そして彼らは伝説へ―異世界転移英雄譚―

長月十六夜

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第5章 いつか必ず再会を

旅立ちは誇らしさと共に(第5章 了)

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 美兎はバルウィンとレニに駆け寄り、折り目正しく頭を下げる。

「バルウィンさん、レニさん。梢のこと、よろしくお願いします」

「お任せください。誠心誠意、御世話させていただきます」

「ミトさんも、どうかご無事で」

 傍にいたエーリッヒとテオも屈託ない笑顔を見せた。

「ロザリー様もシエラ様もコズエさんの容態を毎日診てくださるそうなので、ご安心ください」

「僕も、文献を当たって治療法を探します」

「……皆さん、ありがとう。私達、必ず戻ってきます」



「スズカお姉ちゃん! 絶対、また戻ってくるよね?」

 別れを惜しんで涙ぐむソフィーの頭を涼風はそっと撫でる。

「もちろん。また会えるまで、元気にしててね?」

 ソフィーは力強く何度も首肯して、とうとう泣き出してしまった。マイノアとデルマがソフィーを宥める姿を見て、詩音は優しく微笑む。

「なんか、こっちまで泣けてきちゃうわね」

「ええ。あんな素敵な家族を、もう辛い目に遭わせたくない」

 凛々しく、毅然とした涼風の横顔を見て、柚希は羨望と共に揶揄う。

「美人で強くてカッコいいなんて……涼風、羨ましいぞ?」

「柚希も十分かわいいわよ?」

「うわ、ちょっと上から目線!」

 少女達は別離の寂しさを紛らわせるように笑い合った。



「メーネ様、ご立派な出で立ちです」

 ヨシカは深々と頭を垂れた。メーネは彼女の瞳と同じ明るい青と白を基調とした典雅優美な装束を身に纏っていた。これもまた、アニーとアーデンの森のエルフ達によって生み出された救世主のための特別な装束であった。

「ヨシカさん、今日までいろいろと御力添えいただき、ありがとうございました。アミューネ村の皆さんにもお世話になりました」

「とんでもない。メーネ様や剣臣の皆様方のお力になれたのなら村人一同、光栄に存じます。どうか道中、お気を付けください。吉報を心よりお祈り申し上げます」

 旅立ちの挨拶を済ませ、別れを惜しみながらも、メーネと剣臣達は村を後にする。その光景は恰も卒業式のようであり、背中をそっと後押しするような村人達の温かな見送りが心地よかった。たとえ困難な道のりであろうとも、誰もが未来に希望を持ち、しっかりとした足取りで前に進む。

「レイジローさん! 皆さん!」

 呼び掛けに立ち止まり、玲士朗達は村を振り返る。精一杯張り上げられた声はフィリネのものだった。病み上がりの身体をコニーとクシェルに支えられながら、涙が流れ、息が乱れるのも構わず、溢れんばかりの思いを叫ぶ。

「皆さんのおかげで、私は救われました! きちんとお礼を言わせてほしい。だから、皆さんのご無事のお帰りをお待ちしています!」

 フィリネの心からの感謝の言葉を、救世主一行は皆一様に誇らしげな気持ちで受け止めていた。梢が命を賭して守ったのは、フィリネ一人の命だけではない。村人として、母として、友として、彼女が関係を取り結ぶ全ての人達の心の平穏を守ったのだ。

 人は独りで生きてはいないからこそ、誰かを助けることは翻って多くを救うことにもつながる。梢が身をもって示したその事実を、玲士朗達は決して忘れない。

 失ったものは大きく、取り返しがつかないものばかり。だが、心に去来するのは必ずしも暗い感情ばかりではない。テルマテルで得た新しい縁が広がり、手を取り合うことで、過酷な運命に立ち向かう大きな力になるのだとこうして知ることができたのだから。

 彼らの伝説は、ここから始まる。



 人気のなくなった集会所には、しかし、救世主一行の足跡が息づいていた。

「梢へのメッセージを黒板に残すの。アイツが起きた時、寂しくないように」

 詩音の提案を容れて、竹馬ナインは思い思いの言葉をチョークに乗せて黒板に書き連ねていく。

『早く目を覚ませ頑固者』、『必ずここに戻る』、『寂しくても泣かないように』……

 まっさらだった黒板は、仲間を想う温かな文字に埋め尽くされる。メーネもまた、玲士朗達に教わりながら、ぎこちない筆跡で異世界の言葉を書き出す。

『みんなでいっしょにかえってくる』

 控えめな文字は、しかし彼女の決意の強さが込められていた。いつか必ず再会する祈りを込めて、竹馬ナインが再び笑顔で円陣を組める未来を想って……
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