始まりの恋

第1章 はじまり

第二十四話: 文化祭の幕開け

文化祭当日がついに訪れた。学校中が装飾で彩られ、廊下にはさまざまな模擬店や展示が並んでいる。教室からも楽しそうな笑い声が響き渡り、活気にあふれていた。美咲も朝からクラスの展示を手伝ったり、友達と校内を回ったりして、心が弾むのを感じていた。

しかし、心のどこかでやはり緊張が湧き上がってきた。今日の午後には、いよいよメインステージでバンド演奏を披露する。いつもとは違う規模の観客を前にしての演奏で、どんな反応が返ってくるのか不安もあった。

昼休みを迎えると、美咲はバンドメンバーたちと控室に集まった。中島がニコニコしながら「大丈夫、大成功するよ」と励ましてくれたが、美咲は緊張で心が落ち着かない。

「やっぱり緊張するよね、こんなにたくさんの人の前で演奏するなんて」と美咲がつぶやくと、メンバーの一人が冗談交じりに「じゃあ、みんな美咲だけを見てるって思って演奏しよう！」と笑った。

その言葉に、少しだけ緊張が和らぎ、美咲も笑顔を取り戻した。そして、ステージ衣装に着替え、みんなで円陣を組み、気合いを入れた。

「絶対に楽しもう！」と声を合わせ、緊張を吹き飛ばすように叫んだ瞬間、まるで自分たちがひとつのチームとして心を通わせているような感覚があった。

そして、いよいよ本番の時間がやってきた。ステージに上がり、眩しいライトの中で観客を見渡すと、校庭には大勢の生徒たちが集まっていた。顔をよく見ると、クラスメートや先生たち、さらには後輩や他の部活動の仲間たちも応援に来てくれていることがわかった。

美咲の胸がドキドキと高鳴るのを感じながら、マイクの前に立つと、自然と悠斗のことが思い浮かんだ。遠くにいる悠斗も、きっと同じように頑張っているはずだと思うと、勇気が湧いてきた。

深呼吸をして、最初の曲が始まると、まるでその瞬間だけが永遠に続いているかのような感覚に包まれた。音楽が始まると、緊張は一気に消え、自分たちの演奏に集中できるようになった。観客の反応も良く、美咲は心の底から楽しんでいた。

そして、最後の曲に移る前、美咲はマイクに向かって観客に話しかけた。

「今日は、みんなの前で演奏できて本当に嬉しいです。この曲は私にとってとても大切な曲で、心を込めて歌いたいと思います。」

そう言って演奏が始まると、心に込めた想いが自然と歌詞に乗って流れ出した。悠斗との思い出、別れの切なさ、そして彼と離れても頑張ろうとする決意――そのすべてが、美咲の歌声に詰まっていた。

曲が終わると、観客から大きな拍手が湧き上がった。美咲は息を切らしながらも、温かい気持ちに包まれていた。彼女の目には少し涙が浮かんでいたが、それは悲しみではなく、成長と新しい一歩を踏み出せたことへの感謝の涙だった。

ステージから降りた美咲に、メンバーたちが「最高だったよ！」と声をかけてくれた。みんなと喜びを分かち合いながら、美咲は心の中で悠斗に感謝を伝えた。「悠斗、あなたのおかげで私はここまで来れたよ」と。

こうして文化祭の一日は終わり、そして美咲は新たな日々へとまた一歩踏み出していくのだった。