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36話
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「まあ、見ててください」
「兄貴、俺達はどうする?」
張飛が聞いてくる。
「そうだな。まずは曹操軍の出方を見る事にしよう」
呂布は答えた。
数日後、漢中に張魯からの降伏の使者が訪れた。
「これはどういう事かな?」
「我が主、張魯様からの命令でございます」
使者は頭を下げる。
「張魯殿はどうした?姿が見えないようだが」
「張魯様はお亡くなりになりました」
「そうか。それで?」
「張魯様は呂布将軍の武名を聞き、是非ともお会いしたいとおっしゃっております。つきましては、呂布将軍に漢中までお越しいただきたいとの事です」
「そうか。悪いが断る」
「え?今なんと?」
「断ると言ったのだ」
呂布は即答した。
「張魯殿は亡くなったのだろう?それなのに、何の理由もなく攻め込んで来いと言われて誰が行くものか」
「し、しかし、このままでは漢中全土を敵に回す事になってしまいますぞ?そうなれば、漢中にいる張魯様に味方する者もいなくなってしまいます!」
「それなら心配はいらないな。この漢中で張魯に味方する者は誰もいないからな」
「そんな馬鹿な……」
「それに、こちらには天下無双の豪傑、呂布奉先もいる。そちらこそ、命が惜しければさっさと立ち去るが良い」
呂布の言葉を聞いて、使者は慌てて逃げ出す。
「呂布将軍、漢中を攻めるのですか?」
「いえ、ただ追い返しただけです。漢中攻略は、張魯の了承を得てから行いましょう」
「分かりました。ところで、漢中はどのくらいの広さなのですか?」
「漢中は万里の長城の内側なので、東西南北合わせて五千里以上はあります」
「結構広いんですね」
「漢中を手に入れる事が出来たら、徐州よりも大きな街になるでしょう」
「そうですか」
呂布は漢中を手中に収める為の準備を始める。
その頃、漢中に向けて進軍している曹操軍の元に呂布からの手紙が届いた。
内容は曹操軍を漢中へ迎え入れるという物であり、劉備軍と合流して漢中に攻め込むように書かれていた。
「呂布め!ふざけやがって!」
張遼が手紙を破り捨てようとするのを、曹操が止める。
「待ちなさい、張遼」
「曹操殿、呂布の罠かもしれませんよ?」
「張遼、君は呂布がどんな男なのか知っているはずだ。呂布が私達を陥れようとしているとは思えない」
「それはそうですが……もし、私が曹操殿の立場であれば、同じ事をしますから」
「張遼、君らしくもない。冷静になれ」
張遼はまだ納得出来ないようだったが、曹操に従って兵を止める。
「曹操殿、いかがいたしましょう?」
劉備が尋ねる。
「ここは相手の誘いに乗りましょう」
「良いのですか?」
「はい。おそらく呂布は私達が攻めてくる事を望んでいるはずです」
「呂布将軍が?」
「はい。漢中を手に入れた時、最大の障害となるのは私達だと思っているはずです。だから、漢中に攻め込む事で、私達の戦意を削ごうとしているのではないでしょうか」
「成程」
「劉備殿、漢中への案内人をお願いできますか?」
「もちろんです」
劉備は笑顔で答える。
曹操軍は漢中に向かう事になった。
「呂布将軍、よろしいのですか?」
張遼が不安げに尋ねてくる。
「曹操軍が漢中に来る事は予想していた。曹操軍が来たからと言って慌てる必要はない」
「そうですか」
張遼は少し安心した様子だった。
曹操軍は漢中へと向かっていた。
道中、曹操軍は袁紹軍に遭遇する。
「曹操軍だと!?」
曹操軍を見て、袁紹軍は驚いている。
「袁紹殿、お久しぶりですね」
曹操は笑顔で挨拶する。
「貴様がどうしてここにいる?」
「ちょっと用がありまして」
「何のつもりか知らんが、ここから先は通さんぞ!」
「それは困りましたね」
曹操は苦笑して言う。
「全軍、戦闘用意」
曹操は号令をかけると、袁紹軍の前に立ち塞がった。
「呂布将軍、あれで良かったのですか?敵は袁紹ですよ?」
張遼が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だよ。曹操殿が負ける事はない」
呂布が言うと、張遼は不思議そうな顔をする。
「何故言い切れるのです?」
「まあ、見てれば分かるよ」
呂布は笑う。
曹操と袁紹の戦いは一方的であった。曹操軍の士気は高く、袁紹軍の士気は低い。
そして、戦いが始まって十分も経たないうちに、袁紹軍の大将である袁術が討ち取られた。
「流石は曹操殿。圧倒的ではないか」
呂布は感心する。
「呂布将軍、本当にあの人は強いんですか?」
張遼が呂布に聞いてくる。
「まあ、見てれば分かるよ」
呂布は再び言った。
「おのれ、曹操め!」
袁紹は撤退を開始するが、その前に曹操が行く手を遮る。
「さて、あなたにはここで死んでもらいましょうか」
「くそぉーっ!」
袁紹は絶叫すると、自分の首を切り落として果てた。
曹操は袁紹の首を持って、呂布の元へやって来た。
「呂布将軍、約束通り漢中は頂きます」
