114 / 160
外伝3黄昏の竜騎士伝説編
外伝3黄昏の竜騎士伝説編-2
しおりを挟む
だが伊丹は、そんなテュカの期待を逸らすように、さらに問いかける。
「なぁテュカ、この旅が終わるまで精霊魔法かけたままってわけにはいかない?」
「何度説明したら分かるの? 精霊魔法で情緒を抑え込むと、心へのダメージがとても大きいの。心が枯れ果ててヨウジからヨウジらしさが消えちゃう! あたしはそんなの嫌。ヨウジだって、本とか読んでも面白いって思えなくなったら嫌でしょ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
「だから、精霊魔法をかける時、夜更けには解けるようにしないといけない。あるいは、こうして魔法を解くかする」
「でもさ、その都度、こんな風にこうムラムラする気持ちに支配されるのは、もどかしくてしょうがないんだよ!」
「それが嫌なら、高い所が怖いのを治せばいいわ。精霊魔法で恐怖感を抑えなくても飛竜に乗れるようになればいいのよ」
「ううっ、無茶を言うなよな。トラウマってのは簡単に克服できないからこそトラウマなんだからな!」
喜怒哀楽の浮き沈みの激しい伊丹の言葉は、最後には泣き言となっていた。
「あらあら、可愛そうに」
テュカはそんな伊丹を慰めようとしてか、頭を抱いていい子いい子と撫でる。
そして、それがきっかけとなった。
「わぁぁぁぁぁぁ」
スイッチが入ったかのように、伊丹がテュカをがばーと押し倒したのである。
「きゃーーー!」
悲鳴を上げつつもテュカは頬を赤く染め、諸手を広げて伊丹のする全てを受け容れる。充分に唇を重ね、舌を絡め合い、吐息が噎せ返るほどに互いの熱を高めていった。
そろそろストップをかけないと不味いかも。
そんな風に思ったテュカは、伊丹の頭に手を伸ばした。けれど、伊丹の唇が首元や耳を這った瞬間、そんな気持ちも吹き飛んでしまう。
「あ、駄目」
このままだと流される。約束が守れなくなる。
全身の力を集め再度伊丹の頭に手を当てた。
「sojaa sojaa sjrruenn!」
すると、伊丹はテュカの胸を枕に、ぐぅと眠り込んでしまうのだった。
途端に伊丹の重さを全身で受けることとなったテュカ。本来苦痛であるべきその重みが、快く感じられてしまうのだから『好意』というものは不思議である。
「……あ、危なかった」
伊丹の下から抜け出したテュカは、風邪をひかないようにと伊丹に布団をかけた。そしてその隣に座って親指の爪を噛んだ。
「どうしよう、だんだん我慢が利かなくなってきてる」
最初は、がばーっと襲いかかって来たところでテュカは伊丹を眠らせていた。だが、毎夜毎夜繰り返しているうちに、もうちょっといちゃいちゃを楽しんじゃおうかな、などと考えるようになってしまったのだ。
事実、少しずつながら伊丹を受け容れる時間が長くなっていた。その甘美な感触を知ってしまうと、未体験の先を覗き見たくなってしまうのだ。
「それって……不味いのよね」
最後の一線がすぐそこまで迫っているとテュカは感じた。
問題はテュカの心と身体が、それを欲していることだ。それを唯一押しとどめているのはテュカの理性だけなのだが、それがどうにも当てにならなくなりつつあった。
ふと、ロゥリィとレレイの顔が脳裏をよぎる。視界の隅っこにヤオの顔も見切れたが、そちらはあまり問題としていない。ただロゥリィとレレイの二人は莫逆の友であり、決して裏切ることのできない存在なのだ。
伊丹と『そういう関係』になることが問題なのではない。というより、これだけ佳い女が目の前にそろっていて手を出そうとしない、超禁欲的な男をその気にさせる方法が見つかるならば、大いに試みるべしということで三人(四人)の間では合意がとれている。
ただ、それには一定のルールが設けられていた。「薬物、酒類、魔法の使用とその影響の利用、泣き落とし、子供云々等を利用する行為、脅迫を禁じる」――つまり後で気まずくなる行為はしないというものだ。
あくまでも自然に求め合い、気持ちが盛り上がった結果としてそういう関係にならなければならないのである。
従って、恐怖感を抑えるために用いた精霊魔法の反動で、感受性が高くなっているところに付け入るのは禁止である。だからこそテュカも最後の一線だけは越えないように耐えていた。
「いやいや、そもそもあたしがヨウジを挑発するのを止めればいいのよ」
そう、テュカが伊丹を即座に眠らしてしまえば平和が続く。だが、それはもうできない相談であった。
テュカにとって、伊丹と二人きりの時間は至福のひと時。伊丹から強く求められるということは人生の悦びに等しく、既に生きる目的となっている。それはもう、決して手放せるものではなかったのである。
01
「ホドリュー・レイ・マルソーが生きている!?」
亜神グランハムの話に、テュカは耳を疑った。そんなまさか、あり得ない。何かの間違いだ。父の死を受け容れるのにあれほど手間取ったというのに、今更それを覆すような報せを信じることはできなかった。
そもそもグランハムの言うホドリューと、テュカの父とが同一人物であるという保証はない。騙りという可能性もある。けれどグランハムは、はっきりエルフに会ったと告げた。出身の族と氏を名前に刻むエルフの文化では、同族同氏同名というのはなかなか起こり得ないことなのだ。
「じゃあ、本当に父さんは生きている……」
テュカは、確かめなければならないと思った。
「このままじゃ、お母さんに叱られちゃう」
テュカは今は亡き母から、くれぐれもあの人をお願いと頼まれている。保護者である父を、被保護者であったテュカに頼むというのも変な話だが、母にはテュカしかいなかったのだ。
「どうしよう」
父を探しに行きたいという気持ちが、時を追うごとに強くなって行くのを感じていた。
こんな時、テュカは友人や知り合いに相談する。
閉門騒動の発生原因の一つに、組合員達との意思疎通が上手く行っていなかったことが挙げられる。その反省から、テュカはホウレンソウ(報告・連絡・相談)を重視して、何にしても相談し、広く意見を求めるようになっていた。
テュカは、誰かに相談したいことができると、家で朝食をとらず食堂に赴く。
拡大期を迎えたアルヌスには食堂が何軒もできている。職員食堂の調理人が独立して、それぞれ自分の店を構えたのだ。
テュカのお気に入りは、『ペリエ』という店だ。ここは女性向きの調度品が並べられていて、甘いものが美味しい。女性客が多く、ロゥリィやレレイも良くやってくるため、プライベートな相談をする相手にも事欠かなかった。
テュカは頼んだパンケーキが運ばれてくると、メイプルシロップをなみなみと掛けながら、コックとウェイトレスを相手に心境を語った。
「……というわけなのよ」
料理人カホンと、ウェイトレスの黒猫系キャットピープル、マゥイーが自分なりの見解を語った。
「そりゃ、行くしかないでしょう」
「そうだニャ。それしかないニャ」
テュカはそれが簡単ではないと頬を膨らませた。グランハムの証言によると、ホドリュー・レイ・マルソーは、ルルドの一支族であるパルミア族と行動を共にしていたというのである。
「なんでルルドなんだニャ?」
ルルドとエルフの接点がどうにも理解できずウェイトレスは首を傾げる。だがテュカは、学生達とともに食堂にやってきたレレイの容姿を見て、深々とため息をついた。
「きっと……が多いからでしょうね」
「『……』って何だニャ?」
良く聞き取れなかったとウェイトレスは尋ね返すが、テュカは口を濁してしまった。
「おはようございます、レレイ先生」
「おはよう」
「ねぇ、レレイ。パルミア族って、今どのあたりにいるの?」
レレイは求められるままにその知識の一端を披露した。
「パルミア系ルルドは、今の季節、白海の畔のバーレントにいる。冬が来ると南下して居所が分からなくなってしまう」
ルルドにはいくつもの支族がある。大規模な集団で流浪する者もあれば、少人数の家族単位で移動する者達もいる。その中でもホドリューが行動を共にするパルミア系は、数千人単位で移動する大集団であり、主に遊牧を生業としている。
ちなみにレレイはアルハンプラ系だ。アルハンプラ系は家族規模のグループで南方を流浪し、定住民相手に歌や踊り、占いやら魔法、惚れ薬、媚薬を売りさばく等怪しげな商売をしながら生活している。
そんな生活様式だから、事件や何かに巻き込まれると一家も一族もたちまち離散し、ばらばらになってしまう。レレイもそれで孤児になったのだ。
「詳しくは、いずれ発売される続巻で説明される予定」
「レレイ! そういうメタな発言をしては駄目よ!」
テュカは、読者に向かって人差し指を立てたレレイの口を慌てて封じた。しかし他の者達はレレイの逸脱行動はなかったものとして、悲鳴交じりの呻き声を上げた。
「バーレントって蛮地かよ!?」
気軽に行き来するには遠すぎることを、皆が理解したのだ。
「ここからだと、片道だけでもひと月はかかるな」
「行って帰ってふた月か。テュカさんにそんな長く現場を離れられたら、俺達が困るぞ」
組合の仕事の中でも最重要と位置づけられている植民村の開発は、今やテュカなしでは成り立たない。
