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もし俺が愛とは何かということを知っているとすればそれは弟のおかげだ
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レオンには美しい弟がいる。
5歳年下の血の繋がらない弟が…
レオンの父親がいきなり「再婚する」と言い出したのはレオンが高校に入学したばかりの15才の時。
堅物で生真面目な父親は大学で社会学の教授をしていた。
幼い頃に両親は離婚し、母は家を出た。
母親はすぐに別の家族を築いたため、父と離婚後、レオンは母と会った事がない。
忙しい父親も留守がちで面倒は父方の祖母が見てくれた。
その祖母もレオンが13才の時に天に召された。
一人で過ごすことには慣れていて特にさみしいと思った事はない。
家は裕福なのでお金に困ることもなく一人は自由気ままでいいと思い込んでいた。
そう…弟に出会う前までは…
父親の再婚相手は、世界中で演奏するピアニストだった。
美しく優雅な佇まいと確かな実力を兼ね備えたその人は多くのファンを魅了したらしい。
彼女が医者である夫を病で失ったのは、一人息子がまだ7歳の時。
夫を失い、海外での演奏活動を辞めて大学の音楽講師の道に入った。
そこでレオンの父と出会った。
著名なピアニストだった彼女は、大学のセレモニーでピアノ演奏をして、その姿にレオンの父が一目惚れ、2年かけて口説き落とし、ようやく交際に漕ぎ着け、一気に結婚に踏み切った。
生真面目な父親にまさかそんな情熱があったとは…と驚くしかなかった。
こうして高校生のレオンに新しい母親と弟がいきなり出来る事になったのだ。
レオンはすでに分別があるが、自分に弟ができると聞いてさすがに複雑な気持ちになった。
五つも年下の小学生と、話なんて合うはずがないし…。
自分は3年後には大学進学で家を出る。
新しい家族とやらに自分を合わせる気もない。
気にかける必要も、嫌う必要も無いと言い聞かせた。
父も長い間一人だったのだ。
老後を一緒に過ごせる人ができたならそれでいい。
元々父親との親子関係は希薄だ。
父を盗られて悔しいなんて全く思わなかった。
新しい家族になる二人を初めて父に紹介された日、 レオンにとっては一生忘れる事が出来ない日になった。
母になる人は本当に美しい人だった。
高貴な雰囲気の美人なのに性格は穏やかで、とても好感が持てた。
色白で華奢なせいか、かなり若く見える。
そして10歳になる弟を紹介されレオンはびっくり仰天した。
弟は母親よりもさらに輪をかけた美形だったのだ。
しかもレオンのお気に入りのゲームの大好きな精霊のキャラクターに良く似ていた。
つるりとした肌は真っ白で、目鼻立ちが整ったうえ、スラリとした体型にサラサラの髪。
輝く大きな瞳が印象的だった。
ゲームの推しキャラに似た子が自分の弟になると思ったらすっかり感動してワクワクしたくらいだ。
弟の名前は、『アーサー』
弟になったアーサーと暮らす日々は楽しく幸せに満ち溢れていた。
自分の今までの人生で全く想像していなかった事だ。
まさか自分がこんなにも弟を溺愛することになるなんて。
アーサーの性格は大人びていて、空気を読めるし頭が良い上にスポーツも出来る優秀な子だった。
五つも年下なのに、話をすれば打てば響くようでとても楽しかった。
明るい太陽の様におおらかで優しい弟の存在にいつも癒された。
「おかえりなさい!!」
輝く笑顔で迎えてもらえる毎日…その喜びは途方もなく大きかった。
アーサーの笑顔が見たくて毎日のように彼の好きなケーキやお菓子のお土産を買って帰った。
ピアニストだった母親の影響でアーサーもピアノを弾くことができた。
アーサーがピアノを弾き始めるとレオンは何をしていても彼のピアノに聴き入った。
それは父親も同様で、アーサーには音楽のセンスがあると言っていきなりドラムセットや高額なギターを買ってきてはアーサーに贈った。
父も兄も揃ってアーサーを溺愛し、甘々だった。
アーサーはドラムやギターの腕もすぐさま上達した。
母がピアノ、アーサーがギターを弾く時が父親とレオンにとって至福のひとときだった。
レオン18歳、アーサー13歳。
レオンの友人やガールフレンドは、アーサーに会うとみんな口を揃えて綺麗だと言う。
それがレオンはどうにもモヤモヤして、自分だけがアーサーのことを知っていればいいと思ってしまう。
そして無意識のうちにいつでもアーサーの姿を探してしまうようになっていた。
「兄さん」とアーサーに呼ばれることは誇らしくて嬉しいはずなのに、心臓が締めつけられるようなこの感覚は何なのだろうか?
