始まりの恋

第2章 友情の軌跡

第154話: 夢が目指す先

舞台が終わった翌日、美咲はふとした虚無感に包まれた。あれほどまでに一生懸命だった舞台が終わってしまい、気持ちが空っぽになってしまったような感覚だ。学校では友達や先生たちが「お疲れさま」「感動したよ」と言ってくれるが、なんとなく心ここにあらずの状態で返事をしてしまう。

放課後、千秋に誘われ、美咲は近くのカフェへと足を運んだ。落ち着いた雰囲気のカフェで、窓から差し込む柔らかな光が心地よい空間を作り出している。カフェラテを注文し、千秋と向かい合って席に着くと、千秋が少し照れながら切り出した。

「美咲、なんか元気ないね。もしかして舞台が終わって、ちょっと寂しくなっちゃった？」

その一言に美咲は驚いたが、やはり千秋には見透かされているのかと感じ、少しだけ肩の力が抜けた。美咲は、「そうなんだよね…」と、ぽつりとこぼした。そして、あの舞台にかけた時間がどれだけ大切で、自分にとって特別なものだったかをゆっくりと話し始めた。

「舞台に立つことで、何か新しい自分に出会えた気がする。でも、その分、もう二度と戻れないって考えると、少し怖いというか…寂しいんだ。」

千秋は真剣な表情で美咲の言葉を聞いていた。そして、にっこりと微笑むと、「それってすごく素敵なことだと思うよ」と優しく言葉をかけた。「だって、美咲はその舞台で自分の殻を破ったんだもん。その経験は絶対に無駄にならないよ。」

千秋のその言葉に、美咲は心の中で温かい何かが溢れ出すのを感じた。そうだ、舞台が終わったからといって、自分が変わったことや得たものが消えるわけではない。この経験が、これからの自分を支える大切な糧になるんだと気づいた。

帰り道、夕暮れの空がオレンジ色に染まる中、美咲は千秋と並んで歩きながら、「これからもいろんなことに挑戦してみようかな」と新たな決意を胸に抱いた。

その時、ふと千秋が「次は何をやりたい？」と聞いてきた。美咲は少し考えてから、未来に向かってキラキラと目を輝かせながらこう答えた。

「まだ分からないけど、いつかまたみんなと一緒に何かを成し遂げたいな。今回みたいに心から熱中できることを見つけていきたい。」

千秋はその言葉に大きくうなずき、「うん、絶対にまた一緒にやろうね！」と言って、美咲の手をぎゅっと握り返した。美咲はその温かい手のぬくもりに、新たな一歩を踏み出す勇気をもらった気がした。

美咲の中で、舞台の終わりは決して終点ではなく、新しい旅の始まりに過ぎないと気づいた瞬間だった。