「だから悩んでるのよ~」
だからこそ父を探しに行くべきか、それとも諦めるかでテュカは困っているのだ。
すると、食堂の片隅でフレンチトーストを食べていた、コダ村出身の少年が恐る恐る手を挙げる。
「でも、でもさ、ジエイタイの乗り物を借りられたらあっという間なんじゃないの?」
「無理無理、あの連中、戦争が終わったら国境の向こうには全く行かなくなっちまった」
「他所の国との国境を越えるには、それぞれの国の許可が要るんニャとさ。別にどおってことニャいと思うんだけど、あの人達ってそういうところ石頭だものニャ~」
マゥイーが鼻髭を振るわせながら言うと、意見も出尽くしたのか、皆、口を噤んだ。
結局、これといった結論も出ないまま賑やかな朝食を終えると、テュカも組合事務所に出勤して日常の業務をこなす。
すると昼過ぎ頃に珍しい客が事務所に顔を出した。
「よお、テュカ!」
冥王ハーディの使徒ジゼルである。
アルヌスにハーディ神殿の分社を建設することが決まり、ここに居着いてしまったのだ。建設準備をベルナーゴから呼び寄せた祭司に押しつけ、今では日本と特地の食文化融合の成果を楽しむ毎日を送っている。
「あら猊下、いらっしゃい。お仕事の具合はどう?」
それでもジゼルがやらないと片付かない仕事もある。その一つが神殿用地の確保だった。
「ああ、どうにか片付いたぜ。アルヌスの丘の西側の土地を、ロゥリィ姉様から分けて貰えた」
「西の土地って、丘の西斜面? あそこをどうやって?」
「あそこは戦死者の墓地で、姉様の管理地だろ? それを神殿施設の一部ってことにして、譲り受ける形にしたんだよ」
日本の法律では、無主の『動産』は取得した者が所有することになる。それに対して『不動産(土地などの登記の手続きが必要な物)』の場合は、所有者がいないと認められると国庫に帰属する。つまりアルヌス州の土地の大半は、帝国との講和が成立して日本領となった時点で、日本国の所有となったのである。
ただし、講和以前からその土地を所有していた者、あるいは土地の所有権を主張することができる者がいる場合はその限りではない。
日本国政府は、講和成立前からの権利関係を尊重することを宣言しており、帝国の法と特地の慣習法に基づいて、その所有権が合法である限り、それを講和後も引き続き認めたのである。
これにより、アルヌス州におけるアルヌス協同生活組合の支配的な地位は確定的なものとなった。なにしろ、アルヌスの街が形作られたのは講和交渉成立以前だ。
帝国の墾地私財化法によると、無主の土地は使えるようにした者が自分の物にできる。
家を建てた場合はその中心点から半リーグを上限に、誰かが所有している土地に接するまで。荒野を田畑放牧地として開拓整備をした場合は、柵の端から一リーグを上限に、やはり誰かの所有する土地に接するまで。
その他、風車・水車、橋や道路といった社会資本を敷設した場合等々と、それぞれ細かな規則はあるが、要するに無主の土地に手を加えて役に立つようにしたら、そっくり自分の物にできるのだ。
もちろん無主と言いつつも、実際各地には領主や総督などの支配者がいるからそう単純ではない。開発を進めるにも支配者の許可を得なければならないし、許可を得るには有力者の後押しが必要で、開発した土地の半分を上納させられたり、毎年の生産物に年貢を課されたりと、義務や役務が何かにつけて設定されてしまう。
けれどアルヌスにはそうした横暴な支配者はいなかった。組合が建てた店舗や倉庫、その他の建物とその敷地は、そのままアルヌス協同生活組合が所有するものとなったのだ。
テュカが整備した森なんかもそうだ。連合諸王国軍の戦死者を埋葬した丘の西側も、墓地として管理していたロゥリィに所有権があると見なされた。だからロゥリィは、その土地の一部をジゼルに分け与えることができるのだ。
「けど、その代わりに墓地の整備を押しつけられちまったんだよ~。それにかかる銭金が馬鹿にならない額でよ~、それをどっから集めるかが問題になっちまうのさ。ったく頭が痛いぜ……」
丘の西に神殿を建てるなら、まず墓地の整理が必要だ。無造作に埋められている戦死者達の埋葬をし直さなければならない。
「棺桶もいるし、墓標だって作らなきゃなんねえんだぜ。まったくよお」
テュカは「大変ね」とジゼルを労った。そしてジゼルがお布施の無心を言い出す前に、ロゥリィが何の考えもなく、そんな仕事を押しつけるはずがないことを指摘した。
「一つ教えてあげる。ニホン人の埋葬って火葬なんだけど、戦争の時はさすがにそんな手間のかかることはできなくて、戦死者のご遺体は、そのまま身につけている物ごと土葬したそうよ」
「えっ、マジか!?」
その話に驚いたのか、ジゼルは軽く腰を浮かせた。
「普通は身につけてる物を引っ剥ぐよな?」
「ところが、ニホン人はそのまま埋葬したのよ」
「つまり何か? あの丘の西側には、死んだ奴らの鎧も、剣も、財布も、荷物も、何もかもが一緒に埋められてるわけだな?」
ジゼルは指折り数え上げた。
「十万柱があそこに埋葬されてるとして、一人頭銀貨五枚持ってたら五十万枚か。えらい額じゃねぇか。そっか、それならちゃんと埋葬しなおす手間賃くらいは出るよな。死んだ奴らだって自分の墓標になるなら文句も言わないだろうしな……」
「そういうことね」
ジゼルは、ホッとした顔をしてだらしなく姿勢を崩した。
その姿を見て、テュカは思った。この亜神、本当に金策が苦手なようだ。
以前、このアルヌスに来た時も、顎足つきの接待だと勘違いして好き放題に飲み食いし、後でそれが自腹だと分かってウェイトレスとして働くハメになった。
なのに十万人分の改葬資金の調達をしなければならなかったのだから、本当に困っていたのだろう。ここに来てしまうほどに……。
テュカは「お茶にしましょうか」と、同じ街の住民となる亜神を労うため、目の前に置かれた書類を閉じたのだった。
テュカは、ジゼルの向かいに席を移すと、事務員にジゼルの分と自分の分の香茶を頼んだ。
「ところでよ、お前、親父を探しに行きたいんだって?」
これが、テュカ流の報告・連絡・相談の成果である。朝、テュカのした話が居合わせた客達から世間話という形で街に広まり、いろいろな提案や、逆相談という形で返ってくるのだ。
「長い休みをとる必要が出てきちゃうから、諦めないといけないみたい」
「随分と遠いところなんだってな?」
「ええ。大陸の北辺よ」
「北辺か……確かに地面をちんたら歩かなきゃならない奴には遠いよな」
ジゼルはここで少し間を置いた。そしてゴクリと唾を呑み込むと盛大に仰け反った。
「だぁぁぁぁぁ、駄目だ! やっぱオレには、こういう話の進め方は向いてねぇ!」
「ど、どうしたの?」
「オレ、今さっきまでお前にお布施を頼もうと思ってたんだよ! もちろん取引の材料も用意して来た。けど、お前のおかげで解決しちまったろ? だから考えてた話の段取りがすっとんじまったんだよ!」
どうやらジゼルは、何かをテュカに差し出し、その代わりにお布施を強請るつもりだったらしい。きっとそれは、テュカが今抱えている悩みを解決してくれるものなのだ。
「とにかく落ち着いてよ……ちゃんと聞くから」
テュカはまずは香茶を飲めと勧め、ジゼルも言われるままに飲み干す。
ようやく落ち着いたのか、ジゼルは改めて言った。
「要するにだ。オレが言いたいのは、お前に飛竜を貸してやるってことなんだ」
「飛竜って、あの、ひりゅう?」
テュカは両手を翼に見立てて横に大きく広げた。
「そ、その飛竜だ」
ジゼルもそう言って自前の翼を大きく広げた。
「ヒト種なんぞに飼育されてる根性なしの翼竜と違って、飛竜は一日で二百五十リーグは飛べる。ここからバーレントまで千リーグは超えるけどよ、四日も飛べば到着するぜ。行って帰るのに八日。天気が悪かったり、親父を探し歩いたりなんだりで余計に十日かかると計算して、都合十八日も休みを取りゃいいってことになる」
それくらいなら周りにもそれほど迷惑かけずに済むだろ、とジゼルはドヤ顔をした。
テュカは、喜び勇んで腰を上げ、ジゼルの手を握った。
「ほんとに貸してくれるの?」
「ああ、二頭だけになるけどな。貸してやる」
「二頭?」
「そう。オレが今、都合つけてやれるのは二頭だけなんだよ」
それはつまり、テュカが同行者をたった一人に絞らなければならないということであった。
一頭に二人乗せて飛べなくもないが、速度も落ちるし航続距離も短くなる。効率よく行って帰って来るには、人数と荷物をなるべく減らす必要があるのだとジゼルは言った。
「問題は、その一人を誰にするかだよな?」
「一人か……」
テュカは、同行者の第一候補の顔を脳裏に描いた。
* *
「……というわけで、ヨウジに飛竜に乗る特訓を受けてもらいます」
その日の晩、課業終了後、街の食堂に呼び出された伊丹は、正面にテュカ、右にロゥリィ、左にレレイ、さらには背後にヤオという陣容に包囲された。
「俺が飛竜に乗る特訓? なんで?」
「ジゼルからぁ飛竜を借りられることになったからよぉ」とロゥリィ。
「飛竜を使えばバーレントなんてすぐ」とレレイ。