ある時レオンが帰宅するとアーサーがリビングのソファーで横になっていた。
レオンは眠るアーサーから目が離せなくなってしまう。
ほっそりとした長い手足を無防備にさらけ出して眠っていた。
よく食べるのにアーサーは太った事がない。思春期特有の吹出物などは皆無で、何もしていないのに白く美しい肌はいつも艶々していた。
13歳のアーサーを心底「綺麗だ」と感じてときめいてしまった。
寝ているアーサーの頬につい触れると熱っぽいことに気がついた。
「アーサー、熱がある。もしかして風邪ひいたか?こんなところに寝たらだめだ」
「…兄さん、おかえりなさい。…大丈夫だよ。少しだけ疲れてて気分が良くないんだ」
そう言って起き上がったアーサーが少しふらついた。
レオンはアーサーを支えながら部屋に連れていきベッドに寝かせた。
風邪薬を飲ませた後も レオンは眠るアーサーを見つめ続けていた。
アーサーにもっと触れていたい衝動に焦る自分が確かにいた。
アーサーを抱えた時、13歳の彼の爽やかな香りに動揺した。
良い匂いに胸がドキドキしたから…
アーサーはどんどんと美しく成長し、アーサーが誰かに笑顔を見せると嫉妬心が湧いてくる。
自分だけを見てくれたらどんなにいいかと考えてしまう。
ガールフレンドよりもアーサーと一緒にいたいと思う。
いつでも弟のアーサーが最優先で、友人達には“ブラコン“だと言われていた。
(俺はアーサーに特別な想いを抱いている)
その想いを打ち消しながら日々過ごした。
気持ちを隠しておかなければ全てを失うことになるから。
レオンはアーサーと離れる決心をする。
大学は海外留学することに決めたのだ。
海外に留学すれば、簡単には帰国できずおそらく年に一度くらいしか家族に会えない。
レオンは19歳になって、海外留学へと旅立った。
空港に見送りに来たアーサーが笑顔で手を振る。
切なくてさみしい気持ちになり涙を堪えるのに苦労した。
レオンは留学先では恋人も作った。
アーサーへの気持ちの整理はつけた。
離れて暮らし会わずにいた事で、兄としての立場に揺るがない自信もついた。
友人に恵まれ最高の環境で勉強できる事が生活を充実させていった。
あのまま一緒に暮らせばアーサーをどうにかしたくなったかもしれないと思うと恐ろしくなる事もある。
そうしてレオンは1年ぶりに帰国した。
久しぶりの我家だ。
荷物を整理し寛いでいるとアーサーが高校から帰ってきた。
「兄さん、おかえりなさい!迎えに行けなくてごめんね」
レオンは心臓が止まるかと思った。
何も変わっていないこの家で唯一変わったもの、それはまさしく目の前に立つ弟のアーサーの姿だった。
高校生になったアーサーは背も伸びて一年ですっかり大人になっていた。
眩しいほどに輝いていて美しかった。
美しいその姿を見て息をすることさえ忘れそうになる。
高校の制服の白いワイシャツがよく似合っていた。
「ただいま」と言うとアーサーに軽くハグされた。やっぱりいい香りがした。
再会した瞬間、離れた事に意味がなかった事を思い知る。
もう認めるしかなかった。
自分はアーサーを弟として見ていないと。
弟なんかではなく、愛したい人がそこにいた。
アーサーは高校生になり、澄んだきれいな声は落ち着いた声に変わり、バスケットをしているせいか筋肉がついて大人っぽい体つきになり、小さな可愛いアーサーの面影はほとんど消えていた。
ただかわいい笑顔だけは相変わらずで、レオンの心臓を破壊しにかかる。
レオンは恋心が悟られないように平常心を保つ事に四苦八苦。
わざと恋人の自慢話をしたり二人の写真を見せたりした。
「さすが兄さんの恋人は美人だね、休暇で一か月も離れて大丈夫なの?」
そう話しかけてくるアーサーの綺麗な横顔から目が離せない。
16歳になったアーサー。
明るく輝いていて男でありながら中性的な美しさで肌の美しさには目を見張る。
ただ無意識に鼻を触るかわいい癖は変わってない。
