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43話
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その判断は正しかったと言えるが、袁紹軍の兵たちは混乱に満ちている。今この時に総大将である袁紹のところに行くよりも、敵大将を先に倒した方が勝利に近づくという考えに行き着いたらしい。しかもそれは呂布に対してでは無く趙雲に対する恐れからくるものだったと言うのは明らかだった。
このまま呂布と戦うよりは、趙雲と戦った方が良いと考えを変える者もいる。それは呂布も分かっていたのですぐにその考えを否定しようとすると、呂布軍の兵たちがその隙を作るまいとして槍を突きつけてくる。
どうするべきか判断を決めかねている趙雲だったのだが、事態を打開するのはやはりその本人であるところの袁紹だった。
袁術討伐の為に集まったのだから、当然のように袁紹軍は今回の戦では呂布との決戦は避ける様に徹底されている。その辺りが抜けているのが李儒であれば問題だったのだが、今回ばかりは曹操の知恵袋である賈駆の言う事を素直に聞いていたため、呂布軍と正面から戦う事はしない。むしろ董卓軍が呂布軍に仕掛けたところでのんびりと呂布軍を迂回して側面を攻撃すると言う方針を打ち出しているのだが、実際にそうなるかはまだ誰にも分からなかった。
だがそうは言っても李粛の部隊はすでに半分近くが壊滅状態に陥っており、まともに戦闘を行う事は不可能になってしまっているのも事実だ。残る部隊は呂布軍との距離を取っているだけで積極的に戦おうとはしていないのだが、そのせいで逆に時間をかければかけるほど呂布軍の包囲網が完成してしまい、呂布達を倒す事も逃げる事も難しくなっていくだろう。
ただでさえ圧倒的な戦力差があるというにも関わらず士気にも差が出始めており、これはまずいと焦り始めたその時、袁紹の元に急報が届いたと報告があり幕舎の中に入ってきた人物がいた。そこにやって来たのは許攸であった。
本来、軍師と言えば文官であるが武将と遜色ない武勇を誇り、呂布や高順と肩を並べるほどの戦闘能力を持っている。特に戦略・戦術に優れているのは張遼と言う事になるが、この三人と比べると若干ながら劣っていると言って良い。
その中でも比較的目立たないが実戦経験が豊富で最も戦闘力が高いと言われているのが、この許攸になる。ただ彼は呂布と同じ程度の長身で体躯も呂布と比べたら大きく見えるが、実際には呂布の方が背が高く筋肉も付いている。それに比べて細身であり、一見では呂布と並ぶ程の巨漢には見えない。実際呂布より強いという噂が流れていてもおかしくない程なのだが、当の本人があまり噂される事を嫌って自ら喧伝しなかった為である。ちなみに身長の話だけならば呂布と並んで呂布の次に強いと目されている程であり、ただその話はあまり信じて貰えない事が多いのが難点ではあるが。
「何があった、文遠」
呂布の問いかけに答える形で報告した内容は袁紹軍にとっては最悪に近い情報だったと言えよう。その内容はまさに袁紹軍を崩壊寸前に追いやるものである事は疑いがないどころか明白なものだったからだ。まず、韓胤率いる部隊が壊滅したという報告。これ自体は驚く様な事ではないのだが、次の情報で全員が度肝を抜かれる事になった。それは、公孫賛、劉備、陶謙連合軍がすでに呂布軍と交戦状態にある、というものだった。そして何より大きいのが、袁紹軍が攻め込もうとしていた街が空城になり、呂布軍の武将と思われる面々がその近辺で待ち構えているというのもある。この情報を耳にした袁紹軍は恐慌におちいっていた。それもそのはずで、もしこのまま進めば包囲殲滅されかねないからだ。呂布に勝つつもりで大軍で来ていたが、いざ目の前まで行くとその数は減っており、さらに追い討ちをかけるかのように別働隊を潰されてしまったのだ。