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7.エロスの下ごしらえ
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肌を撫でられる感触に、大夢の瞼がぴくりと動いた。
(……あぁ……市井さんの手、すごく好き……)
目覚めと微睡みの狭間で、恋人を呼び慣れた苗字で呼んでしまう。
まだ慣れない名前呼びだが、そんな過程も、幸せだった。
大夢は、優しく肩や腕を撫でる市井の温かな手の感触を、目を瞑ったまま深呼吸して、もう少し楽しむ。
そんな寝息とは違う呼吸を始めた大夢に、眠りから覚めたのだと気づいた市井が、手の動きを撫でるだけから、まるでペットを可愛がるみたいに鼻や耳、首へと悪戯な動きで触ってきて、大夢の寝たふりを邪魔してくすくす笑わせてきた。
「……起こしちゃいましたか?」
とぼけた市井の言葉に、大夢が目を開けて穏やかに笑う。
「ふふ、起こされちゃいました。……大分寝てましたか?」
「いえ、……二十分、かな? それくらいです」
短時間で深く眠れたのか、意外にすっきりしている。
もぞりと身体を動かし、市井が服を着ていない事を、布団の中で当たる感触で気づいて、大夢は自分も同じく裸なのだと知る。脱がされた記憶が全くない。
(デート中なのに、熟睡しちゃったし……っ)
だんだん頭も覚めてきて、背中に当たる柔らかなベッドの感触にも気づいた。
「あ、……ベッドまで運んでいただいたみたいで、ありが——」
玄関から歩いた記憶も当然のようになくて、大夢がお礼の言葉を言おうとしたら口を唇で塞がれた。
「――んっ」
「……お礼なら、俺の方が言いたいくらいイイもの見せて貰えたんで、運ぶくらいはさせてください」
「……はぃ」
市井の甘い空気に浸されて、大夢はポーっとなって小さな声でそう言うしかなかった。
なにせ、キスで会話を止めることは、大夢が恋人にいつかしたい事のリストの一つにあったのだ。
(そう言えば、前にも同じようなこと思ったなぁ)
大夢が恋人としてみたいイチャイチャイベントは市井によって着々と消化されているが、照れくさい事に、どれも自分が彼女側で叶っていく。
(それにしても……、世の恋人の時間って、こんなに甘いのかぁ)
今までも市井に甘やかされていた自覚はあったが、気持ちを伝えてからの、この一週間の市井のスキンシップと優しさは、出会ってから半年間の比ではない。
(煌人さんと付き合うことになったのって、改めて考えると……とんでもなく凄い事だよなぁ)
大夢が初めての恋人の存在に感動しつつ、幸せを噛みしめ、口元をニマニマしているのを見た市井は、大夢の思考が何となく分かって嬉しくなる。ただ、その嬉しさを表現するやり方が、肉体的に我慢し続けた半年分、即物的だ。
(はぁ、可愛い……。八木沢さまに、いつでもキスしていい権利なんて、嬉しすぎるっ。しかもスッゴい喜んでくれてるのが分かるしっ。今まで誰もこの人の魅力に気づかないでいてくれて本当にありがとう! 俺、大事にするからっ。だから——いただきます!)
そんなテンションを一切表情に出さない市井が、隙のない整った笑顔を浮かべて、大夢を抱き寄せる。
そのまま大夢に甘いキスを仕掛けると、二人の唇の隙間から短い水音が、可愛い音を立てて何度も続いた。
「ん……、んぅ……」
キスを受けて大夢が市井の舌に蕩けると、意地悪に焦らされることなく、すぐに市井の両手が大夢の胸に直に触れてきて、あっという間に大夢の呼吸を浅くし、腰を熱くさせてシーツはシワだらけになった。
「あっ、……アァ……」
与える快感に、声で、肌で、従順な反応を返す大夢に、市井も玄関での行為の後からずっと続く、燻っていたものを遠慮なく露わにさせて大胆に求め、大夢を焚きつける。
「ッ、……アッ」
弄っていた胸から、下へ伸ばされた市井の手が大夢のものを掴み、容赦なくリズミカルに振り動く。
「それっ、スゴ……くっ、ァッ、……イイッ」
高く短い声を漏らしながら、そばにあったマクラを掴んで握り締める大夢の手が、今感じている気持ち良さを視覚で伝えてきて、市井の所有欲を満足させる。
(何度見ても、感じる姿……すごくエロい)
市井は自身も昂まる興奮に視野が狭くなっていくことを自覚しながら、その視界いっぱいに、淫らに身体を捩る男の身体を映す。
市井の手の中で腫れあがり、糸を引いて雫を垂らす大夢の様子に思わず唾を飲み込んだ。
