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再会
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恋に落ちる瞬間なんて、誰にもわからないものである。
優だってまさか自分が一瞬にして同性の相手に心を鷲掴みにされるなんて想像すら出来なかった。
「人は見た目より中身が大切」なんて言われるけど、優はマリスの見た目に心を奪われた。
マリスの美しい容姿に強烈に惹かれたのだからどうしようもない。
これがドストライクということなのか。
今までの自分が知る「好き」という感覚とは違った全く別次元の「猛烈に好き」を知ってしまった。
優とマリスの再会…
優が焦がれた瞬間は、出会いから1年以上の時を経ていきなりやってきた。
……
総務部あての書類を提出するため、本社ビルに1人でやって来た優はエレベーターの中で大きく息を吐いた。
総務部は4階、マリスのいる海外事業部は9階にある。
(マリスさんはこの建物内のどこかにいるのだろうか?)
簡単に会えるとは思えないが、ソワソワして仕方がない。
優は総務での用事を済ませ、帰るために再びエレベーターに乗った。
1階のエントランスに到着しエレベーターのドアが開き優が前を見た時、心臓が止まりそうになった。
開いたドアの前にまさに会いたかったマリスが立っていたからだ。
書類を抱えたおそらく部下であろう二人組が、マリスに話かけていた。
優と目が合うと、マリスも驚いた様な「あっ」という表情に変わった。
優がガチガチに緊張しながら「あの…」と声を発する、
マリスは部下達に先に行くように言って、自分だけエントランスに残った。
優はマリスに向かって「お疲れ様です」と深く頭を下げる。
なかなか頭を上げない優に向かって、「頭を上げて」と穏やかに声をかけてくれた。
マリスの声を間近で聞き、今、再会しているのが現実なのだと認識した。
「ここに就職したんだね」
「ご不快でしょうか…」
そう言って再び頭を下げる。
「だからもう頭を上げて」と言って肩をトントンと軽く叩かれた。
優は体が熱くなって急いで頭を上げた。
目の前にずっと頭の中から離れなかったマリスの綺麗な顔があった。
その美しい容姿にどうしても目を奪われる。
優は唐突に
「あの時の腕の傷はどうなりましたか?跡は残ったのでしょうか」と聞いてしまった。
「今いきなりその質問?」
マリスは困った様な顔をして、苦笑いしている。
その顔が、不謹慎にもなんて可愛いいんだろうと思った。
マリスさんは本当に不思議な人だ。
一回りも年上でしかも会社では偉い人で、雲の上の存在のはずなのに守りたくなるというか、何でもしてあげたくなるような気持ちにさせられるのだ。
これが「庇護欲そそる」ってやつなのか。
優はそんな大それた思いを抱きながら、会話を少しでも長く続けたくて頭をフル回転させる。
先に言葉を発したのはマリスの方だった。
「実は製造部のケン先輩に君が入社したことを聞いてた。でも会うとやっぱり少し気まずい感じはするね」
気まずいと言われながらもマリスの話し方は穏やかで優しかった。
「本当にすいませんでした」
優が再び謝罪すると
「君は縁あってこの会社に就職したんだから、会社と自分自身の為に頑張ればいい。今後もし会うことがあっても、あの事故のことに触れるのはやめよう。こんな風に会うたびに謝罪されても困るから。ああ、それから君が気にしている傷跡だけど、傷痕は薄くなって全然目立たなくなったから気にしなくていい」
そう言ってくれた。
優は傷痕を見たいと思った。
「それから事故の件は他言無用にしてほしい」
優は同期のマリオとジュンには既に話してしまったことを伝えると「じゃあ、話した人には口止めしておいて」
とマリスに念押しされた。
マリスさんに怪我をさせたと噂になればきっと優は白い目で見られてしまう。
被害者側のマリスさんに気を遣わせるなんて、優はありがたいやら情けないやらで泣きそうだった。
「本当に色々と申し訳ございません」
「もういいから、ではこれで。仕事頑張って」
「お時間いただきありがとうございました。」
優はもう一度深々と頭を下げてマリスを見送った。
優はしばらくその場に立ち尽くしていた。
ずっとずっと会いたかったマリスさんにとうとう会えた。
しかも会話まで交わした。
いまだに胸の高鳴りがおさまらない。
優は思いきり駆け出していた。
……
休憩室の椅子にマリオとジュンが腰かけて休憩していると息を切らした優が飛び込んできた。
驚く二人を前にして優はかなり興奮気味だ。
「マリス室長に会えたんだ!!話もたくさん出来た。今僕はすごく感動してる!」
「「えっ?」」
マリオとジュンが顔を見合わせる。
「いったいどこで?」
「本社の玄関のエレベーターホールで偶然会った!僕に「縁あってこの会社に就職したなら仕事を頑張れ」って声をかけてくれて。マリス室長かっこよくてすごく優しかった」
「おいおいちょっと落ち着けよ」
マリオが優をたしなめる様に声かける。
「とにかくよかったな」ジュンも優の笑顔につられて笑って頷いた。
「それからマリス室長に「事故の件は誰にも言うな」って念押しされたからマリオもジュンも誰にも言わないでほしい。3人の秘密ってことでよろしく頼むな」
それだけ言うと優は興奮冷めやらぬ様子で休憩室を早足で出て行った。
「なんか言いたいことだけ言っていなくなったな」
「台風一過ってな感じだった」少し呆れた様にジュンとマリオが言った。
「あんなに嬉しそうにしちゃって、この間は落ち込んでこの世の終わりみたいな顔してたのに現金なもんだ」
「怪我させられた加害者が同じ会社に入ってきたってわかったらマリス室長は気持ち悪く思わないのかな?」
「コラ、マリオ!言い過ぎだぞ、わざと怪我させたわけじゃないし」
「マリス室長は優の気持ちを知らないから、声をかけられたんだと思うぞ」
知ったらどうすんだ?
