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vol.4
裂かれた画
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●●●●●●●
翌日。
相変わらずスッキリしない身体を引きずるようにして、私は学校に向かった。
あー、朝陽が眩しい。
……んー?なんか、変。
正門が近づくにつれて、やたらと視線を感じる。
……なに?
前を歩く生徒、追い抜いていく生徒の大半が、私をチラチラと見て囁き合う。
本能的に、雪野先輩の顔が脳裏に浮かんだ。もしかして、バレたんじゃ……。嫌な予感を感じて、手足の先が冷たくなっていく。
このまま回れ右をしたい気持ちに囚われながらも、私は仕方なく正門を通過しようとした。
その時、
「夏本さん」
キ、キターッ!!
クラスメイトには瀬里って呼ばれている。こんな風に『夏本さん』なんて呼ばれたことなんか、ない。
ドキッと鼓動が跳ねる中、私は声の主を振り仰いだ。
見るとそこに両手を胸の前で握り締めた愛華先輩が立っていて、心配そうに眉を寄せて私を見つめていた。
「は、い……」
「少し話があるの。ついてきてもらっていい?」
嫌とは言えなかった。私が頷くのを確認すると、愛華先輩は踵を返した。
「じゃあ……付き合って」
「はい……」
校舎に沿って北に歩くと、やがて愛華先輩は非常階段の脇で足を止めた。
その先に駐輪所があるために生徒がひっきりなしに通るけど、大抵自転車に乗っているせいで、話をじっくり聞かれることはない。
愛華先輩は、コンクリートの壁にもたれて私を見た。
「あなたなんでしょ?」
今まさに愛華先輩は、こう尋ねているのだ。
『雪野先輩に抱き締められて、愛してると言われたのはあなただったんでしょう?』って。
意思とは関係なく、鼓動が早くなる。
もう……ダメだ。
先輩の瞳が、真正面から私を捉える。
「答えて」
これ以上はもう、ごまかせない。
「……はい……」
私は観念して頷いた。
みるみるうちに愛華先輩の表情が変わる。
あんなに可憐で可愛いと思っていた彼女が、口を歪めて舌打ちした。
「なんでアンタなの?」
忌々しそうに私を睨み据えるその顔に、可憐さは跡形もなかった。
「この間は二人してよくも騙してくれたわね」
私は渡り廊下での出来事を思い返しながらゴクリと喉を鳴らした。
「あんた、片瀬旬が好きなんじゃないの?アイツとキスしたらしいじゃん。なのに、どうして雪野君ともイイ関係なわけ?」
どうして、旬との事……!
眼を見開く私を見て、愛華先輩が口角を上げた。
「なにその顔。どうしてバレたか知りたいの?」
言うや否や、彼女は笑い出した。
それから私を小バカにしたように眺める。
「リーク元はバスケ部の片瀬旬と紀野彰よ。アンタと雪野君がカレカノかもって。……ねえ……三田里緒菜を知ってる?雪野君にまとわりついてるあのブス」
愛華先輩が更に続けた。
「雪野君のピアスに似たヤツ見付けてきて、嬉しそうに耳につけてる女よ。似合いもしないのに」
あ……。確か旬と登校した日、雪野先輩に三年女子がピアスを見せていた。
『 翔のピアスに似てるの見付けたんだぁ! 』