(気持ちいいって言葉にしなくても、こんなパンパンに腫らせたら、それがどれくらいイイのか分かりすぎてしまって……俺まで勃ってくる……っ)
同性だからこそ理解できる、嘘がつけない充血する物差しが、それを示す快感の度合いを見たとおりに受け取れるから、嫌がっていないのが分かって、行為に躊躇いがなくなる。
「もっと淫らになって……大夢」
快感の波に呑み込まれていく中で名前を呼ばれて、大夢が潤む目で見上げると、コンドームの袋の端を噛んで、片手でそれを開ける市井が、捕食者の目で大夢を捕らえていた。
手早くゴムを装着した市井は、寝室用として枕元に用意していた第二のローションへ手を伸ばし、大夢の目一杯勃ち上がっているそれの真上でボトルを握り込んで、ダイレクトに垂らす。
冷たさを感じなかったのが、玄関で使われた物と同じであることを大夢に思い出させると、その後の行為も快感も思い出させて、大夢を期待にゾクゾクさせた。
「あ……っ、あ……んっ、ハァッ、アァッ」
ローションに塗れた市井の手が大夢の熱を握り締め、ぐちゅぐちゅと音を立てて追い込んでいく。
それをしながら市井は舌を伸ばすと首筋を舐め上げ続け、左手の指先で大夢の右の乳首を摘んだり転がして可愛がる。
(寝てる間に服を脱がせておいて良かったですっ)
一糸纏わぬ男たちがベッドの上で絡み合い、理性を放棄し、体温を上げて欲情していく。
仰向けの組み敷かれた体勢で首筋と乳首、そしてペニスの三点を同時に責められて悶える大夢の声を心地よく聞いていた市井は、自身の竿を大夢の股に擦り付けてローションを掬い取るように塗りつけて滑りを良くさせると、唇に弧を描いて、四点目の責めとなる場所へ杭を打つようにズブズブとめり込ませた。
「あッ、……ッ、ああアァーッ!」
大夢は足をベッドに踏み込ませて腰を浮かせ、弓なりに背中を逸らせ、体内に沈み込んだ市井をギュウっと締め付けて、全身を悦びに震えさせた。
その浮いた細い腰を両手で掴んで、市井は湧き上がる疼きに耐えきれず、衝動的に欲望のままガンガン腰を振って大夢の奥を突き上げる。
「ああ゛ッ、あ゛ぁん!! ンあ゛ッ、ン゛ーッ!」
悲鳴のような声を上げているのに、大夢は勃たせた先端から次々に透明な汁を湧き上がらせて、それを市井の腰が打ち付けられる毎に振り回され、腹に、シーツに、雫を撒き散らしている。
「ハッ……、ハッ、……ははっ、先走りをそんなに出して……大夢すごいエッチ」
息を弾ませ、腰を止めない市井が、熱で浮いたような目で喜び、更に大夢のナカで大きくなる。
「くぅ……ンッ、……煌人さんッ、んァッ、の、せいでッ……アァッ、……んぁッ、ァッ、ァッ、あーっ!」
どうにもならない生理的な現象を卑猥だと指摘されて、恥ずかしそうに睨んできた大夢だったが、反論の途中で市井の腰の動きに合わせて喘ぐだけになると、もうそのあとは話せなくなってしまった。
ベッドの真ん中で、市井にのし掛かられた正常位で何度も何度も、——数分経っても、杭を打つように突かれ続けて、やっと止まったのは市井が最奥まで突き刺してきて腰を震えさせ、ゴムの中に射精した時だった。
激しい行為に、喉が渇いてヒリヒリする。
ずるり、とお尻から市井が抜けていくのを感じながらどうにか息を整えていると、市井の腕に腰を抱えられて引っ張られ、うつ伏せになるよう身体を半転されて、足だけベッドの下におろして立った四つん這いの体勢にされると、何処から出したのか既に新しいゴムに替えた市井が背後から挿入してきて再び猛然と腰を打ち付けだして大夢を鳴かせた。
「あ、あ、あ、アッ、アァッ、あ、あーっ、アッ、アッ、あぁー!」
パンパンパンパンッと連打される尻の肉を打つ音と、大夢の感じて出る声が、おかしくなりそうなほど二人の感度を高めて興奮させる。
市井は腰を振りながら、視界はローションを泡立てて繋がり合う抜き挿ししている場所と、そのすぐ傍にあるほくろを眺めて楽しみ、右手を、重力で垂れ下がってブラブラしている大夢の茎に添えてゆるゆると扱くと、射かせようと頂点を促す。もう何度もお尻のイイ場所を擦られていた大夢は数回擦られただけで、あっという間にシーツに飛ばして果ててしまった。
「ハーッ、ハーッ……っ、ハーッ」
