転生のガンマン

倉希あさし

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Episode3 転生

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 気が付くと、俺は草の上に寝転がっていた。起き上がって見渡すと、辺りは広大な緑の草原が広がり、そこから小さな農場が見えた。ここは明らかに日本ではない…本当に西部劇の世界に転生したのだろうか?俺はわが目を疑った。服装も水色のシャツ・革製ベスト・紺色のジーンズ・黒いテンガロンハットと、如何にも西部劇のガンマンそのものだった。
「…まるで夢を見てるようだ」
「夢じゃないわよ」
 俺の隣に女神が立っていた。
「あれ?あんたさっきの…」
「マリア・アテーヌ・アフロディータ・ヘレア・メディーアスよ」
「マリオネアフロデタラメンヘラ…」
「マリア・アテーヌ・アフロディータ・ヘレア・メディーアス‼ちゃんと覚えなさいよ全く‼」
 彼女には悪いが、とても覚えられそうにない…。
「え、えぇ~と…名前長すぎるからマリアって呼んでもいい?」
「長すぎるってなによ‼それになんでタメ口なのよ!私、女神よ女神!!」
「わ、分かりましたよ女神様…。ところで、なんでここに?」
「私はあなたを魔法でこの世界に転生させたから、あなたの守り神として君臨したのよ」
「へぇ~守り神かぁ!それは心強い!」
 俺は立ち上がり、新鮮な空気を胸いっぱいに吸った。実にうまい空気だ。こんなにいい気持ちになったのは何時ぶりだろうかと、心の奥底から爽やかな気分が込み上げてきた。これから俺の新しい人生が始まるんだと思うと、とてもワクワクする。
「よぉし、それじゃぁ早速冒険に出掛けるとしよう!」
「ちょっと待った!」
 突然女神は俺を引き留めた。
「どうしたんだい?」
「お腹減った」
「あぁ、そういえば俺も減ったなぁ…そうだ、あそこに行ってみよう」俺は農場を指さし、一先ず彼女とそこへ向かう事にした。運が良ければ食事を恵んでもらえるかもしれない。
「ちょ、ちょっと待って!私、女神だから人間に姿を見られては駄目なのよ」
「なんで?」
「なんでって、それが神の世界の掟なのよ」
「俺は良いのかい?」
「あなたは一度死んでるもの。それ以外の生きた人間に神の存在を知られる事は禁止されてるの」
 俺たち人間が神の姿を見た事ないのは、そういう理由からだろうか…。
「じゃぁ姿を消せば良いんじゃないの?」
「そんな高等な魔法はまだ使えないわよ」
「神様なのに?」
「そ、それは…だって・私、そのぉ…み、みな…だもの…」
 声が小さくてよく聞こえない。。
「え?なに?」
「だ、だから、私…まだ見習いなの」
「え?見習い⁉」
「な、なによ!み、見習いでも女神なのよ!魔法だってちゃんと使えるし…た、ただまだ修行中の身ってだけよ…」
 神々の世界にもそういった階級があるとは知らなかった。話を聞いたところ、彼女のような見習いの神は、上級神から与えられた任に就き、一流の神としてのスキルを高め、身につけていくのだそうだ。つまりその任というのが、転生させた人間の守り神となる事だった。まるでセールス業だ。
「話は分かったよ。それじゃ他に使える能力はないのかい?」
「そうね…変身だったら出来るわ」
 透過よりも変身の方が難しそうな気がするが…。
「変身ねぇ…」俺はどうしようか考えながら腰に手を当てた。すると、腰にある物が無い事に気づいた。
「…なんで拳銃が無いの?」
「だって銃が欲しいなんて言ってないじゃないの」
「いや、西部劇に銃は付き物でしょうよ!」
「知らないわよ観た事ないもん」
「衣装は用意出来てるのに⁉」
「この世界に導いたのはシャイリンポスの神々の力によるものであって、私はあなたに転生する力を与えただけよ。それ以外は知らないわよ」
 神様なのになんて無責任なんだ…いや、むしろ神だからなのかもしれない…。シャイリンポスの神々は何故拳銃を持たせてくれなかったのだろうか…何かわけでもあるんだろうか…?だとしても、この西部劇の世界に転生出来ても、拳銃がなければ山賊や強盗から身を守る事が出来ない。さてどうしたものか…。
「…そうだ、変身は出来るって言ったよね?それじゃぁ、拳銃になれるかい?」
「出来ると思うわ」
「それじゃ頼むよ。欲しいのはガンベルトと、拳銃はコルト・シングル・アクション・アーミーだ」
「…それが女神にお願いする者の態度かしら?」
 おっといけない、彼女がプライドの高い女神だという事を忘れていた。俺は両手と両膝を地に押しつけ懇願した。
「お願い致します!お美しい女神様!何卒わたくしめの願いをお聞きくださいませ‼」
「…よろしい」彼女はそう言うと、胸元から手帳のような物を取り出した。
「それは?」
「魔法のミニ大図鑑よ。これがあれば何でも調べられるの。えぇ~とガンベルトと…銃の名前はなんて言ったかしら?」
「コルト・シングル・アクション・アーミー」
「コルトシングルアクション…あった。じゃあいくわよ!」彼女は杖を大きく降ると光に包まれた。そして、杖はガンベルトとなって俺の腰に巻き付き、女神はコルト・シングル・アクション・アーミーに変身した。
 俺は女神が変身した拳銃を手にしてまじまじと眺めた。とても美しい銃だ。銀色の鋼が陽光に照らされキラキラと輝き、グリップの左側面には、首輪にあった緑色のジュエルが埋め込まれていた。
 銃を手に入れてすっかり嬉しくなった俺は、トリガーとトリガーガードの間に指を入れ、得意げにクルクルと回した。
「ちょちょちょちょっとぉ‼クルクル回すんじゃないわよぉ‼目が回るでしょーが‼」
「おっとごめんごめん!ってあれ?その状態で喋れるの?」
「当たり前でしょ!姿を変えただけで、意識はなくなってないんだから。とにかく、せっかくあなたの要望に応えてあげたんだから、もっと丁寧に扱ってちょうだい」
「ありがとうございます女神様。さてと、それじゃあ行こうかマリア」
「えぇ。…ってぇ!呼び捨てにするんじゃないっつーのぉ‼」
 俺は拳銃に変身したマリアをホルスターに収め、農場へと向かった。
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