「ありがとうございます。漢中が曹操殿の手に入った事によって、我々も動きやすくなります」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
「しかし、曹操殿。漢中の太守は劉焉という者らしいですが、漢王朝とは距離を置いているとか……」
「その事なら心配ありませんよ。漢中を手に入れる事が出来たら、すぐに漢王朝の力を借りずに自分達の力で治めてみせます」
「曹操殿なら出来るでしょう」
呂布は笑って答えたが、内心では漢中は簡単に手に入るだろうと思っていた。漢中は広い。
だが、呂布奉先とその部下達ならば、漢中を手に入れても問題なく統治する事が可能であろう。
「ところで、呂布将軍。これからどうするつもりですか?」
「そうですね。とりあえず漢中を手に入れる事が出来ましたので、徐州を攻めようと思います」
「呂布将軍、漢中を手に入れただけで満足しないのですか?」
「漢中は広い。漢中を手に入れたとしても、まだまだ手に入れるべき土地はたくさんあります。まずは徐州から攻め込んで行きましょう」
呂布はそう言うと、漢中から徐州に向けて進軍を開始した。徐州城内の呂布の元に、曹操からの使者が訪れた。
使者は曹操からの親書を渡し、呂布はそれを読むと表情を曇らせる。
「曹操殿は何と?」
劉備が尋ねる。
「徐州を曹操に譲るように書いてあります」
「譲る?」
「はい。徐州は漢の都であり、ここを治める太守がいるのだから、当然の事だろうと」
呂布はため息混じりに言う。
「曹操殿は本気で言っているのかしら?」
関羽が首を傾げる。
「本気かどうかは分かりませんが、少なくとも曹操殿は本気です」
「じゃあ、呂布軍は曹操軍に降ってもいいって言うことかしら?」
張飛が尋ねる。
「そんな事は書かれていないが、おそらくそうなるんじゃないか?」
「それって、曹操殿の配下になるって事よね?嫌だなぁ」
「俺だって、曹操殿の下で働くなんて御免被りたいよ。だけど、漢中を手に入れた以上、漢中を守る為には曹操殿の軍門に降るしかない」
「漢中か。確かに漢中は大きいし、欲しいわね」
劉備は漢中を思い浮かべながら言う。
「それで、呂布将軍は曹操軍と戦うの?」
「戦うつもりだ。漢中を手に入れた事で、曹操軍は油断しているはずだからな。今こそ好機だ」
「そうね。私達が漢中を守ってあげないと」
劉備は漢中を守りたいと言うより、漢中にいる家族や知り合いに会いたいだけなのだが、それを口にするほど劉備も愚かではない。
「呂布将軍、漢中は守りますけど、曹操軍と戦わない方法もあるんじゃないでしょうか?」
劉備が呂布に提案する。
「曹操軍は大軍です。呂布将軍の兵力だけでは勝てないと思うんですよ」
「確かに、曹操軍には夏侯惇をはじめ猛将が多い。曹操軍は天下一の精鋭と言っていい」
「私達は徐州城で待機して、曹操軍が漢中に攻めて来た時に迎え撃つのはどうかと思いまして」
「それは良い考えです、劉備殿」
張遼が賛同する。
「でも、もし曹操軍が漢中を攻めてこなかったら?もしくは攻めてきた時に呂布将軍が不在だったりしたら?」
「その時は私が漢中へ行って呂布将軍の代わりに戦います。曹操軍を撃退して見せます」
張遼が力強く答える。
「張遼、それはダメだ」
「何故ですか?私は武人です。曹操軍の相手など、造作もない事ですよ」
「張遼、お前は曹操軍の恐ろしさを知らない。曹操軍の本当の強さは、兵の強さではなく指揮官の強さにある。曹操軍の名将達を相手にするのは、容易な事じゃない。張遼では無理だよ」
「それでも!」
張遼は納得出来ないようだったが、呂布は首を縦に振らなかった。
「それに、曹操軍の狙いは漢中だけとは限らない。俺達の目を漢中に向けさせておいて、その隙に南進してくるかもしれない」
「曹操軍の目的が漢中だと決まった訳ではありません。むしろ漢中を狙っていない可能性の方が高いのでは?」
「いや、曹操軍は必ず漢中を狙う」
「何故ですか?」
「漢中は荊州への入り口でもある。曹操軍は荊州を手に入れる為には漢中が必要になってくる」
「成程」
「まあ、俺の考え過ぎかも知れないが、念の為、漢中は劉備殿に任せて俺は曹操軍と対峙する。そして、戦いが始まれば劉備殿はすぐに漢中へ向かう。これで問題無いだろう」
「呂布将軍は?」
「曹操軍と戦いつつ、漢中へと向かいます」
「そんな!危険すぎますよ」
「大丈夫です。この程度の事は今までにも何度かありましたから」
呂布は笑顔で言う。
「それに、漢中は劉備殿にお任せしますよ」
呂布はそう言うと、すぐに準備を始めた。
「(そろそろ『機神』も使うべきか?いやいや止めておこう)」
呂布は心の中で呟く。
漢中を手に入れてから、まだ一度も使っていないのだが、使ったが最後、確実に曹操を倒せる自信があるだけに使ってしまおうかとも思う。
だが、ここで力を見せ付けてしまえば、曹操の警戒心を煽ってしまう事になる。曹操の実力は本物である。
その曹操を一撃で倒す事が出来るとなれば、曹操軍だけでなく、他の諸侯達からも一目置かれる事になり、今後動きにくくなる。
曹操を倒す事が目的では無いのだから、ここは自重すべきところであろう。
「呂布将軍、漢中に向かうなら私をお連れ下さい」
陳宮が呂布に声をかける。