シーツを掴んで、両の肘をベッドについて肩で大きく息をし、最後まで絞り出そうと大夢が腰を震えさせていたら、すぐ市井に上半身を起こされて立たされる。吐精後の疲労感でふらつく大夢を支える格好で市井に後ろからハグされて、姿勢が安定して安心したのも束の間、下から突き刺すように市井が挿入するや、律動してきて、大夢の絞り切れてなかった残滓がベッドや床に飛び散って部屋を汚した。
「アーッ、アッ、あ゛ぁんッ。アッ、やぁ……やだ……ッ、もっ……だめッ、ヒ……ンッ、こんな……連続っ、アーッ」
喉も痛いし、ヘトヘトで、言葉も弱音を吐いてしまうのに、大夢の両手は抱きしめてくれている市井の腕にしがみ付き、腰は市井の杭に穿たれ易いように絞るようにくびれさせて逸らして角度をつけ、襞が、快んで市井を食んで締めてしまう。
「アッ、あー、あぁんッ……お尻ぃ、いいッ……いいよぅ……ッ」
市井の胸に肩を預けてお尻を限界まで上向きにした姿勢で突き上げられると、口の端から涎を溢して声を上げなければならないほど気持ちいい。
「んっ、あ゛っ、ぐりぐりって、ア゛ンッ、奥ぅ……好きィ、もっと、……もっとしてェ!」
そのまま突き上げ続けられて内側から前立腺を連続で擦り上げられ、一番深い所に挿いった瞬間、頭が真っ白になって、立った状態で大きくビクンっと跳ねて顎を上げ、背中を仰け反らせると、その動きに締め付けられた市井が短く声を上げて達した。
満足げに大夢の汗だくの背中に顔を擦り付けてから、市井が大夢の肩にかぷりと噛みつく。そのまま肩にチュ、チュ、と唇を付けて名残惜しそうに腰を引いて大夢の中から抜くと、大夢をベッドにやっと座らせてくれた。
市井がゴムを外して手早く縛って処理している間、大夢はゴムの中から出された蒸れた市井のそれを、正面に座って物欲しそうに見つめ、膝をモジモジ擦り合わせている。そんな様子に市井が、額に優しくキスをして、可愛くて堪らない思いで抱きしめる。
「心配しなくても、今から大夢もちゃんとイかせます」
市井にいっぱい突き上げられて再び完勃ちしていた大夢の茎が、一緒にイケなかった状態のまま、自分の太腿に糸を引かせた雫を垂らしてぴくぴくと震えていた。
そんな状態で市井が片付くのを大人しく待っていた健気さに、愛しさを込めてベッドに押し倒して覆い被さると口付ける。
不慣れな動きで一生懸命にキスを返してくれる大夢の舌と唇を、愉悦に浸り暫く味わった。
待ち焦がれて、市井の肩に置いた大夢の指先に力がこもる。市井は絡めた大夢の舌を解放すると、大夢の唇を舐め、そのまま大夢の身体から一度も舌を離す事なく首や鎖骨の薄い皮膚を這って舐め回し、大夢の大好きな乳首へ下りていくと、二つの粒を指と舌で可愛がった。
「あ……んっ、はぁ……っ、やあぁ……ンッ」
切羽詰まった下半身の状態で乳首だけを構われると、もう待ちきれない腰が浮いて、カクカクと虚しく空気を穿ってしまう。
その行き場のない男根を市井は片方の手のひらで包んでやると、ゆるゆると焦らすように暫く弄びながら、いつまでも乳首を舌で転がして大夢の悦がる様を堪能している。両方の乳首と乳輪を唾液でベトベトにして、そこと同じくらい大夢の思考をふやけさせ、蕩けさせると、やっと満足して舌が胸から腹へ下り、柔らかい肌を旋回させて舐めながら更に場所を下げると、大夢の聳り立つ熱にようやく辿り着いて、先走りを溢れさせて震えている肉茎を、ゆっくり、深く、口に含んで慰めてやった。
「うぁあっ……はぁ、ンッ、ァッ、アアー……っ。すみ……ませ……ッ、腰……動いちゃうぅ……」
市井の髪に指を差し入れて、謝りながら気持ちよさそうに声を漏らす。
その反応を見ながら、市井が熱い茎に舌を這わせて裏筋を責め、じゅぽじゅぽと卑猥な音をワザと立てて吸い上げた。
「あぁっ、イク……ッ、いっちゃう……!」
一気に昂まった射精感に大夢が喉を震えさせると、市井は先端のくびれだけを口に含んで、右手で茎を緩急をつけて扱き、もう片方の手で袋をやわやわと揉んで追い込む。自慰では出来ない、人から与えられる性器への愛撫に、歯を食いしばって耐えていた大夢が堪えきれずに市井の口の中で爆ぜた。
市井は、大夢がそのまま力尽きて後ろに倒れて動けなくなるかと思ったが、大夢は泣きそうな顔で手を差し出して縋ってきた。
「は、吐いてっ。すぐっ、ココに吐いてっ、煌人さんッ」
その大夢のあまりの動揺ぶりに、市井は自分ですら想像しなかった行動をしてしまった。
――ごくん。
「……あ、飲んじゃいました」
「え……、え? うそ……ウソウソウソっ、うそーっ」
