所も用意してある。
さらには、俺が直々に兵法を教えることで、優秀な人材を確保することも出来る。
これが成功すれば、俺たちは曹操軍との戦いだけでなく、その後のことも考えることが出来るようになる。
まさに一石三鳥の策と言えるだろう。
こうして、俺は徐晃を連れて、各地に散った仲間たちを集めることにした。
そして、最後の一人が集まったところで、俺は徐晃に尋ねた。
「徐晃、準備はいいか?」
徐晃は力強く答える。
「無論。いつでも行けますぞ」
これで全員揃ったようだ。
俺たちはそれぞれの兵を率いて、自分たちの領地へと向かった。
俺たちの領地には多くの民たちが待っていた。
俺たちの姿を見ると、彼らは歓声を上げていた。
俺たちは彼らの前に姿を現すと、俺は彼らに向かって語りかけた。
「みんな聞いて欲しい!俺たちは今、大きな危機に直面している。それは、俺たちの土地が曹操という奴らに狙われているということだ!曹操軍はもうすぐここに攻めてくるかもしれない。しかし、心配はいらない!俺たちには力がある!それは、みんなのおかげなんだ!だから、今度は俺たちがみんなを守る番だ!今こそ俺たちの力でみんなを守り抜こう!俺を信じてついてきて欲しい!俺がみんなを導く!」
すると、民衆はさらに盛り上がりを見せた。
そして、俺の呼びかけに応えるようにみんな声を上げる。
俺たちは曹操軍と戦うために兵を集めていたが、いつの間にか守り抜くための兵となっていた。それでも構わない。
俺はこの人たちを必ず守る。そして、この戦いに勝利するために全力を尽くすだけだ。
俺は改めて決意を固める。
俺たちは戦いの準備を始めた。
曹操軍が襲ってくるまでは残り数日。それまでに準備を整えなければならない。
俺たちが兵を集め、そして訓練を行っている間に、曹操軍の動きに変化が現れた。
どうやら、劉備たちの動きに気付いたらしい。曹操軍の将である華雄と張遼が、徐州城へ向けて出発したそうだ。
おそらくは劉備を討伐するためだろう。そうでなければ、わざわざ徐州まで出向く理由が無い。
徐州城に残っていた将軍たちもすぐに出陣した。
呂布、徐栄といった猛将も加わっているため、戦力的にはこちらが圧倒的に有利だろう。
そして、ついに戦いの時が来た。
曹操軍の大軍勢が徐州の城の前に現れた。数はおよそ五万と言ったところだろうか。
対するこちらは五千と少しと言った感じだ。数だけなら負けているように見えるが、個々の質はこっちの方が上だと思う。
そして、何よりも士気の高さは向こうと比べて遥かに高い。
これは勝てるかもしれないな。俺はそう思っていた。だが、その時だった。俺は一瞬目を疑ってしまった。
それはありえない光景だった。まさか、あの男がこの場に現れるなんて……俺は思わず笑みを浮かべてしまった。それほどまでに待ち望んだ人物の登場だったからだ。
俺は彼を呼ぶ。すると、彼が姿を見せた。
その姿を見た瞬間、俺は確信した。彼は間違いなく俺が知っている人物だと。
「よく来たな、関羽」
俺がそう言うと、周りにいた者たちが騒ぎ出す。それもそのはず、関羽はこの世で最も有名と言ってもいいほど有名な男なのだから。
すると、俺の言葉を聞いた関羽は言う。
「お前は俺のことを知っているのか?悪いが記憶にないのだが」
俺は彼の質問に対して、こう答えた。
「あぁ、知ってるさ。だって、あんたが死んだって噂を聞いてここまでやってきたんだからな」
「俺の死が本当かどうかは分からないが、今はそんなことより戦うことが先決だ」
やはり、今の彼は俺の知る彼とは全くの別人だ。以前の彼なら俺に対して何かしらの反応を示していたはずだ。しかし、今の彼にはそれがない。本当に興味の無い存在として扱われているみたいだ。それが悲しいと思った。だが、同時に頼もしくも思った。
なぜなら、この絶望的な状況で彼は微塵も動揺を見せていないからだ。
さすがは英雄と言うべきか。これほどの逆境の中でも平然としているのだから。
しかし、この程度で怯むわけにはいかない。俺たちは勝たなくてはならないのだ。この乱世を終わらせたいのならここで立ち止まることは出来ない。
俺たちの戦いはこれから始まろうとしていた。曹操軍は勢いに乗って俺たちに攻め込んできた。だが、それは計算の内だ。俺はわざと劣勢に見せかけ、兵を退かせたのだ。もちろん、その時に何人か逃がしたりしているけどね。
そのおかげで、敵は完全に油断しているようであった。だからこそ、この好機を逃す手はないと判断したのだ。
