Love Story 1

結華

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2章

2-3

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ー文化祭、一般公開の日

いよいよこの日がやってきてしまった。今日が本当の文化祭だ。あの衣装を着て、みんなの前で公開処刑だ…。もしかしたら、創平に見られるかもしれない…。私は愛夏と蘭と衣装に合わせたメイクなどをしなければならないので、かわいい紙袋に化粧道具やヘアアイロンを詰め込んでいつもより30分も早い電車で学校に向かった。学校に着くと、一部の生徒はもう登校していて文化祭一般公開の準備を始めていた。

(森)「優和ー!おはよー!」
(優)「愛夏!おはよ!やっぱり時間通りだったね」
(森)「もちろん!蘭が遅れてくると思ってさ」
(優)「やっぱり?私もそう思った」

昇降口は空いていたが、時間も早かったので生徒会館に直接入った。
生徒会館の一室を、部員たちの控室としているのでそこで髪の毛や化粧をすることにした。愛夏が持ってきたものはプチプラの色鮮やかなもので、私が持ってきた母親の趣味のデパートで買った大人向けのものとは大違いだった。

(蘭)「ごめん遅くなった!!」
(優)「やっぱり蘭は遅刻してきたね」
(森)「いつも通り寝坊?」
(蘭)「違うよ!電車の信号で止まっちゃって…」
(優)「ハイハイ、いつもの言い訳ねw。とりあえず座りなさい!準備間に合わないよ!」
(蘭)「はーい」

私が蘭のヘアメイクをしている間、愛夏には自分の髪のセットをしてもらった。愛夏のお母さんは美容師をしているらしく、髪の毛のアレンジがとても上手い。蘭と愛夏のヘアメイクを終わらせたところで、朝のHRが始まる時間になってしまったので、私は結局朝と同じ状態で教室に向かった。
教室で朝のHRを終わらせて、11時の演奏に間に合うようにヘアメイクを済ませた。蘭と愛夏のは目立つようにしっかりメイクしたが自分のは手抜きにしてしまった。だが、愛夏と蘭が無理やり手直しをしてきて、鏡を見るととんでもない美女が映っていた。

(森)「蘭…。こりゃ、とんでもない美人ができたね…」
(蘭)「普段すっぴんだからわかんなかったけど、化粧すると化けたね…」
(森)「これは今日護衛を付けないと余計な虫がくっつくね…」

私は、鏡に映ってている美女がどうしても自分とは信じられずただ鏡を呆然と見つめていた。とりあえず、衣装に着替えて今日の演奏の準備をした。少し前から減量をしていたおかげで楽器を吹くためのブレスをとっても衣装のウエスト部分はキツくなかった。控室で準備をしている間にお客さんたちは集まってきていて、私たちがチューニングのために座席に座るころには観客席はほぼ埋まっていた。埋まっていると言っても、一般の客さんは少なくほぼ部員の知り合いだった。2年の先輩の一部は男女で制服交換をしており、女子が男子の学ランを着ている分にはかっこいいが、男子が女子のブレザーとスカートを着ているとかなり見苦しいものがある。それのコスプレのせいか、前列に座っている先輩方はひたすらにいじられていた。わちゃわちゃしているうちに演奏が始まる時間になり、私の緊張はピークだった。大丈夫。練習して通りにすれば大丈夫。と心に言い聞かせ本番に挑んだ。

不安だった演奏も終わり、次の演奏までの休憩となった。私は愛夏とともに出演する衣装のまま学校内を巡っていた。歩いていると、コスプレと勘違いして話しかけてくるものが多く正直なところ飽き飽きしてしまった。もうこれ以上話しかけられたり写真を撮られたれたりするのは面倒だと思い、お互いのクラスの出店に行こうという話になった。最初は愛夏のクラスの出店を見に行った。愛夏のクラスはお化け屋敷を作っており、話によるとかなりリアルに怖く作ってあるらしくとてもじゃないが一人では入れないと思った。お化け屋敷には入らず私のクラスの出店に向かった。私のクラスは綿あめ屋をやっていて、ほとんど準備に参加できなかったけども、工夫して今はやりの色とりどりの綿あめらしい。