目に涙を溜めて青ざめる大夢が可愛くて、余計に市井は笑顔になるのだが、大夢は罪悪感と混乱で指先を震えさせて市井の頬と唇をペタペタと手のひらで触れ、本当に飲んでしまったことを確認してくる。
数秒、現実の衝撃に黙りこんだ大夢が、何事か閃いた様に顔を上げると、今度は自分も市井のを飲むと言い出して市井を驚かせた。
「いや、俺が好きでしたことなんで、そんな無理に」
「無理じゃないですっ」
男に二言は無い、と、市井をベッドに座らせると、二人の場所を入れ替えるように、大夢が床に膝立ちになって市井の長い足の間に身体を入れて、股間に顔を埋めてきた。
「あ……ん、んむ……んくっ」
「――くっ」
拙い舌の動きが、お尻の締め付けとは違う刺激で、当たり前だが気持ちいい。
大夢も市井のものを咥えるのは二回目だったし、むしろ市井のだから抵抗もなかった。
先程市井がしてくれたような動きを真似したり、自分がされたら気持ちいい場所を丁寧に、一生懸命に舐めてみる。
だが、暫く頑張っても顎が疲れるだけで、自分が悶えたほどに市井の反応は大きくなく、不安になって口に含んだまま質問してみた。
「気持ひ、ひょくない?」
上目遣いで見上げて、モゴモゴと唇と舌を動かすと、変化があった。
「んっ……ッ」
市井が眉を寄せて、僅かに熱っぽい吐息を漏らし、口の中に苦味が広がって硬さが増したのだ。
(煌人さんが、可愛い……っ)
気持ちよさそうな市井の姿にきゅーんとなって、顎が怠くても咥えて吸うのを繰り返す。口を大きく開けたままでいるのがいよいよ辛くなってくると、大夢は市井のものから口を離し、鈴口にチュっと口付けてから重い竿に手を添えると、頬ですりすりし、口以外で外側からうんと可愛がった。
亀頭を握り込んで手のひらでクニュクニュ捏ね回し、長さをなぞるように幹に舌を這わせながらほっぺたも使って根元まで擦り下りると、袋にキスしてから、その真ん中をぱくんと食む。
大夢の顔の正面に、ずしりと竿が圧し掛かる様は、市井の視界を刺激して大いに昂らせた。
「大夢、……大丈夫?」
気遣う言葉に、しかし熱い吐息が乗っていて、市井がどんどん興奮しててきているのが分かった。
「らいじょうぶれふ……」
口の中でタマを転がし、しばらくモゴモゴと続けてから離すと、今度は太い竿の根元から先端に向かって、長い距離を舌でチロチロ舐め上げ戻っていく。
張り出た傘の括れの部分に到達して、大夢自身が市井にしてもらって気持ちいいその弱い部分を集中的に舌先で擦ると、やはり市井もそこが好きだったようで、先端から滲み出てきた先走りの汁が零れ落ちてくる。次々溢れるそれを掬うように舌に絡めて、もうぱんぱんに腫れている亀頭に塗りつけるようにレロレロと円を描いて舐め回してから、口の中に唾液をいっぱい溜めると、再び深く、口の中に市井を沈めていった。
「っ……、くッ」
市井が息を詰めた事が分かって勢いを得た大夢が、徐々に早さを上げて頬を窄めて舌を使う。
「ちょっ……いったい、どこで練習したんですか……っ」
市井の抗議する言葉が、褒めてくれてる意味に受け取れて、嬉しくなる。
じゅぼじゅぼと唾液を絡めて吸う淫靡な音に、大夢もまた、自分の淫らな行為に高ぶりを感じのめり込んだ。
大夢の髪を撫でていた市井の手が、前後するリズムを誘導するように、吸いながら引いた頭を押し戻すように添えて手伝ってくる。
「んッ、ンッ……んっ」
「……っ」
市井の苦味と一緒に、口に溜まった唾液をリセットしたくて、一度ごくんと飲み込んで喉を締めた大夢の動きに、市井が息を呑んで堪えた。
「……それっ、ヤバかった」
「…………」
市井の感想に、大夢の目が悪戯を思いついた様に細まると、大夢は深く咥え込み直して舌の根元と喉奥を使い、小刻みに飲み込む動きを何度も繰り返して猛然と追い込む。
「んくっ、んくっ、んっんっ、んくっ」
口に含まれて吸い上げられる直接的な快感と、どんどん重くなっていく垂れ下がる袋にそっと手を添えて優しく揉む動き、呼吸をする度に鼻に掛かった声を上げる大夢の姿は、市井の聳り立つ欲望を、満たして爆ぜさせるに十分だった。
「――っ」
太腿にぐっと力を入れて、大夢の粘膜へ直接生で注げた充足感に、市井の先端から何度も欲望が吐き出される。
「……んっ、……んっ」
どんどん口の中に貯まる量に、慌てて喉を上下させて大夢は飲み込んだが、受けきれなかったものが隙間から溢れて、涎と一緒に顎から垂れた。
それを片手で受け止めて、大夢はゆっくり口から竿をズルリと出すと、鈴口に唇を付けて、尿道に残ったものがなくなるまでチュウッと強く吸い上げて市井を呻かせた。