曹操軍を分断し、各個撃破していく方針を取った。
俺が指示を出し、徐州軍は見事にその作戦を成功させた。
俺の予想通り、曹操軍は俺たち徐州軍を警戒していたため、簡単には突破できなかった。
それならばと、曹操軍は俺たちを包囲殲滅しようと試みる。
俺たちは必死に防ぐが徐々に追い詰められていく。このままでは全滅するのは時間の問題だろう。
俺もそう考えた。だからこそ、次の一手を打とうと考えたのだ。そこで、俺は徐晃に合図を送る。
徐晃はそれに気付くと、一気に突撃を開始した。徐晃率いる騎馬隊は曹操軍に突っ込む。
そして、徐晃は曹操軍の陣形を崩すと、そこにできた穴を広げるように俺たちは攻撃を開始する。
曹操軍の兵士は混乱して統率が取れていなかった。それに加えて、徐晃の攻撃によってさらに指揮系統は乱れていった。
俺たちはそこを見逃さずに、曹操軍の本陣へと攻め込んだ。
そして、俺たちはついに曹操を捕らえることに成功した。
俺は曹操を捕まえると、周りの兵士たちに命じて取り押さえさせた。
これで戦いは終わった。俺たちの勝利に終わったのだ。
俺は曹操を地面に押し付けながら、声をかけた。
「曹操殿、まだ戦いますか?」
曹操は抵抗することなく、素直に応じた。
「いや、私の負けだ。大人しく降参しよう」
こうして、俺たちは曹操軍に勝利したのである。
俺たちは戦いを終えると、曹操の身柄を引き渡すために城へ戻ってきた。
城に入ると、そこには呂布の姿があった。どうやら、俺が来るのを待っていたようだ。呂布は俺を見つけると、こちらに向かって歩いてきた。そして、俺の目の前まで来ると、呂布は頭を下げてきた。
突然の出来事に俺は驚いてしまった。呂布ほどの人物が俺に頭を下げるとは思っていなかったからだ。
呂布は言った。
「まずは謝らせて欲しい。君たちを裏切るような真似をして申し訳なかった。俺は劉備を討つために徐州にやってきた。そして、徐州を攻めれば劉備が姿を現すと思っていたんだ。だけど、劉備は現れなかった。だから、俺たちと戦う必要はない」
どうやら、呂布は劉備を倒すという目的のために徐州に攻め入ったらしい。
確かに劉備がいなければ、俺たちと戦う必要は無かっただろう。しかし、劉備は今も徐州にいるはずだ。そうでなければ、劉備が徐州を離れる理由が無いからな。呂布は続けて言う。
「もし劉備と戦うつもりが無いなら、今すぐ劉備のもとへ向かって欲しい。そして、劉備を説得して欲しいんだ」
呂布の言葉を聞き、俺は理解した。
おそらく劉備が徐州から離れているのは、曹操が劉備を狙っていると知ったからなのだろう。そして、劉備はそれを察したからこそ徐州を離れたのではないだろうか? おそらくはそういうことだろう。俺はそう思い、劉備のもとへ向かおうとした。だが、それを遮るように呂布は言葉を発した。
「待ってくれ!最後に一つだけ言いたいことがあるんだ!」
俺は足を止めて振り返る。すると、呂布は真剣な表情を浮かべていた。
「君はいったい何者なんだ……?どうしてそれほどの強さを持っているんだ……?」
おそらくこれは純粋な疑問なのだろう。呂布は俺のことをまるで化け物でも見るかのような目で見つめてくる。
俺が何者か……か。俺が知りたいくらいだよ。ただ言えることはある。それは俺が望んで手に入れた強さじゃないってことだ。俺は普通の人間として生まれ、普通に生きていくはずだった。
だが、この世界に来てからは全てが変わってしまったんだ。
俺はため息をつくと、こう答えた。
「俺は英雄になりたいわけじゃ無い。俺はただ平和な日々を送りたかっただけだ」
俺の言葉を聞いた呂布は驚いた様子だった。
「まさか、そんな理由であれほどまでの力を手に入れたっていうのか!?」
「あぁ、そうだよ。俺にとってはそれだけで十分だ」
俺がそう言うと、呂布は納得してくれたようでそれ以上何も言わなくなった。
俺は再び歩き出し、その場から去っていった。
城の外に出ると、徐晃は馬に乗りどこかへ行く準備をしていた。
徐晃は俺の顔を見ると、何かに気付いたのか話しかけてきた。
「おおっ、やっと来たのか。お前の帰りを待っておったぞ。さぁ、早く乗れ」
徐晃の言葉を聞いて、俺は一瞬戸惑ってしまった。
えっと、どういうことなんですかねぇ……。俺は状況がよく分からず、戸惑いながら質問をした。
「あのー、ちょっといいかな?俺たちの戦いはもう終わったんだけど……」
俺の問いかけに対して、徐晃は当たり前のように答える。
「何を言っておるのだ。曹操軍の総大将を捕えたのだ。ならば、戦いは終わって当然であろう?」
