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なら「私」の興味はもうこの東京にはなくなったのと同義だった。なら「私」の興味はどこに行ったのだろう? そう誰何することも儘為らない。そうしていることも出来ないのだ。
「私」は自分の事を天才だとは思ったことも思われたこともない事は重々お分かりになられたことだろうと存ずる。「私」にも欲は人ほどには有った。それが空想・妄想の類とも思われるかもしれないが……。勿論下らないカストリ小説のような何でもかでも叶う訳では無い。それは当たり前のことであり、自明の理である。だが、少なからず心中にはそんな理性に関わりを持たない無意識が有る。叶われた翼赤煩悩は少なからずの幸福が齎したのだろう。その幸福を「私」の語る必要のない物であった。案外人のうらやむものであろうとも語る必要がなければそこにはどのような意味も失う。
考えてみればやはり奇妙なものだ。
「私」には才覚や能力がないくせに大言壮語を吐きながらもこの都市〈例え東京ではなくても近郊〉に生きることを努力しなかった。その環境が嫌ならばその周辺を変えるか、生活場所を変えるしかない。そのための努力を「私」は行えなかったのだ。誰かに変えて貰うのを待っていただけなのだ。
残りの時間は少ない。ただ敗北者はそのまま去ることが許された時代はもう終わっていた。もうこの場所には用はない。もう意地と虚栄心の塊ではなくなっていた。いや、そんなものは他使者には感ぜられるほど目障りなものでは無かったはずだ。ただ彼々(かれか)の前に立ち向かい刃向かう時こそ、取るに足らない障害になるのだ。
絡まった人の考査を避けるため、「私」はとある村に行くことを決めた。脳裏にあった知識ではそれぐらいの事しか発送できなかったのだ。農業に従事する若者を育てるためなどと夢物語を蜿蜒に書いてあったが、人はそんな大層な理念を持って不便な場所に旅立つのではない。誰も行かないところ、誰も気にも留めないから行くのだ。そこには世捨て人として生きるような、都市の便利さよりも隠したい感情や過去と時代錯誤に悩む姿勢がいつの間にか場所を失わせていくのだろう。事故として生きられる場所を見つけられずに、人の気持ちを踏みにじる他者に侵略されながら。
多くの書類を書き役所から資料を取り寄せ送り、印鑑を押す。この時印鑑を適当に作ってもらった。両親との音信は出来るだけ辞めようとしたためでもあったし、誰にも話そうとしない心から「私」はこんな労苦を積み重ねているのかもしれない。細かい事を聞かない彼らと相対すると彼らの内にある利害と「私」から発せられる猟奇の利害関係しかないのかもしれない。例え「私」がどうなろうと、どうしようともどうにでもなるのかと。虚ろな思いの中で朱肉に印鑑を押しながら公布と考える。
私は悪魔と契約しているのではないか、と。
「私」は自分の事を天才だとは思ったことも思われたこともない事は重々お分かりになられたことだろうと存ずる。「私」にも欲は人ほどには有った。それが空想・妄想の類とも思われるかもしれないが……。勿論下らないカストリ小説のような何でもかでも叶う訳では無い。それは当たり前のことであり、自明の理である。だが、少なからず心中にはそんな理性に関わりを持たない無意識が有る。叶われた翼赤煩悩は少なからずの幸福が齎したのだろう。その幸福を「私」の語る必要のない物であった。案外人のうらやむものであろうとも語る必要がなければそこにはどのような意味も失う。
考えてみればやはり奇妙なものだ。
「私」には才覚や能力がないくせに大言壮語を吐きながらもこの都市〈例え東京ではなくても近郊〉に生きることを努力しなかった。その環境が嫌ならばその周辺を変えるか、生活場所を変えるしかない。そのための努力を「私」は行えなかったのだ。誰かに変えて貰うのを待っていただけなのだ。
残りの時間は少ない。ただ敗北者はそのまま去ることが許された時代はもう終わっていた。もうこの場所には用はない。もう意地と虚栄心の塊ではなくなっていた。いや、そんなものは他使者には感ぜられるほど目障りなものでは無かったはずだ。ただ彼々(かれか)の前に立ち向かい刃向かう時こそ、取るに足らない障害になるのだ。
絡まった人の考査を避けるため、「私」はとある村に行くことを決めた。脳裏にあった知識ではそれぐらいの事しか発送できなかったのだ。農業に従事する若者を育てるためなどと夢物語を蜿蜒に書いてあったが、人はそんな大層な理念を持って不便な場所に旅立つのではない。誰も行かないところ、誰も気にも留めないから行くのだ。そこには世捨て人として生きるような、都市の便利さよりも隠したい感情や過去と時代錯誤に悩む姿勢がいつの間にか場所を失わせていくのだろう。事故として生きられる場所を見つけられずに、人の気持ちを踏みにじる他者に侵略されながら。
多くの書類を書き役所から資料を取り寄せ送り、印鑑を押す。この時印鑑を適当に作ってもらった。両親との音信は出来るだけ辞めようとしたためでもあったし、誰にも話そうとしない心から「私」はこんな労苦を積み重ねているのかもしれない。細かい事を聞かない彼らと相対すると彼らの内にある利害と「私」から発せられる猟奇の利害関係しかないのかもしれない。例え「私」がどうなろうと、どうしようともどうにでもなるのかと。虚ろな思いの中で朱肉に印鑑を押しながら公布と考える。
私は悪魔と契約しているのではないか、と。
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