「だからって、なんで俺が!?」
テュカは、ロゥリィとレレイの二人を同行者に選べない理由を告げた。
「ロゥリィは、ジゼルとモーターの神殿建設を手伝うので忙しいし、レレイは『門』の研究が佳境に来てて手が離せないからよ」
さらにヤオが、伊丹の首に背後から腕を回して豊満な胸を圧着させながら言った。
「此の身はテュカの代役を引き受けねばならない。支えてくれご主人、胸の重さに押し潰されそうだ」
「それを言うなら、胸の重さじゃなくって責任の重さだろうが!」
伊丹は、ヤオの間違いを指摘すると共に、クナップヌイの空を舞った時のことを持ち出した。
あんな短時間でも一生分の冷や汗をかいたのだ。片道四日、往復で八日も飛竜に乗って旅するなんてとても無理だと主張した。
するとテュカは今にも泣き出しそうな顔をする。
「ついて来てくれないの?」
すると伊丹は、何故、自分にはそれができないかの説明を始めた。
「まず第一に……今、陸自はむちゃくちゃ忙しいんだ。みんな昼も夜もないくらいに働いてるだろ?」
伊丹があれを見てくれと指差した先には、書類を読みながら飯を食べていたり、これから会議なんだと言いつつ席を立って行く幹部自衛官達がいた。
みんな本来の任務以外に、いくつもの仕事を抱え、こんな時間でも働いている。
だがロゥリィは、伊丹に関しては話が違うと指摘した。
「大祭典が終わって、しばらくは暇なくせにぃ」
「うっ……」
その通りだった。特別図書館は既に伊丹の手を離れ、委員達の手で遺憾なく運営されている。
大祭典も終わったばかりなので、新規の企画もしばらくは必要ない。もちろん後始末が残っているが、そうしたことには海自の江田島二等海佐が嬉々として挑んでいる。『大祭典の特地民情に対する影響』なんていう報告書も、つい先日提出してきたばかりだ。
「いや。だから俺が言ってるのはさ、みんなが忙しくしている中でたまたま暇だからって、二十日間もの休暇をとったら、反感を買っちゃうんじゃないかなぁってことなんだよ」
するとレレイは、ゆっくり頭を振った。
「そんなことはない。皆が忙しく働いている中で、のんびり暇そうにしている方が反感を買う」
レレイは語る。人間という生き物は、目に見えない格差はあまり気にしない。目に見える、自分視点の格差にこそ不快感を抱くのだ。
例えば主婦が、自分が忙しく食事の後片付けを頑張っているというのに、その目の前で夫がのんべんだらりと横になってテレビなんかを見ていれば、夫が昼間忙しく働いて疲れていると分かっていてもついつい腹を立ててしまうものである、と。
従って、仕事がないのなら休暇をとり、暇そうにしている姿を皆に見せないよう過ごすべきだ。そして戻って来たら、リフレッシュしたことを示すべく全力で働く。それこそが大人の休みの取り方で、働き方なのだ。
「その方が絶対に反感を買わない」
この言葉の説得力には伊丹も圧倒された。
「け、けどさ、帝国は外国だから。帝国領を縦断するなら、それはそれで査証の申請をしたりとかで面倒くさい話になると思うんだけど……」
「それは問題ではない。私達は帝国勢力圏内のあらゆる土地の往来が自由」
「えっ、そうなの?」
「そう。それが爵位に付随する特権」
「でも、自衛隊では海外渡航申請書というのを出して認めてもらわないといけないんだけど」
伊丹が次に出した理由は自衛隊の内規だった。陸自の海外渡航許可申請は事務の遅さに定評があり、渡航予定日の何ヶ月も前から提出しなくてはならない。
だがテュカは、それを逆手にとった。
「つまり許可を得ることができたら、飛竜に乗る特訓を受けてくれるってことでいいのね? 一緒にお父さんを探しに行ってくれるのね?」
「え!? ……いや、まぁ……うん」
「約束よ。みんなが証人だからね」
ロゥリィとレレイがそろって頷く。そしてヤオが告げた。
「特訓には、此の身も付き合うぞ」
「でもさ、やっぱり無理なんじゃないかな」
いくら平和になったとはいえ、特地は安全な土地ではない。アルヌス州内だけ見ても獰猛な乙種、あるいは丙種の害獣が出没するアフリカのサバンナみたいな土地だ。住民達からの救いを求める報せが度々入って、災害救助の名目で陸自の各部隊が出動して対処している。
そんな土地の、しかも万が一の際に対処が難しい外国に、隊員が非武装で赴くことを狭間陸将が許すはずがない。
「でもぉ、トミタはぁ新婚旅行で帝国に行っているわぁ。その許可は出たのよねぇ」
「うっ……それはそうだけど」
確かにロゥリィの指摘する通り富田とボーゼスは現在帝都に行っている。だがそれは富田の叙爵や、ボーゼスの勘当が解かれたことへのお披露目やらなにやらで、顔見せが必要だとパレスティ侯爵が狭間陸将に泣きついた結果だ。
行動範囲も帝都に限られているし、帝都事務所には特戦がいて何かの時に対処できるという裏事情もある。だから許可が出たと伊丹は考えている。
「きっと難しいと思うぞ」
だが、レレイは言った。
「交渉すれば良い」
それを聞いて伊丹は薄ら寒い気分になった。平和的なはずの『交渉』という単語に、何故か脅迫めいた不穏な響きが感じられたのだ。
狭間陸将は、伊丹の提出したわら半紙製の海外渡航申請書を睨みつけると「ふむ。良かろう」とハンコをついた。
「え、いいんですか?」
「何を驚く? 富田君にも渡航の許可を出したぞ」
「けど、場所が違いますよ。それに安全性も……これ以降、自分を前例にして隊員達から休暇を取って旅行に行きたいと、海外渡航許可申請が出るようになったらどうするんです?」
「そんなことが起きないよう祈るしかないな」
祈るとは狭間らしからぬ言動である。良く見るとその表情は疲れ切っていて、何かを諦めたような色が浮かんでいた。
「あのう陸将。もしかしてレレイに?」
「いいかね、伊丹君。我々の運命は、彼女に握られているに等しい。彼女に頭を下げてまでお願いされたら、私は決して否とは言えない。彼女の機嫌を損ねたために『門』の再開通が半年、いやもっと先へと延びてしまうかも知れない……などど仄めかされたら、私は君を差し出すしかないのだ。それにだ、これは決して悪いことでもない。君が赴く北方は、我々の知らない土地だ。そこを覗いて来るだけでも価値がある。だから、私は君の渡航申請を認めたのだ。重要な情報を持ち帰ってくれるのを期待するよ」
そうしてくれれば言い訳も立つと狭間は言った。
「言い訳って、ここでは一番偉いはずの狭間陸将が誰に対してするんです?」
「もちろん、私自身に対してだ。人間は自分自身を主として仕えねばならん。この主は厄介だぞ、何一つ隠し事もできないんだからな。私は、これまで私自身を裏切らないようにして来た。これからもそうありたい。そのためには君の協力が必要だ。なので君にはこの旅行から無事に帰ってきて欲しい。間違っても現地住民同士の争いに関わったり、君自身が争いの種になることのないようにしてくれ。くれぐれも頼んだぞ」
伊丹は、狭間に対して十度の敬礼をして応えた。
「まぁ、そのように努力します」
「君の逃げ足の噂は聞いている。それが今回、君の海外渡航を許可することが出来た理由だと思ってくれたまえ。いいな」
狭間はそう言って伊丹に書類を渡したのだった。
02
伊丹は、有給休暇と海外渡航の許可を取得した。
「約束かぁ……」
嵌められるような形で交わされた約束だが、それでも了承したからには守らなくてはならない。
伊丹は、苦手の克服をするためジゼルの特訓を受けることとなった。
「さて、お前とテュカに貸してやる飛竜はこの二頭だ……」
ジゼルが連れてきたのは翼竜よりやや大ぶりで、トゲもなかなかに立派な個体だった。
サイズ的には二頭とも同じだが、エフリーの方が青く、イフリーはやや赤みがかっている。それぞれの背には鐙のついた鞍が載せられていて、既に頭絡もかけられていた。
「エフリーとイフリーだ。挨拶しな」
ジゼルが命じると、二頭は伊丹とテュカに向けて軽く頭を垂れた。
つられて伊丹も「あ、ども」と頭を下げてしまう。
「今ので分かったと思うが、飛竜ってのは大変に頭が良い。口の構造のせいでオレ達が使っているような言葉が喋れないだけで、こっちの言うことは普通に理解する」
「へえ、凄いんですね」
「だから、はっきり言わせてもらうと、操り方なんて覚えなくても良い」
「そうなんですか?」
「ああ。大切なことはお前がこいつらにおとなしく跨がっていられるかってことなんだ」
ジゼルは、エフリーに合図した。
「まずは、それを試させてもらうぜ」
すると突然立ち上がったエフリーが伊丹の襟首に喰いつく。そしてそのまま伊丹を持ち上げ、ひょいと自分の背に乗せてしまった。
「えっ、ちょちょっちょっと!?」
伊丹には、躊躇う暇すら与えられなかった。エフリーは翼をいっぱいに広げて舞い上がっていく。
「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
アルヌスに響き渡る男の悲鳴。
背中で暴れられ、エフリーも実に飛びにくそうだ。真っ直ぐ飛行しようとしているのに、軌道が上に下にと妙にふらふらしている。