そう言いながら、雪野先輩の隣で跳ねるように歩いてる三年女子の姿が、私の脳裏に蘇る。
愛華先輩が再びチッと舌打ちをした。
「あのブス、いつも私に張り合うのよ。雪野君を狙ってるのを、あからさまにアピールしてさ。ウザいったらないわ。この情報もアイツが紀野と契約して仕入れたらしいけどね」
会話の内容に息を飲む私を見て、先輩は鼻で笑った。
「……アンタみたいな地味系が好きだったなんて……雪野君って以外だわ」
いや、そうじゃなくて……。
私の心になんて気付かない愛華先輩は、こっちを見つめて言い放った。
「とにかく、別れてもらうから。私を騙した報いを受けてもらうわ。覚悟してよね」
騙した報い……。
私はどうしていいか分からず、身を翻して去っていく愛華先輩の後ろ姿を、ただ見つめるしかなかった。
●●●●
とてもじゃないけど、授業どころじゃなかった。でも皮肉なことに、みんなの視線から逃れられる授業中が、一番安らげることも事実で。
命を狙われそうになっただけでも物凄い体験なのに、雪野先輩と抱き合ってたのが私だと学校中にバレてしまった。
クラスメイトもよそよそしいし、刺すような視線が四六時中私を襲う。中でも志帆ちゃんは、私を睨んだ後ツン!と横を向いたきり、視線すら合わせてくれなかった。
そりゃ、怒るよね。私、知らないって嘘ついちゃったんだもの。
「みんな、ひがみすぎ!!」
唯一、明日香ちゃんだけはいつもと代わりなく私に接してくれる。
「でもさ、正直に言うと……ちょっとショック」
私は申し訳ない気持ちで明日香ちゃんを見上げた。
「……ごめんね、明日香ちゃん」
明日香ちゃんは慌てて、
「やだ、誤解しないでよ?!私は雪野先輩が好きとかそーゆー事じゃないからね」
え?
「違うの?」
私が不思議そうに見上げると、明日香ちゃんは私を睨んだ。
「私がショックだったのは、瀬里に本当の事を話して貰えなかったって事」
明日香ちゃん……。
「……ごめんね……私も本当は話したかったんだけど」
でも……どうしても言えなくて。
落ち込む私を見て、明日香ちゃんは心配そうに眉を寄せた。
「気を付けなよ?愛華先輩よりも里緒菜先輩のがヤバイよ。あの人、色々悪い噂あるし」
……どう気を付けたら助かるのか分からないまま、私は頷くしかなかった。
●●●●●
放課後。
『真っ直ぐ帰ってこい』
……雪野先輩からLINEだ。
何故か雪野先輩の事を考えると変な感じがする。
胸が重いような、ゾワゾワしたような感じがして、気分が悪くなる。
まあ、そんな事を言うとぶっ殺されるかも知れないから内緒だけど。
また遅くなるとあの冷たい眼差しで、
『どこほっつき歩いてたんだ』
とか言われるに決まってる。
私は『はい』と短く返事を返すと、部活棟へ向かった。
今思うとこのときの私は、まだ気付いてなかったんだ。動き出した自分の気持ちと、激動する運命に。
●●●●●●
なに、これ……!
部活棟に着いて自分のロッカーを開けた私は、その惨劇に凍り付いた。
嘘……!
クラッと目眩がして、ヘナヘナとその場にしゃがみ込む。
画が、画が……!
次回の美術教室で提出する予定だった画が、ビリビリに引き裂かれてロッカーの中に散乱していた。
嘘……でしょ……なんで。
なんで!?なんでよっ!?