こうなると呂布軍は全軍をもってしても押し包んでしまえば、後は数で押し切れるはず。そのはずだった。なのに……その肝心の本隊が壊滅的な打撃を受けていると言う現実は想像以上であると言わざるを得ないものだと言える。呂布軍の奇襲に気付いて引き返して来た者も少なくないはずだろうが被害は甚大と言えるほどだったようで戻ってくる者もいなかったらしく、完全に打つ手無しの状況に陥らせてしまった形になっていた。ここまで追い詰められている状態では、もはや当初の目論見どころの話ではなくなっていると袁紹がようやく気がつき始めた時には、さすがの李儒ですら策を打ち出せる状態になく、どうする事が最善であるか判断が出来なくなってしまっていた。それでもなお袁術軍の兵を集結させてなんとか撤退を試みるか? 袁紹軍に残されている選択肢はそれしかない。そう考えていた袁紹だったのだが……。
袁術軍は既に敗走している状態だったらしい。呂布の攻撃により混乱をきたした隙を突いて董卓軍が攻撃を開始、李儒から指示された場所にいた袁術軍はほとんど戦える状態のないまま次々と倒されて行っている。しかもその李儒の指示というのがまた酷く曖昧なもので、
「とりあえず適当に襲え」
という内容であるらしい。
あまりにも酷い内容ではあったが、とにかくその混乱の中呂布軍の目を逸らす事が出来た袁紹軍はわずかに残った兵をまとめ上げて逃走に移った。それはもう見事な逃げっぷりである。袁紹にしろ張勲にしろ、普段から人を見下す傾向は強くてもそれは自信から来ているのだと理解していたが、今のこの状況はそういったものとはまったく異質で、まるで最初から命の危険がある事は分かっているとでも言いたげである様にも見えた。それほどまでに慌てふためいて逃げる袁術の姿は惨めそのものに見えるのだが、それには袁術軍の兵の数も関わっている。袁紹は呂布の兵力の過小評価はあったにせよ、袁術軍の兵数を過大評価していなかったのは事実である。それが袁紹にとっての最後の足掻きになったとも言える。
木陰で呂布はある男に襲われ男のあれを咥えさせられる。この場に及んで呂布を襲った相手も馬鹿なものだが、この場でこの行為を目撃されているのは袁術ぐらいだろう、と思ってしまった事も油断に繋がっていた。呂布は男が腰を振るのに合わせて、自らも舌を使ってそれを舐める。もちろん、こういう状況に陥った場合に備えてそういう技術を学んできていた事は否定しない。
「…ん…んう」
口一杯に広がる臭いに耐えながら呂布が必死になって相手の欲望に応えようとしている姿を見て、袁紹は我を忘れて股間を固くしていた。
「んっ!」
口に含んでいたものを強引に引き抜いた後、男は呂布の足を開かせ一気に貫く。呂布も慣れていないわけではないので初めてというわけでもないのだが、今回は少々勝手が違っていた。何が違うのかと言えば、今回呂布は女扱いされているからである。
本来であれば、董卓軍が壊滅してしまった今、呂布には袁紹に対して逆らう理由は無いに等しい。そのはずだが、呂布の胸の内にはどうしても消えてくれない思いがあった。それは曹操に対する復讐だ。
「…あ…あう」
「まさか女のあれまであるとはね…は…気持ちいい」
袁紹は自分の思うがままに乱暴に呂布を犯し続けた。呂布にとっては屈辱以外の何ものでもなかったが、今は袁紹に従っておいた方が安全であろうと判断したのだから従うしかなかったが、呂布にも武人としての誇りもあるので簡単に快楽に溺れるわけもない。もっとも、この程度の事では袁紹を殺せるような決定的なものにはならないかもしれない、と言う恐れもある。
「ひゃ…ぬい…て」
ただ犯されるだけで満足するような呂布ではなく、自分の上に覆い被さってる相手を逆に押し返して逃れようともがく。それを見て袁紹は面白がっている様子だったが、それも少しの間だけだった様だ。相手が自分から離れないと見るや今度は腕を掴み力任せに引き寄せると、首に噛み付く。