まぁ、確かにその通りですけどね。
俺はまだ戦いが終わったことを実感していなかったのだが、どうやら本当に終わったみたいだ。
とりあえず、俺たちは急いで曹操の元へ向かうことにした。
俺と徐晃は曹操の身柄を押さえるために、徐州軍を引き連れて曹操の元へと向かっていた。
しかし、そこで予想外の出来事が起きた。徐州軍が曹操軍と戦闘を始めたのだ。突然の出来事に俺たちは驚くしかなかった。俺たちが曹操の身柄を確保しようとしたことで、徐州軍の兵士が反抗してきたのだ。
俺たちは仕方なく、兵士たちを鎮圧しようとしたが、徐晃はそれを制した。
徐晃は兵たちに向かって叫んだ。
「我らの目的は敵将を捕らえることである!無駄に命を奪うことはない!」
徐晃はそう言うと、曹操の兵たちに降伏するように呼びかけ始めた。そして、徐晃の説得によって曹操軍は降伏した。俺たちは曹操の身柄を拘束することに成功したのである。
城に戻ると、そこには劉備の姿があった。
劉備は俺たちを見るなり、駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか、三人とも!怪我とかしてませんよね!?」
劉備は俺たちを心配してくれているようであった。
俺は安心させるように笑顔で言う。
「心配しなくても俺たちは何ともありませんよ」
劉備は安心したのか、胸を撫で下ろしていた。
そこへ呂布もやって来た。呂布は劉備の姿を確認すると、頭を深く下げながら言った。
「劉備殿、申し訳ありませんでした。私が至らぬばかりにあなたを危険な目に遭わせてしまいました」
劉備は呂布の言葉を聞くと、慌てて否定する。
「いえいえ、私こそごめんなさい。呂布さんが徐州のために戦っていると知っていたはずなのに、私は勝手に城を飛び出してしまったんですから。それに呂布さんのせいではありませんよ。全ては私の責任なのですから」
どうやら劉備は今回の件は自分の責任だと思っているようだ。
呂布は劉備の言葉に首を横に振ると、言った。
「いや、それは違います。そもそものきっかけは徐州が襲われたことが原因でしょう。つまり、これは徐州軍全ての問題なのです」
劉備は悲しげな表情を浮かべると、呂布の言葉を否定する。
「確かに徐州軍の問題という部分もあるかもしれません。だけど、それを解決するために呂布将軍が自ら戦地へ赴いたんじゃないですか。だから、あなたの行動は決して悪いものじゃなかったと思うんですよ」
劉備の言葉を聞き、呂布は嬉しかったのか涙を流し始めていた。そして、呂布は劉備に感謝の言葉を伝えた。
俺は呂布の言葉を聞いて、感心していた。呂布は自分を犠牲にしてでも徐州を守ろうとしたんだな。きっとそれが正しいことだと信じての行動だったのだろう。だからこそ、呂布の言葉には説得力があった。そして、その呂布の考えは正しいものだったのだと思う。しかし、劉備は違った。劉備は自分が徐州を守るためなら呂布の命を捨て駒にしても良いと考えている。だから劉備は徐州を救うためなら呂布の犠牲すら必要だと思えるんだろうな。俺はそんなことを考えていた。
しばらくすると、呂布は涙を止めて落ち着きを取り戻した。
すると、呂布は劉備に話しかける。
「劉備殿、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
呂布の言葉に対して、劉備は不思議そうな表情を浮かべていた。
呂布は続けて話し始めた。
「劉備殿は何故我々に手を貸そうとしてくれるのですか?我々はあなたにとって敵国の者だ。普通なら協力しようとは思わないはずではないですか?」
確かにそれは俺も気になっていたことだった。
俺たちは劉備と敵対関係にある。そんな俺たちに力を貸そうとする理由なんてあるのだろうか? すると、劉備は優しく微笑みながら答えた。
「別に大したことじゃ無いですよ。ただ、困ってる人がいるから助けたいと思っただけです。呂布さんだってそうだったんでしょう?」
そう言うと、劉備は俺の方を振り向いた。俺が困ってた?俺がか……?俺は何もしていないはずだけど……。
俺が考えていると、徐晃が俺の代わりに答えてくれた。
「なるほど、そういうことであったか。劉備殿、貴公は良い王になるであろう。ただ、それだけのことなのだから……」
徐晃は満足げに笑っていた。
俺は何となくだが、徐晃の言葉の意味を理解した気がした。
