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④桜並木に春色の妖精
第5話
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たまたま散歩中に出会った、妖精のように可憐に舞い踊る女性と公園で会うのはもう何度目になっだろうか。確実に五回は越えているし、もしかしたら二桁に近いかもしれない。
こんなに何度もあっているのにお互い自分のことは語らず、呼ぶ時も「お嬢ちゃん」「お姉さん」で通じていたから、とうとう名前を知らないままここまで来てしまっている。
でも、この自分のことをそこまで知らない相手と話すのは、学校の友達や先生、家族と違った話しやすさがあった。自分の持つ事情を深く聞かれたりしないし、私自身についての情報がない分、変な予測などせず今ここに居る私を見て貰えているような気がするのだ。
そして、また互いのことを語らず、名前も知らず、すれ違ったらちょっとした世間話をするような関係のまま早朝の邂逅は数回続き、今日の偶然の遭遇が記念すべき十回目だった。
「また会ったわね。お嬢ちゃん」
「また会いましたね、お姉さん。今日で十回目ですよ。なんだか記念日みたいですね」
「そうね。それも、最近はあまり会っていなかったから久しぶりの再会でもあるわ」
今日のお姉さんは、薄く施した春色の化粧に、最初に出会った時と同じようなブラウス、その時よりももっと丈がある深緑色のロングフレアスカートを身にまとって、相変わらず優雅で上品に舞い踊っていた。スカートの深緑色はもう散ってしまった柔らかな色をした花の代わりに、爽やかな緑色の葉をつけ始めた葉桜を想起させる。
そのお姉さんを私が見つけて、声をかけたのだ。相変わらず、思わず目をやってしまうほどの魅力があふれていて、遠くから見てもすぐに分かった。今日はお姉さんと話せる幸運な日だと。
「あら、少し顔色が優れないようね。昨日は夜更かしでもしたの?」
「あ、はい。昨日はちょっと気分が落ち込んで、いろいろ考えこんじゃうブルーな日でして……」
思えば、初めて私自身のことを聞かれたかもしれない。いつもは曲のことだとか、日々咲き誇ってそれから散っていく桜の事。それに、動画サイトで見つけたかわいい動物の話のような、自分たち以外の話ばかりしていたのだ。
今日も同じような会話をすると思っていた私は、少し面喰い、返事をする声は小さく頼りない感じになってしまった。
「何か私に手伝えることはない? もし今もブルーな気分だったら、話しくらい聞けるわよ。それとも、参考になるかは分からないけれど、もしあなたが私に聞きたい話があれば、できる範囲でお話しようか?」
お姉さんは心配そうに私の両手を握りながら、問うてきた。個人のことに切り込んできたのは、記念すべき十回目だからだろうか。何度も会っているから、それは避けられないことなのだろうか。とうとう互いの話をするべきタイミングなのかもしれない。
でも、私の話だけを聞こうとせずに、お姉さんは自分の話もしてくれようとしている。これは信頼して、自分の悩みを打ち明けてもいいのかもしれない。もしかしたら、一緒に解決しようとしてくれるのかもしれない。
その時なぜそう思えたのかは分からなかった。だけど後で思い返してみれば自然なことだったのだろう。お姉さんは、私の話だけ一方的に聞こうとするのではなく、自らの話も差し出そうとしていたのだから。
こんなに何度もあっているのにお互い自分のことは語らず、呼ぶ時も「お嬢ちゃん」「お姉さん」で通じていたから、とうとう名前を知らないままここまで来てしまっている。
でも、この自分のことをそこまで知らない相手と話すのは、学校の友達や先生、家族と違った話しやすさがあった。自分の持つ事情を深く聞かれたりしないし、私自身についての情報がない分、変な予測などせず今ここに居る私を見て貰えているような気がするのだ。
そして、また互いのことを語らず、名前も知らず、すれ違ったらちょっとした世間話をするような関係のまま早朝の邂逅は数回続き、今日の偶然の遭遇が記念すべき十回目だった。
「また会ったわね。お嬢ちゃん」
「また会いましたね、お姉さん。今日で十回目ですよ。なんだか記念日みたいですね」
「そうね。それも、最近はあまり会っていなかったから久しぶりの再会でもあるわ」
今日のお姉さんは、薄く施した春色の化粧に、最初に出会った時と同じようなブラウス、その時よりももっと丈がある深緑色のロングフレアスカートを身にまとって、相変わらず優雅で上品に舞い踊っていた。スカートの深緑色はもう散ってしまった柔らかな色をした花の代わりに、爽やかな緑色の葉をつけ始めた葉桜を想起させる。
そのお姉さんを私が見つけて、声をかけたのだ。相変わらず、思わず目をやってしまうほどの魅力があふれていて、遠くから見てもすぐに分かった。今日はお姉さんと話せる幸運な日だと。
「あら、少し顔色が優れないようね。昨日は夜更かしでもしたの?」
「あ、はい。昨日はちょっと気分が落ち込んで、いろいろ考えこんじゃうブルーな日でして……」
思えば、初めて私自身のことを聞かれたかもしれない。いつもは曲のことだとか、日々咲き誇ってそれから散っていく桜の事。それに、動画サイトで見つけたかわいい動物の話のような、自分たち以外の話ばかりしていたのだ。
今日も同じような会話をすると思っていた私は、少し面喰い、返事をする声は小さく頼りない感じになってしまった。
「何か私に手伝えることはない? もし今もブルーな気分だったら、話しくらい聞けるわよ。それとも、参考になるかは分からないけれど、もしあなたが私に聞きたい話があれば、できる範囲でお話しようか?」
お姉さんは心配そうに私の両手を握りながら、問うてきた。個人のことに切り込んできたのは、記念すべき十回目だからだろうか。何度も会っているから、それは避けられないことなのだろうか。とうとう互いの話をするべきタイミングなのかもしれない。
でも、私の話だけを聞こうとせずに、お姉さんは自分の話もしてくれようとしている。これは信頼して、自分の悩みを打ち明けてもいいのかもしれない。もしかしたら、一緒に解決しようとしてくれるのかもしれない。
その時なぜそう思えたのかは分からなかった。だけど後で思い返してみれば自然なことだったのだろう。お姉さんは、私の話だけ一方的に聞こうとするのではなく、自らの話も差し出そうとしていたのだから。
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