そんなエフリーを、テュカを乗せたイフリーが追いかけていく。
こちらはテュカが飛行に協力的なこともあって、とても綺麗な旋回を繰り返していた。
「なるほどなぁ。イタミの野郎は、高さからして駄目ってわけか……こいつは手強そうだぜ」
教官役のジゼルは、額に汗の滴を垂らしながら不敵そうに笑ったのだった。
「では、高さに馴れる特訓から始めようか」
ジゼルはそう宣言すると、まず伊丹の胴に太いロープを巻き付け、森の立木に吊るした。てるてる坊主のごとく、伊丹をだらんとぶら下げたのである。これで高さに慣れろということらしい。
「いい景色だねぇ」
だが伊丹は、いつものごとくとぼけた表情で風景を眺めていた。少しも怖がらない。
「どうなってるんだ?」
枝を滑車代わりに持ち上げている最中は叫んでいた癖に、適当な高さまで持ち上げてロープの端を立木に縛りつけてしまうと途端に伊丹は落ち着いてしまったのである。
ジゼルやテュカが首を傾げる中、伊丹は嘯く。
「習志野で空挺訓練を受けてた時も、不思議と跳出塔とかは大丈夫だったんだよな」
とりあえずこのまま続けても意味がなさそうなので、ロープを解いて下ろすことにした。
しかしジゼルが手をかけ、ロープがわずかに緩んだ瞬間から、伊丹が怖がり出した。
「た、た、た頼むから揺らさないで! 手を離さないでよ、ジゼルさぁぁぁぁぁん!」
その叫び声を聞いて、誰もがピンと来た。
「もしかして、揺れるのが駄目なのかしら?」
そこでもう一度ロープの一端を固定し、今度は前後左右に盛大に振って見ることにした。
ところが、これまた伊丹は怖がらなかった。
「なんだか分かんねぇ奴だよなぁ?」
だが、この難題に火がついたのがレレイの探究心だった。伊丹がどんな時に怖がるのか、その法則性を見つけるために様々な実験を始めたのである。
「上、下、右、ななめみぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ下」
視力検査しながら、高所から後ろ向きにバンジージャンプをさせたり。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ジゼルに、釣りの餌のごとく崖から吊るされて振り回されたり。
「ちょ、ちょ、ちょっとレレイ! 待ってくれって……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目隠ししてエフリーに乗せられたり(実際は地上にいたりする。エフリーに言い聞かせて、揺らしているだけ)。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
それは、あたかもボストークや、ジェミニカプセル時代の宇宙飛行訓練のごとき光景であった。
そしてその結果……。
「もう嫌だ! ボクもう嫌だよ! えぐっえぐっ!」
伊丹は幼児退行して、立木に渾身の力でしがみつき実験を拒絶するに至った。
「失敗。やり過ぎた」
伊丹の高所恐怖症はさらに悪化してしまったのである。
実験をしていたら夜になってしまった。
ロゥリィ、レレイ、ヤオ、そしてジゼルの四人は、食堂を兼ねた居酒屋に入った。
食事の他にロゥリィとジゼル、そしてヤオは最近製造されるようになった蒸留酒を用いた香草酒を、レレイは酒精を好まないので柑橘果汁を注文する。
少し遅れてテュカがやってくる。やや疲れた顔をしてレレイの隣に腰を下ろした。
「イタミの野郎、どうなった?」
ジゼルに一人きりで来た理由を問われ、テュカは肩を竦めた。
「事務所に寝かせてきたわ」
伊丹は疲労と恐怖、そして不平不満で腐りきってしまった。幼児退行から回復すると、レレイの顔なんかしばらく見たくないと怒ってしまったのである。
「彼に嫌われた……」
レレイもやり過ぎた自覚があるのか、珍しく項垂れている。
だがロゥリィは励ますようにレレイの背中を叩いた。
「大丈夫よぉ。アレは根に持つ男じゃないからぁ」
伊丹は根本的なところで女に甘いから、ちゃんと謝れば大丈夫だと語った。
「分かった。後で謝罪する。ちゃんと償いもする」
何か心に決することがあるのか、レレイはしっかりと頷いた。
「で、原因の方は分かったんでしょうね?」
これだけやっておきながら、現状を改善するための手懸かりすら得られてないとしたら伊丹が気の毒だとテュカは言う。
「もちろん、成果は得た」
「で……結果は?」
「結論から言うと、彼は高さを怖がっているわけではない」
「そりゃ、ここまでやれば誰だってねぇ」
真向かいに座るジゼルも、その点は見ていて分かったという。問題は高さで無いとしたら、いったい何が伊丹を恐れさせているか、なのだ。
「簡単に言うと、彼は他人を信じられない」
「それって……他人に命を預けられないってことかしら?」とテュカ。
「そう。彼が顕著に恐れるのは自分の命をつなぐロープの一端を、他人が握っている状況。だからロープの一端が立木や何かに固定されている時は平気」
「けど、ジエイタイの空を飛ぶ乗り物とかは平気だったじゃない。あれって御者(操縦士)に命を預けている状態よね?」
「それは彼の感じ方の問題。空を飛ぶ乗り物は意思を持たない。正常に動く限りは飛ぶという認識をしている。だから少なくとも彼だけが『落とされる』ことはない、と安心することができる」
「ちょっと待った。今『落とされる』って言った?」
「そう。彼は意思有る者を怖がる。その証拠にエフリーにしがみついて『落とさないで』と叫んでいた。おそらく昔に何かあったと思われる」
レレイは、それが伊丹の高所恐怖症の本質であり原因だと語った。
「なるほどねぇ」
レレイの説明にみんな黙り込んでしまった。この説明では問題の解決法が分からないからだ。
今求められているのは、伊丹が飛竜に乗れるようになること。どうしたら恐怖を克服できるかなのだ。
ロゥリィは、皆に提案した。
「ちょっとぉ、ヨウジィの昔の体験とやらをほじってみなぁい?」
「ほじくるって……何をするの?」とテュカ。
「昔の体験を思い出させるのよぉ」
記憶の地層に埋もれている過去の体験を意識化させるのだ。
「聖下。それにどんな意味が? 此の身には分からないのだが……」
「もし何かを苦手に思う気持ちがぁ、過去の出来事に始まっているならぁ、まずはそれを思い出すのが克服の条件だからよぉ」
ロゥリィは、昔を思い出した上で、今と昔は違うのだということをしっかり理解すれば良いのだと説明した。
「でもよ、記憶を暴くなんて魔法は……」
ジゼルの言葉に、皆の視線が導師号を持つ高位の魔術師レレイへと向かう。するとレレイは「それは精霊魔法の方が向いている」と返した。
ジゼル、ロゥリィの視線が、エルフであるテュカとヤオに向かった。
「確かに、夢魔アルプを使えば、過去の体験を夢見させたり語らせたりすることもできると思う。……けど、それってヨウジのプライバシーよね」
それを暴くのは気が引けるとテュカは言った。
「それに夢魔アルプは扱いが難しいの」
『魔』の字付きで呼ばれる精神精霊は説得も交渉も通じないため、魔法の力で拘束し奴隷のように使役するしかない。
問題はそのことを恨んだ夢魔が召喚者に復讐しようとすること。術者に逆らおうとこちらの隙を虎視眈々と窺っている。
そのために術者は夢魔を退去させるまで、精神をしっかり落ち着けて万全な態勢でいなければならない。
「あたし精神力に自信がない。自分自身すら制御できなくて、みんなに迷惑かけちゃったのに」
テュカは父の死が受け容れられずに心を病んだ。それが解決したのは伊丹や皆のおかげだ。父の死をようやく受け容れることができるようになった矢先に、その父が生きているかも知れないという。おかげでテュカの心は、平静とはとても言えない状態に後戻りしていた。
「アルプを暴走させて、ヨウジの心の余計な部分まで暴き立てちゃうかも知れない。人間の心ってうわべは綺麗に見えても、その下にもの凄い怪物が隠れていることもあるし……」
「そうか。そうだな……」
するとヤオが自分がやろうと名乗り出た。
「此の身なら、彼の心にどのような闇があろうともそれを受け容れることができるからな」
それにヤオは精神精霊の使役もひと通りこなす。というよりはかなり得意な方だ。
「だからテュカはここで待っているが良い」
ヤオを筆頭に、ロゥリィ、レレイも立ち上がった。
するとテュカは慌ててヤオを止めた。
「ちょっと待ってよ! 今の言い方なに? あたしだって彼のことを受け容れられるわよ! だいたい自信はないって言ったけど、やらないとは言ってないでしょう! 貴女に押しつけるくらいならあたしがやるわ!」
父捜しに、伊丹を付き合わせようとしているのは自分だ。そのために必要なことをしようとしているのに、それを他人に押しつけるわけにはいかない。
「良いことをして感謝されるのも、嫌なことをして憎まれるのも自分がしなきゃいけない。それが連れ添うってことなんだから」
テュカもそう言って立ち上がり、テーブルに銀貨を数枚置いた。
「なんだよ、結局みんな行くのかよ? ならオレも……」
独り取り残されそうになったジゼルが、まだ飲みきってない香草酒を慌てて飲み干しにかかった。