「まっ、待って待ってっ、スゴ過ぎ!!」
思わぬ才能を発揮させた大夢に、市井が慌てて腰を引く。
「……よかった、ですか?」
ベトベトの口周りを指で掬うように拭いながら、上目遣いで聞いてきた大夢に、その腕を引っ張って立ちあがらせ、ベッドに連れ込んでシーツへ一緒に沈み込んだ市井は、冷たくなった大夢の身体を包み込むようにギュッと抱きしめ感嘆を漏らす。
「……最高でした」
吐精後の、まだジンジンと痺れるような余韻を楽しみながら市井が満足の吐息を零せば、大夢が嬉しそうにはにかんで市井の胸に顔を埋めて甘えた。
「飲まれると……ちょっと困りますね。……なんていうか、申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ちと……それと、嬉しい気持ちもあって……」
感想を言葉にした市井に、大夢が思わず笑う。
「あはは、俺と、おんなじです。あー……でも、先にされた分、俺の方が困ったんですよ? 申し訳ない気持ちで、いっぱいになりましたから。その……おいしくない、のに」
今度は市井が笑った。
「やっぱり、おいしくないですよね? あははっ」
「ふふっ、はい、おいしくないです」
同じ感想に二人で笑い合って、見つめ合うと、顔が近づいて、唇が重なる。
舌を絡め合い、唇を吸い合って、呼吸を交換し合う。
「んっ、……二人の味が、するね。……おいしい?」
市井が舌を絡めながら聞いてきた。
「あははっ、ん……ンッ、ん……おいしく、ない……れす」
チュッとその舌を吸いながら、大夢が市井の唾液をすする。
「れも……煌人さんの、らから……ンッ、おいしいって、……思っちゃいます」
二人の涎とそれ以外のもので口の周りを濡れ光らせて伝えてくる大夢に、市井は愛しさが言葉に出来ないもどかしさを、スキンシップで補った。抱きしめ直して髪や肩にキスをして、背中や太腿を撫でて、指先で大夢の温かさを感じながら、耳元で優しく言葉を返す。
「うん……。俺も、大夢の、おいしかった。……また、しようね」
「……はい」
市井の腕の中で、甘く優しい時間を与えられ、大夢は心から幸せを感じていた。
市井の気持ちは撫でられる指先からも十分に感じられたし、大夢だって、同じ気持ちだった。
ただ、嬉しさと同じくらい、これが全部自分の願望が見せる夢なのかもしれないという不安も頭の片隅にどうしてもあって、幸せを感じれば感じるほど、今を信じたくて泣きそうになってしまう。
(俺の事を好きになってくれる人なんて、今までいなかったのに……。どうしてこんなに……、俺に優しいんだろう……)
市井みたいに容姿が整っているわけでもない、取り柄があるわけでもない。それどころか、出会ってから市井に見せた姿は、お世辞にもかっこいい場面が、一度もないのに。
それなのに市井の眼差しは、大夢を蕩けるように見つめている。
「煌人さん……」
そのお返しに出来る事なんて、大夢からも、市井の髪を撫でて、逞しい肩にキスを返して、気持ちが伝わるようにと市井を見つめて、もう一度唇にキスを強請る事だけだった。
何も持たない自分には、今の気持ち全てを曝け出す以外、思いつかなかった。
誰かに望まれることを、これ程自分が欲しがっていた事に、望まれて、初めて気がついた。
「大夢……、もう一回、大夢のナカに入りたい……」
「……はい。俺も……煌人さんが欲しいです」
――最初は、肉体だけの欲求だったかもしれない。
「うんと、エッチなことしてもいい?」
「……もうずっとされてますよ?」
――泥酔とか無茶ぶりとか、誤解とか。いろいろなことがあって。でも、彼だから、求めたし、求められたその欲に応えたくなった。
「乳首でまだ、ごめんなさい、してもらってなかったんで」
「ん、アッ……、うそっ、ソレ、今からっ……!?」
――同性とか、雇用関係とか、嫉妬とか。何度もあった葛藤なんて、ブレーキどころか、むしろ燃料になっていて。
「大丈夫。ゴムはシーツの下にも、枕カバーの中にも、パソコンデスクにも、カーテンレールの上にもありますから。俺が大夢のナカで何回イッても、大夢はずっと乳首のことだけ考えてられます」
「えっ、それって……エッチもするし、アッ、やぁ……、乳首も触り続けるってこと……っていうか、部屋中にゴム用意してませんかっ!? はぅッ、ちょっと……待っ」
「部屋中に、ではないですよ?」
「ですよねっ。すみませ……」
