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外伝+特地迷宮攻略編
外伝+特地迷宮攻略編-2
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するとレレイが、言うべき相手が間違っていると反論する。
「その言葉はヤオに。すべてはヤオが原因なのだから」
確かにその通りで、皆が大喧嘩を始めるのは、酔客が「おお、ダークエルフのねーちゃん、色っぽいねぇ。俺と一緒に飲まない?」などと言って、ヤオに誘いを掛けるのがきっかけだ。
ヤオは誘蛾灯のようにその手の男を引き寄せてしまうのだ。
その後、売り言葉に買い言葉のお決まりのやり取りが儀式的に執り行われ、秒読み点火。大乱闘が勃発する。
しかしヤオにも言い分はあった。自分は悪くない、だ。狙われるほうが悪いかのような指摘は、性犯罪の被害者に「そんな場所に行くのが悪い」「そんな格好をして歩いているのが悪い」と批難するのと同じなのだ。
「諍いを起こしたくなければ袋でも被っていろ……と?」
「麻袋を買ってあげましょうか? 顔に被るのに良さそうなのを」
しかし女性に対して厳しいのはやはり女性で、テュカが揶揄するように応じた。
さらにロゥリィがまぜっ返す。
「顔だけ隠したってだめよぉ。男連中はヤオの身体を見て声をかけてくるのだものぉ」
「だったら胸のあたりまで袋で包めば良いわね」
テュカが、ヤオの身体……特に胸のあたりを睨みながら言った。
今は旅着によって見えないが、その下には四人の中で最も自己主張の強い身体が隠されている。旅着の隙間から、チラチラとボンテージ鎧が覗くのもかえって扇情的だったりする。
テュカの視線に羨望の色を感じたのか、ヤオは誇らしげに胸を張った。
「それでは下半身が無防備になってしまう。男達の中には此の身の下半身にじろじろ視線を這わせる輩も少なくないんだが」
「くっ……なら、麻袋に全身すっぽり入れなさい! いっそのこと袋の口を縫って外に出られなくしたらいいわ」
「そうすれば平和」とレレイも参戦した。
だがヤオも負けてはいない。
「袋に詰め込まれたら外を出歩けなくなってしまう。それでは此の身は食事を取るどころか、飲み食いすらできなくなる」
「飲まなきゃいいのよ!」
「飲まず食わずなんてことになったら乾涸びてしまうではないか。そうなったら主殿のあらゆる欲望に応じるという役目を果たせなくなってしまう。どうしたら良い?」
三対一の逆境に形勢不利を悟ったヤオは、伊丹の腕を抱きしめて胸の膨らみを押しつけながら助勢を求めた。
だが、伊丹の答えは素っ気ない。
「頼むから俺を巻き込まないでくれ」
ヤオとしてはもうちょっとドギマギして照れるとか、唾をグビリと呑み込むとか、自分の腕に触れるヤオの胸を見てしまうといった感じの、男が女性に見せる一般的な反応を見たかったのだ。
なのに伊丹はヤオの魅力にちっとも靡かないというか、全く気付かない態度で、店の主人がいるカウンターへと向かって行ってしまった。
「ふむ、反応なし。ダメだったか」
伊丹の背中を見送りながらヤオは肩を竦める。
それを見たテュカは、我が意を得たりとばかりに言い放った。
「お父さんはあんたみたいなのに興味はないんだから。誘惑しても無駄よ」
「彼は同性嗜好なのか?」
「失礼ね! あんた、自分に興味がない男はみんなそんな風だと思うわけ?」
「もちろんそんなことはない。人間には好みというものがあるからな。とはいえ、ここには此の身だけでなく御身も、レレイも、そして聖下もいる。これだけ佳い女が揃っていたら、誰か一人ぐらいは主殿の好みに適っていてもおかしくない。なのに主殿は誰にも手を出そうとしていない。なら、同性嗜好なのではと思っても致し方ないだろう?」
「そ、それは……そうだけど」
テュカが不満そうに頬を膨らませる。するとロゥリィが手を振って言った。
「なぁいなぁい。日ごろ読みふけっている絵草紙を見ても、それはないことは分かるわぁ」
「絵草紙? それは誰かの肖像画ということか?」
『門』の向こうにある彼の故郷ニホンに、恋い焦がれている異性が居るというのなら、彼の他の女性陣に対する態度も納得がいく話である。
するとレレイは指摘した。
「ちょっと違う」
「なら、主殿はどんな女が好みなのだ?」
「そりゃねぇ……」
ロゥリィ、テュカ、レレイは互いの顔を見合った。そして深々とため息をつく。
それが分かったら苦労はないという顔だ。
「その絵草紙というのはどんなだ? テュカは見たことがあるのか?」
「あとで見せてもらえば良いわ。何処に行くにも大抵一~二冊は持ち歩いてるから」
ヤオ達はそんな風に伊丹について語り合いながら、カウンターから一番遠いテーブル席に腰を下ろしたのである。
02
店にいる男達は、カウンターに近づく伊丹の風体をじろじろと見ていた。
迷彩戦闘服は、この世界では奇天烈なデザインに見えるらしく、人々から奇異な――日本人的な感覚で言えばちんどん屋さんを見るような視線を向けられることが多い。
だが、今は砂避けのマントで身を包んでいることもあり、伊丹への視線はそういう類いのものではなかった。
明らかに「お前、何者だ?」的な警戒の色を含んでいる。
「お客さん、見かけない顔だね。シロッコの吹き荒れる中、どこから来た?」
店の主人が、カウンターの前に立った伊丹に声をかけてきた。
「東。クワンドナンのほうだよ」
伊丹はあえて返答をぼやかして、途中立ち寄った町の名を告げた。
嘘はついてないが正しくもないという言い方だ。戦時に敵地を偵察して歩き回る以上、素性は出来る限り言わないほうが良いという判断だった。
「クワンドナンから来たんなら、ソンドロウの村あたりで迂回しろとか言われなかったか?」
「いや。言われなかったけど?」
伊丹は内心舌打ちした。嘘の底が浅くて怪しまれてしまったかも知れない。しかし、店の主人はそこまで深く追及してこなかった。
「で、どこに行く?」
「ベルナーゴ」
「ベルナーゴ……巡礼かい?」
店の主人は、ロゥリィ達の出で立ちからそう解釈したようだ。そして伊丹はそれを積極的に訂正しない。あまり説明すると、さらに嘘を重ねて泥沼にはまってしまうからだ。
「そんなようなものだよ」
「なら、このクレティがどうなっているか知らなくてもしようがないな。悪いことは言わない。出来るだけ早くこの町から出るこった」
どうやらこの町はクレティというらしい。
「早くこの町を出たほうが良いというのは、やっぱりシロッコのせいか?」
「まあ、なんだ、その……そんなもんだ」
店の主人が何かを隠したと伊丹は感じた。
すると店の主人は饒舌になって、シロッコがこの町にどれほどの被害を与えたかを語り出した。
「これでもマシになったほうなんだぞ。ついこの間なんて、砂を頭から振りかけられたような気分になった。三軒先の家なんて、砂が屋根に溜まって重みに耐えられなくなってな。屋根が抜けちまった。だからこんな町に長居しないほうがいいんだ……」
「分かったよ、用が済んだら出て行くさ」
店の主人の表情はまだ何か言いたそうである。しかし伊丹が出て行くと答えたせいか、それ以上のことは口にしなかった。
「それで出ていく前に聞きたいんだけど、この町の産業って何?」
「産業って……あんたそんなこと聞いてどうする?」
「俺の親戚が行商人でね。知らない町に行ったら名産品とかそういうのを尋ねておいて、後で教えてやるんだ。何かこの町で仕入れられたら儲けられるかも知れないだろう? 人口とかも知りたいなあ……」
「あいにくだけどこの町は今不景気でね。余所に売れそうなものはない」
「不景気ってだけで、こんな風にはならないと思うんだけど?」
日本の各地で商店街がシャッター通り化するのは、大規模小売店舗の進出や、不景気が原因だと言われている。だがその実、店主の高齢化、そしてその子が店を継がないといった事情が裏に含まれていることも多い。さらに店舗のオーナーが老後の収入として、家賃収益を見込んで不動産を手放さずにいるのも要因の一つだ。
店舗を借りて営業しようとする者にとって、人件費、光熱費の他に、家賃分まで稼がなければならないとなると、営業を安定軌道に乗せるためのハードルはとても高い。そのせいで事業が頓挫、撤退する例も多く、結局は空き店舗となって商店街自体が衰退する。
商店街が死に絶えていくのは、そうした様々な原因が積み重なってのこと。全てを一概に不景気のせいには出来ないのである。