おそらく劉備は人の気持ちを理解することが出来る人物なんだ。だから、困っている人がいれば手を差し伸べようとするし、相手が敵であっても関係無く救いの手を伸ばす。それが劉備という人物なんだろう。
徐晃は言葉を続ける。
「劉備殿、この男は我らの主君である曹豹様の御子息である。どうかよろしく頼むぞ」
徐晃は俺のことを劉備に託したみたいだ。
しかし、劉備はそれを拒否した。
「いえ、曹操の息子たちを助けたいという気持ちはもちろんあります。ですけど、それだけじゃないんです。私は呂布将軍のことも仲間だと思っています。ですので、私にとっては呂布将軍も同じくらい大切な存在だと思います」
劉備ははっきりと自分の考えを口に出した。劉備の言葉を聞いた呂布は驚いたような表情をしていたが、すぐに劉備に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。劉備殿。これほど嬉しいことはありません」
そして今、俺は牢獄に入れられている。幸いにも、見張りはいなかった。恐らく、曹操軍の人たちが忙しいのだろう。だから、今のうちに策を考えようと思う。まずは、ここから逃げ出す方法を考える必要がある。そして、どうやって曹操軍の包囲網を突破するかも考えなければ。
そう考えていると、誰かが入ってきた。俺は警戒したが、すぐに安心する。
それは、徐栄だったからだ。
徐栄は俺に向かって
「大丈夫ですか?今すぐここを出ていきましょう。曹操軍の連中は今、手が離せないはずです。だから早く逃げましょう」
と言ってきた。
確かに今は絶好の機会なのかもしれない。今なら脱出することが出来る可能性は高い。
しかし、一つ問題がある。それは徐栄が戦える状態でないということだ。いくらなんでも女の人に戦場を任せて自分だけ逃げるというのは嫌だった。
そこで、俺は徐栄にあるお願いをした。それは自分の身体を鍛えて欲しいというものだった。徐栄は最初は戸惑っていたが、最終的には了承してくれた。
こうして、俺の地獄のような日々が始まった。
まずは基礎体力の向上から始まった。
腕立て伏せから始まり、腹筋、背筋、スクワットなど、様々なメニューをこなしていった。
そして、次は剣術の指導に入る。
剣を握ったことも無ければ振ったこともない俺にとって、これはかなりの難易度であった。
しかし、徐栄の教え方は上手く、コツを掴むことが出来てからは少しずつ上達していった。
そして、気付けば徐栄との稽古が始まってから三ヶ月が経っていた。
その間、何度も死にかけたが何とか乗り越えることができた。
そして、ついにその成果を見せる時が来た。
徐栄との試合形式の打ち合いをする日がやってきたのだ。
お互い木刀を持ち向かい合う。
そして、審判役の兵士が試合開始の合図を出す。
試合が始まり、お互いに間合いを取る。
先に仕掛けたのは徐栄だった。
一気に距離を詰めてくる。
そして、上段から振り下ろした一撃は恐ろしく早かった。
だが、俺はその攻撃を難なく受け止めることに成功した。
そこからは徐栄の攻撃を次々と受け流していった。
そして、反撃の隙を見つけ攻撃していく。
その攻撃は見事に決まり、徐栄の胴にクリーンヒットした。
その瞬間、試合は終わった。
徐栄が気絶してしまったからだ。
その光景を見た兵士は驚きを隠せなかったようだ。
だが、一番驚いていたのは他でもない俺自身であった。
なぜなら、今の自分の身体能力が想像以上だったことに驚いたからだ。
だが、これくらい出来なくては徐栄の相手は務まらない。
それに、徐栄にはもっと強くなって貰わなくてはならない。
徐栄にはこの先も一緒に戦ってもらうつもりなのだから。
こうして、俺と徐栄の戦いは幕を閉じた。
徐栄との戦いで俺の実力は確かなものとなった。
俺は改めて自分の力を実感し、この先のことを考えることにした。曹操軍との戦いが終わったら劉備たちの救出に向かう。
しかし、それをするためには曹操軍を倒さなければならない。
しかし、それではダメだ。曹操軍は圧倒的だ。
もし、劉備たちを救い出すことが出来たとしても、その後に待ち受けているのは曹操軍との決戦だ。
俺たちが勝つにはどうすればいい? 俺は考えた。そして、一つの結論に至った。
曹操軍が負けない理由。それは圧倒的な兵力があるからだ。
ならば、俺たちが曹操軍に勝てる方法とは? 答えは簡単だ。俺たちが曹操軍よりも多く兵を集めればいい。
俺は徐栄と共に徐州の各地を巡り、劉備たちを救うための兵を募った。
もちろん、ただで助けることは出来ない。