部活棟のロッカーにしか画の置場所がないから、私はいつもここに置いていた。
確かに鍵はないけど、今までにこんな事なかった。
……はっきりとは分からないけど、私と雪野先輩の関係を許せない人がやったんだ。
私は唇を噛み締めて、引き裂かれた画を胸に抱いた。
するとたちまち描き始めた頃の気持ちや、苦労した箇所、完成した時の嬉しかった気持ちが込み上げてきて、ツンと鼻に痛みが走った。
涙が溢れて、ポトポトと床と散らばった画の上に落ちたけど、私にはそれが止められなかった。
悲しくて悔しくて仕方なかった。
●●●●●●
「何時だと思ってるんだ」
家にたどり着いた私を見下ろして、雪野先輩は低い声でそう言った。
黙って部屋へ行こうした私の腕を雪野先輩が素早く掴む。
「あれから二時間だぞ。真っ直ぐ帰れと言っただろうが」
その瞬間、ぷちん、と私の中で何かが弾けた。
「うるさいっ!!」
雪野先輩に向かって自分がこんな事言うなんて信じられなかった。
でも、胸がムカムカして言葉が止められない。
私は雪野先輩の手を振り払うと、肩に掛けていたポスターケースの中身をぶちまけて叫んだ。
「誰のせいでこうなったと思ってんの?!アンタのせいで大切な画を破られた!コンクールに出す大切な画だったのに!」
涙が溢れて頬を伝い、声が上ずったけど、私は泣きじゃくりながら雪野先輩を睨み上げた。
「画だけじゃない!アンタのせいで私は学校中の生徒から好奇の眼にさらされてる!中でも愛華先輩や里緒菜先輩に妬まれて、こんな状態で学校なんか行けないよ!!私はただ静かに過ごしたいだけなのにっ」
気付いたら私は雪野先輩に詰め寄り、彼の胸を拳で殴っていた。
「白狼って、アンタの事でしょ?!」
雪野先輩が、優しく私の両手首を掴む。
いつもは鋭い眼を、辛そうに細めて。
「……瀬里」
「翠狼は私が先輩の婚約者だって本気で思ってる。私、殺されそうになったんだよ?!なのにアンタは彼に付いていった私ばかりを責めて……最低だよっ!!アンタなんか大嫌いだよっ!何で私がこんなめに遭わなきゃならないの!?全部アンタのせいじゃん!」
その時、先輩がきつく私を抱き締めた。なにも言わずに。
「離してっ!」
「翠狼に何を言われた?」
「分かんないッ!覚えてない!離してっ!」
本当に、殺されそうになった事しか覚えていなかった。確かに翠狼は私に何か言ったのに、その内容が思い出せない。
思い出そうとしたら頭が痛くなって吐きそうになる。
ダメだ、本当に……。
目眩がして、頭が割れるように痛い。
「瀬里?瀬里!しっかりしろ!」
「もう、ダメ……」
ああ、私はどうなっちゃったんだろう。
「先輩、怖い……助けて……」
「瀬里、瀬里」
先輩が私を抱き締めながら名前を呼んだけど、徐々にその声が聞こえなくなって、私は何も分からなくなった。
翌日。
相変わらずスッキリしない身体を引きずるようにして、私は学校に向かった。
あー、朝陽が眩しい。
……んー?なんか、変。
正門が近づくにつれて、やたらと視線を感じる。
……なに?
前を歩く生徒、追い抜いていく生徒の大半が、私をチラチラと見て囁き合う。
本能的に、雪野先輩の顔が脳裏に浮かんだ。もしかして、バレたんじゃ……。嫌な予感を感じて、手足の先が冷たくなっていく。
このまま回れ右をしたい気持ちに囚われながらも、私は仕方なく正門を通過しようとした。
その時、
「夏本さん」
キ、キターッ!!
クラスメイトには瀬里って呼ばれている。こんな風に『夏本さん』なんて呼ばれたことなんか、ない。
ドキッと鼓動が跳ねる中、私は声の主を振り仰いだ。
見るとそこに両手を胸の前で握り締めた愛華先輩が立っていて、心配そうに眉を寄せて私を見つめていた。
「は、い……」
「少し話があるの。ついてきてもらっていい?」
嫌とは言えなかった。私が頷くのを確認すると、愛華先輩は踵を返した。
「じゃあ……付き合って」
「はい……」
校舎に沿って北に歩くと、やがて愛華先輩は非常階段の脇で足を止めた。
その先に駐輪所があるために生徒がひっきりなしに通るけど、大抵自転車に乗っているせいで、話をじっくり聞かれることはない。
愛華先輩は、コンクリートの壁にもたれて私を見た。
「あなたなんでしょ?」
今まさに愛華先輩は、こう尋ねているのだ。
『雪野先輩に抱き締められて、愛してると言われたのはあなただったんでしょう?』って。
意思とは関係なく、鼓動が早くなる。
もう……ダメだ。
先輩の瞳が、真正面から私を捉える。
「答えて」
これ以上はもう、ごまかせない。
「……はい……」
私は観念して頷いた。
みるみるうちに愛華先輩の表情が変わる。
あんなに可憐で可愛いと思っていた彼女が、口を歪めて舌打ちした。
「なんでアンタなの?」
忌々しそうに私を睨み据えるその顔に、可憐さは跡形もなかった。
「この間は二人してよくも騙してくれたわね」
私は渡り廊下での出来事を思い返しながらゴクリと喉を鳴らした。
「あんた、片瀬旬が好きなんじゃないの?アイツとキスしたらしいじゃん。なのに、どうして雪野君ともイイ関係なわけ?」
どうして、旬との事……!
