始まりの恋

第1章 はじまり

第四十六話: 小さな不安

文化祭に向けたオーケストラ部の練習は本格化し、毎日が忙しくも充実した日々を送っていた美咲。しかし、同時に小さな不安も芽生え始めていた。

練習が進むにつれて、部員たちの意見や演奏スタイルに微妙なズレが見えてきた。部員の中には、曲の解釈やリズムの取り方などについて自分の意見を強く主張するメンバーもおり、そのことで時折意見の衝突が起きていた。

「うーん、この部分はもう少しテンポを落とした方が雰囲気が出ると思うんだけど…」と、ある先輩が提案すると、別の部員がすかさず反論した。「いや、むしろテンポを上げた方が聴き手にインパクトを与えられるんじゃないかな？」

美咲は二人のやり取りを聞きながら、どうしたら良いのか迷っていた。仲間たちと力を合わせて一つの音楽を作り上げたい気持ちはあるものの、意見が一致しないことへの不安が募っていく。

その日の練習後、美咲はひとりで練習室に残り、心を落ち着かせるようにバイオリンの音を響かせていた。自分が好きなメロディーをゆっくりと弾くことで、少しだけ心が和らいでいくのを感じた。

すると、いつの間にか悠斗が練習室のドアをノックしていた。

「美咲、大丈夫？なんだか悩んでいるみたいだけど…」悠斗は優しい声で問いかけた。

「うん…実は、部のメンバー同士で意見が合わなくて。どうしたらいいのか分からなくて…」美咲は、彼に正直な気持ちを打ち明けた。

悠斗は少し考え込んだあと、静かに口を開いた。「文化祭に向けて、みんなが良い演奏をしたいって気持ちが強いからこそ、意見がぶつかり合うんだと思うよ。それだけ美咲の部は本気なんだってことじゃないかな？」

「本気だからこそ…か。そうかもしれない」美咲は悠斗の言葉に少し気持ちが軽くなったような気がした。

「お互いの気持ちを理解し合うためにも、時間をかけて話し合ってみるのもいいんじゃない？」悠斗は励ましの言葉をかけた。

「うん、そうしてみる。ありがとう、悠斗。話を聞いてくれて…なんだか心が軽くなったよ」美咲は彼に感謝の気持ちを伝えた。

その夜、美咲は文化祭での成功を祈りながら、もう一度仲間たちとしっかり向き合ってみようと決心した。