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28話
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張遼としては呂布に死んで欲しくはない。その為にも呂布に死ねと命じたくなかった。
だが、この状況においてはそれは不可能だ。呂布に退却の命を出した張遼は、自らも馬を駆って呂布と共に戦場を離れた。その途中で張遼は呂布に声をかける。
「……呂布将軍、張遼としてお尋ねします。あなたはどうされるつもりですか?」
陳宮救出の際に張遼は呂布に付いて行く事が出来なかった。だから陳宮は捕えられ、呂布が徐州城を乗っ取った後も張遼が呂布と直接会う機会は得られず、今の今まで張遼には呂布の考えが分からないままでいた。
もし、今ここで呂布が死ぬ様なことがあれば、陳宮の運命もまた決する事になってしまう。そう言う意味では陳宮と張遼の立場は完全に逆転していると言える。陳宮と張遼が曹操軍と呂布軍に分かれて戦うような事態になっていたかもしれないのだ。
しかし、張遼の問いかけに対して呂布の答えは予想外過ぎた。
「ん? いや、俺達は逃げるよ。だって、ここは曹操の領地だし。俺は別に漢の武将でもないし、そもそも天下人になる器じゃないもん。これ以上面倒ごとに関わる気は無いよ。あとは劉備とかが何とかしてくれるんじゃないのかなぁ。曹操もそうだけど、袁紹の相手も大変そうだし、曹操に付く方が利口だよ。まあ、張遼の心配はもっともだと思うけど、それについてはちゃんと考えてるから安心してくれ。それより張遼、曹操と袁紹が喧嘩してたらどっちに付いた方がいいと思う?」
張遼は呂布に言葉を失う。
この男は自分の命惜しさに曹操と戦う事をやめようとしている。それは確かに命を守る上では正しい選択だが、曹操と呂布の実力を考えれば、曹操の方が遥かに強く有利である事は誰の目から見ても明らかである。呂布軍の士気が高かった事と、その呂布自身が一騎討ちに応じた事で、張遼は張飛と妻の件もあって曹操に勝てる見込みがあると思い込んでいた。
呂布の判断を、呂布らしくないと感じる者もいたが、呂布らしくないかそうでないかを判断する前に、張遼の思考は停止したままだった。
この時の呂布は、曹操がいかに強大なのかを理解していなかったのである。呂布は張遼と分かれ、張飛の妻達の警護と張飛の身体を担ぐために、城に残る事になる。張飛の妻が殺された場合、曹操軍は張飛の妻を殺す事で士気を削ごうとする。また、他の人間に張飛の妻が殺された場合でも、曹操軍の矛先は張飛の妻の殺害ではなく呂布に向けられる。呂布と張遼、そして曹操軍を撃退する事が出来るとしたら関羽しかいないと言う判断で、張遼は撤退してきたのである。
張遼は曹操から呂布の事を聞いた事はあったが、呂布がここまで甘い人物だとは思っていなかった。曹操に狙われる事を警戒し、妻と子も連れずに身軽になって呂布が逃げやすいように配慮するどころか、張飛とその妻を人質に取られ、さらには張遼自身も殺されかけたにもかかわらず、それでもまだ自分の妻や子供を気にかけているとは、あまりにも考えなし過ぎる。
ただ、それを口にする訳にもいかない。それではせっかく助かったのに、今度は本当に死んでしまう。せめて何か言おうと考えた結果、張遼が絞り出したのは一言だけだった。
「馬鹿ですね」
この男はおそらく何を言っても無駄なのだろう。だったら、呂布という男がどんなに愚かでも、自分はそれを支えていくしかない。
その想いだけは、この時に決めた。
その後、呂布は徐州城を離れ、曹操軍が呂布に報復行動に移るまでに二週間を要した。
その間、徐州城に残ったのは呂布、張遼の他に高順だけである。張遼も城を出て行こうとしたが、呂布がそれを引き止めた。
「もうちょっと待ってくれ。必ず帰る」
それが呂布の言葉だった。
城にいた間も、呂布軍は城の中で戦えるような備えを整えていたし食料などの備蓄もあった。張遼は張飛の妻達と共に城内で過ごしながら鍛錬を行い、さらに陳宮救出の時に手に入れた兵の中から素質のある者を集めて精鋭部隊を組織している。
