先生と俺

みなと劉

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第86話

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俺が立ち上がり、家に帰るための準備をしていると、不意に健太が俺の手を引っ張った。
その力強さに驚き、バランスを崩した瞬間、気づけば彼の顔がすぐ目の前に迫っていた。

「えっ…」

その瞬間、俺たちの唇が軽く触れ合った。
あまりにも唐突な出来事に、時間が止まったような感覚がした。
驚きと戸惑いで頭の中が混乱し、何も言葉が出てこない。
健太もすぐに手を離し、少し顔を赤らめて視線を逸らした。
「ごめん…そんなつもりじゃ…」
と、彼が少し戸惑いながら言葉を紡ぐ。
俺もどう反応すればいいのかわからず、胸がドキドキと早鐘を打つ。
何かを言わなきゃ、と思いつつも、言葉が喉に詰まったように出てこない。

「いや…大丈夫だよ。」
結局、そう返すのが精一杯だった。

部屋の中に一瞬、気まずい沈黙が流れた。
お互いに目を合わせることができず、ただその場に立ち尽くしていた。
「…じゃあ、また明日学校でな。」
そう言って、俺は少しぎこちなく笑顔を作り、健太に別れを告げた。
「うん、また明日。」
健太も、少し力のない声で返してくれた。
俺はそのまま玄関へ向かい、靴を履いて家を出た。
健太の家のドアが閉まる音が、妙に大きく響いた気がした。

帰り道、俺はずっとさっきの出来事を考えながら歩いていた。
心臓の鼓動がまだ落ち着かなくて、頭の中はぐるぐるといろんな考えが巡っている。
健太とのキス…あれは事故だったのか、それとも…。
思考が混乱する中、家に向かう足取りだけはいつもより早くなっていた。

家に帰ると、いつも通り母さんが夕飯の準備をしていた。
俺もその手伝いをしながら、頭の中ではさっきの出来事がぐるぐると回っていたけど、これだけは誰にも話さないと決めた。
健太とのことは、俺の心の中にそっとしまっておく。
夕飯は母さんが作った煮込みハンバーグだった。食卓で父さんと母さんが今日の出来事を話している中、俺も何気なくその会話に加わった。
「明日、学校で先生に話そうかな。今日の晩御飯、煮込みハンバーグだったことを。」
俺はそう心に決めた。
明日の学校では、先生にこの日常的な話をして、健太のことは忘れるようにしよう。
普通の日常に戻れるように、いつも通りの俺でいよう。

晩御飯を食べ終え、お風呂に入って、布団に入った後も、健太とのことが頭から離れなかったけど、明日はきっと何事もなかったように過ごせるはずだと自分に言い聞かせて、静かに目を閉じた。
ソファに深く座り込み、テレビの画面に目を向けると、番組はノストラダムスの予言について解説していた。画面には彼の肖像画や、古びた書物に書かれた予言の言葉が映し出されている。

「ノストラダムスは、16世紀にフランスで活躍した医師であり予言者。彼の予言集は多くの人々に影響を与え、1999年の『恐怖の大王』に関する予言は特に有名です。」
ナレーターの落ち着いた声が響く。
俺はふと、あの「恐怖の大王」という言葉に何か不安を感じた。
1999年に世界が終わると言われていたのは、自分がまだ生まれていない時代の話だが、それでもその言葉が心に響くのだ。

画面には、ノストラダムスの他の予言についても紹介が続く。
過去に起こった出来事や、未来に関する不吉な予言が次々と語られていく。
異次元の存在や、未来の技術についても触れられていて、まるでSF映画のようだ。
「信じるかどうかは個々人の自由ですが、ノストラダムスの予言は人類の未来に対する興味をかき立てるものです。」
ナレーターはそう締めくくった。

俺はリモコンでテレビを消し、しばらくぼんやりと考え込んだ。
人間は未来を知ることで何を得ようとするのだろうか。
もしかしたら、先生にこの話もしてみようかと思いながら、いつの間にか意識が薄れていった。
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