「んー、別に構わないけど、どうしたんだ?」
「漢中を治める太守として、漢中の様子を見ておきたいのです」
「太守って言っても、劉焉は漢王朝から距離を置いているって話だけどな」
「それでも太守は太守。漢中の様子を詳しく知っておく必要があります」
「そうだな。分かった。じゃあ、一緒に行こう」
呂布はそう言うと、準備を終えた部下達に指示を出す。
「よし、出陣だ」
呂布軍は漢中に向けて出発した。
「呂布軍は漢中に向けて進軍を開始した模様です」
曹操の元に、袁術からの使者がやって来る。
「そうですか。漢中まで行くとは、予想外でしたが」
「漢中を手に入れたら、次は徐州に攻め込む予定でしょう」
「それを阻止する為に、漢中にいる劉備が動くかもしれませんね」
「劉備は漢中を守る為に、呂布に降ったのではなかったのか?」
袁紹が尋ねる。
「漢中は広い。劉備の兵力だけで漢中を守るのは難しいはず。おそらく呂布の手を借りて漢中を守るつもりでしょう」
曹操はそう答えた。
「劉備の兵力がどれほどの物かは分かりませんが、漢中を手に入れた呂布の戦力は侮れません。今のうちに叩いておいた方が良いのではないでしょうか?」
袁術はそう進言するが、曹操は首を振る。
「呂布の武力は圧倒的。劉備が呂布に降るのも当然の事。今呂布と戦って勝てる見込みは薄い」
「では、劉備は放っておいて、呂布を討ち取るべきです」
「それも難しい。呂布は漢中王を名乗るほどの大義名分を持つ。もし呂布を討つ為に大軍を率いて徐州を攻めれば、徐州の民は我らに反抗する恐れがある」
「しかし、漢中が落ちたとあっては、徐州の民も黙っているでしょうか?」
「それはあるまい。漢中が落ちたのは我々が漢中を攻めなかったからでは無く、呂布のせいだと考えるはずだ。徐州を攻めれば、必ず呂布は漢中より戻って来る。そうなれば、徐州の民も我々の敵となるだろう」
曹操の言葉に、一同は押し黙る。
「では、呂布は放置しておくと言う事でよろしいですね?」
「待て。徐州を攻めると決まった訳ではない。呂布が漢中へ向かった以上、徐州は空になったと言っていい。ここを攻めない手はあるまい」
曹操はそう言うと、使者に書簡を渡す。
「これは?」
「劉備に宛てた書状です。劉備には漢中にいる呂布と共に、徐州城へ来てもらいましょう」
曹操はそう言うと、劉備を呼び出す為の準備を始める。
「劉備に徐州攻めをさせるつもりか?」
「はい。あの男であれば、きっと徐州攻めに賛同してくれる事でしょう。何しろ、彼の夢はこの世全ての善人と仲良くする事らしいですから」
曹操はそう言うと、笑う。
「(まったく、この男は)」
袁紹は曹操の腹黒さに呆れる。
この男が、天下を統一し、中華を平定出来る器を持っている事は認めるが、そのやり方はあまりにも酷すぎる。
袁紹がそんな事を考えながら曹操を見ていると、曹操は視線に気付き袁紹を見る。
「何か?」
「いや、何でも無い」
袁紹は曹操から目を逸らす。
「袁紹殿、ご心配なく。貴方の夢は私が叶えて差し上げますよ」
「余計なお世話だ!」
袁紹は怒鳴り声を上げた。曹操軍による徐州攻撃が始まる。
呂布軍によって漢中を守られているとはいえ、元々荊州への入り口であり、また荊州でも重要な位置にある漢中を奪われる事は、荊州にとって大きな痛手になる。
その為、劉備は呂布に援軍を要請してきた。
「どうします?ってどうしたの?」
顔色が悪くなってる呂布に劉備が慌てる
「い、いや…なんか……気持ち悪くて」
呂布は胸を押さえて、苦しそうにしている。
「吐き気が止まらないんだよ……」
「え?ちょっと、大丈夫なの?張遼、すぐに医者を呼んできて」
「はい」
劉備はすぐに手配してくれたのだが、呂布は体調が悪いまま、だった。そして衝撃的な事実を突きつけられる。
「妊娠しています」
呂布の懐妊を告げたのは、女医であった。
「に、にんしん?」
呂布は自分の耳を疑う。
「はい。間違いありません」
「そ、それって…あ」
呂布は気付く。
「(あの時か!いやいやそれとも)」
夏侯惇との時か
それとも張遼との時か
2つ心当たりがあった。
俺は、自分が妊娠すると思っていなかったので焦る。
「おめでとうございます。男の子ですか女の子ですか?」
劉備が笑顔で言う。
「い、いやまだ分からないんですけど」
「どちらでも良いではありませんか。元気な子が生まれると良いですね」
劉備はそう言うと、呂布のお腹に手を当てる。
「まあ、夏侯惇さんとの子供ですかね?それともたまに会ってしていた張遼さんですかね?」
「…劉備…お前知って」
「呂布将軍が誰と何をしようと、私は呂布将軍の味方ですよ」
劉備はニッコリ笑って言う。
「い、いや、だからまだ確定した訳じゃ」
「いえ、呂布将軍。妊娠は確実ですからいまはゆっくり出産に向けて休んでください」
劉備はそう言うと、部屋から出て行った。
「呂布将軍、おめでとうございます」
劉備が出て行くと、入れ替わりに陳宮が入ってくる。
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。確かに妊娠しているかも知れないとは思っていたが、…あ陣宮」
