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すれ違う心   ※ゆるいRがあります

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真里洲は綺麗で残酷だ。

「俺には忘れられない人がいる。帰りたいんだ、そいつのところに…近くにいたい」
そう打ち明けられた。
オレはアメリカでの親友の立場をずっと貫いてきた。
この親友関係こそ自分の強みであり価値だった。

いきなり降って沸いたような真里洲の母国からのヘッドハンティングの話、
迷わず転職を決めた真里洲は、これまでのアメリカ生活に何の未練もないかのように母国の日本へと戻った。
オレとはあっけない別れだった。
(どこにも行かないでくれ!オレがお前に尽くすから、何でもするから!!)
そう言って縋って追いかけたかった。
長い間、…本当に長い間、オレは真里洲と、親友として付き合ってきた。
近くにいられるのなら、「親友」でもいいと思ってたから。
いつも軽口をたたくオレを、笑ってくれたり、呆れられたり。
太陽のようなあのまぶしい笑顔を曇らせたくないから、受け入れてはもらえない恋心は覆い隠した。

真里洲と出会ってまもない頃に「恋人にならない?」と告白したオレ。
あいつに惹かれるのに時間なんてかからなかった。
綺麗なくせに飾り気がなくて真面目、成績は優秀だけど、自慢なんて聞いたことない。
あの顔で奥ゆかしい性格だなんてオレの理想的すぎる。
学生時代、普段は決して目立つ行動はしないのに「ここぞ」という時、隠れたリーダーシップが発揮される。
めちゃくちゃかっこよくてそのギャップと男気にしびれた。
でもオレの告白をあっさりと断った真里洲。
まるで取り合ってくれなかった。
当たって砕けたオレだけど、砕けた破片を急いで修復して親友という新たな形におさまった。
オレは、断られてからも好きでい続けた、というよりも一層好きになっていった。
一年一年真里洲はその儚いような美しさを加速させたから。

時が経って告白したことなんて忘れたようにオレは恋人を作って真里洲に紹介もしたし、あの娘が好きだとか嫌いだとか、付き合うとか別れるとか、しょっちゅうそんな恋愛相談もした。
そうすることで、もうお前の事「そういう目」では見てないからと暗に分からせたかった。
真里洲にオレから離れていって欲しくなかったから、あの告白はとっくに冗談に仕立ててしまった。
オレは、きっと変われると思ってた。
なのに何年経っても色んな恋人と朝を迎えてもオレは全然変われなくて、自分を偽り真里洲にひそやかに恋をし続けてた。 
恋人を抱きながらも真里洲を抱く妄想をした。
白い肌に触れてみたくてそっとため息をついてた。 
不毛だとは分かってた。
それでもオレは「親友」と言う立場を崩さず付き合ってきた。
大学の仲間達も留学生として他のアジアからアメリカにやって来たやつも真里洲と反目するやつなんて一人もいなかった。
「お前に挑もうとするやつとか、かかってきたやつを今まで一度も見たことないな」
とオレが面白がって言うと、
「日本の大学にいた頃、俺に反抗して、挑んできた後輩がいたよ」
と少し寂しげに笑った顔にドキッとした。
真里洲は引く手数多なのに、なぜか恋人を作らなかった。
オレはそれがすごく嬉しくもあったけど。
ある時、友人同士の気楽なパーティーで真里洲にしては珍しく飲みすぎて酔っ払った。
というかみんなに寄ってたかって飲まされたせいだ。
皆んなのアイドル的存在の女の子が真里洲のことが好きだって言ったからだ。
酔っ払ったあいつはのおぼつかない体を支え、オレに寄りかかってきた重みと温かみを感じた時、喜びと緊張で震えた。
肩を抱いてたオレが歓喜してたのも束の間、真里洲は酩酊状態で誰かの名前を呼んだ。
「獅子人…」と。
誰のことだ?
そんな名を聞いたことはなかった。
どうしようもなく気になったその名前の主のことを聞いた。
「真里洲、お前誰か忘れられない人とかいるのか?」
酔っている真里洲はぼんやり遠くを見ているようでゆっくりまばたきを繰り返したあと短く息をはいて目を閉じた。