この町が寂れているのも、不景気以外の原因があるに違いないと伊丹は睨んでいた。
店の主人は、銅製のカップを磨きながら語る。
「この町の名産品ねぇ。この町で作られていて余所から来た商人が買いそうなものなんて、ブルの作った月琴ぐらいかね?」
「月琴?」
「ああ、あれだ」
店の主人が指差した壁を見ると、円形の胴をもった十六本弦のリュート属楽器が立て掛けられていた。繊細な細工が施された美しい外見である。
「ああ、あれのこと?」
「そうだ。なかなかに良い代物らしくて、吟遊詩人や名の知れた演奏家もわざわざこの町に買いにやってくるんだ」
「なんだ、ちゃんと名産品があるんじゃないか」
「けど職人一人じゃ、町全体を養うほどの儲けなんか出るはずないだろ? 需要だってそんなにあるわけじゃない。だからこの町の主力産業と言えば宿場ってわけさ。けど最近はそれもダメになっちまった。戦争でご領主がおっ死んじまったり、良いお客だった兵隊達も出て行ったっきり戻って来なかったり、砂嵐が吹き荒れて行商人の足が途絶えたり、色街の女達も……」
「女達が……なに?」
「いや、あんたら巡礼者には関係のないことだ。とにかくこの町は長居しても良いことはないんだ。だから早く出て行け。いいな? さあ、そんなことより注文してくれ。席に座っておいて立ち話だけなんてのはゴメンだぞ」
頭ごなしに言われた伊丹は、ちゃんと注文するつもりがあることを示すため、カウンター上に水用のポリタンクを置いた。
「これに水を口切りいっぱい入れて頂戴よ。それと食事を五人分、適当に見繕ってテーブルに運んで欲しい」
「今、手が足りないんでね。あんな遠い席に運ぶとすると、運び賃込みで銀貨三枚になるんだがいいか?」
伊丹は周囲を見渡して、こうした店につきものの女給がいないことに気付いた。どうやら店主はたった一人で、この広い店を切り盛りしているらしい。
「セルフサー……あ、いや。自分で運んだとしたら?」
「なら二枚に負けといてやる」
「銀貨が二枚ね」
伊丹は言われるままに胸ポケットから財布を取り出す。
それは日本で使っていた札入れではなく、この特地で一般的に使われている革袋だ。伊丹はその紐を解き、適当に突っ込んである金銀の貨幣の中から、じゃらじゃらとソルダ銀貨を二枚選び出す。
そんな伊丹の所作は店内の男達から注目を浴びた。
「はい。ソルダ銀貨二枚」
「ソルダ銀貨じゃ売れないね。その財布にたんまり入ってるデナリ銀貨でよこせ」
デナリ銀貨とソルダ銀貨は、同じ銀貨でもサイズや厚みが違っていてその価値は四倍違う。日本円に換算するのは難しいが、一ソルダでだいたい二千円くらいと思えば良い。
「デナリを二枚って……高くないか?」
「嫌なら余所に行けばいい」
別にこっちから客になってくれと頼んでいるわけじゃない、と店の主人はうそぶいた。
「しようがないな」
クレティが不景気となった背景には、こんなボッタクリ行為があったのかも知れない。
伊丹は肩を竦めるとデナリ銀貨を取り出してカウンターの上に置いた。そして、ロゥリィ達の待つテーブルへと戻っていったのである。
そんな彼の一挙一動は、店内の客達によって見つめられていた。
伊丹が席に戻って、今宵の宿をどうするかと四人で話していると店主が声をかけてきた。
「ほれ出来上がったぞ、お客人。ここまで取りに来な!」
伊丹は席を立った。
ヤオとテュカもすっくと立ち上がり、レレイとロゥリィも少し遅れて腰を上げようとする。だが伊丹は「いや、俺が一人で行ってくる。みんなはそのまま座っててくれ」と告げた。
「気が利くのねぇ。独占欲ぅ?」
ロゥリィの投げた言葉に、伊丹は「違うさ」と苦笑いを返す。
店の男達にロゥリィ達を近づけたくないのは、トラブルを起こしたくなかったからだ。
もちろんその配慮の方向は見知らぬ男達の安全へと向けられている。花の麗しさに思わず手を伸ばしたら、それがトゲ一杯の鬼アザミだったというのは本人の責任だ。
だが痛い思いをするだけに終わらず、再起不能にされかねないとなれば、同情の一つもするようになるのは仕方のないことだ。
伊丹はカウンターとの間を二往復して、料理をロゥリィ達四人が待つテーブルへと運んだ。
「はい、お待たせ」
「良い匂いねぇ」
料理は芋と野菜と肉の入ったスープ。乳漿と黒パンの塊だ。
スープの具は羊肉の内臓を煮込んだもの。まさかこんな寂れた町でありつけるとは思えないほどに上等な料理だ。今は寂れてしまっていても、かつて行商人で賑わっていた店だけのことはあると伊丹は素直に感心した。
「これってチコリの香りぃ?」
「たぶん、そう」
香りを楽しむためにスープに顔を近づけているロゥリィとレレイ、テュカ、ヤオ。
伊丹は最後に自分の分の食事と、ポリタンクを受け取るためにカウンターへと向かった。
するとその時、店内の男達がざわめき始める。何事かと思えば、みんなロゥリィ達に注目していた。
「おい、見ろよ。女だぜ」
「若い女を四人も! ちっ、あの馬鹿野郎め!」
四人とも、食事をするのに被り物が邪魔なので、みんなで一斉にフードを上げて顔をさらす形になった。おかげで四人が女性だということが知られてしまったのだ。
伊丹は、浴びせられる視線に針のようなチクチクとした嫌な感触を得た。
それは皆も同じだったらしく、ロゥリィもテュカもヤオも苦い物を口に含んだような顔つきをしている。
無表情なのはレレイだけだったが、そのレレイですら動作が固まっていたのだから、相当の強い敵意を感じたのだろう。
「こりゃ、早いところ退散したほうが良さそうだ」
伊丹は自分の食事の載ったトレイを左手に、そして水でいっぱいとなったポリタンクを右手に提げるとロゥリィ達の待つテーブルへと向かった。
だが、いかにもならず者という風体をした巨漢が伊丹の目の前に立ちはだかった。
「おいお前……気に入らねぇな」
「はい?」
「気に入らないって言ってるんだ!」
ヒト種のその男は、伊丹よりも頭二個分背が高かった。
上腕二頭筋や上腕三頭筋がつくる腕回りは、女性の腰回りほどの太さがある。胸板も分厚くて、腹部に隆起する筋肉は巨大山脈のようだ。
「おっと、失礼」
伊丹は、立ち止まることなくぺこりと頭を下げると巨漢の右脇を迂回した。すると巨漢は手を伸ばして伊丹の襟首を掴む。いや、掴もうとする。
だが巨漢の手は伊丹の襟元で空を切った。
両手の塞がっている伊丹は、素速く体を返すと足捌きだけでとって返して方向転換、巨漢の左脇をすり抜けたのだ。それはまるでサッカーのミッドフィルダーみたいな、トリッキーな動作であった。巨漢の目には伊丹の姿が消えてしまったように見えただろう。
「おっ……どこだ、どこにいった?」
その時には、既に伊丹は巨漢の背後にいた。
店内の男達はそれを見て一斉に笑った。巨漢が伊丹に手玉に取られたように見えたのだ。
「ブル! 後ろだよ、後ろ」
「なんだと?」
振り返ると、伊丹はすたすたと先へ進んでいた。
巨漢は慌てて伊丹に追い縋り、再びその前に立ち塞がった。
「逃げ足だけは立派みたいだな」
巨漢は、伊丹の逃げっぷりを嗤った。
屈辱感を、伊丹を小馬鹿にすることで誤魔化そうとしているのだ。あるいは挑発して、向かってこさせようとしているのかも知れない。
だが伊丹はしれっと言い返した。
「逃げ足だけは鍛えてるんだ」
伊丹としては喧嘩は買わないと暗に告げたつもりなのだ。だが、巨漢はそのようには受け取らなかった。侮辱を受けたと感じたらしい。
「そうかい? なら都合が良い。その逃げ足とやらで、お前ここからとっとと失せろ!」
どうやら巨漢はあくまでも伊丹に絡むつもりらしかった。腹を空かせた肉食獣が草食動物を捕らえるように、本腰を入れて伊丹に挑みかかろうとしている。
伊丹は、巨漢の左右に隙を探しながら言い返す。
「言われなくても。これを食べたらね」
「ダメだ、今すぐだ」
巨漢は伊丹の真正面まで迫ると、鋭く威圧しながら繰り返した。
「争い事は嫌いだろ?」
「食事くらいしても良いでしょ?」
「ダメだ」
巨漢が目を据わらせる。そして右手が腰に下がっている短剣へと伸びていく。力尽くで言うことを聞かせるぞという威嚇のようである。
店内の緊張感が高まっていく。
どうやら激突は避けられないようだ。襲われるのを防ぐには、拳銃で天井を撃つとか、床を撃つといった示威的行動が必要になるかも知れない。
伊丹もまた右手のポリタンクを床に置き、腿の拳銃にゆっくりと手を伸ばした。