張遼は元々弓術に長けていたが、特に馬術に優れ、槍を持たせてもかなりの技量を持っていたので、騎兵の突撃の際に馬に乗って先陣を切り、敵将を討つ役割を担う事になった。
一方、張飛の妻達の護衛を任されたのは呂布と高順だったが、呂布はその立場を利用して彼女達と親しくなり、そのまま側室にまでしてしまう。
もちろん、張飛が意識を取り戻した時にはこの事を知らなかった事もあり、怒り狂った張飛が呂布を殺そうとした事もあったのだが、呂布は張飛に殺されそうになったにも関わらず笑いながら言った。
「俺を殺して、それでお前は生きられるのか?」
この一点に尽きる。張飛がここで死ねば、曹操軍に対する盾は無くなる。その瞬間に徐州城は終わりを迎える。曹操軍には徐州城の制圧を命じておき、その曹操軍との戦力差を十分に理解した上での呂布の発言であり、この発言によって張飛の怒りが収まるはずもなく、結果として呂布と張飛の一騎打ちとなったものの、呂布は難なくこれを退けたと言うよりは手加減をして張飛を討ち取る事が出来なかったと言う方が正しい。
こうして、呂布は妻達に見送られて徐州城を脱出する事となる。その時に張遼も呂布と共に行く事を希望したのだが、呂布はこれを許さなかった。
呂布が張遼の身を案じたのは間違いない事実で、張遼もその事は十分承知していたので素直に従った。呂布としても、ここで張遼まで失うわけにはいかなかった。
しかし、この時の呂布はまだ張遼が自分に付いて来る事がどれほど危険であるのか気付いていなかった。
もし呂布が曹操との戦いを避け、荊州へ向かった場合、呂布と別れれば張遼はすぐに曹操軍の追撃を受ける事になる。しかし今の張遼であれば逃げるだけならさほど難しくはないはずだし、呂布や張飛が曹操に殺されるよりははるかにマシである。
張遼にとって一番望ましいのは、ここで呂布が討たれる事だ。そうすれば張遼が呂布に代わって天下に号令し、漢王朝復興を目指す事も出来るかもしれない。
曹操軍に捕まっても、張遼の才覚ならば厚遇されるかもしれない。あるいは曹操や劉備など、そう言う人物はどこにでもいる。そう考えての決断だった。
呂布と別れた後、張遼はすぐさま劉備と連絡を取る為に動き出す。まず劉備のところへ向かうべきだろうが、曹操との合流の方が早いと判断する。
呂布を裏切る事に罪悪感が無い訳ではない。だが、それ以上に張遼は呂布を失う事を恐れている。張遼は張飛から張飛の妻を奪う事で張飛の命を助けた。張飛が張遼に好意を持っているのは間違いないが、それでも呂布の方が張飛は大事なのである。張遼は呂布から命を助けられた。命を懸けても呂布を守らなければならないのだ。
それに張遼は張飛の妻達の気持ちを知っている。彼女達は皆、張飛が目覚めるまで毎日看病を続け、張飛が目を開けた時、涙を流して喜び、その後は涙に濡れながらも献身的に張飛を支え続けていた。それは今も変わらない。
曹操の大軍が迫って来た時は、張飛と張遼を逃がすために曹操軍の前に立ち塞がり、自ら囮となって張飛の妻達の避難時間を稼ぐと言う、正に妻の鑑とも言える女性達である。張遼も何度か助けられているので、彼女らの事はよく知っている。
あの二人に報いる事無く自分だけが助かる事を、張遼は恐れていた。
張遼は急いで徐州を離れようとする。曹操軍の目を逃れると言う意味ではなく、曹操と呂布が衝突するであろう場所から遠ざかる為であった。
しかし、そんな都合の良い偶然が重なる訳も無く、徐州を出てすぐに追っ手に見つかってしまう。
それでも逃げおおせる事が出来ると張遼は思っていたのだが、意外な伏兵が張遼の前に立ちふさがる。
高順だった。
張遼は思わず剣を抜いてしまったのだが、高順は全く動じずに戟を構える。
高順はこれまで呂布の元で戦ってきた武将なので、その実力と気性は張遼もよく知っていた。
呂布と共に徐州攻めに参加したものの、その頃はまだ無名に近い存在であった。その後に徐州の兵として参戦してきた高順だったが、それまで呂布に仕えていた者達からは、やはりどこか軽んじられていたらしい。それを払拭したのが張遼の活躍である。
張遼がいなければ高順の名はそれほど知られていなかったはずだが、高順も張遼に匹敵する武人としてその名を馳せるようになった。