弟として一生自分の近くにいるならそれは幸せな事だ。
恋人なら別れがあるが兄弟に別れは無い。
それでいいと言い聞かせた矢先、浴室で裸になったアーサーと出くわしてしまった。
レオンは言葉を失った。
「ごめん」と言って自分の部屋に駆け込んだ。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
留学先で男の裸は毎日見るし、変な気持ちになった事など一度もない。
でもアーサーの体は綺麗で特別だった。
もう子供ではなかった。
アーサーを性愛の対象と強烈に自覚してからレオンの地獄の日々が始まった。
アーサーの美しい体が目に焼き付いて頭から離れない。
日が1日1日過ぎていくにつれ、アーサーへの愛情は大きくなるばかりで胸の痛みばかりが強くなる。
ある夜、アーサーの部屋に足を踏み入れたレオン。
アーサーは横向きになり丸くなって眠っていた。
眠っている姿を見て抱きしめてキスしたかった。
なぜ自分達は兄弟なのか? なぜ他人としてアーサーと出会えなかったのか? 今からでも兄弟をやめてしまいたい。 手に触れ、体にも触れ、優しく抱いて口づけを交わせたならどんなに幸せだろう。
アーサーと家族になって6年。
かけがえのない幸せな日々を過ごして、いつからか愛したい存在に変わっていた。
それは兄弟愛ではない。
アーサーが自分だけのものになったなら…そう思うと、とめどもなく涙が出て止まらなくなった。
涙を流しながらアーサーの部屋を出るとそこに母が立っていた。
母は泣いていたレオンを抱きしめた。
レオンは黙って母の胸の中で泣いた。
母の部屋でレオンは母と二人きりで話をした。
「母さん、俺はアーサーと他人になりたい、兄でいたくない」
誠実にレオンに向き合う母はいつもの優しい顔ではなく真剣な表情で語りかけた。
「あなたは何があっても私達夫婦の息子、それは天地がひっくり返っても絶対に変わらない。私もお父さんもあなたの事を心から愛してる。愛する息子ということは死んでも変わらない。そしてアーサーも同じ。あなたは彼の兄であるという事は何があっても変わらない」
「母さん、こんな俺を許してほしい。…俺はアーサーを愛してる」
「アーサーのあなたに対する気持ちは10歳で出会った時のままなのだから、あの子は兄としてしか受け入れられない。あなたの気持ちを知ってしまったら苦しませてしまう。あなたにはアーサーの笑顔を守ってほしい」
言葉は厳しくても温かさを感じる母の声。
「二人とも、もっといろんな世界に触れてたくさんの経験をして成熟した大人になってほしい。私はあなたをアーサーの兄として、そして私の実の息子として以外にはあなたを認める事が出来ない」
「母さん…」レオンはまた泣いてしまった。
母はレオンを優しく抱きしめ
「アーサーを愛してくれてありがとう。私達はずっとレオン、あなたのそばにいるわ」
そう言う母も涙が頬を伝っていた。
レオンは血の繋がらない母の事も心から愛している。
母はいつから気づいていたのだろう。
レオンは母の言葉に動かされ、アーサーとは離れて暮らすと決心した。
「俺はアーサーの兄として誠実に生きる。すぐにでも留学先に戻るよ。俺はもう帰って来ないから。でももし10年経った時この気持ちが変わらなかったら母さんに相談するから」
泣き笑いのレオン。
母は切ない複雑な気持ちを隠し、愛しい息子をもう一度抱きしめた。
レオンが大学に戻る日、アーサーにハグをしたら涙が溢れた。
戻らないつもりで最愛の弟をぎゅっと抱きしめた。
10年後、、、
レオンはアーサーの恋人を紹介された時、驚愕した。
信じ難かった。
アーサーが大学で出会ったという『男』は、今では誰もが知る企業の若き副社長。
抜群のルックスと類い稀な経営手腕で経済界ではちょっとした有名人。
その人こそがアーサーの愛する恋人だというのだから。
アーサーは男を愛せるというのか?