「いるよ…」

オレは背筋にピシャっとムチで打たれたような痛みが走った…


オレは知った。
真里洲にはずっと忘れられない人がいるってことを。
二つ年下の後輩、オレと性別が同じ「男」
今は遠く離れてしまって連絡も取っていないらしい。
こんなことってあるのか?
何もかも完璧に持ち合わせてる真里洲が、唯一手放さなければならなかったのが恋だなんて。
諦めたはずなのに、いまだに忘れられないというその初恋の相手。
真里洲に思われてるのはどんなやつなんだ?
そいつは幸せなのか?不幸なのか?
ショックが大きすぎてオレは一時真里洲のそばにいるのが辛かった。
でも近くにいられるオレの方が幸せだって思い直してなんとか耐えた。
出会ってから、時がずいぶんと流れてオレは変われた。
あいつの幸せがオレの幸せだと思えるようになったくらいに。

真里洲が初恋の人と恋人になったと聞いたのはあいつが日本に帰国してからまもなくのことだった。
思いが報われて幸せになったことを祝福してあげたいのに喪失感がハンパなかった。
結局変わることなんてできなかったんだ。
相手の男にどうしても会ってみたかった。
オレの気持ちに区切りをつけるとかそんなことよりも、とにかく真里洲の心を掴んで離さなかったやつと会ってみたかった。
オレは真里洲の恋人の「獅子人」に会うために日本までやってきた。

7年間でオレは真里洲のことをよく知っていると思っていたし、真里洲への思いは、恋人よりオレの方が勝っているのではないかと思ってた。
けれどオレは見事に獅子人に撃沈された。
この上なく獅子人に深く愛されてる今の真里洲は、美しさの中に優しい甘さと柔らかさがあって幸せそうでキラキラしてた。
獅子人は真里洲への溢れるような愛情を全く隠さない。
真里洲と再会できる日をひたすら待っていたという獅子人、真里洲は片思いなんかじゃなかった。
獅子人は見た目も肩書きも全てが申し分ない完璧な男、真里洲に唯一愛され、選ばれた男…




……獅子人side…
人生最大の過ちだったのか?
二人の別れも、再会も?死神なんかに縋り続けなくても、運命は最初から決まっていたのだろうか?
それともやはり再会するには死神の力が必要だったのか?

僕は人生で一番苦しかったあの別れの日に戻リたい。
真里洲先輩が大学を卒業してアメリカへと旅立った日に戻りたい。
離れていた年月があまりに長くて今更とは分かっていても、もったいなくてやりきれない。
あの時大学生だった二十歳そこそこの自分は、知る由もなくて何も出来なかった。
拒絶されたと思いこんでた。

同性の僕は受け入れてはもらえなかったと決めつけていたから、愛されてたなんて思いもよらない。
卒業式の日、僕は抑えきれずに真里洲先輩を抱きしめてキスしてしまったことを後悔しながら立ち去ることしか出来なかった。
僕が一方的に死ぬほど好きで、片思いだと信じ切って生きてきた。
今になって知ったまさかの両思いだったという顛末、その衝撃の真実。
僕は結婚までして真里洲先輩を忘れようとしたのに。
僕の命と引き換えにしてでも彼の心が欲しかったのに。
胸が締め付けられるように苦しくて切なくて涙が溢れて止まらなくなった。喜びに打ち震えながらも悔やんでも悔やみきれなくて僕は一人でむせび泣いた。

死神は今は嘘のように姿を見せない。




〈秘書は見た〉
副社長が人知れず涙を流す姿を。
夜、誰もいない執務室で一人自分のデスクに浅く腰掛け天井を見上げ副社長は泣いていた。
涙だけが頬を伝っていた。
とても声をかけれる雰囲気ではない。
気付かれない様に立ち去るしかなかった。
あの美しい涙は何の涙なのか?
あんなに切ない涙を流す事自体ただ事ではない気がする。
仕事は問題など起きていない。
親族とか誰かが亡くなったとか聞いてないし、秘書室が把握する限りトラブルも無い。
副社長に限って恋愛方面で泣く事なんてありえないと思うけど、まさか…。
稀に見るハンサムで、才能に溢れ何をやってもスマートでかっこいい。
誰もが憧れる副社長にも人知れず思い悩むことがあるなんて。
切なすぎる涙に胸が痛くて、なんとかできないものかと考えあぐねた。

