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★★★★章
ベガ(落ちる鷲)
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「うん。偶然入った居酒屋のオーナーさん」
部屋に入ると、愛児はガチャッと鍵をしてボソッと呟いた。
「アイツはダメだ」
私はビックリして、リビングへと向かう愛児を追い掛けた。
「どうして?どうして分かるの?」
愛児は、私に背を向けたまま固い声を出した。
「お前の身体が目的なだけ」
本当に驚いた。
あの一瞬で、どうしてそんな事が分かるんだ!?
「なんで分かるの?あの一瞬で、分かったの!?」
愛児は返事をしない。
「ねえ」
「お前、バカなんじゃねーの?」
は?!
部屋に愛児のイライラしたような声が響き、私は次第にムッとした。
「あんた人の事、言えないじゃん」
険を含んだ私の声に、愛児がゆっくりと振り返った。
明らかに怒っていた。
でも私は、愛児の矛盾が何だか嫌で、言わずにはいられなかった。
「だってそうじゃん。キスしてきたり、誘ってきたじゃん。あんただって、ダサくて女子力低い私に、あんな事」
「苛つくんだよ、お前はっ」
「……っ!!!」
凄い早さで愛児に抱き締められて、私はそのままソファに押し倒された。
端正な顔に怒りの色を浮かべて、愛児は私を至近距離から睨むように見つめた。
そして、そのまま顔を近づけたかと思うと、愛児はまたしても私にキスをした。
まるで、私が自分のものだというように。
私は頭を左右に振って、愛児の唇から逃れようとした。
そんな私を見て、愛児は掠れた声で言った。
「……夢中にさせてやる、俺に。俺じゃないとダメだって、思うくらい夢中に」
愛児は私の身体を大きな手で撫でた。
それからうなじに唇を這わせる。
「っ……!」
熱い愛児の息が首筋にかかり、私は思わずビクッとして身体を反らせた。
「乃愛、乃愛、俺に夢中になれよ」
愛児は器用に私のワンピースのボタンを外した。
大きく開いた胸元に、彼が精悍な頬を傾けて唇を寄せる。
「やだ、やだよ」
「乃愛、俺に夢中になれって。そしたら俺、」
「怖い。愛児、怖い」
愛児がピタリと動きを止めた。
熱をはらんだ瞳が私を捉える。
私は震える声で言った。
「したこと、ないの」
愛児が眼を見開く。
私は、恐怖と羞恥心から生まれた涙を止めることが出来ずに、子供のようにしゃくり上げた。
「この歳でしたことないなんて、愛児からしたら気持ち悪いかも知れないけど、私は誰ともしたことないの。怖い、怖いよ愛児。こんなの嫌。
私は……私は、好き同士な人としたい」
「俺が好きだって言ったら?」
一瞬、日本語に思えなかった。
「……え?」
「乃愛の事、ずっと好きだったって言ったら?」
私は信じれない思いで愛児を見つめた。
「お前の事が好きで、我慢できなくなって、DVDだって、ワインだって、生ハムだって、全部お前と一緒にいたかったから、頑張ったって言ったら?」
「愛児……」
愛児は切なそうに瞳を揺らした。
「ダサいなんて思ってない。女子力低いなんて思ってない。
なのに、俺の言った言葉でお前が凄く綺麗になったから、俺は焦った。
案の定、お前に他の男が近づいてきて、なのにお前は隙だらけで、我慢できなかった」
私は何も言えなくて、ただただ愛児の綺麗な顔を見つめた。
「本当は、先に俺に夢中になって欲しかった。それから好きだって言いたかったんだ。何となく流されて付き合うんじゃなくて、しっかり俺を好きだと自覚した乃愛と、付き合いたかったから」
愛児は続けた。
「乃愛、俺はお前が好きだ、もうずっと長く」
私は愛児の胸を叩いた。
「バカ!バカバカ!なんでもっと早く言ってくれなかったの」
愛児は私にチュッとキスをしてから、息がかかる距離で言葉を返した。
「お前を見ると緊張したし、断られるのが怖かったんだ」
私は僅かに首を振った。
だって信じられなかったんだもの。
全身イケメンの愛児が私を見て緊張?
あり得ない。
「お前の、真面目で、誰に対しても分け隔てのないところが好きだ。
このマンションに住んでる若い夫婦の荷物を持ってやったり、老夫婦の小さな文字の書類に眼を通してやったり。
泣いてる子供の目線に合わせて身を屈めて、一生懸命話を聞いてやるところも。仕事の電話だって聞いたことがある。
真っ直ぐで、いつだって真剣な乃愛が好きだ」
いつの間に、そんなに見られていたんだろう。
いつの間に。
愛児が切なそうに微笑んだ。
「……本当は直ぐにでも返事が聞きたい。
けど俺、ずっと待ってるから、いつか返事を聞かせてくれる?
