始まりの恋

第1章 はじまり

第二十八話: 遠くても近い存在

オーディションから数日が経った。結果発表の日、美咲は友達と一緒に掲示板の前に立っていた。発表の瞬間、鼓動が速くなるのを感じながら、掲示された名前の中に自分の名前を探した。

――あった！美咲の名前が、確かにそこに書かれていた。

「やった！美咲、すごいよ！」友達が喜びの声をあげ、美咲も思わず笑顔になった。努力が報われた瞬間で、胸の中に達成感と喜びが湧き上がってきた。

その日の帰り道、美咲は家族に報告するのを楽しみに、足取りも軽やかだった。そして、悠斗にもすぐにこの喜びを伝えたいと、スマートフォンを手にメッセージを送った。

「オーディションに受かったよ！これも悠斗の応援のおかげだよ、ありがとう！」

すると、すぐに返事が返ってきた。

「すごいじゃん、美咲！俺も本当に嬉しい。きっと美咲ならできると思ってたよ。おめでとう！」

悠斗の言葉が、美咲の心をさらに温かく包んだ。彼は遠くにいても、いつも近くに感じられる存在だった。お互いに応援し合い、支え合っている関係が心から誇らしかった。

翌日から、美咲は本格的なコンクールに向けた練習に取り組むことになった。学校が終わった後の放課後、音楽室にこもって練習する日々が再び始まった。悠斗と再会する冬休みまであと少し。それまでにさらに自分を磨き、胸を張って会えるようになりたいと思っていた。

ある日、先生が美咲に声をかけた。

「美咲さん、コンクールの練習も順調ですね。このままいけば、素晴らしい演奏ができると思いますよ」

先生の言葉に、美咲は自信を持つと同時に、自分の音楽への情熱がますます強くなっていることを実感した。音楽を通じて自分を表現する喜びや達成感が、彼女の毎日を豊かにしてくれた。

家に帰った後、美咲は悠斗とのやり取りを見返し、彼が励ましてくれた言葉や応援のメッセージに、改めて感謝の気持ちが湧き上がった。彼とはまだ直接会えていないが、その存在があるだけで、自分はもっと頑張れると感じていた。

「悠斗も、今ごろ頑張ってるのかな…」と、美咲はふとつぶやき、彼との再会を楽しみにしながら一人静かに微笑んだ。

冬の風が冷たく吹く季節。遠くにいる悠斗のことを想いながら、二人の絆が確かに深まっているのを美咲は感じていた。そして、再会の日まであと少し。彼女の心は、温かな期待で満ちていた。