また、高順も呂布の元を離れる時に、自分の妻と子を張遼に託していた。呂布は徐州攻略の際、張飛とその妻達を助命し、さらには高順の妻達にも配慮して徐州に留めていた。
呂布としては張飛の妻達が無事である方が戦いやすいし、呂布自身が妻子を持つ事に興味が無かった事もあり、特に高順の妻達に特別の便宜を図っていたわけではない。
しかし、高順の妻達の中には元々張飛の妻達と親交があった者も多かったので、結果として張飛の妻達と呂布の妻達との間に交流が生まれた。その中でお互いが意気投合した事もあって、高順の妻達の中で特に高順の娘と張遼の妻が親しかった事もあり、二人は恋仲になった。
それが張遼が呂布を見限った理由でもあったのだが、ここで張遼の前に現れたのが高順であり、その狙いが全く読めなかった。
この男は何を考えているのか分からないところが怖い。
張遼はその点では呂布よりよほど恐ろしいと思っていた。
ただ、呂布に対して劣等感を抱いている事は確かなようで、その点は張遼と似通っている。
おそらく呂布に捨てられて張遼への恨みを募らせてやって来たか、あるいは張遼が寝返ると見て先手を打つ為にやって来たのだろうと予想していたが、高順にも明確な目的があるようだ。
それは張遼が思っている以上に切実な想いから来ているものであるのだが、それはまだ張遼は知らない。だが、今はそんな事はどうでも良い。目の前の男を討つのが先決である。
「貴様の相手はこの俺だ!」
高順にそう言われたのだから仕方がない。何より、張遼には選択肢などない。
こうして張遼対呂布軍最強の男の一騎討ちが始まった。
結果は張遼の惨敗。呂布軍は張遼を討ち取ったと思い込んで去って行ったが、実際には傷だらけでかろうじて生き残っていただけだった。
その後しばらくして曹操が到着すると、そこにはもはや誰一人生きてはいなかった。
劉備の陣営へ向かわねばならないと思ったが、もはや立ち上がる力さえ無かった。
その時に現れたのが、馬騰、韓遂の両雄だった。劉備は呂布や曹操との戦いを避け、荊州へ向かって欲しいと言っていたので、二人の勢力ならば曹操との戦いを避ける事も出来るのではないか。
そう思っての、まさに神の助けと言えるのかもしれない。
かくして、曹操との戦いは回避された。
後に劉備の客将となり、天下の良縁と言われた関羽の兄と弟も、この時は荊州へ向かう劉備の馬車の中に乗っていた。
呂布は呂布で張遼の訃報を聞いたが、まだ確認は取れていない。張遼ほどの武勇があれば曹操軍に捕らわれているとは考えにくいので、生き延びていてくれれば良いと思う。
それに呂布自身、今曹操と戦うわけにはいかない。劉備や張遼と違い、今の呂布は曹操にとって裏切り者以外の何ものでもないのである。曹操の矛先がこちらに向けられる前に、少しでも戦力を整える必要がある。
しかし、そう言う意味では張遼の離脱は痛いところである。
もし張遼が呂布の元に残っていれば、いくら曹操と言えども無闇に呂布を攻める事は出来なかっただろう。あるいは曹操が徐州に攻め入ったのは張遼が徐州にいなかったからとも考えられる。
呂布は妻達の元に向かう為に徐州城へと向かった。
そこには、呂布の妻達の姿が既にあった。張遼の姿は無い。
張飛の妻である厳氏に聞くと、呂布と別れた後、張遼の妻と二人で張飛を連れてすぐに徐州城を出立したという。
張飛は既に張遼の死を知らされており、悲嘆に暮れていた。それでも呂布が張飛の元へ来た事を知ると少し落ち着きを取り戻して、いつものように豪快に笑っていた。呂布は張飛に礼を言い、これからの方針を告げる。
まず曹操が動くのを待つ事にした。曹操軍が徐州に進軍して来ていたのを見て呂布は急ぎ兵を率いて出陣したが、その結果曹操軍の侵攻を阻む事は出来たものの、曹操軍の目論見を打ち砕くまでには至らなかった。
つまり曹操が呂布との決戦を避けて兵を退いた事であり、それは同時に曹操軍の総指揮官は袁紹ではなく曹丕だと推測できる。そして袁紹はと言うと、今回の遠征で大きく兵を失った事から、しばらく身動きが取れない状況に陥ると思われる。
この機会を逃す手はない。
呂布も徐州を離れて張遼を探しに行きたい気持ちはあるが、さすがに呂布軍の現状を鑑みると、ここで兵力を大きく割いては、いざという時に戦えない恐れがある。
