美しい弟

亀之助

文字の大きさ
上 下
7 / 7

再会

しおりを挟む
俺の弟はすごく綺麗なんだ。
世界で一番愛してる弟アーサー。
俺はどんなに乞おうとも兄にしかなれないのだろうか…

俺が弟のアーサーと遠く離れて暮らすのは、アーサーを「弟」として見れなくなった自分のためであり、そんな俺の気持ちを知る母のためでもあった。 
アーサーはいつまで経っても「俺の弟」でしかなく、どんなに好きになっても手にすることはできない。
母は、そんな俺を全否定することはなく静かに寄り添い続けてくれている。
家族のため俺はアーサーの兄として生きようと努力を続けてきた。
俺は留学を経て大手銀行に入行、バンカーとしてそこそこの地位も確立した。

長くアーサーと離れて暮らし、たまに連絡しても恋愛の話なんて聞きたくなかったから恋人の話題は避けてきた。

愛妻家である父親は大学を退官し、母にかつてのような国際的なピアニストとして再起して欲しいと願い暮らしを国外に移した。
それをきっかけに今俺達は3人で暮らしいる。
穏やかな暮らしに見えても、やはり母は俺がアーサーへの思いを完全に手放すまでそばで見守りたいのかもしれない。

俺の人生を変えた父の再婚。

15歳で、母と弟に巡り会った。

5つ年下の弟は可愛くて何よりとても賢かった。

亡くなった実の父親が心臓外科医だったのだと聞けば納得だ。

俺と父が二人で暮らしていた時は会話なんてほぼ無かったのに、母と弟が来てから俺達父子は激変し、仲が良くなって良く話をするようになった。
長く1人で過ごしてきた父や俺にとって新しい家族の存在が宝物になり毎日幸せだった。
俺達はアーサーに特別愛情を注いだ。
父と俺のアーサーへの甘やかしぶりは、母が呆れるほどだったから。

そして俺はアーサーに道ならぬ恋をした。

俺の高校の友人達は弟を見るとざわついた。
それくらい美しい弟だった。
そんな弟が何より自慢で、あの笑顔に癒されていたのに、癒しがときめきに変わり、そしていつからか緊張へと変わっていった。

少しずつ自覚したアーサーへの特別な想い。

俺の機嫌をとるには弟を最優先にせよと友人達にはよく言われたし「レオンは弟が恋人みたいに可愛いのね」と、付き合ってた彼女には嫌味を言われた。

10代の時は俺なりに真剣に悩んだ。

アーサーに何かしでかせば、家族が崩壊することくらいはわかっていたから。

まだ中学生なのにアーサーはすでに危険な香りがしてたんだ。

兄としているために、留学してアーサーから距離を置いた。

留学先ではすぐに女の子の恋人を作った。
高校生になったアーサーに再会した時、頑張った年月が台無しになるほど覆い隠した「好きだ」という感情が溢れ出した。

高校生の弟は、眩しくて美しかったから。
兄弟愛ではない愛情を強烈に自覚してからの、地獄のような日々。

秘めた思いを母には気づかれた。

母は俺が息子になった日から今も変わらずに大切にしてくれるかけがえのない人だ。

母の涙を見て一生アーサーは俺の弟で、絶対に自分の手には入らないと悟った。

そんな俺がアーサーの恋人が「男」だと知った時は、立っていられないほど衝撃を受けた。
その男に激しく嫉妬して何日も眠れなかった。

なぜ?どうして??頭の中は憤りばかり。
アーサーが男を愛せるとは夢にも思わなかったし、一緒に暮らしていた時もその可能性を全く感じなかった。
俺だってアーサー以外の男には全く興味がないので、かなり特殊なマイノリティだが。
俺はアーサーへの恋心を無理に手放そうとしたけれど恋人が男だと知ればどうしても諦めきれなくなった。
俺は苦しんだし、運命を呪わずにはいられなかった。

アーサーの心を掴んだ男は大学の先輩だという。
アーサーは幸せなんだろうか? 
どうしても会ってみたい、会わずにはいられない。
アーサーの恋人に会いたいがために帰国を決めた。
俺はアーサーの恋人に会わせてもらうつもりだ。
今回の帰国は伝えてみたい提案だってある。
 
そうして俺は、久しぶりに帰国した。

空港に降り立った瞬間、懐かしさで胸がいっぱいになった。
アーサーとの再会を前にまず俺はひとりで会うのを避けることにした。

もう揺るがないんじゃなかったのか?
俺は、高校からの長い付き合いの親しい女友達のエリーに連絡をとり、落ち合った。
アーサーのこともよく知っている友人だからこそ、一呼吸おいて冷静に向き合える気がする。
久しぶりにアーサーに再会する俺がいきなり本題に入って暴走しないためにもまずは3人で食事をすることにした。

7年ぶりの再会。

可愛かった弟はすっかり成熟した大人になった。

「兄さん、おかえりなさい。久しぶりだね。でも兄さんは全然変わらない、エリーさんもご無沙汰してます」


そう言って俺に向けた笑顔は大人になっても変わらず、めちゃくちゃに可愛いな。

この笑顔が何より好きだった。

あの頃と変わらない彼の笑顔にかつて共に暮らした幸せな日々が蘇る。
ずっとこの笑顔に会いたかった。

こんな気持ちになってしまう俺は、果たして長い間弟に会わないでいた意味があったのだろうか?