痛みを感じると共に全身に力が入らずぐったりとして、目が虚ろになっていく呂布をひたすら犯す。そしてとうとう果てるまでその行為を続けたのだった。
この現場をたまたま通りかかったのは許攸だった。
「な、なにをしている!?」
そう叫ぶものの、すぐにその行動の意味するところに気付いて絶句する。許攸の目に入った光景、呂布を組み敷いている人物の正体は言うまでもなく袁紹本人であったのだ。しかも袁紹は下半身だけ裸の状態で呂布の服を脱がしかけている最中でもあった。それだけでも十分に信じられないものなのだが、問題はその先にあった。すでに何度も繰り返された後であるらしく、もはや呂布には抵抗する力が残っていない状態なのを察して叫んだのだ。
そして2人を引き剥がすと呂布を手当する。そのあまりの手際の良さから考えてみると許攸と呂布の間に面識があるのだと見て取れた。ただその顔を見る限りはお互い知り合いではない様なのだが、どういった接点なのかは不明でもある。
そんな疑問を浮かべている間に、袁術軍と張楊軍はそれぞれ兵を纏めて撤退を開始し始めていた。
「袁紹さん! 貴方は何をしておいでですか?」
「……」
「呂布将軍を殺すおつもりか? このまま行けば我々は全滅ですぞ?」
呂布を犯した時の高笑いも何処へ行ったのか、すっかり意気消沈した袁紹は泣き出しそうな表情になっていた。しかし、それで済むはずがないのも分かっていた。
「全軍撤退する準備をしなさい。これは総大将命令である!」
袁術軍は呂布と劉備の攻撃を受けて壊滅的な被害を出し、さらには董卓軍からの奇襲を受ける始末。その上この袁紹の行動が致命的だったと言えるだろう。
「…はあ…はあ」
呂布はやっと解放されてそのまま気絶する。そこへ許昌城から伝令の兵がやって来る。その兵士は、
「董卓軍が漢王朝に対し反旗を掲げました」
そう報告をした。ついに始まったのか、と思うより前に呂布は呆気に取られてしまった。董卓の暴走が、ここまで早く結果を出す事になるなどと予想出来ようはずもなかったからだ。
これで天下が揺れ動き出す事は避けられない。その先にどんな結末を迎えていくかも想像できない程に状況は混沌としている。呂布自身、今から起こるであろう戦いにおいて勝ち目どころか生き抜く事が出来るかどうかすら分からなかった。黄巾党討伐の後、袁紹軍の兵はほとんど居なくなっていたと言って良い。元々徐州の兵であり、董卓との合流によりその立場は明確になった。その後呂布の率いる部隊が袁紹の命に従って動く事に異議を唱えるものも多かった事もあり、呂布もやむなくそれを良しとした。その為現在の袁紹軍にまともに戦う事が出来そうな兵は袁術軍と許攸の配下しかいなかったのだ。いくら何でも戦力不足も甚だしいのだが、この混乱の中、漢全土が董卓軍を敵と見なしてくれるとは思えなかった事も事実だ。実際それは正しい判断だったのではあるが、それはあくまで結果論でしか無いだろう。今のこの状況を考えると、袁紹に味方する者はもはや一人もいないと思われるほど、彼の陣営からは離脱している様だった。
それでも、袁術も張勲も袁家の一員であるというだけで袁紹の側に立つ者が多かった。彼らは袁家の人間としての袁紹の立場を守る為と言う大義名分を掲げているので簡単に離れようとはしない。
一方曹操も呂布と戦う事で甚大な被害を受けていたが、陳宮の言葉に従って袁紹の元へ駆けつけた時には袁術・鮑信連合はすでに逃げ去った後だった。この時点で袁紹に残された勢力は少ない。それは本人も承知の上であったが彼は呂布への怒りと嫉妬に任せてこの決断を下していた。もちろんそれが致命的なものであると言う自覚はあるのだが、だからといって他に選択しようがなかったとも言えるかもしれない。