「私もお祝いを言いに来たのです。おめでたい話ですからね」
「いや、だから、俺はまだ」
「今は不安かもしれませんが、大丈夫です。呂布将軍には我が主である曹操が付いています。万が一の事があっても、曹操が助けてくれますから安心して下さい」
「待てって言ってんだろ」
呂布は慌てて言うが、呂布の懐妊は城内に知れ渡っていた。
呂布の身体に異常があれば、当然その報告は曹操の耳にも入る。
「呂布将軍、お主妊娠していたのだな」曹操は呂布が呼び出された部屋に入ってきた呂布に開口一番に言った。
「ああ、うん。そうなんだけどね」
呂布は頭を掻きながら言う。
「しかし、いつの間に呂布将軍はご結婚されていたのですか?」
「いやしてない。」
「では、どなたかとお付き合いされているのですか?」
「いない…けど…身体は重ねてしまって」「そうですか。しかし、いずれはそうなると思っていたので、驚きはしませんでしたが」
曹操は淡々と答える。
「それで、どうされるつもりですか?」
「どうって?」
「産むのか生まないのかと言う事です」
「いや、まだ悩んでる。男(正確には両性具有)の俺が出産とかって思ってる。本当にどうしたら」
そう言っていると夏侯惇と張遼が慌てて入ってくる。
「呂布将軍、大丈夫か!」
「え?何?どうしたの?」
「どうもこうもない。お前の懐妊を聞いたら、あいつらが大騒ぎになったんだよ」
「え?何?どういう事?」
「どうもこうもあるか。俺の子供なんだろ?」
夏侯惇が言う。
「え?違うよ。多分だけど、張遼だと」「俺ではないと思うぞ」
張遼は呂布の言葉を否定する。
「何の話だ?」
曹操は首を傾げる。
「曹操殿、呂布将軍の懐妊の事ですが」
「それは知っている。夏侯惇と張遼の子供がどうかしたのか?」
「曹操殿、呂布将軍は男性ですよ?」
「それが何か問題なのか?」
曹操はさも当たり前のように言い放つ。
「え?」
「呂布将軍は男性だが、妊娠している。それだけの事だ。性別など些細な問題でしかない。それに、呂布将軍が女性であっても、夏侯惇と張遼の子供を産む事には何も問題はあるまい。もし何か問題があるとすれば、呂布将軍が子供を産んだことによって呂布軍が弱体化する事くらいだ。それならば、私が呂布将軍の代わりに軍を率いて戦う事も辞さない覚悟がある」
「そ、そうか」
呂布は戸惑っている。
「曹操殿、私は呂布将軍を漢王朝再興の旗印として掲げているのですが」
「別に構わないだろう?呂布将軍が漢王朝の再興を望もうと望むまいと関係無いではないか?漢王朝復興の為に動くという事は、すなわち天下を統一するという事。天下を統一すれば、誰もが認める漢帝国復活となる。その為には、呂布将軍の力が必要不可欠。呂布将軍が妊娠していても出産をしても関係無く、呂布将軍が漢帝国の皇帝となってくれれば、何も問題は起こらない」
「いや、でも」
「呂布将軍、これは決定事項だ。漢の皇族の血を引く者が、再び漢の玉座に君臨する。そして、この乱世を終わらせる為に、私と共に戦おうではないか」
曹操の申し出に、呂布はしばらく考え込む。
「分かった。俺で良ければ力になる」
呂布はそう答えた。
そして20年の歳月が流れた。
俺、呂布奉先は346歳となった。
「曹操殿!夏侯惇!お久しぶりです」
曹操と夏侯惇は徐州を攻める為、兵を纏めていた。そこに丁原軍の残党狩りをしていた張遼と夏侯淵が現れる。
「呂布将軍!」張遼と夏侯淵は呂布に頭を下げる。
「二人共、元気だったか?」
「はい、元気でした」
「呂布将軍は相変わらずお元気そうで」
「まあ、なんとかね。ところで二人はどうしてここに?」
「実は」
息子が戦に参戦することになったことを2人に伝える。
「そうか、とうとうお前の息子が」
「はい!」
「それなら、尚更この戦いに負ける訳にいかないな」
「はい」
2人は力強く答える。
「曹操殿、俺はここで失礼します。これから戦場に向かいますので」
「おお、そうでしたか。呂布将軍、お気をつけて」
「曹操殿もお達者で」
呂布は曹操と握手を交わして、その場を去る。
呂布軍の武将達は皆、曹操の事を信用していなかったのだが、呂布だけは曹操の事を信頼していた。
曹操は曹操なりに、呂布に対して誠意をもって接してくれていたので、呂布も曹操に対しては好感を持っていたのだ。
呂布は曹操と別れた後、張遼と夏侯淵を連れて戦場に向かう。
その途中でが口を開く。
「呂布将軍、相談したいことがありまして」
「ん?何だ?」
「私の息子の事ですが、名を高順と言いまして、私と同じく呂布軍に仕官している者なのです」
「へぇ、その息子さんがどうかしたのか?」
「はい、その高順なんですが、先程から姿が見えないのです」
「それは心配だな。探しに行ってくるから、お前は先に戦場に向かっててくれ」
「分かりました」
張遼が返事をして、呂布が離れようとした時、張遼が止める。
「いやいや、ちょっと待って下さいよ。呂布将軍が行かれるのでしたら、私も行った方が良いでしょう?」
「いや、大丈夫だよ。張遼が行くより俺が行った方が早いからな」
「いやいや、そんな事ありませんって。呂布将軍が行かれたら、私はどうすれば良いのですか?」
「どうって、そのまま戦場に向かえばいいじゃないか」