その代わりに曹操軍の情報を色々と教えて貰った。
例えば、曹操軍の将の中で最強と言われているのは曹仁という武将らしい。
その強さは半端ではないらしく、あの呂布でさえ苦戦したとか。
他にも、夏侯惇や張遼といった名のある将軍たちも強いそうだ。
他には、参謀として名高い荀イクや郭嘉などがいる。
そして、何よりも警戒すべきなのは曹操軍きっての名軍師である賈クの存在だろう。この人物がいる限り、曹操軍は決して敗北しないとも言われている。
それほどの人物と聞いている。
そんなことを思いながら、俺は徐栄と一緒に各地を回って兵の募集を行った。
それから一年が経った。
各地で集めてきた兵は二万を超えた。
これだけいれば十分だろう。
そう思っていたのだが、徐栄はもっと集めるべきだと言った。
確かに、今の状態では足りないかもしれない。なので、俺はまた各地の諸侯たちに協力を呼びかけた。
そして、今度集まったのは四万人。
さらに、呂布の配下だった者や義勇軍の者たちも続々と集まってきた。
そして、俺はこの人たちに誓いを立てた。
必ず、この乱世を終わらせると。
俺はこの時、初めて決意というものを持った気がする。
俺はこの場にいる人たちに向かって言った。
「みんな、よく来てくれた!これから、お前たちは俺の仲間になる。だから約束してくれ。絶対に死ぬな。そして、俺の為に命をかけて戦ってくれ!」
すると、最初に手を上げたのは元黄巾党の男だった。
男は言う。
「任せてくれよ大将。俺はあんたの為なら死んでもいいと思ってんだ。こんな俺を受け入れてくれるだけじゃなく、俺に居場所を与えてくれた恩を返さなきゃいけねぇからな」
俺は嬉しかった。俺の話をちゃんと聞いてくれて、俺のことを信頼してくれる人がいたなんて。
俺は泣きそうになっていたが、何とか堪えて次の言葉を紡ぐ。
「ありがとう。それなら、俺についてこい。俺たちはこの乱世を終わらせに行くぞ!!」
こうして、俺の新たな戦いが始まった。
徐州城にて、俺は徐晃と話をしていた。
徐晃は俺と同じタイミングで義勇軍に参加してくれた仲間の一人だ。
見た目からは想像出来ないが、彼はかなりの実力者であり、俺が最も頼りにしている人物である。
徐晃は俺に対してこう言ってきた。
「主君、いよいよですな」
徐晃の言葉の意味はすぐに理解出来た。何故なら、俺たちが集めた兵力は約五万にまで膨れあがっていたからだ。
この数は正直、異常とも言える数だ。普通であればあり得ないほどの大軍と言っても過言ではないだろう。
だが、これくらいの数を集めていなければ勝機はない。それだけ相手は強大なのだ。
だからこそ、俺たちは勝つ必要がある。そのために、ここまで頑張って来たのだから。
しかし、一つだけ問題もあった。
それは徐州の治安の問題だ。徐州は広いが故に統治しきれてない地域も多い。そのため賊徒の集団が数多く存在しているのだ。
このままだと、徐州で大規模な戦闘が起きてしまう可能性がある。
そこで、俺はある策を思いつく。それは、徐州の民たちを俺たちが支配している領地へと移住させようというものだ。
これには二つのメリットがある。まず、賊徒から守ることが可能になるということ。もう一つは民たちからの支持を得ることができるという点だ。
徐州の民たちは困っている。それならば、その問題を解決してあげれば自然と支持を得ることができるはずだ。
もちろん、それだけではなく徐州の統治を任せたいという気持ちもある。
俺が考えていることはつまりこういうことだ。
俺が治める土地に住めば、少なくとも食料に困ることはない。それに、住む場所も用意してある。
さらには、俺が直々に兵法を教えることで、優秀な人材を確保することも出来る。
これが成功すれば、俺たちは曹操軍との戦いだけでなく、その後のことも考えることが出来るようになる。
まさに一石三鳥の策と言えるだろう。
こうして、俺は徐晃を連れて、各地に散った仲間たちを集めることにした。
そして、最後の一人が集まったところで、俺は徐晃に尋ねた。
「徐晃、準備はいいか?」
徐晃は力強く答える。
「無論。いつでも行けますぞ」
これで全員揃ったようだ。
俺たちはそれぞれの兵を率いて、自分たちの領地へと向かった。
俺たちの領地には多くの民たちが待っていた。
俺たちの姿を見ると、彼らは歓声を上げていた。
俺たちは彼らの前に姿を現すと、俺は彼らに向かって語りかけた。