幸いにも、曹操の兵は全軍撤退したわけではなく一部は徐州に留まったままであり、それに対する警戒の為、徐州の警備に当たる武将と兵士はそのまま置いておく必要があった。
さらに言えば、陳宮がまだ戻っていない事もあり、軍師抜きでは今後の方針を決められない。
その為、徐州の防備は呂布が連れてきた精鋭だけに任せておき、自身は張遼の妻がいるはずの許昌へ向かった。
呂布の妻達と共に徐州を出てからは張遼の娘と再会したが、やはり彼女もこの騒動の中で命を落としたらしい。だが、今はそれを悲しんでいる場合ではない。呂布はすぐに次の行動へと移った。
このまま曹操軍と睨み合いを続ける事も出来ないわけではないが、曹操がいつまでも大人しく待っているはずもない。いずれ曹操軍には大軍が合流する事が分かっている以上、一刻でも早く劉備と合流する必要はある。
張遼が生きているかどうかはともかく、張遼の妻達は劉備の元へ向かっているはずだ。そこで合流すればいいと呂布は思っていた。
張遼の妻子は呂布の妻子の護衛として同行している。呂布と張遼の娘は恋仲であったので、呂布が妻子を預ける際に張遼は難色を示していたのだが、最終的に張遼が折れる形で決着した。
張遼の妻子は呂布と面識があり、また信頼出来る人物だと思っての事だったのだが、まさかここで張遼と再会する事になるとは思わなかった。
張遼と呂布の間には特別な関係があった訳ではなかったのだが、戦場で共に戦ううちにお互いを認め合うようになっていた。特に高順は、その武人としての姿勢に憧れを抱いていたほどであり、張遼は呂布軍を離反する時も高順に対して複雑な思いを抱えていた。
その張遼が曹操の手下になっているとは、高順にとっても信じられない出来事だったに違いない。
呂布や張遼と違って、高順には野心があった。その高順から見ると、呂布は張遼に比べて遥かに劣っているように見えるのかもしれない。高順が曹操軍に参加した理由がそこにあるのかは定かではないが、結果として張遼の離脱の原因を作ってしまったとも言える。
高順にとって張遼とは、その高順の感情を抜きにしても友と呼ぶに相応しい男であった。
そんな高順に張遼は、自分の妻と子を守って欲しいと言って呂布に託したのだ。その約束を守らなければ、張遼の妻達に合わせる顔が無い。
「……ってなわけで、俺らは徐州を離れられなかったんだよ」
高順はそう言って話を締め括ったが、陳宮は首を傾げている。
「張遼の妻子はどこへ行った?」
張遼の妻である厳氏と張飛の娘である燕姫の二人は、曹操軍に捕らわれて連れ去られた後、どこにも姿が無かった。
呂布軍は曹操軍の攻撃を防いだが、張遼はその報奨を得る前に呂布のもとを離れたので何の恩賞も得られず、その後すぐに曹操軍の追撃を受けて壊滅。
その後、張遼は曹操軍に捕えられて、張遼の妻は曹操の配下である韓遂によって救出されるも、すでに張遼の姿は無かった。
張遼の妻子は韓遂に連れられて、曹操が用意した荊州へ脱出しようとしていたが、荊州は袁紹軍が曹操軍の猛攻を受けている為に安全な道の確保が難しく、さらに荊州へ向かう途中は曹操軍の別働隊に襲われるなど苦労の連続だったが、それでもなんとか荊州に到着した。
張遼の妻子を連れてきた漢人の武将である趙岑は荊州到着後すぐに姿を消し、代わりに荊州を守る為に残っていた韓遂配下の馬騰が張遼の妻子の保護を買って出た。
ちなみにこの一件に関して、韓胤だけは最後まで渋い顔をしていたが誰も相手にしなかった。この男はとにかく胡散臭いが実力に関しては信用して良いので、今はそれどころではないからである。
こうして張遼の妻子三人と一人の女傑は保護され、現在は荊州城へと避難し、そこからは出歩かないようにと言われている。もちろん、張飛と陳宮もその例外ではなく城内から出る事は禁止されていた。それは当然の話なのだが、呂布は張遼の妻子と会いたかった。張遼が呂布の事を気にかけていたように、呂布の方もまた張遼の事は気になっていた。
そして妻達の元に訪れたのは、張遼の所在を確かめる為でもあった。
妻の張氏に聞くと、やはりと言うべきか、張遼の妻は劉備の妻となったと聞かされた。劉備は張飛の義理の弟にあたる。劉備は関羽、張飛、そして陳宮といった面々と共に曹操軍と対峙する事になり、そこで呂布を自軍に誘った事もあった。
呂布の返事は今も保留のままだが、その時は張遼も一緒にいたはずだった。
だが、この状況においてはそれは不可能だ。呂布に退却の命を出した張遼は、自らも馬を駆って呂布と共に戦場を離れた。その途中で張遼は呂布に声をかける。
「……呂布将軍、張遼としてお尋ねします。あなたはどうされるつもりですか?」
陳宮救出の際に張遼は呂布に付いて行く事が出来なかった。だから陳宮は捕えられ、呂布が徐州城を乗っ取った後も張遼が呂布と直接会う機会は得られず、今の今まで張遼には呂布の考えが分からないままでいた。
もし、今ここで呂布が死ぬ様なことがあれば、陳宮の運命もまた決する事になってしまう。そう言う意味では陳宮と張遼の立場は完全に逆転していると言える。陳宮と張遼が曹操軍と呂布軍に分かれて戦うような事態になっていたかもしれないのだ。
しかし、張遼の問いかけに対して呂布の答えは予想外過ぎた。
「ん? いや、俺達は逃げるよ。だって、ここは曹操の領地だし。俺は別に漢の武将でもないし、そもそも天下人になる器じゃないもん。これ以上面倒ごとに関わる気は無いよ。あとは劉備とかが何とかしてくれるんじゃないのかなぁ。曹操もそうだけど、袁紹の相手も大変そうだし、曹操に付く方が利口だよ。まあ、張遼の心配はもっともだと思うけど、それについてはちゃんと考えてるから安心してくれ。それより張遼、曹操と袁紹が喧嘩してたらどっちに付いた方がいいと思う?」
張遼は呂布に言葉を失う。
この男は自分の命惜しさに曹操と戦う事をやめようとしている。それは確かに命を守る上では正しい選択だが、曹操と呂布の実力を考えれば、曹操の方が遥かに強く有利である事は誰の目から見ても明らかである。呂布軍の士気が高かった事と、その呂布自身が一騎討ちに応じた事で、張遼は張飛と妻の件もあって曹操に勝てる見込みがあると思い込んでいた。
呂布の判断を、呂布らしくないと感じる者もいたが、呂布らしくないかそうでないかを判断する前に、張遼の思考は停止したままだった。
この時の呂布は、曹操がいかに強大なのかを理解していなかったのである。呂布は張遼と分かれ、張飛の妻達の警護と張飛の身体を担ぐために、城に残る事になる。張飛の妻が殺された場合、曹操軍は張飛の妻を殺す事で士気を削ごうとする。また、他の人間に張飛の妻が殺された場合でも、曹操軍の矛先は張飛の妻の殺害ではなく呂布に向けられる。呂布と張遼、そして曹操軍を撃退する事が出来るとしたら関羽しかいないと言う判断で、張遼は撤退してきたのである。
張遼は曹操から呂布の事を聞いた事はあったが、呂布がここまで甘い人物だとは思っていなかった。曹操に狙われる事を警戒し、妻と子も連れずに身軽になって呂布が逃げやすいように配慮するどころか、張飛とその妻を人質に取られ、さらには張遼自身も殺されかけたにもかかわらず、それでもまだ自分の妻や子供を気にかけているとは、あまりにも考えなし過ぎる。
ただ、それを口にする訳にもいかない。それではせっかく助かったのに、今度は本当に死んでしまう。せめて何か言おうと考えた結果、張遼が絞り出したのは一言だけだった。
「馬鹿ですね」
この男はおそらく何を言っても無駄なのだろう。だったら、呂布という男がどんなに愚かでも、自分はそれを支えていくしかない。
その想いだけは、この時に決めた。
その後、呂布は徐州城を離れ、曹操軍が呂布に報復行動に移るまでに二週間を要した。
その間、徐州城に残ったのは呂布、張遼の他に高順だけである。張遼も城を出て行こうとしたが、呂布がそれを引き止めた。
「もうちょっと待ってくれ。必ず帰る」
それが呂布の言葉だった。
城にいた間も、呂布軍は城の中で戦えるような備えを整えていたし食料などの備蓄もあった。張遼は張飛の妻達と共に城内で過ごしながら鍛錬を行い、さらに陳宮救出の時に手に入れた兵の中から素質のある者を集めて精鋭部隊を組織している。
張遼は元々弓術に長けていたが、特に馬術に優れ、槍を持たせてもかなりの技量を持っていたので、騎兵の突撃の際に馬に乗って先陣を切り、敵将を討つ役割を担う事になった。
一方、張飛の妻達の護衛を任されたのは呂布と高順だったが、呂布はその立場を利用して彼女達と親しくなり、そのまま側室にまでしてしまう。
もちろん、張飛が意識を取り戻した時にはこの事を知らなかった事もあり、怒り狂った張飛が呂布を殺そうとした事もあったのだが、呂布は張飛に殺されそうになったにも関わらず笑いながら言った。
「俺を殺して、それでお前は生きられるのか?」
この一点に尽きる。張飛がここで死ねば、曹操軍に対する盾は無くなる。その瞬間に徐州城は終わりを迎える。曹操軍には徐州城の制圧を命じておき、その曹操軍との戦力差を十分に理解した上での呂布の発言であり、この発言によって張飛の怒りが収まるはずもなく、結果として呂布と張飛の一騎打ちとなったものの、呂布は難なくこれを退けたと言うよりは手加減をして張飛を討ち取る事が出来なかったと言う方が正しい。
こうして、呂布は妻達に見送られて徐州城を脱出する事となる。その時に張遼も呂布と共に行く事を希望したのだが、呂布はこれを許さなかった。
呂布が張遼の身を案じたのは間違いない事実で、張遼もその事は十分承知していたので素直に従った。呂布としても、ここで張遼まで失うわけにはいかなかった。
しかし、この時の呂布はまだ張遼が自分に付いて来る事がどれほど危険であるのか気付いていなかった。
もし呂布が曹操との戦いを避け、荊州へ向かった場合、呂布と別れれば張遼はすぐに曹操軍の追撃を受ける事になる。しかし今の張遼であれば逃げるだけならさほど難しくはないはずだし、呂布や張飛が曹操に殺されるよりははるかにマシである。
張遼にとって一番望ましいのは、ここで呂布が討たれる事だ。そうすれば張遼が呂布に代わって天下に号令し、漢王朝復興を目指す事も出来るかもしれない。
曹操軍に捕まっても、張遼の才覚ならば厚遇されるかもしれない。あるいは曹操や劉備など、そう言う人物はどこにでもいる。そう考えての決断だった。
呂布と別れた後、張遼はすぐさま劉備と連絡を取る為に動き出す。まず劉備のところへ向かうべきだろうが、曹操との合流の方が早いと判断する。
呂布を裏切る事に罪悪感が無い訳ではない。だが、それ以上に張遼は呂布を失う事を恐れている。張遼は張飛から張飛の妻を奪う事で張飛の命を助けた。張飛が張遼に好意を持っているのは間違いないが、それでも呂布の方が張飛は大事なのである。張遼は呂布から命を助けられた。命を懸けても呂布を守らなければならないのだ。
それに張遼は張飛の妻達の気持ちを知っている。彼女達は皆、張飛が目覚めるまで毎日看病を続け、張飛が目を開けた時、涙を流して喜び、その後は涙に濡れながらも献身的に張飛を支え続けていた。それは今も変わらない。
曹操の大軍が迫って来た時は、張飛と張遼を逃がすために曹操軍の前に立ち塞がり、自ら囮となって張飛の妻達の避難時間を稼ぐと言う、正に妻の鑑とも言える女性達である。張遼も何度か助けられているので、彼女らの事はよく知っている。
あの二人に報いる事無く自分だけが助かる事を、張遼は恐れていた。
張遼は急いで徐州を離れようとする。曹操軍の目を逃れると言う意味ではなく、曹操と呂布が衝突するであろう場所から遠ざかる為であった。
しかし、そんな都合の良い偶然が重なる訳も無く、徐州を出てすぐに追っ手に見つかってしまう。
それでも逃げおおせる事が出来ると張遼は思っていたのだが、意外な伏兵が張遼の前に立ちふさがる。
高順だった。
張遼は思わず剣を抜いてしまったのだが、高順は全く動じずに戟を構える。
高順はこれまで呂布の元で戦ってきた武将なので、その実力と気性は張遼もよく知っていた。
呂布と共に徐州攻めに参加したものの、その頃はまだ無名に近い存在であった。その後に徐州の兵として参戦してきた高順だったが、それまで呂布に仕えていた者達からは、やはりどこか軽んじられていたらしい。それを払拭したのが張遼の活躍である。
張遼がいなければ高順の名はそれほど知られていなかったはずだが、高順も張遼に匹敵する武人としてその名を馳せるようになった。
また、高順も呂布の元を離れる時に、自分の妻と子を張遼に託していた。呂布は徐州攻略の際、張飛とその妻達を助命し、さらには高順の妻達にも配慮して徐州に留めていた。
呂布としては張飛の妻達が無事である方が戦いやすいし、呂布自身が妻子を持つ事に興味が無かった事もあり、特に高順の妻達に特別の便宜を図っていたわけではない。
しかし、高順の妻達の中には元々張飛の妻達と親交があった者も多かったので、結果として張飛の妻達と呂布の妻達との間に交流が生まれた。その中でお互いが意気投合した事もあって、高順の妻達の中で特に高順の娘と張遼の妻が親しかった事もあり、二人は恋仲になった。
それが張遼が呂布を見限った理由でもあったのだが、ここで張遼の前に現れたのが高順であり、その狙いが全く読めなかった。
この男は何を考えているのか分からないところが怖い。
張遼はその点では呂布よりよほど恐ろしいと思っていた。
ただ、呂布に対して劣等感を抱いている事は確かなようで、その点は張遼と似通っている。
おそらく呂布に捨てられて張遼への恨みを募らせてやって来たか、あるいは張遼が寝返ると見て先手を打つ為にやって来たのだろうと予想していたが、高順にも明確な目的があるようだ。
それは張遼が思っている以上に切実な想いから来ているものであるのだが、それはまだ張遼は知らない。だが、今はそんな事はどうでも良い。目の前の男を討つのが先決である。
「貴様の相手はこの俺だ!」
高順にそう言われたのだから仕方がない。何より、張遼には選択肢などない。
こうして張遼対呂布軍最強の男の一騎討ちが始まった。
結果は張遼の惨敗。呂布軍は張遼を討ち取ったと思い込んで去って行ったが、実際には傷だらけでかろうじて生き残っていただけだった。
その後しばらくして曹操が到着すると、そこにはもはや誰一人生きてはいなかった。
劉備の陣営へ向かわねばならないと思ったが、もはや立ち上がる力さえ無かった。
その時に現れたのが、馬騰、韓遂の両雄だった。劉備は呂布や曹操との戦いを避け、荊州へ向かって欲しいと言っていたので、二人の勢力ならば曹操との戦いを避ける事も出来るのではないか。
そう思っての、まさに神の助けと言えるのかもしれない。
かくして、曹操との戦いは回避された。
後に劉備の客将となり、天下の良縁と言われた関羽の兄と弟も、この時は荊州へ向かう劉備の馬車の中に乗っていた。
呂布は呂布で張遼の訃報を聞いたが、まだ確認は取れていない。張遼ほどの武勇があれば曹操軍に捕らわれているとは考えにくいので、生き延びていてくれれば良いと思う。
それに呂布自身、今曹操と戦うわけにはいかない。劉備や張遼と違い、今の呂布は曹操にとって裏切り者以外の何ものでもないのである。曹操の矛先がこちらに向けられる前に、少しでも戦力を整える必要がある。
しかし、そう言う意味では張遼の離脱は痛いところである。
もし張遼が呂布の元に残っていれば、いくら曹操と言えども無闇に呂布を攻める事は出来なかっただろう。あるいは曹操が徐州に攻め入ったのは張遼が徐州にいなかったからとも考えられる。
呂布は妻達の元に向かう為に徐州城へと向かった。
そこには、呂布の妻達の姿が既にあった。張遼の姿は無い。
張飛の妻である厳氏に聞くと、呂布と別れた後、張遼の妻と二人で張飛を連れてすぐに徐州城を出立したという。
張飛は既に張遼の死を知らされており、悲嘆に暮れていた。それでも呂布が張飛の元へ来た事を知ると少し落ち着きを取り戻して、いつものように豪快に笑っていた。呂布は張飛に礼を言い、これからの方針を告げる。
まず曹操が動くのを待つ事にした。曹操軍が徐州に進軍して来ていたのを見て呂布は急ぎ兵を率いて出陣したが、その結果曹操軍の侵攻を阻む事は出来たものの、曹操軍の目論見を打ち砕くまでには至らなかった。
つまり曹操が呂布との決戦を避けて兵を退いた事であり、それは同時に曹操軍の総指揮官は袁紹ではなく曹丕だと推測できる。そして袁紹はと言うと、今回の遠征で大きく兵を失った事から、しばらく身動きが取れない状況に陥ると思われる。
この機会を逃す手はない。
呂布も徐州を離れて張遼を探しに行きたい気持ちはあるが、さすがに呂布軍の現状を鑑みると、ここで兵力を大きく割いては、いざという時に戦えない恐れがある。
幸いにも、曹操の兵は全軍撤退したわけではなく一部は徐州に留まったままであり、それに対する警戒の為、徐州の警備に当たる武将と兵士はそのまま置いておく必要があった。
さらに言えば、陳宮がまだ戻っていない事もあり、軍師抜きでは今後の方針を決められない。