自分はアーサーをどんなに愛しても兄にしかなれない。
アーサーが、誰かのものになることはわかっていたけど、自分と同じ「男」であることは、許容できない。
相手の男に猛烈な嫉妬をして激しく胸が痛んだ。
アーサーが恋人と幸せそうに微笑んでる。
もうそいつのものになったのか?
アーサーは今も変わらず本当に綺麗だ。
まぶしくて見ていられない。 ほんとに辛いよ、アーサー。
運命を呪うくらいずっとお前を愛してるんだ。
つづく
5歳年下の血の繋がらない弟が…
レオンの父親がいきなり「再婚する」と言い出したのはレオンが高校に入学したばかりの15才の時。
堅物で生真面目な父親は大学で社会学の教授をしていた。
幼い頃に両親は離婚し、母は家を出た。
母親はすぐに別の家族を築いたため、父と離婚後、レオンは母と会った事がない。
忙しい父親も留守がちで面倒は父方の祖母が見てくれた。
その祖母もレオンが13才の時に天に召された。
一人で過ごすことには慣れていて特にさみしいと思った事はない。
家は裕福なのでお金に困ることもなく一人は自由気ままでいいと思い込んでいた。
そう…弟に出会う前までは…
父親の再婚相手は、世界中で演奏するピアニストだった。
美しく優雅な佇まいと確かな実力を兼ね備えたその人は多くのファンを魅了したらしい。
彼女が医者である夫を病で失ったのは、一人息子がまだ7歳の時。
夫を失い、海外での演奏活動を辞めて大学の音楽講師の道に入った。
そこでレオンの父と出会った。
著名なピアニストだった彼女は、大学のセレモニーでピアノ演奏をして、その姿にレオンの父が一目惚れ、2年かけて口説き落とし、ようやく交際に漕ぎ着け、一気に結婚に踏み切った。
生真面目な父親にまさかそんな情熱があったとは…と驚くしかなかった。
こうして高校生のレオンに新しい母親と弟がいきなり出来る事になったのだ。
レオンはすでに分別があるが、自分に弟ができると聞いてさすがに複雑な気持ちになった。
五つも年下の小学生と、話なんて合うはずがないし…。
自分は3年後には大学進学で家を出る。
新しい家族とやらに自分を合わせる気もない。
気にかける必要も、嫌う必要も無いと言い聞かせた。
父も長い間一人だったのだ。
老後を一緒に過ごせる人ができたならそれでいい。
元々父親との親子関係は希薄だ。
父を盗られて悔しいなんて全く思わなかった。
新しい家族になる二人を初めて父に紹介された日、 レオンにとっては一生忘れる事が出来ない日になった。
母になる人は本当に美しい人だった。
高貴な雰囲気の美人なのに性格は穏やかで、とても好感が持てた。
色白で華奢なせいか、かなり若く見える。
そして10歳になる弟を紹介されレオンはびっくり仰天した。
弟は母親よりもさらに輪をかけた美形だったのだ。
しかもレオンのお気に入りのゲームの大好きな精霊のキャラクターに良く似ていた。
つるりとした肌は真っ白で、目鼻立ちが整ったうえ、スラリとした体型にサラサラの髪。
輝く大きな瞳が印象的だった。
ゲームの推しキャラに似た子が自分の弟になると思ったらすっかり感動してワクワクしたくらいだ。
弟の名前は、『アーサー』
弟になったアーサーと暮らす日々は楽しく幸せに満ち溢れていた。
自分の今までの人生で全く想像していなかった事だ。
まさか自分がこんなにも弟を溺愛することになるなんて。
アーサーの性格は大人びていて、空気を読めるし頭が良い上にスポーツも出来る優秀な子だった。
五つも年下なのに、話をすれば打てば響くようでとても楽しかった。
明るい太陽の様におおらかで優しい弟の存在にいつも癒された。
「おかえりなさい!!」
輝く笑顔で迎えてもらえる毎日…その喜びは途方もなく大きかった。
アーサーの笑顔が見たくて毎日のように彼の好きなケーキやお菓子のお土産を買って帰った。
ピアニストだった母親の影響でアーサーもピアノを弾くことができた。
アーサーがピアノを弾き始めるとレオンは何をしていても彼のピアノに聴き入った。
それは父親も同様で、アーサーには音楽のセンスがあると言っていきなりドラムセットや高額なギターを買ってきてはアーサーに贈った。
父も兄も揃ってアーサーを溺愛し、甘々だった。
アーサーはドラムやギターの腕もすぐさま上達した。
母がピアノ、アーサーがギターを弾く時が父親とレオンにとって至福のひとときだった。
レオン18歳、アーサー13歳。
レオンの友人やガールフレンドは、アーサーに会うとみんな口を揃えて綺麗だと言う。
それがレオンはどうにもモヤモヤして、自分だけがアーサーのことを知っていればいいと思ってしまう。
そして無意識のうちにいつでもアーサーの姿を探してしまうようになっていた。
「兄さん」とアーサーに呼ばれることは誇らしくて嬉しいはずなのに、心臓が締めつけられるようなこの感覚は何なのだろうか?