「みんな聞いて欲しい!俺たちは今、大きな危機に直面している。それは、俺たちの土地が曹操という奴らに狙われているということだ!曹操軍はもうすぐここに攻めてくるかもしれない。しかし、心配はいらない!俺たちには力がある!それは、みんなのおかげなんだ!だから、今度は俺たちがみんなを守る番だ!今こそ俺たちの力でみんなを守り抜こう!俺を信じてついてきて欲しい!俺がみんなを導く!」
すると、民衆はさらに盛り上がりを見せた。
そして、俺の呼びかけに応えるようにみんな声を上げる。
俺たちは曹操軍と戦うために兵を集めていたが、いつの間にか守り抜くための兵となっていた。それでも構わない。
俺はこの人たちを必ず守る。そして、この戦いに勝利するために全力を尽くすだけだ。
俺は改めて決意を固める。
俺たちは戦いの準備を始めた。
曹操軍が襲ってくるまでは残り数日。それまでに準備を整えなければならない。
俺たちが兵を集め、そして訓練を行っている間に、曹操軍の動きに変化が現れた。
どうやら、劉備たちの動きに気付いたらしい。曹操軍の将である華雄と張遼が、徐州城へ向けて出発したそうだ。
おそらくは劉備を討伐するためだろう。そうでなければ、わざわざ徐州まで出向く理由が無い。
徐州城に残っていた将軍たちもすぐに出陣した。
呂布、徐栄といった猛将も加わっているため、戦力的にはこちらが圧倒的に有利だろう。
そして、ついに戦いの時が来た。
曹操軍の大軍勢が徐州の城の前に現れた。数はおよそ五万と言ったところだろうか。
対するこちらは五千と少しと言った感じだ。数だけなら負けているように見えるが、個々の質はこっちの方が上だと思う。
そして、何よりも士気の高さは向こうと比べて遥かに高い。
これは勝てるかもしれないな。俺はそう思っていた。だが、その時だった。俺は一瞬目を疑ってしまった。
それはありえない光景だった。まさか、あの男がこの場に現れるなんて……俺は思わず笑みを浮かべてしまった。それほどまでに待ち望んだ人物の登場だったからだ。
俺は彼を呼ぶ。すると、彼が姿を見せた。
その姿を見た瞬間、俺は確信した。彼は間違いなく俺が知っている人物だと。
「よく来たな、関羽」
俺がそう言うと、周りにいた者たちが騒ぎ出す。それもそのはず、関羽はこの世で最も有名と言ってもいいほど有名な男なのだから。
すると、俺の言葉を聞いた関羽は言う。
「お前は俺のことを知っているのか?悪いが記憶にないのだが」
俺は彼の質問に対して、こう答えた。
「あぁ、知ってるさ。だって、あんたが死んだって噂を聞いてここまでやってきたんだからな」
「俺の死が本当かどうかは分からないが、今はそんなことより戦うことが先決だ」
やはり、今の彼は俺の知る彼とは全くの別人だ。以前の彼なら俺に対して何かしらの反応を示していたはずだ。しかし、今の彼にはそれがない。本当に興味の無い存在として扱われているみたいだ。それが悲しいと思った。だが、同時に頼もしくも思った。
なぜなら、この絶望的な状況で彼は微塵も動揺を見せていないからだ。
さすがは英雄と言うべきか。これほどの逆境の中でも平然としているのだから。
しかし、この程度で怯むわけにはいかない。俺たちは勝たなくてはならないのだ。この乱世を終わらせたいのならここで立ち止まることは出来ない。
俺たちの戦いはこれから始まろうとしていた。曹操軍は勢いに乗って俺たちに攻め込んできた。だが、それは計算の内だ。俺はわざと劣勢に見せかけ、兵を退かせたのだ。もちろん、その時に何人か逃がしたりしているけどね。
そのおかげで、敵は完全に油断しているようであった。だからこそ、この好機を逃す手はないと判断したのだ。
曹操軍を分断し、各個撃破していく方針を取った。
俺が指示を出し、徐州軍は見事にその作戦を成功させた。
俺の予想通り、曹操軍は俺たち徐州軍を警戒していたため、簡単には突破できなかった。
それならばと、曹操軍は俺たちを包囲殲滅しようと試みる。
俺たちは必死に防ぐが徐々に追い詰められていく。このままでは全滅するのは時間の問題だろう。
俺もそう考えた。だからこそ、次の一手を打とうと考えたのだ。そこで、俺は徐晃に合図を送る。
徐晃はそれに気付くと、一気に突撃を開始した。徐晃率いる騎馬隊は曹操軍に突っ込む。
そして、徐晃は曹操軍の陣形を崩すと、そこにできた穴を広げるように俺たちは攻撃を開始する。
曹操軍の兵士は混乱して統率が取れていなかった。それに加えて、徐晃の攻撃によってさらに指揮系統は乱れていった。
俺たちはそこを見逃さずに、曹操軍の本陣へと攻め込んだ。
そして、俺たちはついに曹操を捕らえることに成功した。
