始まりの恋

第2章 友情の軌跡

第八十八話: 千秋の秘密

文化祭の準備が本格化し、美咲たちは毎日放課後に集まって、心の音楽をテーマにしたパフォーマンスの練習やアイデア出しに励んでいた。千秋のピアノの演奏に合わせて、美咲の描いた絵が音楽とともに披露される予定で、二人ともそのイメージを大切にしていた。

ある日、美咲は千秋の様子がいつもと少し違うことに気がついた。彼は普段、穏やかで静かな雰囲気を保っているが、その日はどこか落ち着かない表情をしていた。気になった美咲は、練習が終わった後、勇気を出して尋ねることにした。

「千秋くん、何か悩みがあるなら話してみない？私で良ければ力になりたいから」

千秋は少し驚いた顔をしていたが、美咲の真剣な表情に心を開いたのか、静かに話し始めた。「実は…僕は、今まであまり友達がいなかったんだ。家の事情で転校を繰り返していたから、深く関わることを避けてきたんだよ」

彼の言葉を聞き、美咲は驚きと同時に、胸が締めつけられるような思いがした。千秋が心を閉ざしていた背景には、過去の孤独な経験があったのだ。

「だから、今回も…本当はまた友達を作るのが怖かったんだ。だけど、美咲さんやみんなが温かく迎えてくれて、それがすごく嬉しかったんだよ」と、少し照れくさそうに言った。

美咲はその言葉に胸が熱くなり、千秋の気持ちに寄り添うように「千秋くんが来てくれて、私たちも嬉しいよ。だから、もう一人で抱え込まないで。私たちは友達なんだから」と優しく伝えた。

その日以来、千秋は以前よりも心を開き、美咲たちと一緒に文化祭の準備にさらに積極的に取り組むようになった。彼のピアノの演奏も、どこか温かさを増したように感じられた。美咲は、千秋が自分たちと本当の友情を築き始めているのを感じ、心の中で嬉しく思っていた。

そして、美咲たちの「心の音楽」プロジェクトは、千秋の秘密を共有したことでさらに深みを増し、文化祭に向けた準備も加速していくのだった。