するとテーブルで食事をしていたロゥリィが、伊丹を援護するためかハルバートを引き寄せた。レレイが杖を、テュカとヤオも、それぞれが愛用する弓矢に手を掛けて、いつでも戦えるよう身構えていく。
それを見た伊丹は、慌てて剣の柄に手を乗せた巨漢に「抜くなよ」と警告した。
「やめておいたほうが良い。これは、あんたの身のために言っている」
四人は伊丹のように優しくない。
巨漢が剣を抜いたら、伊丹がどうこうする前に、まずロゥリィがハルバートで襲い掛かる。
その際、ロゥリィが巨漢の剣を弾き飛ばすだけにとどめてくれるなら良いのだが、場合によっては問答無用で身体を両断してしまう恐れもある。
だが巨漢は言い続けた。
「俺だってお前達……特に、後ろに居る女達のために言ってる。早くここから出て行け。この町から逃げるんだ!」
「?」
伊丹は、困惑した。
逃げるんだ。
そんな言葉は、間違っても肉食獣が獲物に対して投げかける言葉ではない。
この店にいる男達は、いかにも無頼漢っぽいから、女達を寄こせとでも言ってくるかと思いきや、そうではなかった。外来の女達の身を心配しているらしいのだ。
伊丹は巨漢の背後にいるロゥリィ達のほうを見る。
すると四人とも毒気を抜かれたように、不思議そうな表情をしていた。自分達を見ず知らずの男に心配される意味が理解できないのだ。
伊丹は巨漢に真意を尋ねた。
「彼女達は迷惑そうだけど?」
「そりゃ、この町で起きていることを知らないからだ! この糞馬鹿野郎のとんとんちきめ!」
その必死そうな態度から伝わってくるのは、何か大変な問題がこの町で起こっているらしいということである。
「もう少し分かりやすく説明してくれ」
巨漢は、真剣な面持ちで言った。
「だから! この町は今、若い女を連れて来ちゃいけないんだよ!」
「誰もそんなこと言わなかったじゃないか?」
「それは、最初はそこにいる四人が若い女だとは思わなかったからだ。ハーディのところへの巡礼って言えば老い先短い爺さん婆さんが相場だからな。それだったら問題はない」
「若い女だとダメなのか?」
「そうだ」
この巨漢では話が分からない。伊丹は説明を求めて店の主人を振り返った。
「この町でいったい何が起きてると言うんですか?」
すると店の主人がカウンターを出て、伊丹達のところまでやってきた。
「この町では、今若い娘だけがかかる厄介な病気が流行ってる」
「病気?」
「原因不明の熱病だ」
すると店にいた男達もうんうんと頷く。そしてロゥリィ達に駆け寄ると、真摯に心配しているようなことを言った。
「あんたら身体の具合は大丈夫か?」
「熱っぽかったりしないか?」
どうやらこの町の男達は、見てくれは乱暴で無頼な雰囲気だが、中身は実に紳士だったようである。伊丹はようやく合点がいった。
「つまりこの町では、原因不明の熱病が流行っている。発病するのは若い女性に限られており、こうしている今現在も、あちこちの家で多くの女性達が苦しんでいると?」
「そういうことだ」
店の主人は諦念の色を漂わせた表情で頷く。通常、危機的状況が起きたら人間は騒ぎ立て、なんとかしないとと対策を講じる。だがその表情からはそんな全てをやり尽くしてもなお、どうすることも出来なかった男の無念と悲しみが感じられた。
伊丹の前に立ちはだかっていた巨漢も手近な椅子を引っ張ると、どっかりと腰掛け顔を伏せた。
「これは寝ていれば良くなるような類いの病気じゃないんだ! 既に何人もの女がこの病気のせいで死んじまってるんだよ! そのせいでクレアが、クレアの奴が……」
その嘆きぶりから察するに、身近な誰かが亡くなったのだと思われた。
「クレアって誰?」
店の主人に囁くとそっと教えてくれた。
「ブルの女房だ。なかなかの美人で月琴の名演奏者だった」
伊丹は、町の唯一の特産品と言われた月琴の製作者が、ブルという名前だったことを思い返した。
するとその時、テュカが柳眉を逆立て、立ち上がって抗議の声を上げる。
「でも、そんな悪疫が流行ってるなら、どうしてこの町は城門を閉じて立ち入りを封じないの!? 城門さえ閉じてあれば町に入ってこなかったのに!」
「別に城町の中だけで病気が流行っているわけじゃないからさ」
店主の言葉にテュカとヤオは互いに顔を見合わせた。
「まさかこの付近一帯全部に?」
「そうだ。医者が言うには、砂含みの乾いた風のせいだとか……」
テュカは狼狽えながら言った。
「ちょっと待ってよ。あたし達、砂をもろに浴びちゃったわよ!」
「いや、大丈夫だ。必ずしも病気にかかるわけじゃないからな。発病するのは二人に一人くらいだから運が良ければ……」
伊丹は天を仰いで顔を押さえた。
「感染率五〇パーセントかよ!? ちっとも大丈夫じゃないじゃないか!」
店主はテュカを安堵させるつもりで口にしたのかも知れない。だが、知れば知るほど全く安心できなくなる。何しろ二人の内一人が発病するということは、ロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオの四人のうち二人が発症することを意味しているのだ。
ブルは拳でテーブルを叩いた。
「だから早くこの町を出て行けと言ったんだ! この町の金持ち連中は、砂風を防ぐ特別な馬車を仕立てて、余所の町に女房や娘を逃がしたりしているくらいなんだぞ! なのにあんたと来たら、逆に女をこの町に連れてきちまった。だから、俺達はこうして怒ってるんだ!」
すると興奮する巨漢を店の主人は宥めにかかった。
「ブル……そう言うな。お客人は知らなかったんだから、しようがないだろ?」
「くそっ……」
「分かった。とにかくテュカ、ヤオ、ロゥリィ、レレイ。町を出るぞ」
伊丹は皆に退却を宣言した。
「そ、そうね」
座っていたロゥリィとヤオも立ち上がる。
だがその時、テーブルで、がちゃんと木の椀や壺が倒れる音がした。
伊丹は、思わず振り返る。
見れば、テーブルにレレイが突っ伏していた。
「どうしたレレイ? レレイ!?」
伊丹は慌てて駆け寄り、レレイを助け起こす。
だがレレイの顔は真っ赤になっていた。身体が火のように熱くなっていることが衣類を通しても分かった。
「ま、まさかレレイが……」
「どうやら手遅れだったみたいだな」
町の男達は苦々しい表情で言った。
「言わんこっちゃない」
レレイが、この土地の奇病に感染してしまったようであった。
* *
「第一〇一特地資源探査隊、総員五名事故一名、現在員四名。事故の内訳は熱発就寝……か」
伊丹はそんなことを呟きながら、レレイを寝台に横たわらせた。
運が良いことに、酒場兼食堂の二階が宿屋だったのだ。もちろん酒場の上で営業しているような宿が、まともな用途で利用されていたはずがない。
娼婦と男達が声をかけ合い誘い合い、商談がまとまると一夜を共にするために用いられる部屋である。
だが、今現在はこの町には若い女がいない。いや、いることはいるが町に残っている女のほとんどが病に臥せっている。そのため宿を利用する者もおらず、店の主人も倒れたレレイのために貸すことを全く嫌がらなかったのだ。
「ピッピッ……」
電子体温計が鳴る。
伊丹はレレイの口に噛ませていた体温計を引き抜くと、その表示を読み上げた。
「四〇・三度……ヤバイな」
「ふむ。四〇度という数字が何を意味しているかは分からんが、灼風熱で間違いないな」
レレイの診察のために呼ばれたこの町唯一の医者が病名を告げる。
「灼風熱?」
「聞かない病名ね」とロゥリィ。
千年近い時を生きてきたロゥリィが知らない病気というのは珍しい。
「そりゃそうさ。儂が名付けたんだからな。半年ほど前から流行し始めた原因不明の風土病だ。一旦発病すると、頭に載せた水枕が温まってしまうほどに熱が上がり、それが何日も何日も続く。患者が十人いたとして、治るのは二~三人といったところだ」
「致死率が七〇パーセント!? どうしたら良いんですか?」
「水をたくさん飲ませる。次に熱を冷ます。薬はウェットニカ(チョロギ)ひと掴み、三キュアトゥスの蜂蜜水に入れて飲ませるとよいと、プリニウスの博物誌に書いてある。そのウェットニカなのだが、今は需要が多くて大変に不足している。どこの店を探してもないほどにね。だが、君達は誠に運が良い。ここにひと掴みだけある。この貴重な薬を、金貨一枚で分けてやっても良いんだがどうするね? 聞くところによると君は、結構金持ちなんだろ?」