ある時レオンが帰宅するとアーサーがリビングのソファーで横になっていた。
レオンは眠るアーサーから目が離せなくなってしまう。
ほっそりとした長い手足を無防備にさらけ出して眠っていた。
よく食べるのにアーサーは太った事がない。思春期特有の吹出物などは皆無で、何もしていないのに白く美しい肌はいつも艶々していた。
13歳のアーサーを心底「綺麗だ」と感じてときめいてしまった。
寝ているアーサーの頬につい触れると熱っぽいことに気がついた。
「アーサー、熱がある。もしかして風邪ひいたか?こんなところに寝たらだめだ」
「…兄さん、おかえりなさい。…大丈夫だよ。少しだけ疲れてて気分が良くないんだ」
そう言って起き上がったアーサーが少しふらついた。
レオンはアーサーを支えながら部屋に連れていきベッドに寝かせた。
風邪薬を飲ませた後も レオンは眠るアーサーを見つめ続けていた。
アーサーにもっと触れていたい衝動に焦る自分が確かにいた。
アーサーを抱えた時、13歳の彼の爽やかな香りに動揺した。
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アーサーはどんどんと美しく成長し、アーサーが誰かに笑顔を見せると嫉妬心が湧いてくる。
自分だけを見てくれたらどんなにいいかと考えてしまう。
ガールフレンドよりもアーサーと一緒にいたいと思う。
いつでも弟のアーサーが最優先で、友人達には“ブラコン“だと言われていた。
(俺はアーサーに特別な想いを抱いている)
その想いを打ち消しながら日々過ごした。
気持ちを隠しておかなければ全てを失うことになるから。
レオンはアーサーと離れる決心をする。
大学は海外留学することに決めたのだ。
海外に留学すれば、簡単には帰国できずおそらく年に一度くらいしか家族に会えない。
レオンは19歳になって、海外留学へと旅立った。
空港に見送りに来たアーサーが笑顔で手を振る。
切なくてさみしい気持ちになり涙を堪えるのに苦労した。
レオンは留学先では恋人も作った。
アーサーへの気持ちの整理はつけた。
離れて暮らし会わずにいた事で、兄としての立場に揺るがない自信もついた。
友人に恵まれ最高の環境で勉強できる事が生活を充実させていった。
あのまま一緒に暮らせばアーサーをどうにかしたくなったかもしれないと思うと恐ろしくなる事もある。
そうしてレオンは1年ぶりに帰国した。
久しぶりの我家だ。
荷物を整理し寛いでいるとアーサーが高校から帰ってきた。
「兄さん、おかえりなさい!迎えに行けなくてごめんね」
レオンは心臓が止まるかと思った。
何も変わっていないこの家で唯一変わったもの、それはまさしく目の前に立つ弟のアーサーの姿だった。
高校生になったアーサーは背も伸びて一年ですっかり大人になっていた。
眩しいほどに輝いていて美しかった。
美しいその姿を見て息をすることさえ忘れそうになる。
高校の制服の白いワイシャツがよく似合っていた。
「ただいま」と言うとアーサーに軽くハグされた。やっぱりいい香りがした。
再会した瞬間、離れた事に意味がなかった事を思い知る。
もう認めるしかなかった。
自分はアーサーを弟として見ていないと。
弟なんかではなく、愛したい人がそこにいた。
アーサーは高校生になり、澄んだきれいな声は落ち着いた声に変わり、バスケットをしているせいか筋肉がついて大人っぽい体つきになり、小さな可愛いアーサーの面影はほとんど消えていた。
ただかわいい笑顔だけは相変わらずで、レオンの心臓を破壊しにかかる。
レオンは恋心が悟られないように平常心を保つ事に四苦八苦。
わざと恋人の自慢話をしたり二人の写真を見せたりした。
「さすが兄さんの恋人は美人だね、休暇で一か月も離れて大丈夫なの?」
そう話しかけてくるアーサーの綺麗な横顔から目が離せない。
16歳になったアーサー。
明るく輝いていて男でありながら中性的な美しさで肌の美しさには目を見張る。
ただ無意識に鼻を触るかわいい癖は変わってない。
弟として一生自分の近くにいるならそれは幸せな事だ。
