制服エプロン。

みゆみゆ

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7月

第24帖。ゴーヤの野菜いため。

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 暑い。暑い。ひたすら暑い。
 土曜日の昼下がり。午前中で帰って来たけーこは、アイスを片手にベランダで涼む……はずだった。
 ガラス戸を開け、玄関も開ければ風が少しは通ると思っていた。でも全然通らない。無風状態だ。

 エアコンは意地でもつけないけーこだ。電気代を心配してのことではない。つけると体調がよろしくないからだ。

「うむ……暑い。よし! 冷房の効いたけいたんちじゃ!」

 でも慧太の家で涼むのはヤブサカではない。なぜだか理由は知らないが、けーこの体質である。



 一方でこのところ冷房を入れっ放しの慧太である。曜日など関係ない。常に入れっ放し。切ることはほとんどない。

 ぴんぽーん

「ん? 誰だ、こんな時間に」
「ワシじゃ!」

 鍵を開けて入って来るけーこ。チャイムを鳴らしてから数秒も経っていない。もはや達人の領域である。

「いらっしゃい」
「アイスないか、アイス」
「ああ、まだあったかな」
「……ない。どうなっとるんじゃ、この家は。冷房が効いておるのが唯一の救いじゃな」
「ひ、ひどい言いよう」
「あとワシがおるからこの部屋の価値は高い」
「まあ、ご飯ウマいし」
「じゃろう! うむ、しょうがないのー! 今日もまた買い物に連れて行ってやろうぞ!」
「え、もう行くの? まだお昼過ぎだ。夕飯の買い物には早いんじゃないか」
「それもあるが昼餉の買い物も行くのじゃ。さ、行くぞ!」
「えー、ちょ、せめて再生ストップしてから」
「よく分からんことを言うな。ぱそこんせんでも死なぬわ」
「理解がない……。分かったからちょ、えり引っ張らないで!」



 暑い遊歩道に人影はない。まったくない。無人の広野をゆくがごとし。

「そりゃ、こんな暑けりゃ誰だって外に出たくないからね」
「むう。暑いわ」

 けーこは口を「へ」の字に曲げている。慧太の家にあったカンカン帽をかぶっている。ひさしをクイッと上げ、太陽をうらめしげに眺める。
 制服姿である。夏用なので生地は薄い。スカートも心なしか薄い布地のようだ。

「けーこ、制服ってさ。夏用は薄いのか」
「スケベ」
「なっ! 何を言う! ……いや、僕の言い方が悪かったかな」
「だいぶ悪いの。うむ、夏用の制服じゃと生地が薄い。透けとるじゃろ。ホラ」

 くるりん、とその場で1回転するけーこ。スカートがやや上がる。1周まわって元に戻る。

「透けてるかな」
「見過ぎじゃ……」
「な、見なきゃ分からないでしょ!」
「そうやってすぐエロいこと考えるの、けいたは」
「そんなこと考えてません。けーこじゃないんだからいてえ!」
「そんなワケの分からんこと言うヤツにはキックじゃ! てい!」
「痛いって! 暑いんだからエネルギーを使わせるなって!」

 とか言って、よける慧太も楽しんでいる。

 スーパーに行く。思っていたよりも人がいる。駐車場に停めてあった自動車の数からして、みんな車で来ている客だろうと慧太は考える。

「何を買おうか。暑いから冷たいものを買おうか」
「駄目じゃ」
「即座に却下か」
「冷たいものを食うても元気は出ん。暑いときには熱いものか、もしくは普通の飯を食うのじゃ。というわけでゴーヤが目に入ったから野菜イタメにしようかの。冷凍庫に肉はあったか?」
「というわけでゴーヤの意味が分からない。あいてっ! いちいち蹴らないでよ!」
「蹴りやすいところにおるからじゃて。お、モヤシが安い……か?」
「1袋45円は安いんじゃないの。そりゃ昔は1袋19円とかあったけど」
「その時代をワシは知らんが、なんとなく高い気はする。じゃが買っとくか」
「お買い上げ。アイスは?」
「買わいでか! 買うに決まっておろうが。さ、行くぞ!」
「なんか今日は元気だね」
「初めてじゃからな。昼餉を一緒に食うのは。そう思うと楽しいではないか? ん?」
「かもね」



「ただいまー。けいた、エアコンじゃ!」
「暑かった……。冷房は大丈夫なのか。気分が悪くなるとか言ってたじゃないか」
「この部屋なら何とかなる。着けよ!」
「はいはい。今からご飯を炊いてたらだいぶかかるよね。どうしよ」
「こういうときのために冷凍ご飯をウチに準備してある。取って来るからちょっと待っとれ!」

 ピュンっと一瞬で消えるけーこ。
 そしてすぐに帰って来る。手にはラップで巻いた冷凍ご飯。

「チンするぞ。けいた、いつも通り待っておれ。すぐ昼餉を作る」

 けーこは言って、電子レンジに冷凍ご飯を入れ、「解凍」でスイッチオン。これでご飯は食える。
 
 小鍋に水を張る。
 インスタントの中華スープを取り出す。沸いて来た小鍋に粉末スープを入れる。これまた刻んで冷凍しておいたショウガを投入。
 とき卵をさっと入れれば、中華風スープは完成だ。

 ゴーヤはタテに2分割する。真ん中の綿はスプーンでほじって捨てる。身を等間隔に切る。
 火にかけたフライパンへ投入する。モヤシ、ニンジンを入れてよくいためる。オイスターソースと醤油で味をつけ、最後に卵で閉じる。

「む。またもや卵がカブってしまったか。まあいいか。出来たぞ、けいた。コタツ机の上を片付けよ」
「え? もう出来たの? 早いな」
「じゃろう。さーて食うか」

 コタツ机の上に昼ご飯が並ぶ。けーこと食べる初めてのお昼。

 ご飯、中華風スープ。ゴーヤの野菜いため。それに惣菜の余り。

「イタダキマス」
 
 さっそく箸をつけるけーこ。
 苦い。ゴーヤは「苦うり」というだけある。噛むほどに苦味がにじみ出て来るが、不思議と不快ではない。むしろ食欲が増す。苦いから早くモヤシや卵のウマさで口を浄化したい。そう思ってしまう。

「苦い……」
「さすがゴーヤだ。けーこ、苦いの苦手か」
「好きではないが……。栄養満点じゃと思えば何とか食える」
「無理して食わなくても」
「無理なぞしておらん。ワシが作った料理がマズいはずがない」
「ウマいよ。今日も」
「うむ」

 けーこは満足そうである。
 しかし「ゴチソウサマデシタ」のあと、即座にアイスを食べているのだった。
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よろしくお願い申し上げます。平成27年7月14日、タイトルを変えました。旧称『落ちぶれ大学生と転生JKとは並んで台所に立つ。』新称『制服エプロン。』突然です。申し訳ありません。
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