医師は伊丹に、いかにもゼニゲバな嫌らしい表情を見せた。誰に聞いたのか他人の懐具合まで知っている。伊丹は医者に嫌悪感しか抱くことが出来なかった。
「それでこの病気は治るんですか?」
「いや、熱が下がるだけさ。その上で治るか、それともハーディの御許に旅立つかは運次第といったところだな。とはいえどちらにしても、熱の苦しみを和らげてやることには意味がある。高熱というのは苦しいものだからな」
要するに、薬を使っても使わなくても治るのが十人のうち二~三人だけ、というのは変わらないのだ。それを聞いて伊丹も苛立たしさが湧き上がってくるのを感じた。
「その薬の効能が熱冷ましだけだっていうなら、間に合ってます」
伊丹は、店の外に置いた高機動車に戻って医療嚢を取ってきた。
中をひっくり返すようにして解熱剤を探す。
「確かひと箱入っていたはずだが……あった」
「最近このあたりじゃ、ウェットニカが手に入らないからといって怪しげな薬が出回っているが、そういうのはやめておいたほうが良いぞ。この町の窮状に付け込むように、多くの詐欺師が効果の定かでない薬を売りに来たんだ」
町の男達が突然やってきた伊丹を見てあからさまな警戒の態度を見せたのは、そういった詐欺師に酷い目に遭わされ続けたからに違いない。
しかし伊丹は言い返した。
「ウェットニカひと掴みとか。そっちのほうが怪しげなんだよ!」
ウェットニカとは要するにチョロギ……お正月に、酢漬けなどの形状で食卓に供される、小さくてひょうたん状の真っ赤な物体のこと。こちらでは薬草なのだろうが、伊丹にとっては食べ物という認識であって、薬とはとても思えないのだ。
「何を言うか!? 大プリニウスの記した本を疑うのか?」
チョロギの名誉のために付け加えておくと、熱冷ましの効果はちゃんとある。だから食べ過ぎると身体が冷えるので気をつけて欲しいのだが、伊丹は医師の言葉を無視して箱の説明書きを読むと、錠剤のシートを割って中から白い薬を二粒取り出した。
「ほら、レレイ。薬だ」
伊丹は横になっているレレイの背に手を当てて身体を起こさせ、錠剤を呑ませようとした。だが熱に浮かされて意識が朦朧としてるレレイは薬を呑み下せない。水を満たした杯を唇に寄せても、こぼして襟回りを濡らしてしまうだけなのだ。
「こほっこほっ……」
顔を真っ赤にして咳き込んでいるレレイに、伊丹はなんとか薬を呑ませようと試みた。
だがレレイの身体を支えながら、片手で薬を呑ませるのは思うほど簡単ではない。
伊丹はどうしようかと逡巡した。ロゥリィ、テュカ、ヤオが手伝おうと手を伸ばすが、伊丹は三人に近づかないよう求めた。
「この病気は若い女に移るんだろ? 三人とも近づいちゃだめだ」
「あたし達だって、レレイと同じようにシロッコを浴びてるんだから同じよ」
テュカは言う。
振り返るとゼニゲバ医師は肩を竦め、「ま、そういうことだ」と肯定した。
「くそっ……」
この時、伊丹を支配していたのはおそらくは怒りだ。病に何ら有効な手段を講じられないこの特地の医師に対して、そしてこんな町にレレイ達を連れてきてしまった自分に対しての怒り。
そのため、普段なら絶対やらないようなことも勢いに任せてやってしまった。
伊丹はレレイを仰向けに寝かせると、おもむろに錠剤を自分の口に放り込み、水を一口含む。そしてロゥリィとテュカとヤオの前で、レレイの唇に自分の唇を重ねたのである。
「ちょっ!」
「うわっ」
ロゥリィやテュカが目を剥く。だが伊丹は、ゆっくりとレレイの口腔に錠剤と水を流し入れていった。
するとレレイの喉が小さく鳴る。薬を呑み下してくれたようだ。
口元を拭きながら伊丹はレレイに囁いた。
「これで少しは楽になるぞ」
これに反応したのはテュカだ。
「な、なんてことをしたのよ!? お父さんに移ったらどうするの!?」
「いや、女性だけが発症する病気なら、男の俺には問題ないだろう? 薬を呑ませるのが何よりも優先だと思って」
「そりゃ、そうだろうけど、でも……」
再び皆の視線が意見を求めてゼニゲバ医師に集まる。
「確かに仰る通り。こちらの男性のなさりようはある意味で正しい。得体の知れない薬を使うことだけは、儂としては受け容れがたいがね」
ゼニゲバ医師も伊丹の正しさを肩を竦めて認めた。
「そっか。そっか、薬が飲めないってなれば、お父さんはここまでしちゃうんだ」
しかしながら、何を考えているのか、テュカはそんなことを呟きつつ、そわそわっとしていたのである。
* *
四十分も経過すると薬が効き始めたようで、レレイの体温はゆっくり平熱に近づいていった。紅潮して真っ赤になっていた顔色も薄紅色に、荒かった呼吸も静かに楽に行えるようになった。
「驚くほどの効き目だな」
ウェットニカしか効かないと言い放っていたゼニゲバ医師も、レレイの熱が下がったことを認めざるをえないようであった。
「三七・四度だ」
数値を確認して体温計を仕舞う伊丹に、ゼニゲバ医師は感心したように言った。
「大プリニウスの記した医学書にあるどんな薬にも、これほどの効き目はないぞ。どうだろう? その薬を譲ってくれないか。もちろん金なら出す」
「あんたは儲けたいだけだろ? この転売屋め!」
伊丹は、拒絶の意思を示すように解熱剤の入った箱を自分のポケットにねじ込んだ。
転売屋とは、同人誌即売会できちんと列に並ぶ伊丹のような男にとっては憎き存在だ。ああいった輩が跳梁跋扈しているために、何時間も列に並んだのに目前で売り切れてしまったという悲劇的な出来事が起こるのだ。
伊丹自身も何回もそんな目に遭った。それだけに本来、この医師に向けるべきでない量の憎しみが湧いてきてしまった。
「転売屋とは人聞きの悪い。この町には今も熱病に侵されている娘達が大勢いるんだ。その薬があれば、彼女達の苦しみを取り除いてやることが出来るだろ?」
するとヤオが責めるように言う。
「効くか効かないか分からないような薬草に、金貨一枚を要求する輩が何を言うか?」
「この町の住民は今、その効くかどうか分からない薬にすら頼らなければならないのが現実なんだ。君達は金貨一枚という値段に立腹しているようだが、物の価値というのは需要と供給のバランスで決まる。欲しがる者が大勢いて、しかし在庫は少ないとなれば、欲しがる者は雑草の根っこにだって金貨一枚の値をつける。それが愛する者のためならばなおさらだ」
「でも、金貨一枚は法外に過ぎるわ!」
テュカが憤然と言い放った。
「君達は、問題の本質を見誤っている。ウェットニカの暴騰を招いているのは、儂が強欲だからではない。在庫が少ないからだ。儂は別にウェットニカが銀貨一枚だろうと銅貨一枚だろうとかまわないのさ。でも、欲しがる人間が大勢いて値を競り上げてしまい、結局は金貨一枚になってしまう。これはしようがないことなんだよ」
「う……」
こう言われてしまうと、テュカもヤオも言い返せないようであった。
するとロゥリィが、医師を胡乱そうに見ながら言う。
「あなたの言葉は世の理に基づいているわぁ」
「聖下からそのようなお言葉を賜れて心強く思います」
「あなたぁ、わたしぃを知っているのねぇ?」
「ええ。以前に一度、帝国の祭事でお姿を拝観したことがございますれば」
医師はロゥリィに対して恭しく頭を垂れた。だがロゥリィはその直後、医師の首にハルバートの刃を突きつけた。
「なら話が早い。このロゥリィ・マーキュリーが査問するぅ。あなたにはぁ医師として肝心なところで怠惰な振る舞いがあるわぁ。そのことについて説明なさぁい」
「そ、それはいったい……何でしょうか?」
医師は、両手を挙げて身体を硬直させた。
「あなたはぁ、ウェットニカが不足している状況を改善しようとしたかしらぁ? 余所の町からそのウェットニカを送ってもらう努力をしたぁ?」
「あ……いや、その」
すると医師は、全身から多量の汗を噴出させた。
「そこに怠惰がある。その怠惰の裏に強欲の蛇影がないと言えるぅ?」
「あっそうか」と手を打つテュカ。
ヤオも、うんうんと頷いた。
「ふむ、確かに。薬が不足しているなら、ある場所から送ってもらえば良いのだからな。そのためにこそ、医師組合というものは存在するわけだし、それをしないのは批難されてしかるべきだ」
医師は突きつけられた刃から少しでも逃れようともがいて後退る。
だがロゥリィは全く容赦せず、ゆっくりと歩み寄り医師を壁際に追い詰めた。
「何故、何故、何故ぇ?」
「それはその……」
