2 / 18
いよいよ同じ会社に入社します
しおりを挟む
優が晴れて入社した「トヨカ」の入社式は、歴史ある会社らしい格式の高い荘厳な雰囲気の中で行われた。
優が新入社員となった今年度は、業務拡張に伴って工場勤務も、本社勤務も新入社員が大幅増員されていた。
それでも就職するにはかなり難関の大企業だ。
入社式が無事に終わり優はあらためて緊張と喜びで胸がいっぱいになった。懸命な努力の結果、見事入社することを勝ち取ったのだから。
もちろんそれは恋焦がれたマリスさんと同じ会社に入りたい一心だった。
入社式の後、会場では新入社員による交流会がざっくばらんな雰囲気で行われていた。
花形部署への配属が決まっているいわゆるエリート街道をいく同期には早々目星をつけておこうと新入社員の女子達があざとい態度で取り巻いていた。
配属されたあとでは中々エリートにお近づきになれないから、今日のこの場での出会いは見逃せないのかもしれない。
新入社員同士連絡先交換には余念がない。
それにしてもこの会社の一部の部署はイケメン率が相当高いと思う。
採用基準に「イケメン」ってあるのかと思うくらい。
特に営業部、広報部、海外事業部、この三部署はイケメンの登竜門なのか!?と思うほどシュッとしてるやつらばかりが配属されてる。
この会社の花形部署の筆頭はやはり『海外事業部』らしい。
少数精鋭だから余計に全従業員憧れの部署らしく特に事業部の中でもマリスが室長を務める「海外戦略室」は、泣く子も黙るイケメン揃いだと名を馳せている。海外出張が多いからか実際に遭遇することはなかなか難しいらしい。
「海外戦略室所属」っていう肩書きだけで社内外で一目置かれるという噂は確かなようだ。
しかもそのオフィスは本社ビルの副社長室や常務や専務のいる同じフロアーで上層階にあるから一般社員はおいそれと近寄れないらしい。
「でも海外戦略室の室長っていうのが鬼みたいな人だって噂で聞いたよ」
女の子達が、はしゃいで同期達と話してた。
マリスさんが鬼だって?彼が鬼だなんてどっから出た噂?ありえない噂だと優は憤慨しつつも、本当の姿を新入社員に知られていなくて良かったと思った。
類い稀な美貌の持ち主だって知られれば、この“あざと女子達“にあれこれ言われて騒がれるに決まってる。
優は噂をしているこの中の誰よりもきっと彼を知っている。
恋人がまさかの超絶イケメンだということも知っているのだから。
それでも優はとっくに心を奪われている…
「海外戦略室」に配属になった優の同期はいない。
今年の海外戦略室は新入社員は配属ゼロなのだ。これでは同期伝いに情報を得ることもできないと優は落胆した…。
優はエンジニアとして製造部に配属になった。
新入社員は製造部や技術開発部での勤務が多く、マリスのいる海外戦略室にはほとんど縁がない。
優は心に秘めた想いを一年以上ずっと抱えてきた。
大学時代に図らずも自転車で事故を起こしたことで出会ったマリスさん、被害者のマリスさんに一目で恋してしまうなんてまるで三流の恋愛ドラマのような展開。でもどうしてもマリスさんが勤めるこの会社「トヨカ」に入りたかった。
事故ではマリスさんの腕を何針か縫うような怪我をさせてしまった。
事故を起こし動揺しまくる優に対して冷静に対処して逆に助けられたし、状況を見て偶発的な事故だとわかってくれて優を気遣ってくれた。
マリスに怪我をさせた事で憔悴した優を気に病まない様に励ましてもくれた。
本来なら加害者になるというのは苦い経験であり、早く忘れたいはずなのに、被害者のマリスさんの事が気になってどうしても頭から離れなかった。
マリスを思い出す度に温かい気持ちになって胸がいっぱいになってしまう。
一緒にタクシーに乗って病院に向かう途中、携帯で仕事先に連絡をとる姿。
携帯で話すなんてありきたりなことなのにめちゃくちゃカッコよかった。
流暢な英語を話し、学生の自分とは住む世界が違って見えた。
エリートビジネスマンと呼ぶべきその姿に秒で憧れた気がする。
そして何よりもマリスさんの容姿が魅力的すぎた。美しい人なのだ。
ふんわりと香る柑橘系の香水がなんともいい匂いで、百貨店の香水コーナーで同じ香りを探したくらいにその香りが気になった。白く透明な肌に黒目の大きい芸術的な二重幅の瞳。通った鼻筋に艶やかな唇。
ずっと見ていたいのに、見つめ続けることは許されない気がした。
当たり前だが結局わずかな言葉を交わしただけでその事故以来会ってはいない。
トヨカは日本でも有数の大企業だ。国内にいくつも工場があり、本社ビルは巨大で、多くの部署に分かれ同じ会社でも会えない。分野が違えば余計に簡単に会えるはずもない。
