先生と俺

第66話

学校の帰り道、俺はふと足を止め、夕日が沈む様子を眺めた。
夕焼けに染まった空が赤とオレンジのグラデーションに広がり、遠くの雲は黄金色に輝いている。その光景はどこか神秘的で、思わず息をのんだ。
夕日が地平線に沈んでいくにつれて、辺りは柔らかな薄明りに包まれ、公園の景色もまた幻想的に映し出される。
木々の影が長く伸び、風に揺れる草の音が耳に心地よい。
そんな時、視界の隅に何かが舞うのが見えた。
目を凝らすと、それは一匹の揚羽蝶だった。
揚羽蝶は、夕日に照らされてその黒と黄色の翅が美しく輝いている。
優雅に舞いながら、俺の近くにふわりと寄ってきた。

まるで夕日の光に導かれるように、揚羽蝶は静かに公園の中を飛び回る。
時折、羽ばたきながら木々の間を抜けたり、花の上に軽く止まったりする姿は、まるで自然と一体化しているかのようだ。
俺はその蝶の姿を追いかけるように、公園の中を歩きながら夕日の余韻を楽しんだ。
揚羽蝶は、まるで俺を導くように進み、やがて夕日が完全に沈むと、その姿は静かに消えていった。
その瞬間、何か特別なものを見たような気がして、俺は不思議な感覚に包まれた。
公園にはまだ薄明かりが残っていたが、まるで昼と夜の境界線に立っているかのような、幻想的な雰囲気が漂っていた。

揚羽蝶が消えた後も、その余韻は俺の心に残り、今日の夕日と共にこの日もまた一つ特別な思い出として心に刻まれた。

家に帰ると、母さんがキッチンで夕食の準備をしていた。
俺は靴を脱ぎ、リビングに入りながら、「ただいま」と声をかける。
母さんは振り返って
「おかえり。今日もお疲れ様」
と微笑んだ。
俺はその優しい笑顔に少し安心しつつ、カバンをソファに置いてから、キッチンのカウンター越しに今日の出来事を話し始めた。
「今日の授業、すごく面白かったんだ。
特に音楽の授業で、先生がト音記号やヘ音記号の歴史を教えてくれてさ、それがすごく分かりやすくて…。
授業の最後には自分で音符を書いて、それを先生がピアノで演奏してくれたんだよ。」

母さんは興味深そうにうなずきながら
「へぇ、それはいい授業だったね。音楽って歴史が深いから、そういう話を聞けるのは貴重だよね」
と答えた。
「うん、それに帰り道でね、夕日がすごく綺麗で、公園がまるで別の世界みたいに見えたんだ。
夕日に照らされた公園に揚羽蝶が舞ってて、なんだか特別な時間を過ごしてるみたいな感じがしたよ。」
俺の話を聞きながら、母さんは
「それは素敵な光景だったんだね」
と微笑んだ。
「揚羽蝶か…きっと、何か良いことの前触れかもしれないわね。
夕日も含めて、今日一日がそういう風に感じられたのなら、それだけでも嬉しいことだよね。」
母さんの言葉に、俺は頷いた。
自然が織りなす瞬間や、授業で学んだこと、そして家族と話す時間が、俺の心に温かさを与えてくれていることを改めて感じた。
母さんと話すことで、今日の出来事がさらに深く、心に残るものになった気がする。
「今日は本当に良い一日だったんだな」
と、俺は心の中で思いながら、母さんと一緒に夕食の準備を手伝うことにした。