医師は、左右を見て逃れる術が全くないことを悟ったのか、観念したように白状した。
「儂が……医師の鑑札を持たない、に……偽医者だから……です」
「その言葉はヤオに。すべてはヤオが原因なのだから」
確かにその通りで、皆が大喧嘩を始めるのは、酔客が「おお、ダークエルフのねーちゃん、色っぽいねぇ。俺と一緒に飲まない?」などと言って、ヤオに誘いを掛けるのがきっかけだ。
ヤオは誘蛾灯のようにその手の男を引き寄せてしまうのだ。
その後、売り言葉に買い言葉のお決まりのやり取りが儀式的に執り行われ、秒読み点火。大乱闘が勃発する。
しかしヤオにも言い分はあった。自分は悪くない、だ。狙われるほうが悪いかのような指摘は、性犯罪の被害者に「そんな場所に行くのが悪い」「そんな格好をして歩いているのが悪い」と批難するのと同じなのだ。
「諍いを起こしたくなければ袋でも被っていろ……と?」
「麻袋を買ってあげましょうか? 顔に被るのに良さそうなのを」
しかし女性に対して厳しいのはやはり女性で、テュカが揶揄するように応じた。
さらにロゥリィがまぜっ返す。
「顔だけ隠したってだめよぉ。男連中はヤオの身体を見て声をかけてくるのだものぉ」
「だったら胸のあたりまで袋で包めば良いわね」
テュカが、ヤオの身体……特に胸のあたりを睨みながら言った。
今は旅着によって見えないが、その下には四人の中で最も自己主張の強い身体が隠されている。旅着の隙間から、チラチラとボンテージ鎧が覗くのもかえって扇情的だったりする。
テュカの視線に羨望の色を感じたのか、ヤオは誇らしげに胸を張った。
「それでは下半身が無防備になってしまう。男達の中には此の身の下半身にじろじろ視線を這わせる輩も少なくないんだが」
「くっ……なら、麻袋に全身すっぽり入れなさい! いっそのこと袋の口を縫って外に出られなくしたらいいわ」
「そうすれば平和」とレレイも参戦した。
だがヤオも負けてはいない。
「袋に詰め込まれたら外を出歩けなくなってしまう。それでは此の身は食事を取るどころか、飲み食いすらできなくなる」
「飲まなきゃいいのよ!」
「飲まず食わずなんてことになったら乾涸びてしまうではないか。そうなったら主殿のあらゆる欲望に応じるという役目を果たせなくなってしまう。どうしたら良い?」
三対一の逆境に形勢不利を悟ったヤオは、伊丹の腕を抱きしめて胸の膨らみを押しつけながら助勢を求めた。
だが、伊丹の答えは素っ気ない。
「頼むから俺を巻き込まないでくれ」
ヤオとしてはもうちょっとドギマギして照れるとか、唾をグビリと呑み込むとか、自分の腕に触れるヤオの胸を見てしまうといった感じの、男が女性に見せる一般的な反応を見たかったのだ。
なのに伊丹はヤオの魅力にちっとも靡かないというか、全く気付かない態度で、店の主人がいるカウンターへと向かって行ってしまった。
「ふむ、反応なし。ダメだったか」
伊丹の背中を見送りながらヤオは肩を竦める。
それを見たテュカは、我が意を得たりとばかりに言い放った。
「お父さんはあんたみたいなのに興味はないんだから。誘惑しても無駄よ」
「彼は同性嗜好なのか?」
「失礼ね! あんた、自分に興味がない男はみんなそんな風だと思うわけ?」
「もちろんそんなことはない。人間には好みというものがあるからな。とはいえ、ここには此の身だけでなく御身も、レレイも、そして聖下もいる。これだけ佳い女が揃っていたら、誰か一人ぐらいは主殿の好みに適っていてもおかしくない。なのに主殿は誰にも手を出そうとしていない。なら、同性嗜好なのではと思っても致し方ないだろう?」
「そ、それは……そうだけど」
テュカが不満そうに頬を膨らませる。するとロゥリィが手を振って言った。
「なぁいなぁい。日ごろ読みふけっている絵草紙を見ても、それはないことは分かるわぁ」
「絵草紙? それは誰かの肖像画ということか?」
『門』の向こうにある彼の故郷ニホンに、恋い焦がれている異性が居るというのなら、彼の他の女性陣に対する態度も納得がいく話である。
するとレレイは指摘した。
「ちょっと違う」
「なら、主殿はどんな女が好みなのだ?」
「そりゃねぇ……」
ロゥリィ、テュカ、レレイは互いの顔を見合った。そして深々とため息をつく。
それが分かったら苦労はないという顔だ。
「その絵草紙というのはどんなだ? テュカは見たことがあるのか?」
「あとで見せてもらえば良いわ。何処に行くにも大抵一~二冊は持ち歩いてるから」
ヤオ達はそんな風に伊丹について語り合いながら、カウンターから一番遠いテーブル席に腰を下ろしたのである。
02
店にいる男達は、カウンターに近づく伊丹の風体をじろじろと見ていた。
迷彩戦闘服は、この世界では奇天烈なデザインに見えるらしく、人々から奇異な――日本人的な感覚で言えばちんどん屋さんを見るような視線を向けられることが多い。
だが、今は砂避けのマントで身を包んでいることもあり、伊丹への視線はそういう類いのものではなかった。
明らかに「お前、何者だ?」的な警戒の色を含んでいる。
「お客さん、見かけない顔だね。シロッコの吹き荒れる中、どこから来た?」
店の主人が、カウンターの前に立った伊丹に声をかけてきた。
「東。クワンドナンのほうだよ」
伊丹はあえて返答をぼやかして、途中立ち寄った町の名を告げた。
嘘はついてないが正しくもないという言い方だ。戦時に敵地を偵察して歩き回る以上、素性は出来る限り言わないほうが良いという判断だった。
「クワンドナンから来たんなら、ソンドロウの村あたりで迂回しろとか言われなかったか?」
「いや。言われなかったけど?」
伊丹は内心舌打ちした。嘘の底が浅くて怪しまれてしまったかも知れない。しかし、店の主人はそこまで深く追及してこなかった。
「で、どこに行く?」
「ベルナーゴ」
「ベルナーゴ……巡礼かい?」
店の主人は、ロゥリィ達の出で立ちからそう解釈したようだ。そして伊丹はそれを積極的に訂正しない。あまり説明すると、さらに嘘を重ねて泥沼にはまってしまうからだ。
「そんなようなものだよ」
「なら、このクレティがどうなっているか知らなくてもしようがないな。悪いことは言わない。出来るだけ早くこの町から出るこった」
どうやらこの町はクレティというらしい。
「早くこの町を出たほうが良いというのは、やっぱりシロッコのせいか?」
「まあ、なんだ、その……そんなもんだ」
店の主人が何かを隠したと伊丹は感じた。
すると店の主人は饒舌になって、シロッコがこの町にどれほどの被害を与えたかを語り出した。
「これでもマシになったほうなんだぞ。ついこの間なんて、砂を頭から振りかけられたような気分になった。三軒先の家なんて、砂が屋根に溜まって重みに耐えられなくなってな。屋根が抜けちまった。だからこんな町に長居しないほうがいいんだ……」
「分かったよ、用が済んだら出て行くさ」
店の主人の表情はまだ何か言いたそうである。しかし伊丹が出て行くと答えたせいか、それ以上のことは口にしなかった。
「それで出ていく前に聞きたいんだけど、この町の産業って何?」
「産業って……あんたそんなこと聞いてどうする?」
「俺の親戚が行商人でね。知らない町に行ったら名産品とかそういうのを尋ねておいて、後で教えてやるんだ。何かこの町で仕入れられたら儲けられるかも知れないだろう? 人口とかも知りたいなあ……」
「あいにくだけどこの町は今不景気でね。余所に売れそうなものはない」
「不景気ってだけで、こんな風にはならないと思うんだけど?」
日本の各地で商店街がシャッター通り化するのは、大規模小売店舗の進出や、不景気が原因だと言われている。だがその実、店主の高齢化、そしてその子が店を継がないといった事情が裏に含まれていることも多い。さらに店舗のオーナーが老後の収入として、家賃収益を見込んで不動産を手放さずにいるのも要因の一つだ。
店舗を借りて営業しようとする者にとって、人件費、光熱費の他に、家賃分まで稼がなければならないとなると、営業を安定軌道に乗せるためのハードルはとても高い。そのせいで事業が頓挫、撤退する例も多く、結局は空き店舗となって商店街自体が衰退する。
商店街が死に絶えていくのは、そうした様々な原因が積み重なってのこと。全てを一概に不景気のせいには出来ないのである。
この町が寂れているのも、不景気以外の原因があるに違いないと伊丹は睨んでいた。
店の主人は、銅製のカップを磨きながら語る。