〈秘書室にて…〉
「副社長の恋人ってどんな人だろうって気になってたんです。いつもストイックで仕事に厳しい副社長はかなり理想が高そうだし」
「恋人は男の人だよ」
「副社長が必死で追いかけている「あの人」のこと知ってるでしょ?あの人が入社した直後から副社長、別人になったでしょ?」
「あの人って?もしかして海外戦略室の?」
「あーー!!」と大声を出した。
そしてハッとして口ごもる。
副社長がやたらと毎日行動をチェックしてる海外戦略室の「真里洲室長」
アメリカのIT企業からヘッドハンティングで入社してきたミステリアスな人物。
真里洲室長と副社長がまさかの恋人関係?ていうかどういう経緯でそうなったの?
副社長は、結婚していた過去もある。
頭をブルブルと振った。
真里洲室長は、正真正銘カッコイイ男性で、副社長とタイプは違うけどイケメンぶりが話題の人。
それこそ二人のお付き合いの噂が広がれば大変なことになるのは目に見えてる。
「ここだけの話にしましょう。親密なところも見かけたし、多分二人はお付き合いされてるから。副社長からチラリとその様な事を聞いた事もある。今は副社長は休憩する時必ず席を外してどこかに行くでしょう?それはそういうことよ」

あの涙は真里洲室長のせいなのだろうか?
二人の関係が公になれば好奇な目に晒されはしないだろうか。
秘書として知っておきたいことがあるのに、まだ謎が多い。



…真里洲side…

探偵社の調査員につきまとわれて、獅子人に連絡を取れる状態ではなかった。
獅子人のことを探偵なんかに嗅ぎ回られたくもなかったから、電話もできなかった。
この調査員、俺とはどこかで会ったことがあるし、絶対に知り合いだと言い張ってまるで友達のようにハグしてきた妙な男。俺の夢の中に出てくる死神に似ている気がした。
同時期にアメリカから親友が俺に会いにきて別れの時、「抱きしめさせてほしい」って言われハグされた。
アメリカではハグなんて誰でもする行為だけど、親友からのハグは強くて少し意味合いが違ってた。
ダメだと気がついた時はすでにおそくて抱きしめられたその姿を獅子人が見ていた。
調査員の男といい、親友といい、立て続けにハグする姿をみて獅子人は頭に血が昇っているように見えた。
獅子人は凍りついたように動かなかくて相手を睨みつけてた。
俺に対しても男に次々抱きしめられるなんて、どうかしてると。


獅子人と連絡が取れず落ち着かない日々を過ごしている。
獅子人は会う事はもちろん、声さえも聞かせてくれない。
まるで二人が結ばれた事など無かったかの様だ。
俺は獅子人の気持ちがわからなくて不安と焦りしかない。
二人で過ごした夜、愛おしさで溢れた。
獅子人の全てを知ってしまった今は恋しい気持ちが膨れ上がり焦がれるように胸が苦しい。
かつて、先輩後輩以上の関係は望まないと心に決めて自分から去った。
俺達二人は、確かに思い合っていたのに踏み出せずに俺は獅子人から遠く離れた。
自分に足りない物が多かったのだと自分を省みた。 
獅子人とは別れた日から一度も会わず、声を聞く事さえなく過ごしてきた。 
獅子人は自分とは違う。
今は別れたとはいえ、獅子人は結婚していたのだから。
そのことが俺を苦しめた。

再会した日、あの頃のまま真っ直ぐな目で俺を見つめた獅子人。
獅子人の幸せを祈れずに、結婚相手と別れることを願ってたなんてこんなにも自分が見苦しくて、さもしい人間だなんて知られたくない。 
俺は獅子人に会うと一瞬で胸が熱くなり、ときめいてそして苦しくなる。
獅子人は凛々しくて周りが萎れて見えるほど華やかで輝いているから。
俺が会いたくても獅子人が俺と同じ気持ちとは限らないとわかってる。


まだ再会して数日しか経っていなかったのに、獅子人は俺の手を取りホテルの部屋へと向かった。
俺は拒まなかった。 
ホテルの一室で、二人は離れていた時間を埋めるかの様に抱き合った。
そこは二人だけの世界。
何かに魅入られ何も考えずただ本能に従った。
獅子人と過ごした初めての夜は不思議なことに違和感などなかった。
最初は緊張のあまりぎこちなかったが素肌に触れるだけで全身に心地良い痺れが起こった。
いつの間にか緊張が興奮に変わった。
彼から甘い香りがして実際肌を味わうとその肌自体が甘く感じた…。

獅子人、俺に初めて触れた時お前は本当はどう思ってたんだ?