こうして袁術軍は壊滅し(袁術自体は死んではいないが)、袁紹は自業自得ながら孤立無援となる事になってしまった。もっとも、そうやって呂布を睨みつけていればいずれ董卓が来ると思っているのかもしれないが、その望みは完全に絶たれる事になった。何故ならその時にはまだ漢王朝の使者が来て正式に董卓に降伏を促す予定だったからである。その予定が完全に狂ってしまったので呂布や劉備の動きに対して反応出来なかったのだとしても不思議はない。
呂布達が許昌に戻った時、漢の使者はすでに洛陽へ向かっていると言う報告を受けた。これではもう完全に打つ手が無い様に思える。ただ、使者を送ってきたくらいなのでまだ諦めてはいないのだろうと呂布達は考えていた。ただ呂布達に出来る事は待つ事だけである以上は何か策を立てようにも立てようもないのだ。
ただ、その心配を余所に許昌の民は平穏であった。
許昌は大都市であるものの、それほど広い土地があるわけではない。呂布と袁紹が戦っていた間、他の場所では戦闘が起きていなかった事がその理由として挙げられる。
それに、許昌が無傷であるとは言ってもやはり戦場となった曹操の街や荊州の劉表が治める南の地など、大きな被害を出した所も少なくなくそこに難民が集まりつつあった。そういった人達を受け入れるのに許昌は適しているという理由もある。
その事を曹操は嘆いていたらしい。自分の街が戦場となり多くの死者を出していながら、今度は受け入れるべき人が集まらなくなる状況というのは曹操にとっては痛恨の事であった。
とはいえ今は少しでも戦力が必要だし兵力分散を避けたいので、許昌が受け容れる人数には制限がかけられたそうだが、これは呂布にとって都合の良い話ではあった。おそらくこのままだとまたどこかから兵を借りなければならず負担が増えるからだ。呂布軍としては呂布が望む限り劉備と敵対し続ける事は間違いないのだが、かと言って徐州に戻らず許昌に残ると、万が一董卓と袁紹の間で和議が成立しても呂布は罪人になってしまうだろう。劉備にしろ曹操にしろ、その気が無くとも呂布は罪人になる。そうするとせっかく手に入れた天下無双の名声にも傷がつく。
その辺りは劉備が呂布を庇ってくれそうな雰囲気もあったのでその点はあまり心配していないのだが、そのせいで袁術との戦いのきっかけを作ってしまったのでこれ以上迷惑をかける事は出来ないだろうと思っていたのだ。
このまま呂布と戦うよりは、趙雲と戦った方が良いと考えを変える者もいる。それは呂布も分かっていたのですぐにその考えを否定しようとすると、呂布軍の兵たちがその隙を作るまいとして槍を突きつけてくる。
どうするべきか判断を決めかねている趙雲だったのだが、事態を打開するのはやはりその本人であるところの袁紹だった。
袁術討伐の為に集まったのだから、当然のように袁紹軍は今回の戦では呂布との決戦は避ける様に徹底されている。その辺りが抜けているのが李儒であれば問題だったのだが、今回ばかりは曹操の知恵袋である賈駆の言う事を素直に聞いていたため、呂布軍と正面から戦う事はしない。むしろ董卓軍が呂布軍に仕掛けたところでのんびりと呂布軍を迂回して側面を攻撃すると言う方針を打ち出しているのだが、実際にそうなるかはまだ誰にも分からなかった。
だがそうは言っても李粛の部隊はすでに半分近くが壊滅状態に陥っており、まともに戦闘を行う事は不可能になってしまっているのも事実だ。残る部隊は呂布軍との距離を取っているだけで積極的に戦おうとはしていないのだが、そのせいで逆に時間をかければかけるほど呂布軍の包囲網が完成してしまい、呂布達を倒す事も逃げる事も難しくなっていくだろう。
ただでさえ圧倒的な戦力差があるというにも関わらず士気にも差が出始めており、これはまずいと焦り始めたその時、袁紹の元に急報が届いたと報告があり幕舎の中に入ってきた人物がいた。そこにやって来たのは許攸であった。
本来、軍師と言えば文官であるが武将と遜色ない武勇を誇り、呂布や高順と肩を並べるほどの戦闘能力を持っている。特に戦略・戦術に優れているのは張遼と言う事になるが、この三人と比べると若干ながら劣っていると言って良い。
