そして彼らは伝説へ―異世界転移英雄譚―

長月十六夜

文字の大きさ
上 下
41 / 70
第3章 誰かが死ぬということ

中枢種スピッツベルゲン

しおりを挟む

 それでどうしたと問われた時、すでに頭の中は真っ白で何の話かと思考することさえ億劫だった。
 淡く照らされた寝室。
 途中記憶は飛び飛びだが、苦痛を覚えるような防衛反応はとうに収まっているようである。
 いつものような激しさはなかったはずだが、何度達したか覚えていない。
 今夜の哨戒を気にしてくれているのだろうが、こんなに快くてはあまり意味がないのでは。
 上体はベッドに投げ出したまま辛うじて腰を支えられて、まだゆるゆると中を擦られている。
 でも出来れば後ろからじゃない方が良いな、とアトリは音のする息を吐きながら思う。
 いつもより奥まで挿って来るせいだろう。
 怖いくらいの絶頂が襲って来るし、何よりユーグレイの顔が見えない。
 ただ突っ込んでいる方は変わらず愉しそうだから、今日のようになるべく早く済ませるには良いのかもしれなかった。
 
「ーーぃ、それっ、も、痛いって、ば」

 背後から回された手が、胸の先端を弄る。
 何が楽しいのか、散々刺激されたそこは指先で優しく摘まれただけでもぴりぴりと痛い。
 それが快感とごっちゃになっている辺り、救いようがないのだが。
 ユーグレイは見透かしたように小さく笑った。
 
「今日は、君らしくもなく神経質になっていただろう?」

「ん、あ? そ、うッーー!」

 そうでもない、とアトリが言い切る前に胎の中の熱が弱い所をぐうっと押し上げた。
 微睡むような快感が、一気に弾ける。
 止めようもなくユーグレイを締め付けて達した。
 防衛反応は収まっているのに、馬鹿馬鹿しいほど気持ち良い。

「はぁっ、あっ、うぅーー……」

 啜り泣くような声が、喉から漏れる。
 僅かな快感も拾おうと中が貪欲に収縮するのがわかった。
 もっと動いて欲しい。
 もっと奥まで来て欲しい。
 けれどユーグレイは答えを促すように、酷く緩慢な動きに戻ってしまう。
 ああ、わかってやってんな、こいつ。

「や、ってる最中に……、難しい話、すんなってぇ!」

「やっている最中だから、だろう。君が誤魔化す余裕がない方が、僕としては都合が良い」

「お前、なぁ、あっ!」

 そっと胸の先を撫でていた指先が、膨らんだそこをぎゅうっと押し潰す。
 一瞬視界が白くなって、アトリは反射的に自身の性器を押さえた。

「んっく、ーーーーっ」

 自分で擦って達したかったのか或いはイってしまうのを止めたかったのか、よくわからない。
 混乱したまま触れた熱は、とろとろと勢いなく白濁を吐き出している。
 アトリ、と耳元で囁かれて呻く。
 まあ大体ユーグレイには敵わないから、早く諦めた方が身のためだろう。
 肩を震わせて、アトリは息を吐く。

「あんま、良くない、夢を……、この間」

 重い頭を少し持ち上げて、背後を振り返った。
 ほら大した話じゃないと言いかけて、眉を顰めたユーグレイと目が合う。
 
「それは、海で僕が襲われる夢か?」

「……あれ、俺、話したっけ?」

 あの時は確かにユーグレイを起こしてしまったし、夢見が悪かったことはバレていたようだったけれど。
 彼はゆっくりと首を振った。
 宥めるようにアトリの背中に触れる手。
 そうか。
 魔術の構築を任せるために神経を繋ぐようなことをしていたのだから、夢の共有くらいは起きて当然である。
 
「あ……、なるほど。変な夢見てなくて、良かった」

 笑いながらそう言うと、ユーグレイは怪訝そうな表情をしてアトリの腰を掴む。
 ゆったりと揺さぶられて、内腿が痙攣した。
 
「変な、とは」

「は、だから、こういうことしてる、夢、だろ」

 彼はふっと耳元で笑った。
 そして不意に背後からアトリを抱き締める。
 触れ合う肌が心地良くてアトリは目を閉じた。
 
「君も、ああいった悪夢を見るんだな」

 僅かに驚きを孕んだ言葉。
 アトリは手を回して、首筋に押しつけられた彼の頭を撫でる。
 指の間を擽る銀髪を、確かめるように何度も梳いた。

「見るよ。ユーグに何かあったら、怖い。だから、結構、あのパターン」

「………………そうか」

「防衛反応、壊れて、良かったかもな。少なくとも、俺の力不足で何かあるって可能性は、低くなっただろ?」

 この状態が、致命的な損傷を負った結果なのだとしても。
 それによって生み出せるものでユーグレイを守れるのなら、それはアトリにとって決して悪いことではなかった。
 ユーグレイは顔を上げると、黙り込んだままゆっくりとアトリの中から出て行く。
 敏感になった粘膜がずるずると擦られて、びくりと身体が跳ねる。

「んあ、ぁっ、ユーグ、待っ」

 ぐい、と肩を掴まれて仰向けになる。
 熱を失った後孔が喪失感を訴えていた。
 じわりと滲んだ視界に、どこか切羽詰まったような顔をしたユーグレイが映る。

「僕は」

 乱れた銀髪が、彼の肩から滑り落ちる。
 痛みを堪えるような碧眼は、ただ綺麗だ。 

「アトリ。君に触れることが一生叶わなかったとしても、君がこうなったことを『良かった』とは、言えない」

 何だか、泣きたいような気分だった。
 唇を噛んだユーグレイに、アトリは手を伸ばす。
 その頬に触れて、唇に触れて、ただ否定の意味ではなく首を振った。
 溢れそうな感情が身体を満たして、堪らない気持ちになる。
 
「ユーグ」

 でも、それなら尚更。
 こうなって良かったと、アトリは思う。
 こんな風にユーグレイに触れることが出来るのだから、防衛反応なんて壊れてしまって、良かったのだ。
 すまないと言いかけた彼の言葉を遮って、アトリは「もう一回」と強請った。

「もう一回、しよ。ユーグの、顔見て、したい」

「アトリ」

 少し腰を浮かせて、まだ閉じ切っていないそこに触れる。
 柔らかく、呼吸をする度に震える縁。
 幾度か注がれたものが指先を伝うのがわかった。
 ユーグレイが僅かに息を詰める。
 挿れて、とアトリは微笑んで言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...