「この町の名産品ねぇ。この町で作られていて余所から来た商人が買いそうなものなんて、ブルの作った月琴ぐらいかね?」
「月琴?」
「ああ、あれだ」
店の主人が指差した壁を見ると、円形の胴をもった十六本弦のリュート属楽器が立て掛けられていた。繊細な細工が施された美しい外見である。
「ああ、あれのこと?」
「そうだ。なかなかに良い代物らしくて、吟遊詩人や名の知れた演奏家もわざわざこの町に買いにやってくるんだ」
「なんだ、ちゃんと名産品があるんじゃないか」
「けど職人一人じゃ、町全体を養うほどの儲けなんか出るはずないだろ? 需要だってそんなにあるわけじゃない。だからこの町の主力産業と言えば宿場ってわけさ。けど最近はそれもダメになっちまった。戦争でご領主がおっ死んじまったり、良いお客だった兵隊達も出て行ったっきり戻って来なかったり、砂嵐が吹き荒れて行商人の足が途絶えたり、色街の女達も……」
「女達が……なに?」
「いや、あんたら巡礼者には関係のないことだ。とにかくこの町は長居しても良いことはないんだ。だから早く出て行け。いいな? さあ、そんなことより注文してくれ。席に座っておいて立ち話だけなんてのはゴメンだぞ」
頭ごなしに言われた伊丹は、ちゃんと注文するつもりがあることを示すため、カウンター上に水用のポリタンクを置いた。
「これに水を口切りいっぱい入れて頂戴よ。それと食事を五人分、適当に見繕ってテーブルに運んで欲しい」
「今、手が足りないんでね。あんな遠い席に運ぶとすると、運び賃込みで銀貨三枚になるんだがいいか?」
伊丹は周囲を見渡して、こうした店につきものの女給がいないことに気付いた。どうやら店主はたった一人で、この広い店を切り盛りしているらしい。
「セルフサー……あ、いや。自分で運んだとしたら?」
「なら二枚に負けといてやる」
「銀貨が二枚ね」
伊丹は言われるままに胸ポケットから財布を取り出す。
それは日本で使っていた札入れではなく、この特地で一般的に使われている革袋だ。伊丹はその紐を解き、適当に突っ込んである金銀の貨幣の中から、じゃらじゃらとソルダ銀貨を二枚選び出す。
そんな伊丹の所作は店内の男達から注目を浴びた。
「はい。ソルダ銀貨二枚」
「ソルダ銀貨じゃ売れないね。その財布にたんまり入ってるデナリ銀貨でよこせ」
デナリ銀貨とソルダ銀貨は、同じ銀貨でもサイズや厚みが違っていてその価値は四倍違う。日本円に換算するのは難しいが、一ソルダでだいたい二千円くらいと思えば良い。
「デナリを二枚って……高くないか?」
「嫌なら余所に行けばいい」
別にこっちから客になってくれと頼んでいるわけじゃない、と店の主人はうそぶいた。
「しようがないな」
クレティが不景気となった背景には、こんなボッタクリ行為があったのかも知れない。
伊丹は肩を竦めるとデナリ銀貨を取り出してカウンターの上に置いた。そして、ロゥリィ達の待つテーブルへと戻っていったのである。
そんな彼の一挙一動は、店内の客達によって見つめられていた。
伊丹が席に戻って、今宵の宿をどうするかと四人で話していると店主が声をかけてきた。
「ほれ出来上がったぞ、お客人。ここまで取りに来な!」
伊丹は席を立った。
ヤオとテュカもすっくと立ち上がり、レレイとロゥリィも少し遅れて腰を上げようとする。だが伊丹は「いや、俺が一人で行ってくる。みんなはそのまま座っててくれ」と告げた。
「気が利くのねぇ。独占欲ぅ?」
ロゥリィの投げた言葉に、伊丹は「違うさ」と苦笑いを返す。
店の男達にロゥリィ達を近づけたくないのは、トラブルを起こしたくなかったからだ。
もちろんその配慮の方向は見知らぬ男達の安全へと向けられている。花の麗しさに思わず手を伸ばしたら、それがトゲ一杯の鬼アザミだったというのは本人の責任だ。
だが痛い思いをするだけに終わらず、再起不能にされかねないとなれば、同情の一つもするようになるのは仕方のないことだ。
伊丹はカウンターとの間を二往復して、料理をロゥリィ達四人が待つテーブルへと運んだ。
「はい、お待たせ」
「良い匂いねぇ」
料理は芋と野菜と肉の入ったスープ。乳漿と黒パンの塊だ。
スープの具は羊肉の内臓を煮込んだもの。まさかこんな寂れた町でありつけるとは思えないほどに上等な料理だ。今は寂れてしまっていても、かつて行商人で賑わっていた店だけのことはあると伊丹は素直に感心した。
「これってチコリの香りぃ?」
「たぶん、そう」
香りを楽しむためにスープに顔を近づけているロゥリィとレレイ、テュカ、ヤオ。
伊丹は最後に自分の分の食事と、ポリタンクを受け取るためにカウンターへと向かった。
するとその時、店内の男達がざわめき始める。何事かと思えば、みんなロゥリィ達に注目していた。
「おい、見ろよ。女だぜ」
「若い女を四人も! ちっ、あの馬鹿野郎め!」
四人とも、食事をするのに被り物が邪魔なので、みんなで一斉にフードを上げて顔をさらす形になった。おかげで四人が女性だということが知られてしまったのだ。
伊丹は、浴びせられる視線に針のようなチクチクとした嫌な感触を得た。
それは皆も同じだったらしく、ロゥリィもテュカもヤオも苦い物を口に含んだような顔つきをしている。
無表情なのはレレイだけだったが、そのレレイですら動作が固まっていたのだから、相当の強い敵意を感じたのだろう。
「こりゃ、早いところ退散したほうが良さそうだ」
伊丹は自分の食事の載ったトレイを左手に、そして水でいっぱいとなったポリタンクを右手に提げるとロゥリィ達の待つテーブルへと向かった。
だが、いかにもならず者という風体をした巨漢が伊丹の目の前に立ちはだかった。
「おいお前……気に入らねぇな」
「はい?」
「気に入らないって言ってるんだ!」
ヒト種のその男は、伊丹よりも頭二個分背が高かった。
上腕二頭筋や上腕三頭筋がつくる腕回りは、女性の腰回りほどの太さがある。胸板も分厚くて、腹部に隆起する筋肉は巨大山脈のようだ。
「おっと、失礼」
伊丹は、立ち止まることなくぺこりと頭を下げると巨漢の右脇を迂回した。すると巨漢は手を伸ばして伊丹の襟首を掴む。いや、掴もうとする。
だが巨漢の手は伊丹の襟元で空を切った。
両手の塞がっている伊丹は、素速く体を返すと足捌きだけでとって返して方向転換、巨漢の左脇をすり抜けたのだ。それはまるでサッカーのミッドフィルダーみたいな、トリッキーな動作であった。巨漢の目には伊丹の姿が消えてしまったように見えただろう。
「おっ……どこだ、どこにいった?」
その時には、既に伊丹は巨漢の背後にいた。
店内の男達はそれを見て一斉に笑った。巨漢が伊丹に手玉に取られたように見えたのだ。
「ブル! 後ろだよ、後ろ」
「なんだと?」
振り返ると、伊丹はすたすたと先へ進んでいた。
巨漢は慌てて伊丹に追い縋り、再びその前に立ち塞がった。
「逃げ足だけは立派みたいだな」
巨漢は、伊丹の逃げっぷりを嗤った。
屈辱感を、伊丹を小馬鹿にすることで誤魔化そうとしているのだ。あるいは挑発して、向かってこさせようとしているのかも知れない。
だが伊丹はしれっと言い返した。
「逃げ足だけは鍛えてるんだ」
伊丹としては喧嘩は買わないと暗に告げたつもりなのだ。だが、巨漢はそのようには受け取らなかった。侮辱を受けたと感じたらしい。
「そうかい? なら都合が良い。その逃げ足とやらで、お前ここからとっとと失せろ!」
どうやら巨漢はあくまでも伊丹に絡むつもりらしかった。腹を空かせた肉食獣が草食動物を捕らえるように、本腰を入れて伊丹に挑みかかろうとしている。
伊丹は、巨漢の左右に隙を探しながら言い返す。
「言われなくても。これを食べたらね」
「ダメだ、今すぐだ」
巨漢は伊丹の真正面まで迫ると、鋭く威圧しながら繰り返した。
「争い事は嫌いだろ?」
「食事くらいしても良いでしょ?」
「ダメだ」
巨漢が目を据わらせる。そして右手が腰に下がっている短剣へと伸びていく。力尽くで言うことを聞かせるぞという威嚇のようである。
店内の緊張感が高まっていく。
どうやら激突は避けられないようだ。襲われるのを防ぐには、拳銃で天井を撃つとか、床を撃つといった示威的行動が必要になるかも知れない。
伊丹もまた右手のポリタンクを床に置き、腿の拳銃にゆっくりと手を伸ばした。
するとテーブルで食事をしていたロゥリィが、伊丹を援護するためかハルバートを引き寄せた。レレイが杖を、テュカとヤオも、それぞれが愛用する弓矢に手を掛けて、いつでも戦えるよう身構えていく。