「なぁテュカ、この旅が終わるまで精霊魔法かけたままってわけにはいかない?」
「何度説明したら分かるの? 精霊魔法で情緒を抑え込むと、心へのダメージがとても大きいの。心が枯れ果ててヨウジからヨウジらしさが消えちゃう! あたしはそんなの嫌。ヨウジだって、本とか読んでも面白いって思えなくなったら嫌でしょ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
「だから、精霊魔法をかける時、夜更けには解けるようにしないといけない。あるいは、こうして魔法を解くかする」
「でもさ、その都度、こんな風にこうムラムラする気持ちに支配されるのは、もどかしくてしょうがないんだよ!」
「それが嫌なら、高い所が怖いのを治せばいいわ。精霊魔法で恐怖感を抑えなくても飛竜に乗れるようになればいいのよ」
「ううっ、無茶を言うなよな。トラウマってのは簡単に克服できないからこそトラウマなんだからな!」
喜怒哀楽の浮き沈みの激しい伊丹の言葉は、最後には泣き言となっていた。
「あらあら、可愛そうに」
テュカはそんな伊丹を慰めようとしてか、頭を抱いていい子いい子と撫でる。
そして、それがきっかけとなった。
「わぁぁぁぁぁぁ」
スイッチが入ったかのように、伊丹がテュカをがばーと押し倒したのである。
「きゃーーー!」
悲鳴を上げつつもテュカは頬を赤く染め、諸手を広げて伊丹のする全てを受け容れる。充分に唇を重ね、舌を絡め合い、吐息が噎せ返るほどに互いの熱を高めていった。
そろそろストップをかけないと不味いかも。
そんな風に思ったテュカは、伊丹の頭に手を伸ばした。けれど、伊丹の唇が首元や耳を這った瞬間、そんな気持ちも吹き飛んでしまう。
「あ、駄目」
このままだと流される。約束が守れなくなる。
全身の力を集め再度伊丹の頭に手を当てた。
「sojaa sojaa sjrruenn!」
すると、伊丹はテュカの胸を枕に、ぐぅと眠り込んでしまうのだった。
途端に伊丹の重さを全身で受けることとなったテュカ。本来苦痛であるべきその重みが、快く感じられてしまうのだから『好意』というものは不思議である。
「……あ、危なかった」
伊丹の下から抜け出したテュカは、風邪をひかないようにと伊丹に布団をかけた。そしてその隣に座って親指の爪を噛んだ。
「どうしよう、だんだん我慢が利かなくなってきてる」
最初は、がばーっと襲いかかって来たところでテュカは伊丹を眠らせていた。だが、毎夜毎夜繰り返しているうちに、もうちょっといちゃいちゃを楽しんじゃおうかな、などと考えるようになってしまったのだ。
事実、少しずつながら伊丹を受け容れる時間が長くなっていた。その甘美な感触を知ってしまうと、未体験の先を覗き見たくなってしまうのだ。
「それって……不味いのよね」
最後の一線がすぐそこまで迫っているとテュカは感じた。
問題はテュカの心と身体が、それを欲していることだ。それを唯一押しとどめているのはテュカの理性だけなのだが、それがどうにも当てにならなくなりつつあった。
ふと、ロゥリィとレレイの顔が脳裏をよぎる。視界の隅っこにヤオの顔も見切れたが、そちらはあまり問題としていない。ただロゥリィとレレイの二人は莫逆の友であり、決して裏切ることのできない存在なのだ。
伊丹と『そういう関係』になることが問題なのではない。というより、これだけ佳い女が目の前にそろっていて手を出そうとしない、超禁欲的な男をその気にさせる方法が見つかるならば、大いに試みるべしということで三人(四人)の間では合意がとれている。
ただ、それには一定のルールが設けられていた。「薬物、酒類、魔法の使用とその影響の利用、泣き落とし、子供云々等を利用する行為、脅迫を禁じる」――つまり後で気まずくなる行為はしないというものだ。
あくまでも自然に求め合い、気持ちが盛り上がった結果としてそういう関係にならなければならないのである。
従って、恐怖感を抑えるために用いた精霊魔法の反動で、感受性が高くなっているところに付け入るのは禁止である。だからこそテュカも最後の一線だけは越えないように耐えていた。
「いやいや、そもそもあたしがヨウジを挑発するのを止めればいいのよ」
そう、テュカが伊丹を即座に眠らしてしまえば平和が続く。だが、それはもうできない相談であった。
テュカにとって、伊丹と二人きりの時間は至福のひと時。伊丹から強く求められるということは人生の悦びに等しく、既に生きる目的となっている。それはもう、決して手放せるものではなかったのである。
01
「ホドリュー・レイ・マルソーが生きている!?」
亜神グランハムの話に、テュカは耳を疑った。そんなまさか、あり得ない。何かの間違いだ。父の死を受け容れるのにあれほど手間取ったというのに、今更それを覆すような報せを信じることはできなかった。
そもそもグランハムの言うホドリューと、テュカの父とが同一人物であるという保証はない。騙りという可能性もある。けれどグランハムは、はっきりエルフに会ったと告げた。出身の族と氏を名前に刻むエルフの文化では、同族同氏同名というのはなかなか起こり得ないことなのだ。
「じゃあ、本当に父さんは生きている……」
テュカは、確かめなければならないと思った。
「このままじゃ、お母さんに叱られちゃう」
テュカは今は亡き母から、くれぐれもあの人をお願いと頼まれている。保護者である父を、被保護者であったテュカに頼むというのも変な話だが、母にはテュカしかいなかったのだ。
「どうしよう」
父を探しに行きたいという気持ちが、時を追うごとに強くなって行くのを感じていた。
こんな時、テュカは友人や知り合いに相談する。
閉門騒動の発生原因の一つに、組合員達との意思疎通が上手く行っていなかったことが挙げられる。その反省から、テュカはホウレンソウ(報告・連絡・相談)を重視して、何にしても相談し、広く意見を求めるようになっていた。
テュカは、誰かに相談したいことができると、家で朝食をとらず食堂に赴く。
拡大期を迎えたアルヌスには食堂が何軒もできている。職員食堂の調理人が独立して、それぞれ自分の店を構えたのだ。
テュカのお気に入りは、『ペリエ』という店だ。ここは女性向きの調度品が並べられていて、甘いものが美味しい。女性客が多く、ロゥリィやレレイも良くやってくるため、プライベートな相談をする相手にも事欠かなかった。
テュカは頼んだパンケーキが運ばれてくると、メイプルシロップをなみなみと掛けながら、コックとウェイトレスを相手に心境を語った。
「……というわけなのよ」
料理人カホンと、ウェイトレスの黒猫系キャットピープル、マゥイーが自分なりの見解を語った。
「そりゃ、行くしかないでしょう」
「そうだニャ。それしかないニャ」
テュカはそれが簡単ではないと頬を膨らませた。グランハムの証言によると、ホドリュー・レイ・マルソーは、ルルドの一支族であるパルミア族と行動を共にしていたというのである。
「なんでルルドなんだニャ?」
ルルドとエルフの接点がどうにも理解できずウェイトレスは首を傾げる。だがテュカは、学生達とともに食堂にやってきたレレイの容姿を見て、深々とため息をついた。
「きっと……が多いからでしょうね」
「『……』って何だニャ?」
良く聞き取れなかったとウェイトレスは尋ね返すが、テュカは口を濁してしまった。
「おはようございます、レレイ先生」
「おはよう」
「ねぇ、レレイ。パルミア族って、今どのあたりにいるの?」
レレイは求められるままにその知識の一端を披露した。
「パルミア系ルルドは、今の季節、白海の畔のバーレントにいる。冬が来ると南下して居所が分からなくなってしまう」
ルルドにはいくつもの支族がある。大規模な集団で流浪する者もあれば、少人数の家族単位で移動する者達もいる。その中でもホドリューが行動を共にするパルミア系は、数千人単位で移動する大集団であり、主に遊牧を生業としている。
ちなみにレレイはアルハンプラ系だ。アルハンプラ系は家族規模のグループで南方を流浪し、定住民相手に歌や踊り、占いやら魔法、惚れ薬、媚薬を売りさばく等怪しげな商売をしながら生活している。
そんな生活様式だから、事件や何かに巻き込まれると一家も一族もたちまち離散し、ばらばらになってしまう。レレイもそれで孤児になったのだ。
「詳しくは、いずれ発売される続巻で説明される予定」
「レレイ! そういうメタな発言をしては駄目よ!」
テュカは、読者に向かって人差し指を立てたレレイの口を慌てて封じた。しかし他の者達はレレイの逸脱行動はなかったものとして、悲鳴交じりの呻き声を上げた。
「バーレントって蛮地かよ!?」
気軽に行き来するには遠すぎることを、皆が理解したのだ。
「ここからだと、片道だけでもひと月はかかるな」
「行って帰ってふた月か。テュカさんにそんな長く現場を離れられたら、俺達が困るぞ」
組合の仕事の中でも最重要と位置づけられている植民村の開発は、今やテュカなしでは成り立たない。
「だから悩んでるのよ~」
だからこそ父を探しに行くべきか、それとも諦めるかでテュカは困っているのだ。