アーサーとは数年ぶりとは思えないほど楽しい時間を過ごせた。

会話も弾み笑いの絶えない和やかな時間。

食事を終え、明日も仕事で朝が早いというアーサーがいったん先に店を出る。
俺はホテルを取って泊まっていた。


「兄さん、また明日会おう。仕事終わりに連絡するから、エリーさんもまた」

そう言って振り返ったアーサーは俺達に笑顔で手を振った。

その姿に、俺もエリーも見惚れてた。

「ほら言っただろ。俺の弟の笑顔を見たら周りが霞むって…」


「レオンの弟!やっぱヤバイね。ほんとますます美人になっちゃって!!いや可憐って言った方がいいかしら。確かに目が合うと心臓撃ち抜かれるわっ!私より肌が綺麗だし。恋人はいったいどんな人なのかしら?1日だけで良いから恋人になってみたいなぁ、めちゃくちゃ自慢できるよね~」


「俺だってなってみたいさ」


「は?レオン!?何言っちゃってるの?ブラコンにもほどがあるわ」と大笑いされた。

「でも実際アーサーさんって恋人として現実的じゃないわ。だって私より綺麗なんだもの。並んだら私のアラが目立っちゃうからイヤ。あなたの弟は実は他の惑星の生まれなのかもね!宇宙人とは恋愛なんて出来ないわ」


…………


次の日アーサーの仕事終わりに再び落ち合った俺達。
俺は今度はアーサーと二人で食事をしながら切り出した。

「前から言ってたと思うけど、俺は今回アーサーの恋人にどうしても会っておきたい。俺には紹介できるだろ?」

「……今すごく忙しくしてて…都合がつくかどうか」

アーサーの戸惑うような顔つきが気になる。

「大切な話があるから、会わせてもらえるまで俺はいつまでだってここに留まるから…」

「兄さん、こっちにはいつまでいるの?仕事は?」

「仕事なんかより大事なことを話したいから」

「…兄さん、わかったよ。ちゃんと連絡するから」


………………



「冷静になれるまで距離を置こう。時間が欲しい」



そうアーサーに言われた日から、僕達の関係は断たれたままだった。

ショーンのことを調査した経緯から今回の事情を知る僕の秘書は、焦燥にかられる僕に向かって「元はと言えばアーサーさんに非があるのでしょう?身勝手なのはアーサーさんの方ではないのですか」

秘書は僕の味方になってくれたのに、なぜかアーサーを批判する秘書に腹を立てた。

秘書の言葉は、僕がアーサーを許してることに気づかせてくれた。


あの日、無理矢理抱いた僕に、「ごめん」と謝ったアーサー。謝られた意味を考えたくない、もう考えない…

憎くて仕方なかったのに、今その100倍愛しくてどうしようもない。

僕は大きくかぶりをふった。

ショーン先生の事はもういい。
僕はアーサーと離れていることに耐えられないんだ。
今はただ一緒にいてくれるだけでいい。



アーサーが自分の元を去る不安はいつも漠然と抱えていた。

だからこそ過剰に彼の全てを把握しようとして、息苦しさを与えていたかもしれない。
共に過ごしてきた長い年月は狂おしく一瞬だった気がする。

アーサーは年齢を重ねて美しさが増し僕の独占欲は大きくなるばかり。

アーサーの肌を知ったのはとっくの昔なのにいまだにあの身体に溺れてる。
アーサーは唯一無二。
愛するあまり、僕は冷静になれず無理矢理…という大きな過ちを犯してしまった。アーサーの苦しみに歪んだ悲しそうな顔が頭から離れない。


ひどく思い悩む日々の中、
アーサーの兄が数年ぶりに帰国した。

僕に会いたいがために帰国したという兄のたっての願いを叶えるためアーサーは、僕に連絡をよこした。
最悪の事態を回避できたのはアーサーの兄さんの帰国のおかげだ。

久しぶりにアーサーに会うと恋しい気持ちが溢れ出した。

「会いたくて苦しくて狂いそうだった」

そう言ってアーサーを抱きしめた時、やっと息ができた気がした。

アーサーの兄、レオンさんがどんな思いで僕に会いたがっていたか、この時はまだ知る由もなかった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私立明進学園

おまめ
BL
私立明進学園(メイシン)。 そこは初等部から大学部まで存在し 中等部と高等部は全寮制なひとつの学園都市。 そんな世間とは少し隔絶された学園の中の 姿を見守る短編小説。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学園での彼らの恋愛を短編で描きます! 王道学園設定に近いけど 生徒たち、特に生徒会は王道生徒会とは離れてる人もいます 平和が好きなので転校生も良い子で書きたいと思ってます 1組目¦副会長×可愛いふわふわ男子 2組目¦構想中…

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡ 「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。 そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格! 更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。 これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。 友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき…… 椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。 .₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇ ※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。 ※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。 楽しんで頂けると幸いです(^^) 今後ともどうぞ宜しくお願いします♪ ※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)

君を独占したい。

檮木 蓮
BL
性奴隷として売られたユト 売られる前は、平凡な日を送っていたが 父の倒産をきっかけに人生が 変わった。 そんな、ユトを買ったのは…。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

処理中です...