その為、徐州の防備は呂布が連れてきた精鋭だけに任せておき、自身は張遼の妻がいるはずの許昌へ向かった。
呂布の妻達と共に徐州を出てからは張遼の娘と再会したが、やはり彼女もこの騒動の中で命を落としたらしい。だが、今はそれを悲しんでいる場合ではない。呂布はすぐに次の行動へと移った。
このまま曹操軍と睨み合いを続ける事も出来ないわけではないが、曹操がいつまでも大人しく待っているはずもない。いずれ曹操軍には大軍が合流する事が分かっている以上、一刻でも早く劉備と合流する必要はある。
張遼が生きているかどうかはともかく、張遼の妻達は劉備の元へ向かっているはずだ。そこで合流すればいいと呂布は思っていた。
張遼の妻子は呂布の妻子の護衛として同行している。呂布と張遼の娘は恋仲であったので、呂布が妻子を預ける際に張遼は難色を示していたのだが、最終的に張遼が折れる形で決着した。
張遼の妻子は呂布と面識があり、また信頼出来る人物だと思っての事だったのだが、まさかここで張遼と再会する事になるとは思わなかった。
張遼と呂布の間には特別な関係があった訳ではなかったのだが、戦場で共に戦ううちにお互いを認め合うようになっていた。特に高順は、その武人としての姿勢に憧れを抱いていたほどであり、張遼は呂布軍を離反する時も高順に対して複雑な思いを抱えていた。
その張遼が曹操の手下になっているとは、高順にとっても信じられない出来事だったに違いない。
呂布や張遼と違って、高順には野心があった。その高順から見ると、呂布は張遼に比べて遥かに劣っているように見えるのかもしれない。高順が曹操軍に参加した理由がそこにあるのかは定かではないが、結果として張遼の離脱の原因を作ってしまったとも言える。
高順にとって張遼とは、その高順の感情を抜きにしても友と呼ぶに相応しい男であった。
そんな高順に張遼は、自分の妻と子を守って欲しいと言って呂布に託したのだ。その約束を守らなければ、張遼の妻達に合わせる顔が無い。
「……ってなわけで、俺らは徐州を離れられなかったんだよ」
高順はそう言って話を締め括ったが、陳宮は首を傾げている。
「張遼の妻子はどこへ行った?」
張遼の妻である厳氏と張飛の娘である燕姫の二人は、曹操軍に捕らわれて連れ去られた後、どこにも姿が無かった。
呂布軍は曹操軍の攻撃を防いだが、張遼はその報奨を得る前に呂布のもとを離れたので何の恩賞も得られず、その後すぐに曹操軍の追撃を受けて壊滅。
その後、張遼は曹操軍に捕えられて、張遼の妻は曹操の配下である韓遂によって救出されるも、すでに張遼の姿は無かった。
張遼の妻子は韓遂に連れられて、曹操が用意した荊州へ脱出しようとしていたが、荊州は袁紹軍が曹操軍の猛攻を受けている為に安全な道の確保が難しく、さらに荊州へ向かう途中は曹操軍の別働隊に襲われるなど苦労の連続だったが、それでもなんとか荊州に到着した。
張遼の妻子を連れてきた漢人の武将である趙岑は荊州到着後すぐに姿を消し、代わりに荊州を守る為に残っていた韓遂配下の馬騰が張遼の妻子の保護を買って出た。
ちなみにこの一件に関して、韓胤だけは最後まで渋い顔をしていたが誰も相手にしなかった。この男はとにかく胡散臭いが実力に関しては信用して良いので、今はそれどころではないからである。
こうして張遼の妻子三人と一人の女傑は保護され、現在は荊州城へと避難し、そこからは出歩かないようにと言われている。もちろん、張飛と陳宮もその例外ではなく城内から出る事は禁止されていた。それは当然の話なのだが、呂布は張遼の妻子と会いたかった。張遼が呂布の事を気にかけていたように、呂布の方もまた張遼の事は気になっていた。
そして妻達の元に訪れたのは、張遼の所在を確かめる為でもあった。
妻の張氏に聞くと、やはりと言うべきか、張遼の妻は劉備の妻となったと聞かされた。劉備は張飛の義理の弟にあたる。劉備は関羽、張飛、そして陳宮といった面々と共に曹操軍と対峙する事になり、そこで呂布を自軍に誘った事もあった。
呂布の返事は今も保留のままだが、その時は張遼も一緒にいたはずだった。
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