付き合えるなんて到底思えないけど、優と室長しだいで何が起こるかなんてわからない。
マリオは優のことがなんだか羨ましいと思ってハッとした。
この複雑な気持ちは一体何なのだろうか?
…
再会を果たした優は晴れやかで幸せな気持ちで満たされていた。
もっと自分のことを知ってもらいたい。
現金なもので、あれほど不安だったのに今は受け入れてもらいたくてすっかり貪欲になっている。
彼の表情や声を思い出すと興奮して平常心が保てない。こんなにも夢中になる恋は初めてだ。
話をしたことを思い出しては顔がほころんでしまう。
努力して同じ会社に就職したものの、優は長い間葛藤してきた。
会ってもあからさまに嫌な顔をされたらどうしようと不安だったが杞憂だった。
どうしてもマリスとは運命の出会いだと思いたい。
これからが勝負ではないのか?
マリスさんの恋人は男なのだから自分にもチャンスがあると俄然前向きになってきた。
彼の隣にいたいのだ!
これからどうアプローチしていくか考えて胸を高鳴らせる優だった。
しかしこの先、優の晴れやかな気持ちに一瞬にして暗雲が立ち込め、ひどく嫉妬に苦しみかき乱される事となる。
優だってまさか自分が一瞬にして同性の相手に心を鷲掴みにされるなんて想像すら出来なかった。
「人は見た目より中身が大切」なんて言われるけど、優はマリスの見た目に心を奪われた。
マリスの美しい容姿に強烈に惹かれたのだからどうしようもない。
これがドストライクということなのか。
今までの自分が知る「好き」という感覚とは違った全く別次元の「猛烈に好き」を知ってしまった。
優とマリスの再会…
優が焦がれた瞬間は、出会いから1年以上の時を経ていきなりやってきた。
……
総務部あての書類を提出するため、本社ビルに1人でやって来た優はエレベーターの中で大きく息を吐いた。
総務部は4階、マリスのいる海外事業部は9階にある。
(マリスさんはこの建物内のどこかにいるのだろうか?)
簡単に会えるとは思えないが、ソワソワして仕方がない。
優は総務での用事を済ませ、帰るために再びエレベーターに乗った。
1階のエントランスに到着しエレベーターのドアが開き優が前を見た時、心臓が止まりそうになった。
開いたドアの前にまさに会いたかったマリスが立っていたからだ。
書類を抱えたおそらく部下であろう二人組が、マリスに話かけていた。
優と目が合うと、マリスも驚いた様な「あっ」という表情に変わった。
優がガチガチに緊張しながら「あの…」と声を発する、
マリスは部下達に先に行くように言って、自分だけエントランスに残った。
優はマリスに向かって「お疲れ様です」と深く頭を下げる。
なかなか頭を上げない優に向かって、「頭を上げて」と穏やかに声をかけてくれた。
マリスの声を間近で聞き、今、再会しているのが現実なのだと認識した。
「ここに就職したんだね」
「ご不快でしょうか…」
そう言って再び頭を下げる。
「だからもう頭を上げて」と言って肩をトントンと軽く叩かれた。
優は体が熱くなって急いで頭を上げた。
目の前にずっと頭の中から離れなかったマリスの綺麗な顔があった。
その美しい容姿にどうしても目を奪われる。
優は唐突に
「あの時の腕の傷はどうなりましたか?跡は残ったのでしょうか」と聞いてしまった。
「今いきなりその質問?」
マリスは困った様な顔をして、苦笑いしている。
その顔が、不謹慎にもなんて可愛いいんだろうと思った。
マリスさんは本当に不思議な人だ。
一回りも年上でしかも会社では偉い人で、雲の上の存在のはずなのに守りたくなるというか、何でもしてあげたくなるような気持ちにさせられるのだ。
これが「庇護欲そそる」ってやつなのか。
優はそんな大それた思いを抱きながら、会話を少しでも長く続けたくて頭をフル回転させる。
先に言葉を発したのはマリスの方だった。
「実は製造部のケン先輩に君が入社したことを聞いてた。でも会うとやっぱり少し気まずい感じはするね」
気まずいと言われながらもマリスの話し方は穏やかで優しかった。
「本当にすいませんでした」