「ダメですよ。呂布将軍がいないと、私が困ります」
「何言ってんだ?」
呂布は張遼の言葉の意味が分からなかった。
「だから、呂布将軍がいなくなったら、誰が張遼の面倒を見てくれるのですか?」
「兄貴、俺達はどうする?」
張飛が聞いてくる。
「そうだな。まずは曹操軍の出方を見る事にしよう」
呂布は答えた。
数日後、漢中に張魯からの降伏の使者が訪れた。
「これはどういう事かな?」
「我が主、張魯様からの命令でございます」
使者は頭を下げる。
「張魯殿はどうした?姿が見えないようだが」
「張魯様はお亡くなりになりました」
「そうか。それで?」
「張魯様は呂布将軍の武名を聞き、是非ともお会いしたいとおっしゃっております。つきましては、呂布将軍に漢中までお越しいただきたいとの事です」
「そうか。悪いが断る」
「え?今なんと?」
「断ると言ったのだ」
呂布は即答した。
「張魯殿は亡くなったのだろう?それなのに、何の理由もなく攻め込んで来いと言われて誰が行くものか」
「し、しかし、このままでは漢中全土を敵に回す事になってしまいますぞ?そうなれば、漢中にいる張魯様に味方する者もいなくなってしまいます!」
「それなら心配はいらないな。この漢中で張魯に味方する者は誰もいないからな」
「そんな馬鹿な……」
「それに、こちらには天下無双の豪傑、呂布奉先もいる。そちらこそ、命が惜しければさっさと立ち去るが良い」
呂布の言葉を聞いて、使者は慌てて逃げ出す。
「呂布将軍、漢中を攻めるのですか?」
「いえ、ただ追い返しただけです。漢中攻略は、張魯の了承を得てから行いましょう」
「分かりました。ところで、漢中はどのくらいの広さなのですか?」
「漢中は万里の長城の内側なので、東西南北合わせて五千里以上はあります」
「結構広いんですね」
「漢中を手に入れる事が出来たら、徐州よりも大きな街になるでしょう」
「そうですか」
呂布は漢中を手中に収める為の準備を始める。
その頃、漢中に向けて進軍している曹操軍の元に呂布からの手紙が届いた。
内容は曹操軍を漢中へ迎え入れるという物であり、劉備軍と合流して漢中に攻め込むように書かれていた。
「呂布め!ふざけやがって!」
張遼が手紙を破り捨てようとするのを、曹操が止める。
「待ちなさい、張遼」
「曹操殿、呂布の罠かもしれませんよ?」
「張遼、君は呂布がどんな男なのか知っているはずだ。呂布が私達を陥れようとしているとは思えない」
「それはそうですが……もし、私が曹操殿の立場であれば、同じ事をしますから」
「張遼、君らしくもない。冷静になれ」
張遼はまだ納得出来ないようだったが、曹操に従って兵を止める。
「曹操殿、いかがいたしましょう?」
劉備が尋ねる。
「ここは相手の誘いに乗りましょう」
「良いのですか?」
「はい。おそらく呂布は私達が攻めてくる事を望んでいるはずです」
「呂布将軍が?」
「はい。漢中を手に入れた時、最大の障害となるのは私達だと思っているはずです。だから、漢中に攻め込む事で、私達の戦意を削ごうとしているのではないでしょうか」
「成程」
「劉備殿、漢中への案内人をお願いできますか?」
「もちろんです」
劉備は笑顔で答える。
曹操軍は漢中に向かう事になった。
「呂布将軍、よろしいのですか?」
張遼が不安げに尋ねてくる。
「曹操軍が漢中に来る事は予想していた。曹操軍が来たからと言って慌てる必要はない」
「そうですか」
張遼は少し安心した様子だった。
曹操軍は漢中へと向かっていた。
道中、曹操軍は袁紹軍に遭遇する。
「曹操軍だと!?」
曹操軍を見て、袁紹軍は驚いている。
「袁紹殿、お久しぶりですね」
曹操は笑顔で挨拶する。
「貴様がどうしてここにいる?」
「ちょっと用がありまして」
「何のつもりか知らんが、ここから先は通さんぞ!」
「それは困りましたね」
曹操は苦笑して言う。
「全軍、戦闘用意」
曹操は号令をかけると、袁紹軍の前に立ち塞がった。
「呂布将軍、あれで良かったのですか?敵は袁紹ですよ?」
張遼が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だよ。曹操殿が負ける事はない」
呂布が言うと、張遼は不思議そうな顔をする。
「何故言い切れるのです?」
「まあ、見てれば分かるよ」
呂布は笑う。
曹操と袁紹の戦いは一方的であった。曹操軍の士気は高く、袁紹軍の士気は低い。
そして、戦いが始まって十分も経たないうちに、袁紹軍の大将である袁術が討ち取られた。
「流石は曹操殿。圧倒的ではないか」
呂布は感心する。
「呂布将軍、本当にあの人は強いんですか?」
張遼が呂布に聞いてくる。
「まあ、見てれば分かるよ」
呂布は再び言った。
「おのれ、曹操め!」
袁紹は撤退を開始するが、その前に曹操が行く手を遮る。
「さて、あなたにはここで死んでもらいましょうか」
「くそぉーっ!」
袁紹は絶叫すると、自分の首を切り落として果てた。
曹操は袁紹の首を持って、呂布の元へやって来た。
「呂布将軍、約束通り漢中は頂きます」
「ありがとうございます。漢中が曹操殿の手に入った事によって、我々も動きやすくなります」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
