僕と真一郎

みなと劉

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4話

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その夜、僕と真一郎は神社の境内を離れ、暗がりの街を並んで歩いた。夏祭りの喧騒が嘘のように消えた静かな町は、蝉の声すら遠のき、虫の音だけが響いていた。僕たちの足音がその静寂の中に重なり、規則的なリズムを刻む。それは、まるで今までと変わらない僕たちの日常を暗示しているようだった。

だけど、本当に何も変わらないのだろうか?そんな疑問が胸の奥に広がる。彼の「好きだ」という告白。それに対する僕の曖昧な返事。それだけで、何かが確実に変わった気がしてならなかった。

「なあ、お前さ。」
真一郎がふいに口を開く。その声にハッとしながら、僕は彼の顔を横目で見た。彼の表情は穏やかで、まるで夕暮れの後の空気そのもののようだった。

「今の感じのままでいいよな。」
何のことだろう、と僕は少し戸惑った。でも、真一郎が見ているのは前方。彼は僕に対して、正面から迫るようなことはしない。いつもそうだった。僕のペースに合わせてくれる彼の優しさが、時に少し怖かった。

「このまま、って……」
僕が言葉を探していると、彼は静かに続けた。

「お前に負担はかけたくないんだ。だから、急ぐつもりもないし、これまで通りでいい。ただ、俺がこう思ってるってことだけ、知っててくれれば。」
彼の言葉には押しつけがましさはなく、むしろ穏やかだった。でも、その穏やかさが逆に僕を苦しくさせた。どうしてだろう。もっと自分の気持ちを率直に伝えればいいのに、どうして僕はそれができないのだろう。

「真一郎。」
僕は彼の名前を呼び、足を止めた。真一郎も立ち止まり、振り返る。その顔を見た瞬間、胸の中が熱くなった。彼はこんなにも真っ直ぐな気持ちを向けてくれている。それを受け止める覚悟が、自分にはあるのか。

「……ごめん、俺、正直に言うとまだよく分からないんだ。」
その言葉が出た瞬間、真一郎の瞳が一瞬だけ揺れたように見えた。でも、彼はすぐに柔らかく笑った。

「いいさ。それが本当の気持ちなんだろ?」
彼の言葉に、僕はうなずくことしかできなかった。でも、その後すぐに彼が小さく息を吐いて続けた。

「でもさ、お前がそうやって悩んでくれるだけで、俺は十分だよ。」
その言葉に、僕はどこか救われた気がした。真一郎はいつも、僕の不器用さや迷いを包み込むようにしてくれる。そんな彼に甘えている自分がいることも分かっていた。

二人で再び歩き始めた。やがて真一郎の家が近づき、僕たちは立ち止まった。家の前で別れるいつもの瞬間。でも今夜は、何かが違った。

「おやすみ。」
彼が手を振りながら家に入っていく。その後ろ姿を見つめながら、僕はポケットの中で手を握りしめた。帰り道、夜風が少し冷たく感じられる。彼に「おやすみ」と返すのが精一杯だった自分が、どこか情けなかった。

その夜、部屋に戻って布団に入ったものの、眠気は一向に訪れなかった。真一郎の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。彼の「このままでいい」という言葉が、優しさでありながら、僕にとっては重く響いていた。

それでも、どこかで感じていた。この夏が、僕と真一郎の関係を少しずつ変えていくのだと。静かな町の中で、僕たちの中に芽生えた淡い感情は、まだ形を持たないまま、これからの季節の中で育っていくのだろう。

――それがどんな形になるのかは、まだ僕自身にも分からなかった。

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