夢中にさせたかったのに……随分カッコ悪いけど、待ってるから」
私は頷いた。
「うん、ちゃんと考えるから、待ってて」
私は一生懸命笑った。
「でも、夕方の唐揚げは、教えてくれる?」
「……いいよ」
部屋に入ると、愛児はガチャッと鍵をしてボソッと呟いた。
「アイツはダメだ」
私はビックリして、リビングへと向かう愛児を追い掛けた。
「どうして?どうして分かるの?」
愛児は、私に背を向けたまま固い声を出した。
「お前の身体が目的なだけ」
本当に驚いた。
あの一瞬で、どうしてそんな事が分かるんだ!?
「なんで分かるの?あの一瞬で、分かったの!?」
愛児は返事をしない。
「ねえ」
「お前、バカなんじゃねーの?」
は?!
部屋に愛児のイライラしたような声が響き、私は次第にムッとした。
「あんた人の事、言えないじゃん」
険を含んだ私の声に、愛児がゆっくりと振り返った。
明らかに怒っていた。
でも私は、愛児の矛盾が何だか嫌で、言わずにはいられなかった。
「だってそうじゃん。キスしてきたり、誘ってきたじゃん。あんただって、ダサくて女子力低い私に、あんな事」
「苛つくんだよ、お前はっ」
「……っ!!!」
凄い早さで愛児に抱き締められて、私はそのままソファに押し倒された。
端正な顔に怒りの色を浮かべて、愛児は私を至近距離から睨むように見つめた。
そして、そのまま顔を近づけたかと思うと、愛児はまたしても私にキスをした。
まるで、私が自分のものだというように。
私は頭を左右に振って、愛児の唇から逃れようとした。
そんな私を見て、愛児は掠れた声で言った。
「……夢中にさせてやる、俺に。俺じゃないとダメだって、思うくらい夢中に」
愛児は私の身体を大きな手で撫でた。
それからうなじに唇を這わせる。
「っ……!」
熱い愛児の息が首筋にかかり、私は思わずビクッとして身体を反らせた。
「乃愛、乃愛、俺に夢中になれよ」
愛児は器用に私のワンピースのボタンを外した。
大きく開いた胸元に、彼が精悍な頬を傾けて唇を寄せる。
「やだ、やだよ」
「乃愛、俺に夢中になれって。そしたら俺、」
「怖い。愛児、怖い」
愛児がピタリと動きを止めた。
熱をはらんだ瞳が私を捉える。
私は震える声で言った。
「したこと、ないの」
愛児が眼を見開く。
私は、恐怖と羞恥心から生まれた涙を止めることが出来ずに、子供のようにしゃくり上げた。
「この歳でしたことないなんて、愛児からしたら気持ち悪いかも知れないけど、私は誰ともしたことないの。怖い、怖いよ愛児。こんなの嫌。
私は……私は、好き同士な人としたい」
「俺が好きだって言ったら?」
一瞬、日本語に思えなかった。
「……え?」
「乃愛の事、ずっと好きだったって言ったら?」
私は信じれない思いで愛児を見つめた。
「お前の事が好きで、我慢できなくなって、DVDだって、ワインだって、生ハムだって、全部お前と一緒にいたかったから、頑張ったって言ったら?」
「愛児……」
愛児は切なそうに瞳を揺らした。
「ダサいなんて思ってない。女子力低いなんて思ってない。
なのに、俺の言った言葉でお前が凄く綺麗になったから、俺は焦った。
案の定、お前に他の男が近づいてきて、なのにお前は隙だらけで、我慢できなかった」
私は何も言えなくて、ただただ愛児の綺麗な顔を見つめた。
「本当は、先に俺に夢中になって欲しかった。それから好きだって言いたかったんだ。何となく流されて付き合うんじゃなくて、しっかり俺を好きだと自覚した乃愛と、付き合いたかったから」
愛児は続けた。
「乃愛、俺はお前が好きだ、もうずっと長く」
私は愛児の胸を叩いた。
「バカ!バカバカ!なんでもっと早く言ってくれなかったの」
愛児は私にチュッとキスをしてから、息がかかる距離で言葉を返した。
「お前を見ると緊張したし、断られるのが怖かったんだ」
私は僅かに首を振った。
だって信じられなかったんだもの。
全身イケメンの愛児が私を見て緊張?
あり得ない。
「お前の、真面目で、誰に対しても分け隔てのないところが好きだ。
このマンションに住んでる若い夫婦の荷物を持ってやったり、老夫婦の小さな文字の書類に眼を通してやったり。
泣いてる子供の目線に合わせて身を屈めて、一生懸命話を聞いてやるところも。仕事の電話だって聞いたことがある。
真っ直ぐで、いつだって真剣な乃愛が好きだ」
いつの間に、そんなに見られていたんだろう。
いつの間に。
愛児が切なそうに微笑んだ。
「……本当は直ぐにでも返事が聞きたい。
けど俺、ずっと待ってるから、いつか返事を聞かせてくれる?
夢中にさせたかったのに……随分カッコ悪いけど、待ってるから」
私は頷いた。
「うん、ちゃんと考えるから、待ってて」
私は一生懸命笑った。
「でも、夕方の唐揚げは、教えてくれる?」
「……いいよ」
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