「しかし、曹操殿。漢中の太守は劉焉という者らしいですが、漢王朝とは距離を置いているとか……」
「その事なら心配ありませんよ。漢中を手に入れる事が出来たら、すぐに漢王朝の力を借りずに自分達の力で治めてみせます」
「曹操殿なら出来るでしょう」
呂布は笑って答えたが、内心では漢中は簡単に手に入るだろうと思っていた。漢中は広い。
だが、呂布奉先とその部下達ならば、漢中を手に入れても問題なく統治する事が可能であろう。
「ところで、呂布将軍。これからどうするつもりですか?」
「そうですね。とりあえず漢中を手に入れる事が出来ましたので、徐州を攻めようと思います」
「呂布将軍、漢中を手に入れただけで満足しないのですか?」
「漢中は広い。漢中を手に入れたとしても、まだまだ手に入れるべき土地はたくさんあります。まずは徐州から攻め込んで行きましょう」
呂布はそう言うと、漢中から徐州に向けて進軍を開始した。徐州城内の呂布の元に、曹操からの使者が訪れた。
使者は曹操からの親書を渡し、呂布はそれを読むと表情を曇らせる。
「曹操殿は何と?」
劉備が尋ねる。
「徐州を曹操に譲るように書いてあります」
「譲る?」
「はい。徐州は漢の都であり、ここを治める太守がいるのだから、当然の事だろうと」
呂布はため息混じりに言う。
「曹操殿は本気で言っているのかしら?」
関羽が首を傾げる。
「本気かどうかは分かりませんが、少なくとも曹操殿は本気です」
「じゃあ、呂布軍は曹操軍に降ってもいいって言うことかしら?」
張飛が尋ねる。
「そんな事は書かれていないが、おそらくそうなるんじゃないか?」
「それって、曹操殿の配下になるって事よね?嫌だなぁ」
「俺だって、曹操殿の下で働くなんて御免被りたいよ。だけど、漢中を手に入れた以上、漢中を守る為には曹操殿の軍門に降るしかない」
「漢中か。確かに漢中は大きいし、欲しいわね」
劉備は漢中を思い浮かべながら言う。
「それで、呂布将軍は曹操軍と戦うの?」
「戦うつもりだ。漢中を手に入れた事で、曹操軍は油断しているはずだからな。今こそ好機だ」
「そうね。私達が漢中を守ってあげないと」
劉備は漢中を守りたいと言うより、漢中にいる家族や知り合いに会いたいだけなのだが、それを口にするほど劉備も愚かではない。
「呂布将軍、漢中は守りますけど、曹操軍と戦わない方法もあるんじゃないでしょうか?」
劉備が呂布に提案する。
「曹操軍は大軍です。呂布将軍の兵力だけでは勝てないと思うんですよ」
「確かに、曹操軍には夏侯惇をはじめ猛将が多い。曹操軍は天下一の精鋭と言っていい」
「私達は徐州城で待機して、曹操軍が漢中に攻めて来た時に迎え撃つのはどうかと思いまして」
「それは良い考えです、劉備殿」
張遼が賛同する。
「でも、もし曹操軍が漢中を攻めてこなかったら?もしくは攻めてきた時に呂布将軍が不在だったりしたら?」
「その時は私が漢中へ行って呂布将軍の代わりに戦います。曹操軍を撃退して見せます」
張遼が力強く答える。
「張遼、それはダメだ」
「何故ですか?私は武人です。曹操軍の相手など、造作もない事ですよ」
「張遼、お前は曹操軍の恐ろしさを知らない。曹操軍の本当の強さは、兵の強さではなく指揮官の強さにある。曹操軍の名将達を相手にするのは、容易な事じゃない。張遼では無理だよ」
「それでも!」
張遼は納得出来ないようだったが、呂布は首を縦に振らなかった。
「それに、曹操軍の狙いは漢中だけとは限らない。俺達の目を漢中に向けさせておいて、その隙に南進してくるかもしれない」
「曹操軍の目的が漢中だと決まった訳ではありません。むしろ漢中を狙っていない可能性の方が高いのでは?」
「いや、曹操軍は必ず漢中を狙う」
「何故ですか?」
「漢中は荊州への入り口でもある。曹操軍は荊州を手に入れる為には漢中が必要になってくる」
「成程」
「まあ、俺の考え過ぎかも知れないが、念の為、漢中は劉備殿に任せて俺は曹操軍と対峙する。そして、戦いが始まれば劉備殿はすぐに漢中へ向かう。これで問題無いだろう」
「呂布将軍は?」
「曹操軍と戦いつつ、漢中へと向かいます」
「そんな!危険すぎますよ」
「大丈夫です。この程度の事は今までにも何度かありましたから」
呂布は笑顔で言う。
「それに、漢中は劉備殿にお任せしますよ」
呂布はそう言うと、すぐに準備を始めた。
「(そろそろ『機神』も使うべきか?いやいや止めておこう)」
呂布は心の中で呟く。
漢中を手に入れてから、まだ一度も使っていないのだが、使ったが最後、確実に曹操を倒せる自信があるだけに使ってしまおうかとも思う。
だが、ここで力を見せ付けてしまえば、曹操の警戒心を煽ってしまう事になる。曹操の実力は本物である。
その曹操を一撃で倒す事が出来るとなれば、曹操軍だけでなく、他の諸侯達からも一目置かれる事になり、今後動きにくくなる。
曹操を倒す事が目的では無いのだから、ここは自重すべきところであろう。
「呂布将軍、漢中に向かうなら私をお連れ下さい」
陳宮が呂布に声をかける。
「んー、別に構わないけど、どうしたんだ?」