すると、食堂の片隅でフレンチトーストを食べていた、コダ村出身の少年が恐る恐る手を挙げる。
「でも、でもさ、ジエイタイの乗り物を借りられたらあっという間なんじゃないの?」
「無理無理、あの連中、戦争が終わったら国境の向こうには全く行かなくなっちまった」
「他所の国との国境を越えるには、それぞれの国の許可が要るんニャとさ。別にどおってことニャいと思うんだけど、あの人達ってそういうところ石頭だものニャ~」
マゥイーが鼻髭を振るわせながら言うと、意見も出尽くしたのか、皆、口を噤んだ。
結局、これといった結論も出ないまま賑やかな朝食を終えると、テュカも組合事務所に出勤して日常の業務をこなす。
すると昼過ぎ頃に珍しい客が事務所に顔を出した。
「よお、テュカ!」
冥王ハーディの使徒ジゼルである。
アルヌスにハーディ神殿の分社を建設することが決まり、ここに居着いてしまったのだ。建設準備をベルナーゴから呼び寄せた祭司に押しつけ、今では日本と特地の食文化融合の成果を楽しむ毎日を送っている。
「あら猊下、いらっしゃい。お仕事の具合はどう?」
それでもジゼルがやらないと片付かない仕事もある。その一つが神殿用地の確保だった。
「ああ、どうにか片付いたぜ。アルヌスの丘の西側の土地を、ロゥリィ姉様から分けて貰えた」
「西の土地って、丘の西斜面? あそこをどうやって?」
「あそこは戦死者の墓地で、姉様の管理地だろ? それを神殿施設の一部ってことにして、譲り受ける形にしたんだよ」
日本の法律では、無主の『動産』は取得した者が所有することになる。それに対して『不動産(土地などの登記の手続きが必要な物)』の場合は、所有者がいないと認められると国庫に帰属する。つまりアルヌス州の土地の大半は、帝国との講和が成立して日本領となった時点で、日本国の所有となったのである。
ただし、講和以前からその土地を所有していた者、あるいは土地の所有権を主張することができる者がいる場合はその限りではない。
日本国政府は、講和成立前からの権利関係を尊重することを宣言しており、帝国の法と特地の慣習法に基づいて、その所有権が合法である限り、それを講和後も引き続き認めたのである。
これにより、アルヌス州におけるアルヌス協同生活組合の支配的な地位は確定的なものとなった。なにしろ、アルヌスの街が形作られたのは講和交渉成立以前だ。
帝国の墾地私財化法によると、無主の土地は使えるようにした者が自分の物にできる。
家を建てた場合はその中心点から半リーグを上限に、誰かが所有している土地に接するまで。荒野を田畑放牧地として開拓整備をした場合は、柵の端から一リーグを上限に、やはり誰かの所有する土地に接するまで。
その他、風車・水車、橋や道路といった社会資本を敷設した場合等々と、それぞれ細かな規則はあるが、要するに無主の土地に手を加えて役に立つようにしたら、そっくり自分の物にできるのだ。
もちろん無主と言いつつも、実際各地には領主や総督などの支配者がいるからそう単純ではない。開発を進めるにも支配者の許可を得なければならないし、許可を得るには有力者の後押しが必要で、開発した土地の半分を上納させられたり、毎年の生産物に年貢を課されたりと、義務や役務が何かにつけて設定されてしまう。
けれどアルヌスにはそうした横暴な支配者はいなかった。組合が建てた店舗や倉庫、その他の建物とその敷地は、そのままアルヌス協同生活組合が所有するものとなったのだ。
テュカが整備した森なんかもそうだ。連合諸王国軍の戦死者を埋葬した丘の西側も、墓地として管理していたロゥリィに所有権があると見なされた。だからロゥリィは、その土地の一部をジゼルに分け与えることができるのだ。
「けど、その代わりに墓地の整備を押しつけられちまったんだよ~。それにかかる銭金が馬鹿にならない額でよ~、それをどっから集めるかが問題になっちまうのさ。ったく頭が痛いぜ……」
丘の西に神殿を建てるなら、まず墓地の整理が必要だ。無造作に埋められている戦死者達の埋葬をし直さなければならない。
「棺桶もいるし、墓標だって作らなきゃなんねえんだぜ。まったくよお」
テュカは「大変ね」とジゼルを労った。そしてジゼルがお布施の無心を言い出す前に、ロゥリィが何の考えもなく、そんな仕事を押しつけるはずがないことを指摘した。
「一つ教えてあげる。ニホン人の埋葬って火葬なんだけど、戦争の時はさすがにそんな手間のかかることはできなくて、戦死者のご遺体は、そのまま身につけている物ごと土葬したそうよ」
「えっ、マジか!?」
その話に驚いたのか、ジゼルは軽く腰を浮かせた。
「普通は身につけてる物を引っ剥ぐよな?」
「ところが、ニホン人はそのまま埋葬したのよ」
「つまり何か? あの丘の西側には、死んだ奴らの鎧も、剣も、財布も、荷物も、何もかもが一緒に埋められてるわけだな?」
ジゼルは指折り数え上げた。
「十万柱があそこに埋葬されてるとして、一人頭銀貨五枚持ってたら五十万枚か。えらい額じゃねぇか。そっか、それならちゃんと埋葬しなおす手間賃くらいは出るよな。死んだ奴らだって自分の墓標になるなら文句も言わないだろうしな……」
「そういうことね」
ジゼルは、ホッとした顔をしてだらしなく姿勢を崩した。
その姿を見て、テュカは思った。この亜神、本当に金策が苦手なようだ。
以前、このアルヌスに来た時も、顎足つきの接待だと勘違いして好き放題に飲み食いし、後でそれが自腹だと分かってウェイトレスとして働くハメになった。
なのに十万人分の改葬資金の調達をしなければならなかったのだから、本当に困っていたのだろう。ここに来てしまうほどに……。
テュカは「お茶にしましょうか」と、同じ街の住民となる亜神を労うため、目の前に置かれた書類を閉じたのだった。
テュカは、ジゼルの向かいに席を移すと、事務員にジゼルの分と自分の分の香茶を頼んだ。
「ところでよ、お前、親父を探しに行きたいんだって?」
これが、テュカ流の報告・連絡・相談の成果である。朝、テュカのした話が居合わせた客達から世間話という形で街に広まり、いろいろな提案や、逆相談という形で返ってくるのだ。
「長い休みをとる必要が出てきちゃうから、諦めないといけないみたい」
「随分と遠いところなんだってな?」
「ええ。大陸の北辺よ」
「北辺か……確かに地面をちんたら歩かなきゃならない奴には遠いよな」
ジゼルはここで少し間を置いた。そしてゴクリと唾を呑み込むと盛大に仰け反った。
「だぁぁぁぁぁ、駄目だ! やっぱオレには、こういう話の進め方は向いてねぇ!」
「ど、どうしたの?」
「オレ、今さっきまでお前にお布施を頼もうと思ってたんだよ! もちろん取引の材料も用意して来た。けど、お前のおかげで解決しちまったろ? だから考えてた話の段取りがすっとんじまったんだよ!」
どうやらジゼルは、何かをテュカに差し出し、その代わりにお布施を強請るつもりだったらしい。きっとそれは、テュカが今抱えている悩みを解決してくれるものなのだ。
「とにかく落ち着いてよ……ちゃんと聞くから」
テュカはまずは香茶を飲めと勧め、ジゼルも言われるままに飲み干す。
ようやく落ち着いたのか、ジゼルは改めて言った。
「要するにだ。オレが言いたいのは、お前に飛竜を貸してやるってことなんだ」
「飛竜って、あの、ひりゅう?」
テュカは両手を翼に見立てて横に大きく広げた。
「そ、その飛竜だ」
ジゼルもそう言って自前の翼を大きく広げた。
「ヒト種なんぞに飼育されてる根性なしの翼竜と違って、飛竜は一日で二百五十リーグは飛べる。ここからバーレントまで千リーグは超えるけどよ、四日も飛べば到着するぜ。行って帰るのに八日。天気が悪かったり、親父を探し歩いたりなんだりで余計に十日かかると計算して、都合十八日も休みを取りゃいいってことになる」
それくらいなら周りにもそれほど迷惑かけずに済むだろ、とジゼルはドヤ顔をした。
テュカは、喜び勇んで腰を上げ、ジゼルの手を握った。
「ほんとに貸してくれるの?」
「ああ、二頭だけになるけどな。貸してやる」
「二頭?」
「そう。オレが今、都合つけてやれるのは二頭だけなんだよ」
それはつまり、テュカが同行者をたった一人に絞らなければならないということであった。
一頭に二人乗せて飛べなくもないが、速度も落ちるし航続距離も短くなる。効率よく行って帰って来るには、人数と荷物をなるべく減らす必要があるのだとジゼルは言った。
「問題は、その一人を誰にするかだよな?」
「一人か……」
テュカは、同行者の第一候補の顔を脳裏に描いた。
* *
「……というわけで、ヨウジに飛竜に乗る特訓を受けてもらいます」
その日の晩、課業終了後、街の食堂に呼び出された伊丹は、正面にテュカ、右にロゥリィ、左にレレイ、さらには背後にヤオという陣容に包囲された。
「俺が飛竜に乗る特訓? なんで?」
「ジゼルからぁ飛竜を借りられることになったからよぉ」とロゥリィ。
「飛竜を使えばバーレントなんてすぐ」とレレイ。
「だからって、なんで俺が!?」
テュカは、ロゥリィとレレイの二人を同行者に選べない理由を告げた。