その中でも比較的目立たないが実戦経験が豊富で最も戦闘力が高いと言われているのが、この許攸になる。ただ彼は呂布と同じ程度の長身で体躯も呂布と比べたら大きく見えるが、実際には呂布の方が背が高く筋肉も付いている。それに比べて細身であり、一見では呂布と並ぶ程の巨漢には見えない。実際呂布より強いという噂が流れていてもおかしくない程なのだが、当の本人があまり噂される事を嫌って自ら喧伝しなかった為である。ちなみに身長の話だけならば呂布と並んで呂布の次に強いと目されている程であり、ただその話はあまり信じて貰えない事が多いのが難点ではあるが。
「何があった、文遠」
呂布の問いかけに答える形で報告した内容は袁紹軍にとっては最悪に近い情報だったと言えよう。その内容はまさに袁紹軍を崩壊寸前に追いやるものである事は疑いがないどころか明白なものだったからだ。まず、韓胤率いる部隊が壊滅したという報告。これ自体は驚く様な事ではないのだが、次の情報で全員が度肝を抜かれる事になった。それは、公孫賛、劉備、陶謙連合軍がすでに呂布軍と交戦状態にある、というものだった。そして何より大きいのが、袁紹軍が攻め込もうとしていた街が空城になり、呂布軍の武将と思われる面々がその近辺で待ち構えているというのもある。この情報を耳にした袁紹軍は恐慌におちいっていた。それもそのはずで、もしこのまま進めば包囲殲滅されかねないからだ。呂布に勝つつもりで大軍で来ていたが、いざ目の前まで行くとその数は減っており、さらに追い討ちをかけるかのように別働隊を潰されてしまったのだ。こうなると呂布軍は全軍をもってしても押し包んでしまえば、後は数で押し切れるはず。そのはずだった。なのに……その肝心の本隊が壊滅的な打撃を受けていると言う現実は想像以上であると言わざるを得ないものだと言える。呂布軍の奇襲に気付いて引き返して来た者も少なくないはずだろうが被害は甚大と言えるほどだったようで戻ってくる者もいなかったらしく、完全に打つ手無しの状況に陥らせてしまった形になっていた。ここまで追い詰められている状態では、もはや当初の目論見どころの話ではなくなっていると袁紹がようやく気がつき始めた時には、さすがの李儒ですら策を打ち出せる状態になく、どうする事が最善であるか判断が出来なくなってしまっていた。それでもなお袁術軍の兵を集結させてなんとか撤退を試みるか? 袁紹軍に残されている選択肢はそれしかない。そう考えていた袁紹だったのだが……。
袁術軍は既に敗走している状態だったらしい。呂布の攻撃により混乱をきたした隙を突いて董卓軍が攻撃を開始、李儒から指示された場所にいた袁術軍はほとんど戦える状態のないまま次々と倒されて行っている。しかもその李儒の指示というのがまた酷く曖昧なもので、
「とりあえず適当に襲え」
という内容であるらしい。
あまりにも酷い内容ではあったが、とにかくその混乱の中呂布軍の目を逸らす事が出来た袁紹軍はわずかに残った兵をまとめ上げて逃走に移った。それはもう見事な逃げっぷりである。袁紹にしろ張勲にしろ、普段から人を見下す傾向は強くてもそれは自信から来ているのだと理解していたが、今のこの状況はそういったものとはまったく異質で、まるで最初から命の危険がある事は分かっているとでも言いたげである様にも見えた。それほどまでに慌てふためいて逃げる袁術の姿は惨めそのものに見えるのだが、それには袁術軍の兵の数も関わっている。袁紹は呂布の兵力の過小評価はあったにせよ、袁術軍の兵数を過大評価していなかったのは事実である。それが袁紹にとっての最後の足掻きになったとも言える。
木陰で呂布はある男に襲われ男のあれを咥えさせられる。この場に及んで呂布を襲った相手も馬鹿なものだが、この場でこの行為を目撃されているのは袁術ぐらいだろう、と思ってしまった事も油断に繋がっていた。呂布は男が腰を振るのに合わせて、自らも舌を使ってそれを舐める。もちろん、こういう状況に陥った場合に備えてそういう技術を学んできていた事は否定しない。