「家中に、ゴムとローション準備してるんで。体位変える毎に場所を移しても対応できます」
「冗談……ですよね?」
「……大夢への愛を疑われたくないので、本気モードでエッチなことする準備してます」
「何言って……アンッ、アッ、やァんッ! ……あ……あ……挿いってぇ……」
――だから、恋の始まりにも気づかなかった。
「あぁ……、すごくトロトロなのにキツくて……あったかい。……大夢、俺の上に乗って。……うん……そこで好きに腰振ってもいいし、……動けない? なら、……突いてあげ、るっ」
「――アぁンッ。ンあッ、……アンンッ、あっやっ、アッアッ、あんっ!」
「ほらっ、これならッ、両手でおっぱい触ってあげられるッ……、んっ、すごいッ、摘むたびに、キュッキュッ締め付けてくるっ。俺のこと、好きって、喜んでるっ」
「あっ、アーッ、あぅッ、俺ッ、幸せ過ぎて……怖いっ。……はっ、ァッ……ど、して、俺なんかに……ッ、わかんない……けどっ、クゥンッ……好きぃ……っ、煌、人さ……だいす、きぃっ」
「……うんッ。俺も、ずっと前からっ、大好きっ。……だから、泣かないで? そんな不安、全然必要ないから」
「……はい……ッ、んっ、うぅ~……はいっ」
「ハハ……っ、幸せで泣きたいのっ、俺の方です……ッ。でも、泣くより、笑ってほしいなっ。……ッ、ね……笑って?」
「アンッ、……そ、な……急に……ンンっ、無理……ッ」
「むか~しっ、昔、あるとろころに……っ、タワーマンションを建てた男がいました……っ」
「ふははっ、ァッ、ちょ、突然何それ……、アハッ、なんで今、昔話……アアンッ」
――それくらい、いつの間にか、この恋に落ちていた。
(……あぁ……市井さんの手、すごく好き……)
目覚めと微睡みの狭間で、恋人を呼び慣れた苗字で呼んでしまう。
まだ慣れない名前呼びだが、そんな過程も、幸せだった。
大夢は、優しく肩や腕を撫でる市井の温かな手の感触を、目を瞑ったまま深呼吸して、もう少し楽しむ。
そんな寝息とは違う呼吸を始めた大夢に、眠りから覚めたのだと気づいた市井が、手の動きを撫でるだけから、まるでペットを可愛がるみたいに鼻や耳、首へと悪戯な動きで触ってきて、大夢の寝たふりを邪魔してくすくす笑わせてきた。
「……起こしちゃいましたか?」
とぼけた市井の言葉に、大夢が目を開けて穏やかに笑う。
「ふふ、起こされちゃいました。……大分寝てましたか?」
「いえ、……二十分、かな? それくらいです」
短時間で深く眠れたのか、意外にすっきりしている。
もぞりと身体を動かし、市井が服を着ていない事を、布団の中で当たる感触で気づいて、大夢は自分も同じく裸なのだと知る。脱がされた記憶が全くない。
(デート中なのに、熟睡しちゃったし……っ)
だんだん頭も覚めてきて、背中に当たる柔らかなベッドの感触にも気づいた。
「あ、……ベッドまで運んでいただいたみたいで、ありが——」
玄関から歩いた記憶も当然のようになくて、大夢がお礼の言葉を言おうとしたら口を唇で塞がれた。
「――んっ」
「……お礼なら、俺の方が言いたいくらいイイもの見せて貰えたんで、運ぶくらいはさせてください」
「……はぃ」
市井の甘い空気に浸されて、大夢はポーっとなって小さな声でそう言うしかなかった。
なにせ、キスで会話を止めることは、大夢が恋人にいつかしたい事のリストの一つにあったのだ。
(そう言えば、前にも同じようなこと思ったなぁ)
大夢が恋人としてみたいイチャイチャイベントは市井によって着々と消化されているが、照れくさい事に、どれも自分が彼女側で叶っていく。
(それにしても……、世の恋人の時間って、こんなに甘いのかぁ)
今までも市井に甘やかされていた自覚はあったが、気持ちを伝えてからの、この一週間の市井のスキンシップと優しさは、出会ってから半年間の比ではない。
(煌人さんと付き合うことになったのって、改めて考えると……とんでもなく凄い事だよなぁ)
大夢が初めての恋人の存在に感動しつつ、幸せを噛みしめ、口元をニマニマしているのを見た市井は、大夢の思考が何となく分かって嬉しくなる。ただ、その嬉しさを表現するやり方が、肉体的に我慢し続けた半年分、即物的だ。
(はぁ、可愛い……。八木沢さまに、いつでもキスしていい権利なんて、嬉しすぎるっ。しかもスッゴい喜んでくれてるのが分かるしっ。今まで誰もこの人の魅力に気づかないでいてくれて本当にありがとう! 俺、大事にするからっ。だから——いただきます!)