「漢中を治める太守として、漢中の様子を見ておきたいのです」
「太守って言っても、劉焉は漢王朝から距離を置いているって話だけどな」
「それでも太守は太守。漢中の様子を詳しく知っておく必要があります」
「そうだな。分かった。じゃあ、一緒に行こう」
呂布はそう言うと、準備を終えた部下達に指示を出す。
「よし、出陣だ」
呂布軍は漢中に向けて出発した。
「呂布軍は漢中に向けて進軍を開始した模様です」
曹操の元に、袁術からの使者がやって来る。
「そうですか。漢中まで行くとは、予想外でしたが」
「漢中を手に入れたら、次は徐州に攻め込む予定でしょう」
「それを阻止する為に、漢中にいる劉備が動くかもしれませんね」
「劉備は漢中を守る為に、呂布に降ったのではなかったのか?」
袁紹が尋ねる。
「漢中は広い。劉備の兵力だけで漢中を守るのは難しいはず。おそらく呂布の手を借りて漢中を守るつもりでしょう」
曹操はそう答えた。
「劉備の兵力がどれほどの物かは分かりませんが、漢中を手に入れた呂布の戦力は侮れません。今のうちに叩いておいた方が良いのではないでしょうか?」
袁術はそう進言するが、曹操は首を振る。
「呂布の武力は圧倒的。劉備が呂布に降るのも当然の事。今呂布と戦って勝てる見込みは薄い」
「では、劉備は放っておいて、呂布を討ち取るべきです」
「それも難しい。呂布は漢中王を名乗るほどの大義名分を持つ。もし呂布を討つ為に大軍を率いて徐州を攻めれば、徐州の民は我らに反抗する恐れがある」
「しかし、漢中が落ちたとあっては、徐州の民も黙っているでしょうか?」
「それはあるまい。漢中が落ちたのは我々が漢中を攻めなかったからでは無く、呂布のせいだと考えるはずだ。徐州を攻めれば、必ず呂布は漢中より戻って来る。そうなれば、徐州の民も我々の敵となるだろう」
曹操の言葉に、一同は押し黙る。
「では、呂布は放置しておくと言う事でよろしいですね?」
「待て。徐州を攻めると決まった訳ではない。呂布が漢中へ向かった以上、徐州は空になったと言っていい。ここを攻めない手はあるまい」
曹操はそう言うと、使者に書簡を渡す。
「これは?」
「劉備に宛てた書状です。劉備には漢中にいる呂布と共に、徐州城へ来てもらいましょう」
曹操はそう言うと、劉備を呼び出す為の準備を始める。
「劉備に徐州攻めをさせるつもりか?」
「はい。あの男であれば、きっと徐州攻めに賛同してくれる事でしょう。何しろ、彼の夢はこの世全ての善人と仲良くする事らしいですから」
曹操はそう言うと、笑う。
「(まったく、この男は)」
袁紹は曹操の腹黒さに呆れる。
この男が、天下を統一し、中華を平定出来る器を持っている事は認めるが、そのやり方はあまりにも酷すぎる。
袁紹がそんな事を考えながら曹操を見ていると、曹操は視線に気付き袁紹を見る。
「何か?」
「いや、何でも無い」
袁紹は曹操から目を逸らす。
「袁紹殿、ご心配なく。貴方の夢は私が叶えて差し上げますよ」
「余計なお世話だ!」
袁紹は怒鳴り声を上げた。曹操軍による徐州攻撃が始まる。
呂布軍によって漢中を守られているとはいえ、元々荊州への入り口であり、また荊州でも重要な位置にある漢中を奪われる事は、荊州にとって大きな痛手になる。
その為、劉備は呂布に援軍を要請してきた。
「どうします?ってどうしたの?」
顔色が悪くなってる呂布に劉備が慌てる
「い、いや…なんか……気持ち悪くて」
呂布は胸を押さえて、苦しそうにしている。
「吐き気が止まらないんだよ……」
「え?ちょっと、大丈夫なの?張遼、すぐに医者を呼んできて」
「はい」
劉備はすぐに手配してくれたのだが、呂布は体調が悪いまま、だった。そして衝撃的な事実を突きつけられる。
「妊娠しています」
呂布の懐妊を告げたのは、女医であった。
「に、にんしん?」
呂布は自分の耳を疑う。
「はい。間違いありません」
「そ、それって…あ」
呂布は気付く。
「(あの時か!いやいやそれとも)」
夏侯惇との時か
それとも張遼との時か
2つ心当たりがあった。
俺は、自分が妊娠すると思っていなかったので焦る。
「おめでとうございます。男の子ですか女の子ですか?」
劉備が笑顔で言う。
「い、いやまだ分からないんですけど」
「どちらでも良いではありませんか。元気な子が生まれると良いですね」
劉備はそう言うと、呂布のお腹に手を当てる。
「まあ、夏侯惇さんとの子供ですかね?それともたまに会ってしていた張遼さんですかね?」
「…劉備…お前知って」
「呂布将軍が誰と何をしようと、私は呂布将軍の味方ですよ」
劉備はニッコリ笑って言う。
「い、いや、だからまだ確定した訳じゃ」
「いえ、呂布将軍。妊娠は確実ですからいまはゆっくり出産に向けて休んでください」
劉備はそう言うと、部屋から出て行った。
「呂布将軍、おめでとうございます」
劉備が出て行くと、入れ替わりに陳宮が入ってくる。
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。確かに妊娠しているかも知れないとは思っていたが、…あ陣宮」
「私もお祝いを言いに来たのです。おめでたい話ですからね」
「いや、だから、俺はまだ」