優が再び謝罪すると
「君は縁あってこの会社に就職したんだから、会社と自分自身の為に頑張ればいい。今後もし会うことがあっても、あの事故のことに触れるのはやめよう。こんな風に会うたびに謝罪されても困るから。ああ、それから君が気にしている傷跡だけど、傷痕は薄くなって全然目立たなくなったから気にしなくていい」
そう言ってくれた。
優は傷痕を見たいと思った。
「それから事故の件は他言無用にしてほしい」
優は同期のマリオとジュンには既に話してしまったことを伝えると「じゃあ、話した人には口止めしておいて」
とマリスに念押しされた。
マリスさんに怪我をさせたと噂になればきっと優は白い目で見られてしまう。
被害者側のマリスさんに気を遣わせるなんて、優はありがたいやら情けないやらで泣きそうだった。
「本当に色々と申し訳ございません」
「もういいから、ではこれで。仕事頑張って」
「お時間いただきありがとうございました。」
優はもう一度深々と頭を下げてマリスを見送った。
優はしばらくその場に立ち尽くしていた。
ずっとずっと会いたかったマリスさんにとうとう会えた。
しかも会話まで交わした。
いまだに胸の高鳴りがおさまらない。
優は思いきり駆け出していた。
……
休憩室の椅子にマリオとジュンが腰かけて休憩していると息を切らした優が飛び込んできた。
驚く二人を前にして優はかなり興奮気味だ。
「マリス室長に会えたんだ!!話もたくさん出来た。今僕はすごく感動してる!」
「「えっ?」」
マリオとジュンが顔を見合わせる。
「いったいどこで?」
「本社の玄関のエレベーターホールで偶然会った!僕に「縁あってこの会社に就職したなら仕事を頑張れ」って声をかけてくれて。マリス室長かっこよくてすごく優しかった」
「おいおいちょっと落ち着けよ」
マリオが優をたしなめる様に声かける。
「とにかくよかったな」ジュンも優の笑顔につられて笑って頷いた。
「それからマリス室長に「事故の件は誰にも言うな」って念押しされたからマリオもジュンも誰にも言わないでほしい。3人の秘密ってことでよろしく頼むな」
それだけ言うと優は興奮冷めやらぬ様子で休憩室を早足で出て行った。
「なんか言いたいことだけ言っていなくなったな」
「台風一過ってな感じだった」少し呆れた様にジュンとマリオが言った。
「あんなに嬉しそうにしちゃって、この間は落ち込んでこの世の終わりみたいな顔してたのに現金なもんだ」
「怪我させられた加害者が同じ会社に入ってきたってわかったらマリス室長は気持ち悪く思わないのかな?」
「コラ、マリオ!言い過ぎだぞ、わざと怪我させたわけじゃないし」
「マリス室長は優の気持ちを知らないから、声をかけられたんだと思うぞ」
知ったらどうすんだ?
付き合えるなんて到底思えないけど、優と室長しだいで何が起こるかなんてわからない。
マリオは優のことがなんだか羨ましいと思ってハッとした。
この複雑な気持ちは一体何なのだろうか?
…
再会を果たした優は晴れやかで幸せな気持ちで満たされていた。
もっと自分のことを知ってもらいたい。
現金なもので、あれほど不安だったのに今は受け入れてもらいたくてすっかり貪欲になっている。
彼の表情や声を思い出すと興奮して平常心が保てない。こんなにも夢中になる恋は初めてだ。
話をしたことを思い出しては顔がほころんでしまう。
努力して同じ会社に就職したものの、優は長い間葛藤してきた。
会ってもあからさまに嫌な顔をされたらどうしようと不安だったが杞憂だった。
どうしてもマリスとは運命の出会いだと思いたい。
これからが勝負ではないのか?
マリスさんの恋人は男なのだから自分にもチャンスがあると俄然前向きになってきた。
彼の隣にいたいのだ!
これからどうアプローチしていくか考えて胸を高鳴らせる優だった。
しかしこの先、優の晴れやかな気持ちに一瞬にして暗雲が立ち込め、ひどく嫉妬に苦しみかき乱される事となる。
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