眼を見開く私を見て、愛華先輩が口角を上げた。
「なにその顔。どうしてバレたか知りたいの?」
言うや否や、彼女は笑い出した。
それから私を小バカにしたように眺める。
「リーク元はバスケ部の片瀬旬と紀野彰よ。アンタと雪野君がカレカノかもって。……ねえ……三田里緒菜を知ってる?雪野君にまとわりついてるあのブス」
愛華先輩が更に続けた。
「雪野君のピアスに似たヤツ見付けてきて、嬉しそうに耳につけてる女よ。似合いもしないのに」
あ……。確か旬と登校した日、雪野先輩に三年女子がピアスを見せていた。
『 翔のピアスに似てるの見付けたんだぁ! 』
そう言いながら、雪野先輩の隣で跳ねるように歩いてる三年女子の姿が、私の脳裏に蘇る。
愛華先輩が再びチッと舌打ちをした。
「あのブス、いつも私に張り合うのよ。雪野君を狙ってるのを、あからさまにアピールしてさ。ウザいったらないわ。この情報もアイツが紀野と契約して仕入れたらしいけどね」
会話の内容に息を飲む私を見て、先輩は鼻で笑った。
「……アンタみたいな地味系が好きだったなんて……雪野君って以外だわ」
いや、そうじゃなくて……。
私の心になんて気付かない愛華先輩は、こっちを見つめて言い放った。
「とにかく、別れてもらうから。私を騙した報いを受けてもらうわ。覚悟してよね」
騙した報い……。
私はどうしていいか分からず、身を翻して去っていく愛華先輩の後ろ姿を、ただ見つめるしかなかった。
●●●●
とてもじゃないけど、授業どころじゃなかった。でも皮肉なことに、みんなの視線から逃れられる授業中が、一番安らげることも事実で。
命を狙われそうになっただけでも物凄い体験なのに、雪野先輩と抱き合ってたのが私だと学校中にバレてしまった。
クラスメイトもよそよそしいし、刺すような視線が四六時中私を襲う。中でも志帆ちゃんは、私を睨んだ後ツン!と横を向いたきり、視線すら合わせてくれなかった。
そりゃ、怒るよね。私、知らないって嘘ついちゃったんだもの。
「みんな、ひがみすぎ!!」
唯一、明日香ちゃんだけはいつもと代わりなく私に接してくれる。
「でもさ、正直に言うと……ちょっとショック」
私は申し訳ない気持ちで明日香ちゃんを見上げた。
「……ごめんね、明日香ちゃん」
明日香ちゃんは慌てて、
「やだ、誤解しないでよ?!私は雪野先輩が好きとかそーゆー事じゃないからね」
え?
「違うの?」
私が不思議そうに見上げると、明日香ちゃんは私を睨んだ。
「私がショックだったのは、瀬里に本当の事を話して貰えなかったって事」
明日香ちゃん……。
「……ごめんね……私も本当は話したかったんだけど」
でも……どうしても言えなくて。
落ち込む私を見て、明日香ちゃんは心配そうに眉を寄せた。
「気を付けなよ?愛華先輩よりも里緒菜先輩のがヤバイよ。あの人、色々悪い噂あるし」
……どう気を付けたら助かるのか分からないまま、私は頷くしかなかった。
●●●●●
放課後。
『真っ直ぐ帰ってこい』
……雪野先輩からLINEだ。
何故か雪野先輩の事を考えると変な感じがする。
胸が重いような、ゾワゾワしたような感じがして、気分が悪くなる。
まあ、そんな事を言うとぶっ殺されるかも知れないから内緒だけど。
また遅くなるとあの冷たい眼差しで、
『どこほっつき歩いてたんだ』
とか言われるに決まってる。
私は『はい』と短く返事を返すと、部活棟へ向かった。
今思うとこのときの私は、まだ気付いてなかったんだ。動き出した自分の気持ちと、激動する運命に。
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なに、これ……!