それを見た伊丹は、慌てて剣の柄に手を乗せた巨漢に「抜くなよ」と警告した。
「やめておいたほうが良い。これは、あんたの身のために言っている」
四人は伊丹のように優しくない。
巨漢が剣を抜いたら、伊丹がどうこうする前に、まずロゥリィがハルバートで襲い掛かる。
その際、ロゥリィが巨漢の剣を弾き飛ばすだけにとどめてくれるなら良いのだが、場合によっては問答無用で身体を両断してしまう恐れもある。
だが巨漢は言い続けた。
「俺だってお前達……特に、後ろに居る女達のために言ってる。早くここから出て行け。この町から逃げるんだ!」
「?」
伊丹は、困惑した。
逃げるんだ。
そんな言葉は、間違っても肉食獣が獲物に対して投げかける言葉ではない。
この店にいる男達は、いかにも無頼漢っぽいから、女達を寄こせとでも言ってくるかと思いきや、そうではなかった。外来の女達の身を心配しているらしいのだ。
伊丹は巨漢の背後にいるロゥリィ達のほうを見る。
すると四人とも毒気を抜かれたように、不思議そうな表情をしていた。自分達を見ず知らずの男に心配される意味が理解できないのだ。
伊丹は巨漢に真意を尋ねた。
「彼女達は迷惑そうだけど?」
「そりゃ、この町で起きていることを知らないからだ! この糞馬鹿野郎のとんとんちきめ!」
その必死そうな態度から伝わってくるのは、何か大変な問題がこの町で起こっているらしいということである。
「もう少し分かりやすく説明してくれ」
巨漢は、真剣な面持ちで言った。
「だから! この町は今、若い女を連れて来ちゃいけないんだよ!」
「誰もそんなこと言わなかったじゃないか?」
「それは、最初はそこにいる四人が若い女だとは思わなかったからだ。ハーディのところへの巡礼って言えば老い先短い爺さん婆さんが相場だからな。それだったら問題はない」
「若い女だとダメなのか?」
「そうだ」
この巨漢では話が分からない。伊丹は説明を求めて店の主人を振り返った。
「この町でいったい何が起きてると言うんですか?」
すると店の主人がカウンターを出て、伊丹達のところまでやってきた。
「この町では、今若い娘だけがかかる厄介な病気が流行ってる」
「病気?」
「原因不明の熱病だ」
すると店にいた男達もうんうんと頷く。そしてロゥリィ達に駆け寄ると、真摯に心配しているようなことを言った。
「あんたら身体の具合は大丈夫か?」
「熱っぽかったりしないか?」
どうやらこの町の男達は、見てくれは乱暴で無頼な雰囲気だが、中身は実に紳士だったようである。伊丹はようやく合点がいった。
「つまりこの町では、原因不明の熱病が流行っている。発病するのは若い女性に限られており、こうしている今現在も、あちこちの家で多くの女性達が苦しんでいると?」
「そういうことだ」
店の主人は諦念の色を漂わせた表情で頷く。通常、危機的状況が起きたら人間は騒ぎ立て、なんとかしないとと対策を講じる。だがその表情からはそんな全てをやり尽くしてもなお、どうすることも出来なかった男の無念と悲しみが感じられた。
伊丹の前に立ちはだかっていた巨漢も手近な椅子を引っ張ると、どっかりと腰掛け顔を伏せた。
「これは寝ていれば良くなるような類いの病気じゃないんだ! 既に何人もの女がこの病気のせいで死んじまってるんだよ! そのせいでクレアが、クレアの奴が……」
その嘆きぶりから察するに、身近な誰かが亡くなったのだと思われた。
「クレアって誰?」
店の主人に囁くとそっと教えてくれた。
「ブルの女房だ。なかなかの美人で月琴の名演奏者だった」
伊丹は、町の唯一の特産品と言われた月琴の製作者が、ブルという名前だったことを思い返した。
するとその時、テュカが柳眉を逆立て、立ち上がって抗議の声を上げる。
「でも、そんな悪疫が流行ってるなら、どうしてこの町は城門を閉じて立ち入りを封じないの!? 城門さえ閉じてあれば町に入ってこなかったのに!」
「別に城町の中だけで病気が流行っているわけじゃないからさ」
店主の言葉にテュカとヤオは互いに顔を見合わせた。
「まさかこの付近一帯全部に?」
「そうだ。医者が言うには、砂含みの乾いた風のせいだとか……」
テュカは狼狽えながら言った。
「ちょっと待ってよ。あたし達、砂をもろに浴びちゃったわよ!」
「いや、大丈夫だ。必ずしも病気にかかるわけじゃないからな。発病するのは二人に一人くらいだから運が良ければ……」
伊丹は天を仰いで顔を押さえた。
「感染率五〇パーセントかよ!? ちっとも大丈夫じゃないじゃないか!」
店主はテュカを安堵させるつもりで口にしたのかも知れない。だが、知れば知るほど全く安心できなくなる。何しろ二人の内一人が発病するということは、ロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオの四人のうち二人が発症することを意味しているのだ。
ブルは拳でテーブルを叩いた。
「だから早くこの町を出て行けと言ったんだ! この町の金持ち連中は、砂風を防ぐ特別な馬車を仕立てて、余所の町に女房や娘を逃がしたりしているくらいなんだぞ! なのにあんたと来たら、逆に女をこの町に連れてきちまった。だから、俺達はこうして怒ってるんだ!」
すると興奮する巨漢を店の主人は宥めにかかった。
「ブル……そう言うな。お客人は知らなかったんだから、しようがないだろ?」
「くそっ……」
「分かった。とにかくテュカ、ヤオ、ロゥリィ、レレイ。町を出るぞ」
伊丹は皆に退却を宣言した。
「そ、そうね」
座っていたロゥリィとヤオも立ち上がる。
だがその時、テーブルで、がちゃんと木の椀や壺が倒れる音がした。
伊丹は、思わず振り返る。
見れば、テーブルにレレイが突っ伏していた。
「どうしたレレイ? レレイ!?」
伊丹は慌てて駆け寄り、レレイを助け起こす。
だがレレイの顔は真っ赤になっていた。身体が火のように熱くなっていることが衣類を通しても分かった。
「ま、まさかレレイが……」
「どうやら手遅れだったみたいだな」
町の男達は苦々しい表情で言った。
「言わんこっちゃない」
レレイが、この土地の奇病に感染してしまったようであった。
* *
「第一〇一特地資源探査隊、総員五名事故一名、現在員四名。事故の内訳は熱発就寝……か」
伊丹はそんなことを呟きながら、レレイを寝台に横たわらせた。
運が良いことに、酒場兼食堂の二階が宿屋だったのだ。もちろん酒場の上で営業しているような宿が、まともな用途で利用されていたはずがない。
娼婦と男達が声をかけ合い誘い合い、商談がまとまると一夜を共にするために用いられる部屋である。
だが、今現在はこの町には若い女がいない。いや、いることはいるが町に残っている女のほとんどが病に臥せっている。そのため宿を利用する者もおらず、店の主人も倒れたレレイのために貸すことを全く嫌がらなかったのだ。
「ピッピッ……」
電子体温計が鳴る。
伊丹はレレイの口に噛ませていた体温計を引き抜くと、その表示を読み上げた。
「四〇・三度……ヤバイな」
「ふむ。四〇度という数字が何を意味しているかは分からんが、灼風熱で間違いないな」
レレイの診察のために呼ばれたこの町唯一の医者が病名を告げる。
「灼風熱?」
「聞かない病名ね」とロゥリィ。
千年近い時を生きてきたロゥリィが知らない病気というのは珍しい。
「そりゃそうさ。儂が名付けたんだからな。半年ほど前から流行し始めた原因不明の風土病だ。一旦発病すると、頭に載せた水枕が温まってしまうほどに熱が上がり、それが何日も何日も続く。患者が十人いたとして、治るのは二~三人といったところだ」
「致死率が七〇パーセント!? どうしたら良いんですか?」
「水をたくさん飲ませる。次に熱を冷ます。薬はウェットニカ(チョロギ)ひと掴み、三キュアトゥスの蜂蜜水に入れて飲ませるとよいと、プリニウスの博物誌に書いてある。そのウェットニカなのだが、今は需要が多くて大変に不足している。どこの店を探してもないほどにね。だが、君達は誠に運が良い。ここにひと掴みだけある。この貴重な薬を、金貨一枚で分けてやっても良いんだがどうするね? 聞くところによると君は、結構金持ちなんだろ?」
医師は伊丹に、いかにもゼニゲバな嫌らしい表情を見せた。誰に聞いたのか他人の懐具合まで知っている。伊丹は医者に嫌悪感しか抱くことが出来なかった。
「それでこの病気は治るんですか?」