「…ん…んう」
口一杯に広がる臭いに耐えながら呂布が必死になって相手の欲望に応えようとしている姿を見て、袁紹は我を忘れて股間を固くしていた。
「んっ!」
口に含んでいたものを強引に引き抜いた後、男は呂布の足を開かせ一気に貫く。呂布も慣れていないわけではないので初めてというわけでもないのだが、今回は少々勝手が違っていた。何が違うのかと言えば、今回呂布は女扱いされているからである。
本来であれば、董卓軍が壊滅してしまった今、呂布には袁紹に対して逆らう理由は無いに等しい。そのはずだが、呂布の胸の内にはどうしても消えてくれない思いがあった。それは曹操に対する復讐だ。
「…あ…あう」
「まさか女のあれまであるとはね…は…気持ちいい」
袁紹は自分の思うがままに乱暴に呂布を犯し続けた。呂布にとっては屈辱以外の何ものでもなかったが、今は袁紹に従っておいた方が安全であろうと判断したのだから従うしかなかったが、呂布にも武人としての誇りもあるので簡単に快楽に溺れるわけもない。もっとも、この程度の事では袁紹を殺せるような決定的なものにはならないかもしれない、と言う恐れもある。
「ひゃ…ぬい…て」
ただ犯されるだけで満足するような呂布ではなく、自分の上に覆い被さってる相手を逆に押し返して逃れようともがく。それを見て袁紹は面白がっている様子だったが、それも少しの間だけだった様だ。相手が自分から離れないと見るや今度は腕を掴み力任せに引き寄せると、首に噛み付く。
痛みを感じると共に全身に力が入らずぐったりとして、目が虚ろになっていく呂布をひたすら犯す。そしてとうとう果てるまでその行為を続けたのだった。
この現場をたまたま通りかかったのは許攸だった。
「な、なにをしている!?」
そう叫ぶものの、すぐにその行動の意味するところに気付いて絶句する。許攸の目に入った光景、呂布を組み敷いている人物の正体は言うまでもなく袁紹本人であったのだ。しかも袁紹は下半身だけ裸の状態で呂布の服を脱がしかけている最中でもあった。それだけでも十分に信じられないものなのだが、問題はその先にあった。すでに何度も繰り返された後であるらしく、もはや呂布には抵抗する力が残っていない状態なのを察して叫んだのだ。
そして2人を引き剥がすと呂布を手当する。そのあまりの手際の良さから考えてみると許攸と呂布の間に面識があるのだと見て取れた。ただその顔を見る限りはお互い知り合いではない様なのだが、どういった接点なのかは不明でもある。
そんな疑問を浮かべている間に、袁術軍と張楊軍はそれぞれ兵を纏めて撤退を開始し始めていた。
「袁紹さん! 貴方は何をしておいでですか?」
「……」
「呂布将軍を殺すおつもりか? このまま行けば我々は全滅ですぞ?」
呂布を犯した時の高笑いも何処へ行ったのか、すっかり意気消沈した袁紹は泣き出しそうな表情になっていた。しかし、それで済むはずがないのも分かっていた。
「全軍撤退する準備をしなさい。これは総大将命令である!」
袁術軍は呂布と劉備の攻撃を受けて壊滅的な被害を出し、さらには董卓軍からの奇襲を受ける始末。その上この袁紹の行動が致命的だったと言えるだろう。
「…はあ…はあ」
呂布はやっと解放されてそのまま気絶する。そこへ許昌城から伝令の兵がやって来る。その兵士は、
「董卓軍が漢王朝に対し反旗を掲げました」
そう報告をした。ついに始まったのか、と思うより前に呂布は呆気に取られてしまった。董卓の暴走が、ここまで早く結果を出す事になるなどと予想出来ようはずもなかったからだ。