「ロゥリィは、ジゼルとモーターの神殿建設を手伝うので忙しいし、レレイは『門』の研究が佳境に来てて手が離せないからよ」
さらにヤオが、伊丹の首に背後から腕を回して豊満な胸を圧着させながら言った。
「此の身はテュカの代役を引き受けねばならない。支えてくれご主人、胸の重さに押し潰されそうだ」
「それを言うなら、胸の重さじゃなくって責任の重さだろうが!」
伊丹は、ヤオの間違いを指摘すると共に、クナップヌイの空を舞った時のことを持ち出した。
あんな短時間でも一生分の冷や汗をかいたのだ。片道四日、往復で八日も飛竜に乗って旅するなんてとても無理だと主張した。
するとテュカは今にも泣き出しそうな顔をする。
「ついて来てくれないの?」
すると伊丹は、何故、自分にはそれができないかの説明を始めた。
「まず第一に……今、陸自はむちゃくちゃ忙しいんだ。みんな昼も夜もないくらいに働いてるだろ?」
伊丹があれを見てくれと指差した先には、書類を読みながら飯を食べていたり、これから会議なんだと言いつつ席を立って行く幹部自衛官達がいた。
みんな本来の任務以外に、いくつもの仕事を抱え、こんな時間でも働いている。
だがロゥリィは、伊丹に関しては話が違うと指摘した。
「大祭典が終わって、しばらくは暇なくせにぃ」
「うっ……」
その通りだった。特別図書館は既に伊丹の手を離れ、委員達の手で遺憾なく運営されている。
大祭典も終わったばかりなので、新規の企画もしばらくは必要ない。もちろん後始末が残っているが、そうしたことには海自の江田島二等海佐が嬉々として挑んでいる。『大祭典の特地民情に対する影響』なんていう報告書も、つい先日提出してきたばかりだ。
「いや。だから俺が言ってるのはさ、みんなが忙しくしている中でたまたま暇だからって、二十日間もの休暇をとったら、反感を買っちゃうんじゃないかなぁってことなんだよ」
するとレレイは、ゆっくり頭を振った。
「そんなことはない。皆が忙しく働いている中で、のんびり暇そうにしている方が反感を買う」
レレイは語る。人間という生き物は、目に見えない格差はあまり気にしない。目に見える、自分視点の格差にこそ不快感を抱くのだ。
例えば主婦が、自分が忙しく食事の後片付けを頑張っているというのに、その目の前で夫がのんべんだらりと横になってテレビなんかを見ていれば、夫が昼間忙しく働いて疲れていると分かっていてもついつい腹を立ててしまうものである、と。
従って、仕事がないのなら休暇をとり、暇そうにしている姿を皆に見せないよう過ごすべきだ。そして戻って来たら、リフレッシュしたことを示すべく全力で働く。それこそが大人の休みの取り方で、働き方なのだ。
「その方が絶対に反感を買わない」
この言葉の説得力には伊丹も圧倒された。
「け、けどさ、帝国は外国だから。帝国領を縦断するなら、それはそれで査証の申請をしたりとかで面倒くさい話になると思うんだけど……」
「それは問題ではない。私達は帝国勢力圏内のあらゆる土地の往来が自由」
「えっ、そうなの?」
「そう。それが爵位に付随する特権」
「でも、自衛隊では海外渡航申請書というのを出して認めてもらわないといけないんだけど」
伊丹が次に出した理由は自衛隊の内規だった。陸自の海外渡航許可申請は事務の遅さに定評があり、渡航予定日の何ヶ月も前から提出しなくてはならない。
だがテュカは、それを逆手にとった。
「つまり許可を得ることができたら、飛竜に乗る特訓を受けてくれるってことでいいのね? 一緒にお父さんを探しに行ってくれるのね?」
「え!? ……いや、まぁ……うん」
「約束よ。みんなが証人だからね」
ロゥリィとレレイがそろって頷く。そしてヤオが告げた。
「特訓には、此の身も付き合うぞ」
「でもさ、やっぱり無理なんじゃないかな」
いくら平和になったとはいえ、特地は安全な土地ではない。アルヌス州内だけ見ても獰猛な乙種、あるいは丙種の害獣が出没するアフリカのサバンナみたいな土地だ。住民達からの救いを求める報せが度々入って、災害救助の名目で陸自の各部隊が出動して対処している。
そんな土地の、しかも万が一の際に対処が難しい外国に、隊員が非武装で赴くことを狭間陸将が許すはずがない。
「でもぉ、トミタはぁ新婚旅行で帝国に行っているわぁ。その許可は出たのよねぇ」
「うっ……それはそうだけど」
確かにロゥリィの指摘する通り富田とボーゼスは現在帝都に行っている。だがそれは富田の叙爵や、ボーゼスの勘当が解かれたことへのお披露目やらなにやらで、顔見せが必要だとパレスティ侯爵が狭間陸将に泣きついた結果だ。
行動範囲も帝都に限られているし、帝都事務所には特戦がいて何かの時に対処できるという裏事情もある。だから許可が出たと伊丹は考えている。
「きっと難しいと思うぞ」
だが、レレイは言った。
「交渉すれば良い」
それを聞いて伊丹は薄ら寒い気分になった。平和的なはずの『交渉』という単語に、何故か脅迫めいた不穏な響きが感じられたのだ。
狭間陸将は、伊丹の提出したわら半紙製の海外渡航申請書を睨みつけると「ふむ。良かろう」とハンコをついた。
「え、いいんですか?」
「何を驚く? 富田君にも渡航の許可を出したぞ」
「けど、場所が違いますよ。それに安全性も……これ以降、自分を前例にして隊員達から休暇を取って旅行に行きたいと、海外渡航許可申請が出るようになったらどうするんです?」
「そんなことが起きないよう祈るしかないな」
祈るとは狭間らしからぬ言動である。良く見るとその表情は疲れ切っていて、何かを諦めたような色が浮かんでいた。
「あのう陸将。もしかしてレレイに?」
「いいかね、伊丹君。我々の運命は、彼女に握られているに等しい。彼女に頭を下げてまでお願いされたら、私は決して否とは言えない。彼女の機嫌を損ねたために『門』の再開通が半年、いやもっと先へと延びてしまうかも知れない……などど仄めかされたら、私は君を差し出すしかないのだ。それにだ、これは決して悪いことでもない。君が赴く北方は、我々の知らない土地だ。そこを覗いて来るだけでも価値がある。だから、私は君の渡航申請を認めたのだ。重要な情報を持ち帰ってくれるのを期待するよ」
そうしてくれれば言い訳も立つと狭間は言った。
「言い訳って、ここでは一番偉いはずの狭間陸将が誰に対してするんです?」
「もちろん、私自身に対してだ。人間は自分自身を主として仕えねばならん。この主は厄介だぞ、何一つ隠し事もできないんだからな。私は、これまで私自身を裏切らないようにして来た。これからもそうありたい。そのためには君の協力が必要だ。なので君にはこの旅行から無事に帰ってきて欲しい。間違っても現地住民同士の争いに関わったり、君自身が争いの種になることのないようにしてくれ。くれぐれも頼んだぞ」
伊丹は、狭間に対して十度の敬礼をして応えた。
「まぁ、そのように努力します」
「君の逃げ足の噂は聞いている。それが今回、君の海外渡航を許可することが出来た理由だと思ってくれたまえ。いいな」
狭間はそう言って伊丹に書類を渡したのだった。
02
伊丹は、有給休暇と海外渡航の許可を取得した。
「約束かぁ……」
嵌められるような形で交わされた約束だが、それでも了承したからには守らなくてはならない。
伊丹は、苦手の克服をするためジゼルの特訓を受けることとなった。
「さて、お前とテュカに貸してやる飛竜はこの二頭だ……」
ジゼルが連れてきたのは翼竜よりやや大ぶりで、トゲもなかなかに立派な個体だった。
サイズ的には二頭とも同じだが、エフリーの方が青く、イフリーはやや赤みがかっている。それぞれの背には鐙のついた鞍が載せられていて、既に頭絡もかけられていた。
「エフリーとイフリーだ。挨拶しな」
ジゼルが命じると、二頭は伊丹とテュカに向けて軽く頭を垂れた。
つられて伊丹も「あ、ども」と頭を下げてしまう。
「今ので分かったと思うが、飛竜ってのは大変に頭が良い。口の構造のせいでオレ達が使っているような言葉が喋れないだけで、こっちの言うことは普通に理解する」
「へえ、凄いんですね」
「だから、はっきり言わせてもらうと、操り方なんて覚えなくても良い」
「そうなんですか?」
「ああ。大切なことはお前がこいつらにおとなしく跨がっていられるかってことなんだ」
ジゼルは、エフリーに合図した。
「まずは、それを試させてもらうぜ」
すると突然立ち上がったエフリーが伊丹の襟首に喰いつく。そしてそのまま伊丹を持ち上げ、ひょいと自分の背に乗せてしまった。
「えっ、ちょちょっちょっと!?」
伊丹には、躊躇う暇すら与えられなかった。エフリーは翼をいっぱいに広げて舞い上がっていく。
「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
アルヌスに響き渡る男の悲鳴。
背中で暴れられ、エフリーも実に飛びにくそうだ。真っ直ぐ飛行しようとしているのに、軌道が上に下にと妙にふらふらしている。
そんなエフリーを、テュカを乗せたイフリーが追いかけていく。
こちらはテュカが飛行に協力的なこともあって、とても綺麗な旋回を繰り返していた。