…獅子人side…

真里洲の体は艶やかですべすべして弾力があった。
なんて魅力的なんだろうと感嘆した。
肌を重ねると脳が蕩けるようで体全体が喜びで震えた。
初めての感覚、あまりの気持ち良さに、僕は最中に声なんて出した事は一度もないのに無意識に声が出てた。
「大好きだ」「愛している」と真里洲に言い聞かせるようにして抱いた。
何度もイカされそうになり、最後に辿り着くのを必死で耐えた。
幸せな背徳感に包まれながらのかけがえのない僕の「先輩との初めて」に凄まじい快感を得て涙が溢れた。
隣にいる真里洲先輩を見るとまた胸が締め付けられた。
終えたばかりなのに体が触れるとすぐに反応してしまう。 
醜いまでの欲望と溢れんばかりの愛しい思いは紙一重。
僕以外が見ることは絶対許さない。
朝が来れば、離れてしまう、時間の経過とともに喜びが苦しみに変わってくる。
真里洲の気持ちが掴めていない気がして不安にもなる。
あの日の様に別れるなんて二度と僕は耐えられない。
もう離れては生きていけない。
無情な朝が来る、携帯電話が鳴る音で仕事で緊急事態が起こり現実に引き戻された。
時間がなくて今後の事の話が先輩とできなかった。

緊急の仕事が立て込んで連絡ができないでいたら真里洲先輩からも音沙汰がない。
やっとのことでこちらから連絡しても、なしのつぶて。
何度電話しても出てくれない。
連絡が取れなくてどんどん不安が募る。
会えなくてもせめて声が聞きたいのに。
再会したばかりの頃、真里洲先輩は自分は身勝手な人間だから好きになってもらう価値なんてないと言った。 
その後はまるで誰かに操られているかのように大胆なことを言ったり、急によそよそしくなったりしたことがあった。
僕の恋人になってくれるって言ってくれたけど、真里洲先輩はどこか不安定にもみえてすごく心配だった。
そして次々と真里洲先輩に迫ってくるやつらにも振り回される。

真里洲先輩…僕達の初めての時、あなたは本当はどう思ってた?
僕は独りよがりになってはいなかっただろうか。




相変わらず獅子人からの連絡が絶たれてる。
携帯も繋がらない。
得体の知れない不安で俺の動揺は続いた。
今になって無かったことになどできるはずも無く、とうとう獅子人のマンションにまで来てしまった。
今までの人生でこんな事をするのは初めてだ。
獅子人の住むマンションの前で足が止まった。
エントランスで見たのは、獅子人の別れた元妻の姿だったから。
彼女は買い物袋を抱えて綺麗な笑みを浮かべていた。
俺は目の前が真っ暗になった。まさかヨリを戻したのか?
獅子人は、俺をこんな駄目な男にして満足なのか?
元妻が戻ったならなぜ俺と寝たんだ?
あいつは自分が何をしたか分かってない、俺はもう獅子人なしでは生きられないのに。



… 毎夜真里洲の隣で眠りにつき、朝起きると寄り添い隣にいる。
短い人生なんだから一日も早くそれを自分の手で現実にしなければ。
美しい真里洲をもうこれ以上誰にも触れさせない。
二人が結ばれた日から真里洲以外は要らないという強い思いが生まれた。
だからこそ自分以外の誰か熱い抱擁シーンは、心を壊す破壊力がありすぎた。
今会って顔を見たら無茶苦茶にしてしまいそうだ。
忙しくて先輩への連絡もままならずもだえている。
今はただひたすらに真里洲先輩に会いたい。
僕が上書きして抱き合って眠りたい。
今夜も体が疼いて辛い夜になる…



今はただひたすら獅子人に会いたい。
獅子人の元妻の存在が、どうしようもなく気になって胸が痛い。
俺が忘れさせることができたならいいのに。
獅子人を抱きしめたいし、抱きしめてほしい。
今夜も眠れない夜になる…
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