俺は曹操を捕まえると、周りの兵士たちに命じて取り押さえさせた。
これで戦いは終わった。俺たちの勝利に終わったのだ。
俺は曹操を地面に押し付けながら、声をかけた。
「曹操殿、まだ戦いますか?」
曹操は抵抗することなく、素直に応じた。
「いや、私の負けだ。大人しく降参しよう」
こうして、俺たちは曹操軍に勝利したのである。
俺たちは戦いを終えると、曹操の身柄を引き渡すために城へ戻ってきた。
城に入ると、そこには呂布の姿があった。どうやら、俺が来るのを待っていたようだ。呂布は俺を見つけると、こちらに向かって歩いてきた。そして、俺の目の前まで来ると、呂布は頭を下げてきた。
突然の出来事に俺は驚いてしまった。呂布ほどの人物が俺に頭を下げるとは思っていなかったからだ。
呂布は言った。
「まずは謝らせて欲しい。君たちを裏切るような真似をして申し訳なかった。俺は劉備を討つために徐州にやってきた。そして、徐州を攻めれば劉備が姿を現すと思っていたんだ。だけど、劉備は現れなかった。だから、俺たちと戦う必要はない」
どうやら、呂布は劉備を倒すという目的のために徐州に攻め入ったらしい。
確かに劉備がいなければ、俺たちと戦う必要は無かっただろう。しかし、劉備は今も徐州にいるはずだ。そうでなければ、劉備が徐州を離れる理由が無いからな。呂布は続けて言う。
「もし劉備と戦うつもりが無いなら、今すぐ劉備のもとへ向かって欲しい。そして、劉備を説得して欲しいんだ」
呂布の言葉を聞き、俺は理解した。
おそらく劉備が徐州から離れているのは、曹操が劉備を狙っていると知ったからなのだろう。そして、劉備はそれを察したからこそ徐州を離れたのではないだろうか? おそらくはそういうことだろう。俺はそう思い、劉備のもとへ向かおうとした。だが、それを遮るように呂布は言葉を発した。
「待ってくれ!最後に一つだけ言いたいことがあるんだ!」
俺は足を止めて振り返る。すると、呂布は真剣な表情を浮かべていた。
「君はいったい何者なんだ……?どうしてそれほどの強さを持っているんだ……?」
おそらくこれは純粋な疑問なのだろう。呂布は俺のことをまるで化け物でも見るかのような目で見つめてくる。
俺が何者か……か。俺が知りたいくらいだよ。ただ言えることはある。それは俺が望んで手に入れた強さじゃないってことだ。俺は普通の人間として生まれ、普通に生きていくはずだった。
だが、この世界に来てからは全てが変わってしまったんだ。
俺はため息をつくと、こう答えた。
「俺は英雄になりたいわけじゃ無い。俺はただ平和な日々を送りたかっただけだ」
俺の言葉を聞いた呂布は驚いた様子だった。
「まさか、そんな理由であれほどまでの力を手に入れたっていうのか!?」
「あぁ、そうだよ。俺にとってはそれだけで十分だ」
俺がそう言うと、呂布は納得してくれたようでそれ以上何も言わなくなった。
俺は再び歩き出し、その場から去っていった。
城の外に出ると、徐晃は馬に乗りどこかへ行く準備をしていた。
徐晃は俺の顔を見ると、何かに気付いたのか話しかけてきた。
「おおっ、やっと来たのか。お前の帰りを待っておったぞ。さぁ、早く乗れ」
徐晃の言葉を聞いて、俺は一瞬戸惑ってしまった。
えっと、どういうことなんですかねぇ……。俺は状況がよく分からず、戸惑いながら質問をした。
「あのー、ちょっといいかな?俺たちの戦いはもう終わったんだけど……」
俺の問いかけに対して、徐晃は当たり前のように答える。
「何を言っておるのだ。曹操軍の総大将を捕えたのだ。ならば、戦いは終わって当然であろう?」
まぁ、確かにその通りですけどね。
俺はまだ戦いが終わったことを実感していなかったのだが、どうやら本当に終わったみたいだ。
とりあえず、俺たちは急いで曹操の元へ向かうことにした。
俺と徐晃は曹操の身柄を押さえるために、徐州軍を引き連れて曹操の元へと向かっていた。
しかし、そこで予想外の出来事が起きた。徐州軍が曹操軍と戦闘を始めたのだ。突然の出来事に俺たちは驚くしかなかった。俺たちが曹操の身柄を確保しようとしたことで、徐州軍の兵士が反抗してきたのだ。
俺たちは仕方なく、兵士たちを鎮圧しようとしたが、徐晃はそれを制した。
徐晃は兵たちに向かって叫んだ。
「我らの目的は敵将を捕らえることである!無駄に命を奪うことはない!」
徐晃はそう言うと、曹操の兵たちに降伏するように呼びかけ始めた。そして、徐晃の説得によって曹操軍は降伏した。俺たちは曹操の身柄を拘束することに成功したのである。