恋人なら別れがあるが兄弟に別れは無い。
それでいいと言い聞かせた矢先、浴室で裸になったアーサーと出くわしてしまった。
レオンは言葉を失った。
「ごめん」と言って自分の部屋に駆け込んだ。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
留学先で男の裸は毎日見るし、変な気持ちになった事など一度もない。
でもアーサーの体は綺麗で特別だった。
もう子供ではなかった。
アーサーを性愛の対象と強烈に自覚してからレオンの地獄の日々が始まった。
アーサーの美しい体が目に焼き付いて頭から離れない。
日が1日1日過ぎていくにつれ、アーサーへの愛情は大きくなるばかりで胸の痛みばかりが強くなる。
ある夜、アーサーの部屋に足を踏み入れたレオン。
アーサーは横向きになり丸くなって眠っていた。
眠っている姿を見て抱きしめてキスしたかった。
なぜ自分達は兄弟なのか? なぜ他人としてアーサーと出会えなかったのか? 今からでも兄弟をやめてしまいたい。 手に触れ、体にも触れ、優しく抱いて口づけを交わせたならどんなに幸せだろう。
アーサーと家族になって6年。
かけがえのない幸せな日々を過ごして、いつからか愛したい存在に変わっていた。
それは兄弟愛ではない。
アーサーが自分だけのものになったなら…そう思うと、とめどもなく涙が出て止まらなくなった。
涙を流しながらアーサーの部屋を出るとそこに母が立っていた。
母は泣いていたレオンを抱きしめた。
レオンは黙って母の胸の中で泣いた。
母の部屋でレオンは母と二人きりで話をした。
「母さん、俺はアーサーと他人になりたい、兄でいたくない」
誠実にレオンに向き合う母はいつもの優しい顔ではなく真剣な表情で語りかけた。
「あなたは何があっても私達夫婦の息子、それは天地がひっくり返っても絶対に変わらない。私もお父さんもあなたの事を心から愛してる。愛する息子ということは死んでも変わらない。そしてアーサーも同じ。あなたは彼の兄であるという事は何があっても変わらない」
「母さん、こんな俺を許してほしい。…俺はアーサーを愛してる」
「アーサーのあなたに対する気持ちは10歳で出会った時のままなのだから、あの子は兄としてしか受け入れられない。あなたの気持ちを知ってしまったら苦しませてしまう。あなたにはアーサーの笑顔を守ってほしい」
言葉は厳しくても温かさを感じる母の声。
「二人とも、もっといろんな世界に触れてたくさんの経験をして成熟した大人になってほしい。私はあなたをアーサーの兄として、そして私の実の息子として以外にはあなたを認める事が出来ない」
「母さん…」レオンはまた泣いてしまった。
母はレオンを優しく抱きしめ
「アーサーを愛してくれてありがとう。私達はずっとレオン、あなたのそばにいるわ」
そう言う母も涙が頬を伝っていた。
レオンは血の繋がらない母の事も心から愛している。
母はいつから気づいていたのだろう。
レオンは母の言葉に動かされ、アーサーとは離れて暮らすと決心した。
「俺はアーサーの兄として誠実に生きる。すぐにでも留学先に戻るよ。俺はもう帰って来ないから。でももし10年経った時この気持ちが変わらなかったら母さんに相談するから」
泣き笑いのレオン。
母は切ない複雑な気持ちを隠し、愛しい息子をもう一度抱きしめた。
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戻らないつもりで最愛の弟をぎゅっと抱きしめた。
10年後、、、
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相手の男に猛烈な嫉妬をして激しく胸が痛んだ。
アーサーが恋人と幸せそうに微笑んでる。
もうそいつのものになったのか?
アーサーは今も変わらず本当に綺麗だ。
まぶしくて見ていられない。 ほんとに辛いよ、アーサー。
運命を呪うくらいずっとお前を愛してるんだ。
つづく
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