(朱)「あ、優和いらっしゃい!」
(優)「朱莉!お疲れ様!」
(朱)「綿あめ作ったけど食べる?てか食べてほしいんだけど」
(優)「え、いいの?ありがと!」
(朱)「あれ、創平君に見せてないの?」
(優)「うん?午後から演奏を見に来るって聞いてたけども」
(朱)「こんなかわいい恰好してるのにもったいない!あ、創平君!」
(優)「ちょ、朱莉!いいってば!」
(創)「ん?何?」
(朱)「優和が合間見てきてくれたんだからデートしてきなよ!」
(創)「え…」

裏の方から出てきた創平は私の姿を見て固まっていた。そりゃ、いつもとはちがうからびっくりするよな…。

(恭)「創平行ってこい!」
(創)「でも。シフトが…」
(翔)「俺たちがシフト変わってやるから、デートしてこい!」
(優)「え、でも…」
(朱)「いいからいいから!とりあえず行ってきなさい!」

朱莉は戸惑っている創平と私の背中を押して教室から出されてしまった。その後ろから、恭輔くんと翔君の私たちをバカにする顔が見えた。

(創)「…相変わらず朱莉さんは…」
(優)「ほんとにね…」
(創)「まあ、せっかく抜けてこれたんだからどっか行こうよ。その……衣装も可愛いし…」
(優)「え…。ありがと…」

普段気兼ねなく話せてるはずなのに、今日はどこか恥ずかしくぎこちなくなってしまった。小腹も空いてきたところだったので、中庭の出店で食べ物を買った。

(創)「何食べる?」
(優)「んーポップコーン食べたい!キャラメル味の!」
(創)「いいよ!俺も食べたいと思ってた!買ってくるから待ってて!」
(優)「あ、一緒行く!」

ポップコーンのお店をやっているのは3年生の先輩のお店で、さすがだなあと思うような手際の良さだった。並んだ時には長蛇の列だったがあっという間に列は消えていった。

(光)「あれ、創平じゃん!久しぶり!」
(創)「え、光輝先輩!」
(光)「お隣は…彼女…?」
(優)「あ、優和です…」
(光)「え、優和ちゃん!?わかんなかった!めっちゃ可愛いじゃん!」
(優)「あ、ありがとうございます…」
(光)「そっかーお前らやっと付き合い始めたかー…。創平、大事にするんだぞ!」
(創)「いや、俺ら付き合ってないです!」

光輝先輩から受け取ったポップコーンはビニールの中に紙カップを入れていて、光輝先輩の善意でもりもりに入っていた。ただ、出来立てだったらしく持ち手のところまで熱かった。
ポップコーンの他にも何個か食べたいものを買って、休憩所として開放していた教室で食べた。

(創)「意外とおいしいね!」
(優)「確かに、普通の縁日とかで売ってるのよりもおいしいかも!」
(創)「俺、縁日とかで買って食べるの好きなんだ優和はそーゆーの好き?」
(優)「うん。わりと好きかも!今年はいけなかったからなぁ…」
(創)「来年とか一緒に行けたらいいねw。あ、そろそろ優和行かないとやばくない?」
(優)「え、あ!もうこんな時間か!」

二人で使ったテーブルの片づけをして教室を出た。創平がトイレに行きたいというので、トイレの前で待っていた。
するといかにも他校というような風貌の男三人組が話しかけてきた。

(男1)「ねえねえ、お姉さん。ここの学校の人?俺ら、迷っちゃいそうだから案内してくれない?」
(優)「すみません…。用事がありますので…」
(男2)「いいじゃん、いいじゃん」

(優)「ちょっと、離してください!」

主格に見える男の両脇に立っていたヒョロヒョロの男から両腕をつかまれた。

(創)「うちの彼女に何の用ですか?」
(優)「創平…」
(男1)「…んだよ…。男持ちかよ…。お前ら行くぞ」

創平は私の肩を優しく支えて、話しかけてきた男を追い払ってくれた。そして、創平が羽織っていたパーカーを私の肩にかけてくれた。

(創)「ごめん、彼女なんて嘘ついて」
(優)「ううん。ありがとう。助けてくれて」
(創)「大丈夫。それより、ケガない?」
(優)「うん、何ともないよ。それよりこのパーカー…」
(創)「さっきからみんな優和のこと見すぎ。…可愛すぎるから見せたくない…」
(優)「ありがと……」