城に戻ると、そこには劉備の姿があった。
劉備は俺たちを見るなり、駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか、三人とも!怪我とかしてませんよね!?」
劉備は俺たちを心配してくれているようであった。
俺は安心させるように笑顔で言う。
「心配しなくても俺たちは何ともありませんよ」
劉備は安心したのか、胸を撫で下ろしていた。
そこへ呂布もやって来た。呂布は劉備の姿を確認すると、頭を深く下げながら言った。
「劉備殿、申し訳ありませんでした。私が至らぬばかりにあなたを危険な目に遭わせてしまいました」
劉備は呂布の言葉を聞くと、慌てて否定する。
「いえいえ、私こそごめんなさい。呂布さんが徐州のために戦っていると知っていたはずなのに、私は勝手に城を飛び出してしまったんですから。それに呂布さんのせいではありませんよ。全ては私の責任なのですから」
どうやら劉備は今回の件は自分の責任だと思っているようだ。
呂布は劉備の言葉に首を横に振ると、言った。
「いや、それは違います。そもそものきっかけは徐州が襲われたことが原因でしょう。つまり、これは徐州軍全ての問題なのです」
劉備は悲しげな表情を浮かべると、呂布の言葉を否定する。
「確かに徐州軍の問題という部分もあるかもしれません。だけど、それを解決するために呂布将軍が自ら戦地へ赴いたんじゃないですか。だから、あなたの行動は決して悪いものじゃなかったと思うんですよ」
劉備の言葉を聞き、呂布は嬉しかったのか涙を流し始めていた。そして、呂布は劉備に感謝の言葉を伝えた。
俺は呂布の言葉を聞いて、感心していた。呂布は自分を犠牲にしてでも徐州を守ろうとしたんだな。きっとそれが正しいことだと信じての行動だったのだろう。だからこそ、呂布の言葉には説得力があった。そして、その呂布の考えは正しいものだったのだと思う。しかし、劉備は違った。劉備は自分が徐州を守るためなら呂布の命を捨て駒にしても良いと考えている。だから劉備は徐州を救うためなら呂布の犠牲すら必要だと思えるんだろうな。俺はそんなことを考えていた。
しばらくすると、呂布は涙を止めて落ち着きを取り戻した。
すると、呂布は劉備に話しかける。
「劉備殿、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
呂布の言葉に対して、劉備は不思議そうな表情を浮かべていた。
呂布は続けて話し始めた。
「劉備殿は何故我々に手を貸そうとしてくれるのですか?我々はあなたにとって敵国の者だ。普通なら協力しようとは思わないはずではないですか?」
確かにそれは俺も気になっていたことだった。
俺たちは劉備と敵対関係にある。そんな俺たちに力を貸そうとする理由なんてあるのだろうか? すると、劉備は優しく微笑みながら答えた。
「別に大したことじゃ無いですよ。ただ、困ってる人がいるから助けたいと思っただけです。呂布さんだってそうだったんでしょう?」
そう言うと、劉備は俺の方を振り向いた。俺が困ってた?俺がか……?俺は何もしていないはずだけど……。
俺が考えていると、徐晃が俺の代わりに答えてくれた。
「なるほど、そういうことであったか。劉備殿、貴公は良い王になるであろう。ただ、それだけのことなのだから……」
徐晃は満足げに笑っていた。
俺は何となくだが、徐晃の言葉の意味を理解した気がした。
おそらく劉備は人の気持ちを理解することが出来る人物なんだ。だから、困っている人がいれば手を差し伸べようとするし、相手が敵であっても関係無く救いの手を伸ばす。それが劉備という人物なんだろう。
徐晃は言葉を続ける。
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徐晃は俺のことを劉備に託したみたいだ。
しかし、劉備はそれを拒否した。
「いえ、曹操の息子たちを助けたいという気持ちはもちろんあります。ですけど、それだけじゃないんです。私は呂布将軍のことも仲間だと思っています。ですので、私にとっては呂布将軍も同じくらい大切な存在だと思います」
劉備ははっきりと自分の考えを口に出した。劉備の言葉を聞いた呂布は驚いたような表情をしていたが、すぐに劉備に向かって頭を下げた。
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