ただ優だってその方がいいとも思っていた。
加害者である自分に社内で会えば確実に困惑される事だろう。
会えばきっと驚くだけではなくて、会いたくなかったと思われるかもしれない。
わかっていても同じ会社で働きたいと思う気持ちが止められなくて、近くにいると思えるだけで昂揚して嬉しい気持ちになる。
今は何らかの繋がりがあるだけで十分だったのだ。
同期の仲間となった者達と共に配属先にそれぞれ案内された。
優は本社に併設された製造本部で研修を受け、終了後正式に配属される事になる。
製造部は堅苦しさがなく和気藹々とした明るい雰囲気が心地よい。
この製造部で古くからいる案内役の一色姉さんが底ぬけに明るく人懐こい性格が明るい職場の要因の一つかもしれない。一色姉さんはマイノリティーで元々は男性だったことをカミングアウトしているお姉様だ。
新入社員は三人一組になり教育係の先輩がつき学ぶことになっている。優を含めた三人組を担当するのは製造部一筋15年の大ベテランのケン先輩、
「万年ひらだけどきちんと敬えよ!製造部の事なら何でも知ってる!よろしくな」
明るく人の良さそうなおじさん、ケン先輩はそういう第一印象だった。
優の他には頭脳派で一流大学の工学部出身というジュンと少々お調子者だが明るくパワフルな体育会系のマリオ、
この三人でトリオを組んでケン先輩に教えを請う事となった。
ケン先輩と三人組は早速一緒に食事をした。
性格はそれぞれ違っていても良い意味で刺激しあえる良い仲間になれそうだ。何よりケン先輩は明るく丸い性格でまとめるのが上手い。
優は満足した社会人生活のスタートを切る事が出来た。
憧れのマリスさんのいるトヨカ社での生活がいよいよ始まる。
いつの日かマリスさんの存在を確認する事でもできたなら幸せだと淡い期待を胸に抱き、優は前を向いた。
なのに入社してたったの一週間でこの会社でのマリスさんの圧倒的な存在感を知る事になる。
優が新入社員となった今年度は、業務拡張に伴って工場勤務も、本社勤務も新入社員が大幅増員されていた。
それでも就職するにはかなり難関の大企業だ。
入社式が無事に終わり優はあらためて緊張と喜びで胸がいっぱいになった。懸命な努力の結果、見事入社することを勝ち取ったのだから。
もちろんそれは恋焦がれたマリスさんと同じ会社に入りたい一心だった。
入社式の後、会場では新入社員による交流会がざっくばらんな雰囲気で行われていた。
花形部署への配属が決まっているいわゆるエリート街道をいく同期には早々目星をつけておこうと新入社員の女子達があざとい態度で取り巻いていた。
配属されたあとでは中々エリートにお近づきになれないから、今日のこの場での出会いは見逃せないのかもしれない。
新入社員同士連絡先交換には余念がない。
それにしてもこの会社の一部の部署はイケメン率が相当高いと思う。
採用基準に「イケメン」ってあるのかと思うくらい。
特に営業部、広報部、海外事業部、この三部署はイケメンの登竜門なのか!?と思うほどシュッとしてるやつらばかりが配属されてる。
この会社の花形部署の筆頭はやはり『海外事業部』らしい。
少数精鋭だから余計に全従業員憧れの部署らしく特に事業部の中でもマリスが室長を務める「海外戦略室」は、泣く子も黙るイケメン揃いだと名を馳せている。海外出張が多いからか実際に遭遇することはなかなか難しいらしい。
「海外戦略室所属」っていう肩書きだけで社内外で一目置かれるという噂は確かなようだ。
しかもそのオフィスは本社ビルの副社長室や常務や専務のいる同じフロアーで上層階にあるから一般社員はおいそれと近寄れないらしい。
「でも海外戦略室の室長っていうのが鬼みたいな人だって噂で聞いたよ」
女の子達が、はしゃいで同期達と話してた。
マリスさんが鬼だって?彼が鬼だなんてどっから出た噂?ありえない噂だと優は憤慨しつつも、本当の姿を新入社員に知られていなくて良かったと思った。
類い稀な美貌の持ち主だって知られれば、この“あざと女子達“にあれこれ言われて騒がれるに決まってる。
優は噂をしているこの中の誰よりもきっと彼を知っている。
恋人がまさかの超絶イケメンだということも知っているのだから。
それでも優はとっくに心を奪われている…
「海外戦略室」に配属になった優の同期はいない。
今年の海外戦略室は新入社員は配属ゼロなのだ。これでは同期伝いに情報を得ることもできないと優は落胆した…。
優はエンジニアとして製造部に配属になった。
新入社員は製造部や技術開発部での勤務が多く、マリスのいる海外戦略室にはほとんど縁がない。