肩にかけてくれたパーカーに腕を通すと、丈はちょうど良かったが、袖が余ってしまい萌え袖になってしまった。肘の辺りで調整していると、ちょうどいい長さになった。すると、創平が時間を気にしてなのか私の手を軽く引いて歩き出した。手を握られたのはいつぶりだろう…。なんか、本当の彼女のような気分になった。ほんとに彼女になれたらいいんだけどな…。幸せな時間はすぐに終わってしまい、あっという間に生徒会館についてしまった。

(優)「ありがとう。わざわざ送ってくれて」
(創)「いえいえ。後で演奏見に行くからね」
(優)「本当?嬉しい、頑張るね」
(創)「うん。じゃあ…」

創平が生徒会館から出ていくのを見送って、ブラス部員の控え室に入った。

(森)「あれ、どうしたの?このパーカー」
(優)「うん。友達から借りた」
(森)「とかいって、男もんじゃないの!もー優和ったら照れちゃって」
(優)「照れてないし!」

ケースから楽器を取り出して音出しとチューニングをした。控え室から会場の様子を覗いてみると、午前とは打って変わって一般のお客さんが増えて用意した座席が満杯になった。やっぱり緊張するなぁ…。今朝、マグボトルに入れてきた紅茶はかなりぬるくなっていて、緊張をほぐすのにはちょうど良かった。それに、創平の匂いがするパーカーが心をさらに落ち着かせれくれた。

(森)「優和!そろそろ準備!」
(優)「あ、うん!今行く!」

着ていたパーカーを脱いで、手元に置いていたミニタオルを持って会場に入った。さっき会場を覗いた時よりもお客さんはさらに増えていて、先程は座席だけだったが今は立ち見をしている人で会場は埋め尽くされている。なんとなく会場を見渡してみると、端の方になんか見た事のある背の高い集団がいてよく目を凝らしてみると同じクラスのバレー部集団だった。その中には創平も混じっていて、私の方に小さく手を振っていた。来てくれたんだ……。彼のおかげなのか分からないが、午前の本番よりも上手くいったような気がした。そして演奏も無事終わり、先輩に言われるがままに楽器を持ったままお客さんのお見送りに走っていった。

(創)「お疲れ様!優和のソロめっちゃかっこよかった!」
(優)「ほんと?ありがと!」
(創)「恭輔たちもびっくりしてたよ。途中で帰っちゃったけど」
(優)「聞きに来てくれただけでも十分!」
(創)「あ、ごめん、そろそろ行くね!また後で!」
(優)「うん!またね!」

(祐)「へぇ…あれが優和ちゃんの彼氏か……」
(優)「わっ、祐樹先輩。彼氏じゃないですよ?」
(祐)「え、彼氏じゃないの?お似合いなのに」
(優)「そんな……。ほらっ、もう片付けしますよ!」

私たちは文化祭の終わりを待たずに、会場の片付けを始めた。衣装を着替える暇もなく、スカートの下にズボンを履いて慌ただしく撤収を始めた。そして、運搬できるほとんどが終わった頃、文化祭の終わりを告げるアナウンスが流れ皆安堵のため息をもらした。アナウンスの後は、全校生徒がHRをすると聞いていたので急いでHRをする予定である自分たちのクラスのお店に走った。

HRも無事に終わり、後片付けをするために部室に戻った。楽器たちをいつもの所定の位置に戻して、イベント用の備品も棚に入れた。片づけしていると、顧問の菊沢先生がやってきた。先生はすぐに部員を集めて、ミーティングをして今日と明日の部活を休みにすることが伝えられた。そっか、今日は後夜祭あるもんね…部活なくて当然か…。
後夜祭どうしようかな…。疲れているせいなのか、ただ気力がなくなってしまっただけなのか、後夜祭に行く気はほとんどなかった。更衣室まで行くのすらだるく感じてしまい、トイレでササッと着替えを済ませた。部室に戻ってくると、皆後夜祭に行ったのかほとんどいなくなっていた。会場に行かなくても、上から見てるだけだったらいいかな…。荷物を全部まとめて同じ階のホールから出られるベランダに出た。幸いにもこの会には誰もおらず、ホールの電気も消していればばれないだろう。後夜祭が行われる校庭ではかなり多くの生徒が集まっている。ベランダの手すりに寄りかかってぼんやりとしていると、ポケットに入れていたスマホがバイブレーションしていた。取り出してみると、朱莉からの電話だった。

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