そんなテンションを一切表情に出さない市井が、隙のない整った笑顔を浮かべて、大夢を抱き寄せる。
そのまま大夢に甘いキスを仕掛けると、二人の唇の隙間から短い水音が、可愛い音を立てて何度も続いた。
「ん……、んぅ……」
キスを受けて大夢が市井の舌に蕩けると、意地悪に焦らされることなく、すぐに市井の両手が大夢の胸に直に触れてきて、あっという間に大夢の呼吸を浅くし、腰を熱くさせてシーツはシワだらけになった。
「あっ、……アァ……」
与える快感に、声で、肌で、従順な反応を返す大夢に、市井も玄関での行為の後からずっと続く、燻っていたものを遠慮なく露わにさせて大胆に求め、大夢を焚きつける。
「ッ、……アッ」
弄っていた胸から、下へ伸ばされた市井の手が大夢のものを掴み、容赦なくリズミカルに振り動く。
「それっ、スゴ……くっ、ァッ、……イイッ」
高く短い声を漏らしながら、そばにあったマクラを掴んで握り締める大夢の手が、今感じている気持ち良さを視覚で伝えてきて、市井の所有欲を満足させる。
(何度見ても、感じる姿……すごくエロい)
市井は自身も昂まる興奮に視野が狭くなっていくことを自覚しながら、その視界いっぱいに、淫らに身体を捩る男の身体を映す。
市井の手の中で腫れあがり、糸を引いて雫を垂らす大夢の様子に思わず唾を飲み込んだ。
(気持ちいいって言葉にしなくても、こんなパンパンに腫らせたら、それがどれくらいイイのか分かりすぎてしまって……俺まで勃ってくる……っ)
同性だからこそ理解できる、嘘がつけない充血する物差しが、それを示す快感の度合いを見たとおりに受け取れるから、嫌がっていないのが分かって、行為に躊躇いがなくなる。
「もっと淫らになって……大夢」
快感の波に呑み込まれていく中で名前を呼ばれて、大夢が潤む目で見上げると、コンドームの袋の端を噛んで、片手でそれを開ける市井が、捕食者の目で大夢を捕らえていた。
手早くゴムを装着した市井は、寝室用として枕元に用意していた第二のローションへ手を伸ばし、大夢の目一杯勃ち上がっているそれの真上でボトルを握り込んで、ダイレクトに垂らす。
冷たさを感じなかったのが、玄関で使われた物と同じであることを大夢に思い出させると、その後の行為も快感も思い出させて、大夢を期待にゾクゾクさせた。
「あ……っ、あ……んっ、ハァッ、アァッ」
ローションに塗れた市井の手が大夢の熱を握り締め、ぐちゅぐちゅと音を立てて追い込んでいく。
それをしながら市井は舌を伸ばすと首筋を舐め上げ続け、左手の指先で大夢の右の乳首を摘んだり転がして可愛がる。
(寝てる間に服を脱がせておいて良かったですっ)
一糸纏わぬ男たちがベッドの上で絡み合い、理性を放棄し、体温を上げて欲情していく。
仰向けの組み敷かれた体勢で首筋と乳首、そしてペニスの三点を同時に責められて悶える大夢の声を心地よく聞いていた市井は、自身の竿を大夢の股に擦り付けてローションを掬い取るように塗りつけて滑りを良くさせると、唇に弧を描いて、四点目の責めとなる場所へ杭を打つようにズブズブとめり込ませた。
「あッ、……ッ、ああアァーッ!」
大夢は足をベッドに踏み込ませて腰を浮かせ、弓なりに背中を逸らせ、体内に沈み込んだ市井をギュウっと締め付けて、全身を悦びに震えさせた。
その浮いた細い腰を両手で掴んで、市井は湧き上がる疼きに耐えきれず、衝動的に欲望のままガンガン腰を振って大夢の奥を突き上げる。
「ああ゛ッ、あ゛ぁん!! ンあ゛ッ、ン゛ーッ!」
悲鳴のような声を上げているのに、大夢は勃たせた先端から次々に透明な汁を湧き上がらせて、それを市井の腰が打ち付けられる毎に振り回され、腹に、シーツに、雫を撒き散らしている。
「ハッ……、ハッ、……ははっ、先走りをそんなに出して……大夢すごいエッチ」
息を弾ませ、腰を止めない市井が、熱で浮いたような目で喜び、更に大夢のナカで大きくなる。
「くぅ……ンッ、……煌人さんッ、んァッ、の、せいでッ……アァッ、……んぁッ、ァッ、ァッ、あーっ!」
どうにもならない生理的な現象を卑猥だと指摘されて、恥ずかしそうに睨んできた大夢だったが、反論の途中で市井の腰の動きに合わせて喘ぐだけになると、もうそのあとは話せなくなってしまった。
ベッドの真ん中で、市井にのし掛かられた正常位で何度も何度も、——数分経っても、杭を打つように突かれ続けて、やっと止まったのは市井が最奥まで突き刺してきて腰を震えさせ、ゴムの中に射精した時だった。
激しい行為に、喉が渇いてヒリヒリする。