「今は不安かもしれませんが、大丈夫です。呂布将軍には我が主である曹操が付いています。万が一の事があっても、曹操が助けてくれますから安心して下さい」
「待てって言ってんだろ」
呂布は慌てて言うが、呂布の懐妊は城内に知れ渡っていた。
呂布の身体に異常があれば、当然その報告は曹操の耳にも入る。
「呂布将軍、お主妊娠していたのだな」曹操は呂布が呼び出された部屋に入ってきた呂布に開口一番に言った。
「ああ、うん。そうなんだけどね」
呂布は頭を掻きながら言う。
「しかし、いつの間に呂布将軍はご結婚されていたのですか?」
「いやしてない。」
「では、どなたかとお付き合いされているのですか?」
「いない…けど…身体は重ねてしまって」「そうですか。しかし、いずれはそうなると思っていたので、驚きはしませんでしたが」
曹操は淡々と答える。
「それで、どうされるつもりですか?」
「どうって?」
「産むのか生まないのかと言う事です」
「いや、まだ悩んでる。男(正確には両性具有)の俺が出産とかって思ってる。本当にどうしたら」
そう言っていると夏侯惇と張遼が慌てて入ってくる。
「呂布将軍、大丈夫か!」
「え?何?どうしたの?」
「どうもこうもない。お前の懐妊を聞いたら、あいつらが大騒ぎになったんだよ」
「え?何?どういう事?」
「どうもこうもあるか。俺の子供なんだろ?」
夏侯惇が言う。
「え?違うよ。多分だけど、張遼だと」「俺ではないと思うぞ」
張遼は呂布の言葉を否定する。
「何の話だ?」
曹操は首を傾げる。
「曹操殿、呂布将軍の懐妊の事ですが」
「それは知っている。夏侯惇と張遼の子供がどうかしたのか?」
「曹操殿、呂布将軍は男性ですよ?」
「それが何か問題なのか?」
曹操はさも当たり前のように言い放つ。
「え?」
「呂布将軍は男性だが、妊娠している。それだけの事だ。性別など些細な問題でしかない。それに、呂布将軍が女性であっても、夏侯惇と張遼の子供を産む事には何も問題はあるまい。もし何か問題があるとすれば、呂布将軍が子供を産んだことによって呂布軍が弱体化する事くらいだ。それならば、私が呂布将軍の代わりに軍を率いて戦う事も辞さない覚悟がある」
「そ、そうか」
呂布は戸惑っている。
「曹操殿、私は呂布将軍を漢王朝再興の旗印として掲げているのですが」
「別に構わないだろう?呂布将軍が漢王朝の再興を望もうと望むまいと関係無いではないか?漢王朝復興の為に動くという事は、すなわち天下を統一するという事。天下を統一すれば、誰もが認める漢帝国復活となる。その為には、呂布将軍の力が必要不可欠。呂布将軍が妊娠していても出産をしても関係無く、呂布将軍が漢帝国の皇帝となってくれれば、何も問題は起こらない」
「いや、でも」
「呂布将軍、これは決定事項だ。漢の皇族の血を引く者が、再び漢の玉座に君臨する。そして、この乱世を終わらせる為に、私と共に戦おうではないか」
曹操の申し出に、呂布はしばらく考え込む。
「分かった。俺で良ければ力になる」
呂布はそう答えた。
そして20年の歳月が流れた。
俺、呂布奉先は346歳となった。
「曹操殿!夏侯惇!お久しぶりです」
曹操と夏侯惇は徐州を攻める為、兵を纏めていた。そこに丁原軍の残党狩りをしていた張遼と夏侯淵が現れる。
「呂布将軍!」張遼と夏侯淵は呂布に頭を下げる。
「二人共、元気だったか?」
「はい、元気でした」
「呂布将軍は相変わらずお元気そうで」
「まあ、なんとかね。ところで二人はどうしてここに?」
「実は」
息子が戦に参戦することになったことを2人に伝える。
「そうか、とうとうお前の息子が」
「はい!」
「それなら、尚更この戦いに負ける訳にいかないな」
「はい」
2人は力強く答える。
「曹操殿、俺はここで失礼します。これから戦場に向かいますので」
「おお、そうでしたか。呂布将軍、お気をつけて」
「曹操殿もお達者で」
呂布は曹操と握手を交わして、その場を去る。
呂布軍の武将達は皆、曹操の事を信用していなかったのだが、呂布だけは曹操の事を信頼していた。
曹操は曹操なりに、呂布に対して誠意をもって接してくれていたので、呂布も曹操に対しては好感を持っていたのだ。
呂布は曹操と別れた後、張遼と夏侯淵を連れて戦場に向かう。
その途中でが口を開く。
「呂布将軍、相談したいことがありまして」
「ん?何だ?」
「私の息子の事ですが、名を高順と言いまして、私と同じく呂布軍に仕官している者なのです」
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「いや、大丈夫だよ。張遼が行くより俺が行った方が早いからな」
「いやいや、そんな事ありませんって。呂布将軍が行かれたら、私はどうすれば良いのですか?」
「どうって、そのまま戦場に向かえばいいじゃないか」
「ダメですよ。呂布将軍がいないと、私が困ります」
「何言ってんだ?」
呂布は張遼の言葉の意味が分からなかった。
「だから、呂布将軍がいなくなったら、誰が張遼の面倒を見てくれるのですか?」
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