部活棟に着いて自分のロッカーを開けた私は、その惨劇に凍り付いた。
嘘……!
クラッと目眩がして、ヘナヘナとその場にしゃがみ込む。
画が、画が……!
次回の美術教室で提出する予定だった画が、ビリビリに引き裂かれてロッカーの中に散乱していた。
嘘……でしょ……なんで。
なんで!?なんでよっ!?
部活棟のロッカーにしか画の置場所がないから、私はいつもここに置いていた。
確かに鍵はないけど、今までにこんな事なかった。
……はっきりとは分からないけど、私と雪野先輩の関係を許せない人がやったんだ。
私は唇を噛み締めて、引き裂かれた画を胸に抱いた。
するとたちまち描き始めた頃の気持ちや、苦労した箇所、完成した時の嬉しかった気持ちが込み上げてきて、ツンと鼻に痛みが走った。
涙が溢れて、ポトポトと床と散らばった画の上に落ちたけど、私にはそれが止められなかった。
悲しくて悔しくて仕方なかった。
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「何時だと思ってるんだ」
家にたどり着いた私を見下ろして、雪野先輩は低い声でそう言った。
黙って部屋へ行こうした私の腕を雪野先輩が素早く掴む。
「あれから二時間だぞ。真っ直ぐ帰れと言っただろうが」
その瞬間、ぷちん、と私の中で何かが弾けた。
「うるさいっ!!」
雪野先輩に向かって自分がこんな事言うなんて信じられなかった。
でも、胸がムカムカして言葉が止められない。
私は雪野先輩の手を振り払うと、肩に掛けていたポスターケースの中身をぶちまけて叫んだ。
「誰のせいでこうなったと思ってんの?!アンタのせいで大切な画を破られた!コンクールに出す大切な画だったのに!」
涙が溢れて頬を伝い、声が上ずったけど、私は泣きじゃくりながら雪野先輩を睨み上げた。
「画だけじゃない!アンタのせいで私は学校中の生徒から好奇の眼にさらされてる!中でも愛華先輩や里緒菜先輩に妬まれて、こんな状態で学校なんか行けないよ!!私はただ静かに過ごしたいだけなのにっ」
気付いたら私は雪野先輩に詰め寄り、彼の胸を拳で殴っていた。
「白狼って、アンタの事でしょ?!」
雪野先輩が、優しく私の両手首を掴む。
いつもは鋭い眼を、辛そうに細めて。
「……瀬里」
「翠狼は私が先輩の婚約者だって本気で思ってる。私、殺されそうになったんだよ?!なのにアンタは彼に付いていった私ばかりを責めて……最低だよっ!!アンタなんか大嫌いだよっ!何で私がこんなめに遭わなきゃならないの!?全部アンタのせいじゃん!」
その時、先輩がきつく私を抱き締めた。なにも言わずに。
「離してっ!」
「翠狼に何を言われた?」
「分かんないッ!覚えてない!離してっ!」
本当に、殺されそうになった事しか覚えていなかった。確かに翠狼は私に何か言ったのに、その内容が思い出せない。
思い出そうとしたら頭が痛くなって吐きそうになる。
ダメだ、本当に……。
目眩がして、頭が割れるように痛い。
「瀬里?瀬里!しっかりしろ!」
「もう、ダメ……」
ああ、私はどうなっちゃったんだろう。
「先輩、怖い……助けて……」
「瀬里、瀬里」
先輩が私を抱き締めながら名前を呼んだけど、徐々にその声が聞こえなくなって、私は何も分からなくなった。
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