「いや、熱が下がるだけさ。その上で治るか、それともハーディの御許に旅立つかは運次第といったところだな。とはいえどちらにしても、熱の苦しみを和らげてやることには意味がある。高熱というのは苦しいものだからな」
要するに、薬を使っても使わなくても治るのが十人のうち二~三人だけ、というのは変わらないのだ。それを聞いて伊丹も苛立たしさが湧き上がってくるのを感じた。
「その薬の効能が熱冷ましだけだっていうなら、間に合ってます」
伊丹は、店の外に置いた高機動車に戻って医療嚢を取ってきた。
中をひっくり返すようにして解熱剤を探す。
「確かひと箱入っていたはずだが……あった」
「最近このあたりじゃ、ウェットニカが手に入らないからといって怪しげな薬が出回っているが、そういうのはやめておいたほうが良いぞ。この町の窮状に付け込むように、多くの詐欺師が効果の定かでない薬を売りに来たんだ」
町の男達が突然やってきた伊丹を見てあからさまな警戒の態度を見せたのは、そういった詐欺師に酷い目に遭わされ続けたからに違いない。
しかし伊丹は言い返した。
「ウェットニカひと掴みとか。そっちのほうが怪しげなんだよ!」
ウェットニカとは要するにチョロギ……お正月に、酢漬けなどの形状で食卓に供される、小さくてひょうたん状の真っ赤な物体のこと。こちらでは薬草なのだろうが、伊丹にとっては食べ物という認識であって、薬とはとても思えないのだ。
「何を言うか!? 大プリニウスの記した本を疑うのか?」
チョロギの名誉のために付け加えておくと、熱冷ましの効果はちゃんとある。だから食べ過ぎると身体が冷えるので気をつけて欲しいのだが、伊丹は医師の言葉を無視して箱の説明書きを読むと、錠剤のシートを割って中から白い薬を二粒取り出した。
「ほら、レレイ。薬だ」
伊丹は横になっているレレイの背に手を当てて身体を起こさせ、錠剤を呑ませようとした。だが熱に浮かされて意識が朦朧としてるレレイは薬を呑み下せない。水を満たした杯を唇に寄せても、こぼして襟回りを濡らしてしまうだけなのだ。
「こほっこほっ……」
顔を真っ赤にして咳き込んでいるレレイに、伊丹はなんとか薬を呑ませようと試みた。
だがレレイの身体を支えながら、片手で薬を呑ませるのは思うほど簡単ではない。
伊丹はどうしようかと逡巡した。ロゥリィ、テュカ、ヤオが手伝おうと手を伸ばすが、伊丹は三人に近づかないよう求めた。
「この病気は若い女に移るんだろ? 三人とも近づいちゃだめだ」
「あたし達だって、レレイと同じようにシロッコを浴びてるんだから同じよ」
テュカは言う。
振り返るとゼニゲバ医師は肩を竦め、「ま、そういうことだ」と肯定した。
「くそっ……」
この時、伊丹を支配していたのはおそらくは怒りだ。病に何ら有効な手段を講じられないこの特地の医師に対して、そしてこんな町にレレイ達を連れてきてしまった自分に対しての怒り。
そのため、普段なら絶対やらないようなことも勢いに任せてやってしまった。
伊丹はレレイを仰向けに寝かせると、おもむろに錠剤を自分の口に放り込み、水を一口含む。そしてロゥリィとテュカとヤオの前で、レレイの唇に自分の唇を重ねたのである。
「ちょっ!」
「うわっ」
ロゥリィやテュカが目を剥く。だが伊丹は、ゆっくりとレレイの口腔に錠剤と水を流し入れていった。
するとレレイの喉が小さく鳴る。薬を呑み下してくれたようだ。
口元を拭きながら伊丹はレレイに囁いた。
「これで少しは楽になるぞ」
これに反応したのはテュカだ。
「な、なんてことをしたのよ!? お父さんに移ったらどうするの!?」
「いや、女性だけが発症する病気なら、男の俺には問題ないだろう? 薬を呑ませるのが何よりも優先だと思って」
「そりゃ、そうだろうけど、でも……」
再び皆の視線が意見を求めてゼニゲバ医師に集まる。
「確かに仰る通り。こちらの男性のなさりようはある意味で正しい。得体の知れない薬を使うことだけは、儂としては受け容れがたいがね」
ゼニゲバ医師も伊丹の正しさを肩を竦めて認めた。
「そっか。そっか、薬が飲めないってなれば、お父さんはここまでしちゃうんだ」
しかしながら、何を考えているのか、テュカはそんなことを呟きつつ、そわそわっとしていたのである。
* *
四十分も経過すると薬が効き始めたようで、レレイの体温はゆっくり平熱に近づいていった。紅潮して真っ赤になっていた顔色も薄紅色に、荒かった呼吸も静かに楽に行えるようになった。
「驚くほどの効き目だな」
ウェットニカしか効かないと言い放っていたゼニゲバ医師も、レレイの熱が下がったことを認めざるをえないようであった。
「三七・四度だ」
数値を確認して体温計を仕舞う伊丹に、ゼニゲバ医師は感心したように言った。
「大プリニウスの記した医学書にあるどんな薬にも、これほどの効き目はないぞ。どうだろう? その薬を譲ってくれないか。もちろん金なら出す」
「あんたは儲けたいだけだろ? この転売屋め!」
伊丹は、拒絶の意思を示すように解熱剤の入った箱を自分のポケットにねじ込んだ。
転売屋とは、同人誌即売会できちんと列に並ぶ伊丹のような男にとっては憎き存在だ。ああいった輩が跳梁跋扈しているために、何時間も列に並んだのに目前で売り切れてしまったという悲劇的な出来事が起こるのだ。
伊丹自身も何回もそんな目に遭った。それだけに本来、この医師に向けるべきでない量の憎しみが湧いてきてしまった。
「転売屋とは人聞きの悪い。この町には今も熱病に侵されている娘達が大勢いるんだ。その薬があれば、彼女達の苦しみを取り除いてやることが出来るだろ?」
するとヤオが責めるように言う。
「効くか効かないか分からないような薬草に、金貨一枚を要求する輩が何を言うか?」
「この町の住民は今、その効くかどうか分からない薬にすら頼らなければならないのが現実なんだ。君達は金貨一枚という値段に立腹しているようだが、物の価値というのは需要と供給のバランスで決まる。欲しがる者が大勢いて、しかし在庫は少ないとなれば、欲しがる者は雑草の根っこにだって金貨一枚の値をつける。それが愛する者のためならばなおさらだ」
「でも、金貨一枚は法外に過ぎるわ!」
テュカが憤然と言い放った。
「君達は、問題の本質を見誤っている。ウェットニカの暴騰を招いているのは、儂が強欲だからではない。在庫が少ないからだ。儂は別にウェットニカが銀貨一枚だろうと銅貨一枚だろうとかまわないのさ。でも、欲しがる人間が大勢いて値を競り上げてしまい、結局は金貨一枚になってしまう。これはしようがないことなんだよ」
「う……」
こう言われてしまうと、テュカもヤオも言い返せないようであった。
するとロゥリィが、医師を胡乱そうに見ながら言う。
「あなたの言葉は世の理に基づいているわぁ」
「聖下からそのようなお言葉を賜れて心強く思います」
「あなたぁ、わたしぃを知っているのねぇ?」
「ええ。以前に一度、帝国の祭事でお姿を拝観したことがございますれば」
医師はロゥリィに対して恭しく頭を垂れた。だがロゥリィはその直後、医師の首にハルバートの刃を突きつけた。
「なら話が早い。このロゥリィ・マーキュリーが査問するぅ。あなたにはぁ医師として肝心なところで怠惰な振る舞いがあるわぁ。そのことについて説明なさぁい」
「そ、それはいったい……何でしょうか?」
医師は、両手を挙げて身体を硬直させた。
「あなたはぁ、ウェットニカが不足している状況を改善しようとしたかしらぁ? 余所の町からそのウェットニカを送ってもらう努力をしたぁ?」
「あ……いや、その」
すると医師は、全身から多量の汗を噴出させた。
「そこに怠惰がある。その怠惰の裏に強欲の蛇影がないと言えるぅ?」
「あっそうか」と手を打つテュカ。
ヤオも、うんうんと頷いた。
「ふむ、確かに。薬が不足しているなら、ある場所から送ってもらえば良いのだからな。そのためにこそ、医師組合というものは存在するわけだし、それをしないのは批難されてしかるべきだ」
医師は突きつけられた刃から少しでも逃れようともがいて後退る。
だがロゥリィは全く容赦せず、ゆっくりと歩み寄り医師を壁際に追い詰めた。
「何故、何故、何故ぇ?」
「それはその……」
医師は、左右を見て逃れる術が全くないことを悟ったのか、観念したように白状した。
「儂が……医師の鑑札を持たない、に……偽医者だから……です」
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