これで天下が揺れ動き出す事は避けられない。その先にどんな結末を迎えていくかも想像できない程に状況は混沌としている。呂布自身、今から起こるであろう戦いにおいて勝ち目どころか生き抜く事が出来るかどうかすら分からなかった。黄巾党討伐の後、袁紹軍の兵はほとんど居なくなっていたと言って良い。元々徐州の兵であり、董卓との合流によりその立場は明確になった。その後呂布の率いる部隊が袁紹の命に従って動く事に異議を唱えるものも多かった事もあり、呂布もやむなくそれを良しとした。その為現在の袁紹軍にまともに戦う事が出来そうな兵は袁術軍と許攸の配下しかいなかったのだ。いくら何でも戦力不足も甚だしいのだが、この混乱の中、漢全土が董卓軍を敵と見なしてくれるとは思えなかった事も事実だ。実際それは正しい判断だったのではあるが、それはあくまで結果論でしか無いだろう。今のこの状況を考えると、袁紹に味方する者はもはや一人もいないと思われるほど、彼の陣営からは離脱している様だった。
それでも、袁術も張勲も袁家の一員であるというだけで袁紹の側に立つ者が多かった。彼らは袁家の人間としての袁紹の立場を守る為と言う大義名分を掲げているので簡単に離れようとはしない。
一方曹操も呂布と戦う事で甚大な被害を受けていたが、陳宮の言葉に従って袁紹の元へ駆けつけた時には袁術・鮑信連合はすでに逃げ去った後だった。この時点で袁紹に残された勢力は少ない。それは本人も承知の上であったが彼は呂布への怒りと嫉妬に任せてこの決断を下していた。もちろんそれが致命的なものであると言う自覚はあるのだが、だからといって他に選択しようがなかったとも言えるかもしれない。
こうして袁術軍は壊滅し(袁術自体は死んではいないが)、袁紹は自業自得ながら孤立無援となる事になってしまった。もっとも、そうやって呂布を睨みつけていればいずれ董卓が来ると思っているのかもしれないが、その望みは完全に絶たれる事になった。何故ならその時にはまだ漢王朝の使者が来て正式に董卓に降伏を促す予定だったからである。その予定が完全に狂ってしまったので呂布や劉備の動きに対して反応出来なかったのだとしても不思議はない。
呂布達が許昌に戻った時、漢の使者はすでに洛陽へ向かっていると言う報告を受けた。これではもう完全に打つ手が無い様に思える。ただ、使者を送ってきたくらいなのでまだ諦めてはいないのだろうと呂布達は考えていた。ただ呂布達に出来る事は待つ事だけである以上は何か策を立てようにも立てようもないのだ。
ただ、その心配を余所に許昌の民は平穏であった。
許昌は大都市であるものの、それほど広い土地があるわけではない。呂布と袁紹が戦っていた間、他の場所では戦闘が起きていなかった事がその理由として挙げられる。
それに、許昌が無傷であるとは言ってもやはり戦場となった曹操の街や荊州の劉表が治める南の地など、大きな被害を出した所も少なくなくそこに難民が集まりつつあった。そういった人達を受け入れるのに許昌は適しているという理由もある。
その事を曹操は嘆いていたらしい。自分の街が戦場となり多くの死者を出していながら、今度は受け入れるべき人が集まらなくなる状況というのは曹操にとっては痛恨の事であった。
とはいえ今は少しでも戦力が必要だし兵力分散を避けたいので、許昌が受け容れる人数には制限がかけられたそうだが、これは呂布にとって都合の良い話ではあった。おそらくこのままだとまたどこかから兵を借りなければならず負担が増えるからだ。呂布軍としては呂布が望む限り劉備と敵対し続ける事は間違いないのだが、かと言って徐州に戻らず許昌に残ると、万が一董卓と袁紹の間で和議が成立しても呂布は罪人になってしまうだろう。劉備にしろ曹操にしろ、その気が無くとも呂布は罪人になる。そうするとせっかく手に入れた天下無双の名声にも傷がつく。
その辺りは劉備が呂布を庇ってくれそうな雰囲気もあったのでその点はあまり心配していないのだが、そのせいで袁術との戦いのきっかけを作ってしまったのでこれ以上迷惑をかける事は出来ないだろうと思っていたのだ。
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