始まりの恋

第1章 はじまり

第四十九話: 秋風に揺れる想い

文化祭まであと数日。美咲は朝から部活での最終調整を行い、みんなで合わせる音が日ごとに磨かれていくのを感じていた。オーケストラ部のメンバーたちも気持ちが一つにまとまり、準備は順調そのもの。緊張しながらも、心の奥にわくわくするような期待が膨らんでいた。

そんなある日の夕方、練習が終わって帰ろうとしていると、校門のところで悠斗が待っていてくれた。

「美咲、今日は時間ある？ちょっと寄り道して帰らない？」

悠斗の提案に美咲は頷き、二人で駅前の公園へ向かうことにした。秋の風が吹き抜ける公園には、木々の葉が赤や黄に色づき、少しひんやりとした空気が心地よかった。

「文化祭、もうすぐだね。美咲は緊張してる？」悠斗が少し笑いながら聞いてきた。

「うん、やっぱりちょっとはね。でも、部のみんなと一緒なら大丈夫かなって思ってる」と美咲は少し照れながら答えた。

悠斗は少し遠くを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。「美咲、本当に楽しそうにバイオリンを弾くよね。見ててこっちまで楽しくなるくらい」

その言葉に美咲は驚きながらも、なんだか少し照れくさくなった。「そ、そうかな？悠斗がそう感じてくれてるなら、ちょっと嬉しいかも」

二人の間にしばしの静寂が訪れ、秋風が優しく二人の間を吹き抜ける。紅葉が舞う公園のベンチに座り、夕日が差し込む中、美咲はふと悠斗の横顔を見つめた。

すると、悠斗がふいに真剣な顔で美咲に向き直った。

「美咲、俺…文化祭のステージで、美咲が頑張っている姿をちゃんと応援してるからさ。絶対に成功させような」

悠斗のまっすぐな視線に、美咲は胸がどきりとした。彼の言葉に背中を押されたような気がして、心に温かいものが広がる。

「うん、ありがとう。悠斗が応援してくれるなら、きっと大丈夫だね」美咲はそう言って、自然と笑顔がこぼれた。

夕焼けの中、二人はしばらくその場で話し続け、少しずつ訪れる秋の夜に包まれていった。文化祭での演奏に対する不安は消え、悠斗と一緒に過ごすこの時間が特別に感じられる美咲。彼との何気ない時間が、今の美咲にとって一番の支えとなっていた。

文化祭当日が近づく中で、悠斗との関係も少しずつ変わりつつあることを、美咲はなんとなく感じ始めていた。