優は心に秘めた想いを一年以上ずっと抱えてきた。
大学時代に図らずも自転車で事故を起こしたことで出会ったマリスさん、被害者のマリスさんに一目で恋してしまうなんてまるで三流の恋愛ドラマのような展開。でもどうしてもマリスさんが勤めるこの会社「トヨカ」に入りたかった。
事故ではマリスさんの腕を何針か縫うような怪我をさせてしまった。
事故を起こし動揺しまくる優に対して冷静に対処して逆に助けられたし、状況を見て偶発的な事故だとわかってくれて優を気遣ってくれた。
マリスに怪我をさせた事で憔悴した優を気に病まない様に励ましてもくれた。
本来なら加害者になるというのは苦い経験であり、早く忘れたいはずなのに、被害者のマリスさんの事が気になってどうしても頭から離れなかった。
マリスを思い出す度に温かい気持ちになって胸がいっぱいになってしまう。
一緒にタクシーに乗って病院に向かう途中、携帯で仕事先に連絡をとる姿。
携帯で話すなんてありきたりなことなのにめちゃくちゃカッコよかった。
流暢な英語を話し、学生の自分とは住む世界が違って見えた。
エリートビジネスマンと呼ぶべきその姿に秒で憧れた気がする。
そして何よりもマリスさんの容姿が魅力的すぎた。美しい人なのだ。
ふんわりと香る柑橘系の香水がなんともいい匂いで、百貨店の香水コーナーで同じ香りを探したくらいにその香りが気になった。白く透明な肌に黒目の大きい芸術的な二重幅の瞳。通った鼻筋に艶やかな唇。
ずっと見ていたいのに、見つめ続けることは許されない気がした。
当たり前だが結局わずかな言葉を交わしただけでその事故以来会ってはいない。
トヨカは日本でも有数の大企業だ。国内にいくつも工場があり、本社ビルは巨大で、多くの部署に分かれ同じ会社でも会えない。分野が違えば余計に簡単に会えるはずもない。
ただ優だってその方がいいとも思っていた。
加害者である自分に社内で会えば確実に困惑される事だろう。
会えばきっと驚くだけではなくて、会いたくなかったと思われるかもしれない。
わかっていても同じ会社で働きたいと思う気持ちが止められなくて、近くにいると思えるだけで昂揚して嬉しい気持ちになる。
今は何らかの繋がりがあるだけで十分だったのだ。
同期の仲間となった者達と共に配属先にそれぞれ案内された。
優は本社に併設された製造本部で研修を受け、終了後正式に配属される事になる。
製造部は堅苦しさがなく和気藹々とした明るい雰囲気が心地よい。
この製造部で古くからいる案内役の一色姉さんが底ぬけに明るく人懐こい性格が明るい職場の要因の一つかもしれない。一色姉さんはマイノリティーで元々は男性だったことをカミングアウトしているお姉様だ。
新入社員は三人一組になり教育係の先輩がつき学ぶことになっている。優を含めた三人組を担当するのは製造部一筋15年の大ベテランのケン先輩、
「万年ひらだけどきちんと敬えよ!製造部の事なら何でも知ってる!よろしくな」
明るく人の良さそうなおじさん、ケン先輩はそういう第一印象だった。
優の他には頭脳派で一流大学の工学部出身というジュンと少々お調子者だが明るくパワフルな体育会系のマリオ、
この三人でトリオを組んでケン先輩に教えを請う事となった。
ケン先輩と三人組は早速一緒に食事をした。
性格はそれぞれ違っていても良い意味で刺激しあえる良い仲間になれそうだ。何よりケン先輩は明るく丸い性格でまとめるのが上手い。
優は満足した社会人生活のスタートを切る事が出来た。
憧れのマリスさんのいるトヨカ社での生活がいよいよ始まる。
いつの日かマリスさんの存在を確認する事でもできたなら幸せだと淡い期待を胸に抱き、優は前を向いた。
なのに入社してたったの一週間でこの会社でのマリスさんの圧倒的な存在感を知る事になる。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
彼はオレを推しているらしい
まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。
どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...?
きっかけは突然の雨。
ほのぼのした世界観が書きたくて。
4話で完結です(執筆済み)
需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*)
もし良ければコメントお待ちしております。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる