異世界転移した俺は万能スキルでスローライフを謳歌する

みなと劉

文字の大きさ
上 下
266 / 384

266 翌朝、朝食作りと商品受け渡しの準備をする

しおりを挟む
 
 深い井戸のような、長いトンネルのような真っ暗な場所を、猛烈な勢いにて引っ張られるようにして落ちていく。
 遠ざかる入り口はすぐに点となって見えなくなった。
 ここで景色が一変。
 急に視界がひらけたと思ったら、そこは空の上。
 眼下に広がる真っ赤な大地へとスカイダイビングの真っ最中。
 そんなわたしのカラダにのびてきたのは富士丸くんの手。
 彼はそっとわたしの身をつかむと、すぐさま背中のロケットを点火。
 おかげでことなきを得たわたしたちは、そのまま地表へと降り立つ。
 見渡すかぎりの赤さび色の荒涼地帯。土も空気も風も、何もかもが乾いている。
 雰囲気がどことなく富士丸の亜空間に似ている。
 天を見上げるも自分たちが落ちてきたとおぼしき箇所はどこにも見当たらない。
 おそらくはあの石のヒョウタンの中にとり込まれたのだろうけれども……。

「どれ、人形召喚! おいでませ。たまさぶろう」

 ちょっと格好よく言ってみたけれども、反応はなし。
 富士丸にも自分の亜空間へ行けるか試してもらったけど、こちらもダメ。
 まいったね、こりゃあ。どうやらここは外部から完全に隔絶された場所らしい。
 となると、ルーシーたちとわたしとの間のエネルギー供給回線がどうなっているのかが気になるところ。抜け目のないルーシーのことだから、不測の事態に備えて備蓄はしているだろうけれども、それとてもいつまでもつかわからない。
 わたし発電のクリーンエネルギーにて回っているリンネ組やその周辺にとって、歩く電源であるわたしの身柄こそが肝要。
 青い目をしたお人形さんもつね日頃から「リンネさまは余計なことはしなくていいから、ただ健やかでいて」と口をすっぱくして言っていたっけか。
 ムムム、これはマズいね。急いで外に帰る算段をつけないと。もたもたしていたら怒られちゃうよ。
 珍しく己の脳細胞を使い、うんうん唸っていたら富士丸がある方向を指し示す。
 荒野を渡った先にある山。
 そこには城らしきものの姿が見えている。

「建物があるってことは、ここには何者かがいるってことか。とりあえず行ってみようか」

 富士丸くんの手の平にのって、ギューンとお空をゆく。
 ずんずんと近寄って来る山のお城。岩肌を削ったりくりぬいて作ったような野趣たっぷりな造り。

「あら、けっこう大きな山城。おーい、誰かいませんかー」

 わたしが声をかけたら奥から聞こえてきたのは、カサカサという音。
 その音を耳にしたとたんに、背中にゾクリと悪寒が走る。
 これは……、なにやら聞き覚えがあるような。
 台所の片隅とか、お風呂場の片隅とか、部屋の片隅とか。
 見つけた人を阿鼻叫喚へと誘うは黒くテカるボディ。
 不快度指数と血圧を急上昇させる憎いあんちくしょう。

「ちっ、よもやこんなところで『Gの戦慄』と遭遇するハメになるなんてね」

 昆虫型のハイボ・ロードがいる以上、その可能性が十分にあり得ることにはとっくに気がついていたさ。でもあえて考えないようにしていたんだ。
 もちろん相手がいかにソレからの進化系であろうとも友好的な種族であれば、わたしは偏見を捨てて手をとりあって誼を結ぶ所存であった。
 だが城の中からゾロゾロと溢れ出てきた連中からは、品性の欠片すらも認められない。
 それどころか念話にてこちらの脳裏に届くは「喰いたい」という一念のみ。
 なんとも旺盛な食欲にて本能全開。
 あー、これは意志の疎通は無理だね。
 しかも鬼メイドのアルバよりも一回りデカい「Gの戦慄」とか、とんだ悪夢だよ。
 映画公開されたら失神者続出にて、即上映禁止処分をくらうであろう大迫力の光景。
 健康スキルによる神鋼精神でなかったら、わたしとてどうなっていたことか。
 まぁ、だからこそ何者かの手によって石のヒョウタンの中に封じられていたのかもしれないけど。

 ついに辛抱たまらんとばかりに、連中がワラワラと向かって来たので、わたしは左人差し指型マグナムをズドンと放ち、先頭の一匹の脳天を打ち抜く。
 車が派手に横転するかのごとくカラダがはずみ、黄色い体液が血飛沫となりて舞い散る。
 これが開戦の合図となって、これより地獄の大乱戦が幕を開けた。
 はじめは空の上から一方的に射撃を展開しようかとおもったけれども、連中にもツバサがあることを思い出してヤメる。
 ぶーんとこっちに向かってくる姿はちょっと見たくないもの。
 富士丸の眼がピカっとして光線が一閃。爆発大炎上する大地。吹き飛び爆散する無数の敵影。だがそれでも怯まずに突っ込んでくる連中を、富士丸の肩の上からわたしがバンバン右の中指マシンガンで掃射し、左腕から発射されるロケットランチャーで蹴散らす。

「遠慮はいらないよ! 存分にやっちゃって、富士丸」
「ウンガー」

 日頃は何かとチカラを抑えることを強要されてばかりいる異形の巨人。
 しかしここでは遠慮は無用だろう。いちおう隔絶された空間みたいだし、きっと大丈夫。
 だから「好きにやっちゃえ」と許可を出す。
 嬉々としてロケットパンチを放つ富士丸。なんだかよくわらないが金色に輝く拳が飛んでいき、バチバチの火花とプラズマが大量発生。視界を埋め尽くし、敵勢力をなぎ倒し粉砕していく。ついでに大地もゴリゴリ削れていく。
 そしてわたしもこれまで「こいつはちょっとヤバすぎてダメかなぁ」と考えて、使用を自主的に控えていた武器を解禁。
 左膝を立てる形にてしゃがみ込むと、膝の頭がパカンと開いてジャキンと姿をあらわしたのは小型の砲塔。見た目はちょっとずんぐりむっくり。それこそいつの時代の兵器だよと言いたくなるようなレトロ具合。しかしその実態はわたしの魔力を攻撃へと転化して放つ魔導砲なる武器。ちなみに連射こそはできないけれども、魔力を込めれば込めるほどに威力が増していく。

「エネルギー充填はえーと、とりあえず三十ぐらいにしておくか。では、ファイヤー」

 ほんの様子見にて初弾は軽くすませるつもりだった。
 だけれどもいざ攻撃を放とうとした瞬間に「あっ、これマズい」と本能が警鐘をガンガン鳴らしたもので、わたしはすぐさま「富士丸っ、しっかり押さえて!」と叫ぶ。
 あわてて富士丸がわたしの体をその大きな手で器用に掴み支える。
 ほぼそれと同時に放たれた一撃は、神の怒りか、悪魔の咆哮か。
 世界を破滅させるに足る禍々しい蒼光が敵勢もろとも、背後の城、山、それどころか大地に空をも割って、ついには次元の壁をもパリンとぶち抜いた。

 リンネが魔導砲をぶっ放したのと同時刻。
 岩山から発掘されたナゾの巨大ヒョウタン。その内部にのみ込まれたとおぼしき富士丸とリンネの身を案じて、対象の調査検分をしていたルーシーと分体たちは、何やらイヤな気配を感じて、総員が即座に現場を離脱。
 直後にヒョウタンの表面に無数の亀裂が入ったかとおもえば、内部からとんでもないエネルギー量の光線が飛び出してきたからたまらない。
 斜め上空へと突き抜けていった光の奔流。
 空の厚い雲を突破、風穴を開け消し飛ばし、更に飛んで、ついには星の海へ。三千世界の彼方にてキラリ一番星となる。
 一方地上の発射現場はまるで一度に何十ものロケットをまとめて発射したかのような灼熱の風が吹き荒れ、稲妻の嵐が轟々と渦をまき、しっちゃかめっちゃか。
 それがようやく収まったあと。
 ごっそりすり鉢状に抉れた穴の中心部。
 半ば瓦礫に埋もれるような格好にて、コテンとひっくりかえっていたのは、富士丸とわたしことアマノリンネ。
 わたしたちの姿を見つけて駆け寄って来るルーシーズ。
 ムクリと起きて、それをぼんやりと眺めながらわたしが「魔導砲は封印だね」とつぶやくと、富士丸が小刻みに震えながら、コクコク頷いて同意した。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の異世界転生者を拾いました

町島航太
ファンタジー
 深淵から漏れる生物にとって猛毒である瘴気によって草木は枯れ果て、生物は病に侵され、魔物が這い出る災厄の時代。  浄化の神の神殿に仕える瘴気の影響を受けない浄化の騎士のガルは女神に誘われて瘴気を止める旅へと出る。  近くにあるエルフの里を目指して森を歩いていると、土に埋もれた記憶喪失の転生者トキと出会う。  彼女は瘴気を吸収する特異体質の持ち主だった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...