先生と俺

第75話

先生の解説が終わると、クラス全体が静まり返った。
みんなが戦国時代の戦術の奥深さに感心している様子だった。
俺もまた、先生の言葉に引き込まれ、心の中で歴史の中に生きた武将たちの姿を思い描いていた。
授業が終わり、昼休みに入ると、俺は再び先生のところに行った。
啄木鳥戦法についてもっと詳しく知りたいという気持ちが抑えきれなかったからだ。
「先生、さっきの話、とても面白かったです。啄木鳥戦法って、もし上手くいっていたら、戦の結果はどうなっていたんでしょうか？」

俺がそう尋ねると、先生は少し考え込みながら答えてくれた。

「もし啄木鳥戦法が成功していたら、武田信玄は上杉謙信を大きく圧倒できたかもしれません。信玄の計画通りに進んでいたら、上杉軍は背後を突かれて混乱し、そのまま大敗していた可能性が高いですね。」
先生は穏やかに微笑みながら続けた。
「ただ、歴史にはもしもはありません。
上杉謙信が信玄の策を見破ったことで、結果として川中島の戦いは両者の決定的な勝利には至らず、長引く戦国時代の一幕として残りました。
それが歴史の面白さでもあり、また難しさでもあります。」
俺は先生の話を聞きながら、戦国時代の武将たちが常に命を懸けた決断をしていたことを改めて感じた。
もしもがないからこそ、彼らの一瞬一瞬の選択が、歴史に大きな影響を与えていたんだと。

午後の授業が始まるまでの間、俺は先生との話を思い返しながら、頭の中で戦国時代の戦場を思い描いていた。
そして、いつか自分もこうした歴史に詳しくなって、誰かに語り継げるようになりたいと思った。
午後の授業が始まり、いつもの日常が戻ってきたけれど、俺の心の中にはまだ戦国時代の風が吹いているようだった。
歴史は過去の話じゃなくて、今に生きているんだと感じた一日だった。
昼休憩が終わり、五時間目の授業が始まった。今日は理科の授業だった。
教室に戻り、先生が黒板の前に立って授業を始めるのを待っていると、ふと気がついた。
先生が、普段よりも少し緊張しているように見えたのだ。

「今日は、光と影について学んでいきます」と先生が言った。

光と影。このテーマは、俺が前に夕日を見ながら感じた不思議さに通じるものがある気がした。
俺は授業に集中することにした。
先生は黒板に太陽の絵を描き、そこから伸びる光線を表す線を引いた。
影がどのようにしてできるのか、そして影の長さや方向が時間帯によってどのように変わるのかを詳しく説明してくれた。
影の長さが時間とともに変わる理由や、夏と冬で影の出来方が違うことなど、興味深い内容だった。
その後、先生は教室の窓を開け、日光を教室に取り入れる実験を始めた。
日光がどの角度で教室に差し込み、どのように物体に影を作るのかを実際に観察するというものだった。
教室の中に置かれた物体が作る影の長さや方向をみんなで測定し、記録していった。
俺も真剣に取り組んだ。
影が伸びたり、縮んだりする様子を観察しながら、自分の影が伸びる夕暮れ時のことを思い出していた。
今、先生の授業で学んでいることが、あの時の不思議な感覚と繋がっているのだと思うと、ますます興味が湧いてきた。

授業が終わる頃には、俺は光と影についてかなり理解が深まった気がした。
そして、ふと先生の方を見てみると、先生もまた、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
きっと、俺たちがしっかり理解している様子を見て安心したのだろう。
五時間目が終わり、放課後の自由な時間がやってきた。
五時間目の理科の授業が終わり、学校の一日も終了した。
俺はいつものようにカバンを背負い、家路につく。

空はまだ明るいが、夕方に近づくにつれて、少しずつオレンジ色に染まってきている。
歩きながら今日の理科の授業を思い返していた。光と影の話は、まさに今、目の前で繰り広げられているこの景色そのものだ。
木々の影が伸び、地面に独特の模様を作り出しているのを見て、思わず足を止めてしまった。
ふと顔を上げると、前方にあの猫が見えた。
昨日も見かけた猫だ。
今日もまた道端に座って、毛づくろいをしている。
俺が近づくと、猫は一瞬こちらをちらっと見て、また自分の顔をぺろぺろと舐め始めた。

「今日も会ったね」
と声をかけると、猫は
「にゃー」と一声鳴いて、ゆっくりと立ち上がる。
そのまま俺の周りをくるくると回り始め、まるで挨拶をしているかのようだ。
「じゃあ、またね」
と言って歩き出すと、猫はしばらく後をついてきたが、やがて別の道へと消えていった。

家に着く頃には、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
今日もまた、母さんに学校での出来事や道中で出会った猫のことを話そうと思いながら、家のドアを開けた。