「なるほどなぁ。イタミの野郎は、高さからして駄目ってわけか……こいつは手強そうだぜ」
教官役のジゼルは、額に汗の滴を垂らしながら不敵そうに笑ったのだった。
「では、高さに馴れる特訓から始めようか」
ジゼルはそう宣言すると、まず伊丹の胴に太いロープを巻き付け、森の立木に吊るした。てるてる坊主のごとく、伊丹をだらんとぶら下げたのである。これで高さに慣れろということらしい。
「いい景色だねぇ」
だが伊丹は、いつものごとくとぼけた表情で風景を眺めていた。少しも怖がらない。
「どうなってるんだ?」
枝を滑車代わりに持ち上げている最中は叫んでいた癖に、適当な高さまで持ち上げてロープの端を立木に縛りつけてしまうと途端に伊丹は落ち着いてしまったのである。
ジゼルやテュカが首を傾げる中、伊丹は嘯く。
「習志野で空挺訓練を受けてた時も、不思議と跳出塔とかは大丈夫だったんだよな」
とりあえずこのまま続けても意味がなさそうなので、ロープを解いて下ろすことにした。
しかしジゼルが手をかけ、ロープがわずかに緩んだ瞬間から、伊丹が怖がり出した。
「た、た、た頼むから揺らさないで! 手を離さないでよ、ジゼルさぁぁぁぁぁん!」
その叫び声を聞いて、誰もがピンと来た。
「もしかして、揺れるのが駄目なのかしら?」
そこでもう一度ロープの一端を固定し、今度は前後左右に盛大に振って見ることにした。
ところが、これまた伊丹は怖がらなかった。
「なんだか分かんねぇ奴だよなぁ?」
だが、この難題に火がついたのがレレイの探究心だった。伊丹がどんな時に怖がるのか、その法則性を見つけるために様々な実験を始めたのである。
「上、下、右、ななめみぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ下」
視力検査しながら、高所から後ろ向きにバンジージャンプをさせたり。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ジゼルに、釣りの餌のごとく崖から吊るされて振り回されたり。
「ちょ、ちょ、ちょっとレレイ! 待ってくれって……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目隠ししてエフリーに乗せられたり(実際は地上にいたりする。エフリーに言い聞かせて、揺らしているだけ)。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
それは、あたかもボストークや、ジェミニカプセル時代の宇宙飛行訓練のごとき光景であった。
そしてその結果……。
「もう嫌だ! ボクもう嫌だよ! えぐっえぐっ!」
伊丹は幼児退行して、立木に渾身の力でしがみつき実験を拒絶するに至った。
「失敗。やり過ぎた」
伊丹の高所恐怖症はさらに悪化してしまったのである。
実験をしていたら夜になってしまった。
ロゥリィ、レレイ、ヤオ、そしてジゼルの四人は、食堂を兼ねた居酒屋に入った。
食事の他にロゥリィとジゼル、そしてヤオは最近製造されるようになった蒸留酒を用いた香草酒を、レレイは酒精を好まないので柑橘果汁を注文する。
少し遅れてテュカがやってくる。やや疲れた顔をしてレレイの隣に腰を下ろした。
「イタミの野郎、どうなった?」
ジゼルに一人きりで来た理由を問われ、テュカは肩を竦めた。
「事務所に寝かせてきたわ」
伊丹は疲労と恐怖、そして不平不満で腐りきってしまった。幼児退行から回復すると、レレイの顔なんかしばらく見たくないと怒ってしまったのである。
「彼に嫌われた……」
レレイもやり過ぎた自覚があるのか、珍しく項垂れている。
だがロゥリィは励ますようにレレイの背中を叩いた。
「大丈夫よぉ。アレは根に持つ男じゃないからぁ」
伊丹は根本的なところで女に甘いから、ちゃんと謝れば大丈夫だと語った。
「分かった。後で謝罪する。ちゃんと償いもする」
何か心に決することがあるのか、レレイはしっかりと頷いた。
「で、原因の方は分かったんでしょうね?」
これだけやっておきながら、現状を改善するための手懸かりすら得られてないとしたら伊丹が気の毒だとテュカは言う。
「もちろん、成果は得た」
「で……結果は?」
「結論から言うと、彼は高さを怖がっているわけではない」
「そりゃ、ここまでやれば誰だってねぇ」
真向かいに座るジゼルも、その点は見ていて分かったという。問題は高さで無いとしたら、いったい何が伊丹を恐れさせているか、なのだ。
「簡単に言うと、彼は他人を信じられない」
「それって……他人に命を預けられないってことかしら?」とテュカ。
「そう。彼が顕著に恐れるのは自分の命をつなぐロープの一端を、他人が握っている状況。だからロープの一端が立木や何かに固定されている時は平気」
「けど、ジエイタイの空を飛ぶ乗り物とかは平気だったじゃない。あれって御者(操縦士)に命を預けている状態よね?」
「それは彼の感じ方の問題。空を飛ぶ乗り物は意思を持たない。正常に動く限りは飛ぶという認識をしている。だから少なくとも彼だけが『落とされる』ことはない、と安心することができる」
「ちょっと待った。今『落とされる』って言った?」
「そう。彼は意思有る者を怖がる。その証拠にエフリーにしがみついて『落とさないで』と叫んでいた。おそらく昔に何かあったと思われる」
レレイは、それが伊丹の高所恐怖症の本質であり原因だと語った。
「なるほどねぇ」
レレイの説明にみんな黙り込んでしまった。この説明では問題の解決法が分からないからだ。
今求められているのは、伊丹が飛竜に乗れるようになること。どうしたら恐怖を克服できるかなのだ。
ロゥリィは、皆に提案した。
「ちょっとぉ、ヨウジィの昔の体験とやらをほじってみなぁい?」
「ほじくるって……何をするの?」とテュカ。
「昔の体験を思い出させるのよぉ」
記憶の地層に埋もれている過去の体験を意識化させるのだ。
「聖下。それにどんな意味が? 此の身には分からないのだが……」
「もし何かを苦手に思う気持ちがぁ、過去の出来事に始まっているならぁ、まずはそれを思い出すのが克服の条件だからよぉ」
ロゥリィは、昔を思い出した上で、今と昔は違うのだということをしっかり理解すれば良いのだと説明した。
「でもよ、記憶を暴くなんて魔法は……」
ジゼルの言葉に、皆の視線が導師号を持つ高位の魔術師レレイへと向かう。するとレレイは「それは精霊魔法の方が向いている」と返した。
ジゼル、ロゥリィの視線が、エルフであるテュカとヤオに向かった。
「確かに、夢魔アルプを使えば、過去の体験を夢見させたり語らせたりすることもできると思う。……けど、それってヨウジのプライバシーよね」
それを暴くのは気が引けるとテュカは言った。
「それに夢魔アルプは扱いが難しいの」
『魔』の字付きで呼ばれる精神精霊は説得も交渉も通じないため、魔法の力で拘束し奴隷のように使役するしかない。
問題はそのことを恨んだ夢魔が召喚者に復讐しようとすること。術者に逆らおうとこちらの隙を虎視眈々と窺っている。
そのために術者は夢魔を退去させるまで、精神をしっかり落ち着けて万全な態勢でいなければならない。
「あたし精神力に自信がない。自分自身すら制御できなくて、みんなに迷惑かけちゃったのに」
テュカは父の死が受け容れられずに心を病んだ。それが解決したのは伊丹や皆のおかげだ。父の死をようやく受け容れることができるようになった矢先に、その父が生きているかも知れないという。おかげでテュカの心は、平静とはとても言えない状態に後戻りしていた。
「アルプを暴走させて、ヨウジの心の余計な部分まで暴き立てちゃうかも知れない。人間の心ってうわべは綺麗に見えても、その下にもの凄い怪物が隠れていることもあるし……」
「そうか。そうだな……」
するとヤオが自分がやろうと名乗り出た。
「此の身なら、彼の心にどのような闇があろうともそれを受け容れることができるからな」
それにヤオは精神精霊の使役もひと通りこなす。というよりはかなり得意な方だ。
「だからテュカはここで待っているが良い」
ヤオを筆頭に、ロゥリィ、レレイも立ち上がった。
するとテュカは慌ててヤオを止めた。
「ちょっと待ってよ! 今の言い方なに? あたしだって彼のことを受け容れられるわよ! だいたい自信はないって言ったけど、やらないとは言ってないでしょう! 貴女に押しつけるくらいならあたしがやるわ!」
父捜しに、伊丹を付き合わせようとしているのは自分だ。そのために必要なことをしようとしているのに、それを他人に押しつけるわけにはいかない。
「良いことをして感謝されるのも、嫌なことをして憎まれるのも自分がしなきゃいけない。それが連れ添うってことなんだから」
テュカもそう言って立ち上がり、テーブルに銀貨を数枚置いた。
「なんだよ、結局みんな行くのかよ? ならオレも……」
独り取り残されそうになったジゼルが、まだ飲みきってない香草酒を慌てて飲み干しにかかった。
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。