ずるり、とお尻から市井が抜けていくのを感じながらどうにか息を整えていると、市井の腕に腰を抱えられて引っ張られ、うつ伏せになるよう身体を半転されて、足だけベッドの下におろして立った四つん這いの体勢にされると、何処から出したのか既に新しいゴムに替えた市井が背後から挿入してきて再び猛然と腰を打ち付けだして大夢を鳴かせた。
「あ、あ、あ、アッ、アァッ、あ、あーっ、アッ、アッ、あぁー!」
パンパンパンパンッと連打される尻の肉を打つ音と、大夢の感じて出る声が、おかしくなりそうなほど二人の感度を高めて興奮させる。
市井は腰を振りながら、視界はローションを泡立てて繋がり合う抜き挿ししている場所と、そのすぐ傍にあるほくろを眺めて楽しみ、右手を、重力で垂れ下がってブラブラしている大夢の茎に添えてゆるゆると扱くと、射かせようと頂点を促す。もう何度もお尻のイイ場所を擦られていた大夢は数回擦られただけで、あっという間にシーツに飛ばして果ててしまった。
「ハーッ、ハーッ……っ、ハーッ」
シーツを掴んで、両の肘をベッドについて肩で大きく息をし、最後まで絞り出そうと大夢が腰を震えさせていたら、すぐ市井に上半身を起こされて立たされる。吐精後の疲労感でふらつく大夢を支える格好で市井に後ろからハグされて、姿勢が安定して安心したのも束の間、下から突き刺すように市井が挿入するや、律動してきて、大夢の絞り切れてなかった残滓がベッドや床に飛び散って部屋を汚した。
「アーッ、アッ、あ゛ぁんッ。アッ、やぁ……やだ……ッ、もっ……だめッ、ヒ……ンッ、こんな……連続っ、アーッ」
喉も痛いし、ヘトヘトで、言葉も弱音を吐いてしまうのに、大夢の両手は抱きしめてくれている市井の腕にしがみ付き、腰は市井の杭に穿たれ易いように絞るようにくびれさせて逸らして角度をつけ、襞が、快んで市井を食んで締めてしまう。
「アッ、あー、あぁんッ……お尻ぃ、いいッ……いいよぅ……ッ」
市井の胸に肩を預けてお尻を限界まで上向きにした姿勢で突き上げられると、口の端から涎を溢して声を上げなければならないほど気持ちいい。
「んっ、あ゛っ、ぐりぐりって、ア゛ンッ、奥ぅ……好きィ、もっと、……もっとしてェ!」
そのまま突き上げ続けられて内側から前立腺を連続で擦り上げられ、一番深い所に挿いった瞬間、頭が真っ白になって、立った状態で大きくビクンっと跳ねて顎を上げ、背中を仰け反らせると、その動きに締め付けられた市井が短く声を上げて達した。
満足げに大夢の汗だくの背中に顔を擦り付けてから、市井が大夢の肩にかぷりと噛みつく。そのまま肩にチュ、チュ、と唇を付けて名残惜しそうに腰を引いて大夢の中から抜くと、大夢をベッドにやっと座らせてくれた。
市井がゴムを外して手早く縛って処理している間、大夢はゴムの中から出された蒸れた市井のそれを、正面に座って物欲しそうに見つめ、膝をモジモジ擦り合わせている。そんな様子に市井が、額に優しくキスをして、可愛くて堪らない思いで抱きしめる。
「心配しなくても、今から大夢もちゃんとイかせます」
市井にいっぱい突き上げられて再び完勃ちしていた大夢の茎が、一緒にイケなかった状態のまま、自分の太腿に糸を引かせた雫を垂らしてぴくぴくと震えていた。
そんな状態で市井が片付くのを大人しく待っていた健気さに、愛しさを込めてベッドに押し倒して覆い被さると口付ける。
不慣れな動きで一生懸命にキスを返してくれる大夢の舌と唇を、愉悦に浸り暫く味わった。
待ち焦がれて、市井の肩に置いた大夢の指先に力がこもる。市井は絡めた大夢の舌を解放すると、大夢の唇を舐め、そのまま大夢の身体から一度も舌を離す事なく首や鎖骨の薄い皮膚を這って舐め回し、大夢の大好きな乳首へ下りていくと、二つの粒を指と舌で可愛がった。
「あ……んっ、はぁ……っ、やあぁ……ンッ」
切羽詰まった下半身の状態で乳首だけを構われると、もう待ちきれない腰が浮いて、カクカクと虚しく空気を穿ってしまう。
その行き場のない男根を市井は片方の手のひらで包んでやると、ゆるゆると焦らすように暫く弄びながら、いつまでも乳首を舌で転がして大夢の悦がる様を堪能している。両方の乳首と乳輪を唾液でベトベトにして、そこと同じくらい大夢の思考をふやけさせ、蕩けさせると、やっと満足して舌が胸から腹へ下り、柔らかい肌を旋回させて舐めながら更に場所を下げると、大夢の聳り立つ熱にようやく辿り着いて、先走りを溢れさせて震えている肉茎を、ゆっくり、深く、口に含んで慰めてやった。
「うぁあっ……はぁ、ンッ、ァッ、アアー……っ。すみ……ませ……ッ、腰……動いちゃうぅ……」
市井の髪に指を差し入れて、謝りながら気持ちよさそうに声を漏らす。
その反応を見ながら、市井が熱い茎に舌を這わせて裏筋を責め、じゅぽじゅぽと卑猥な音をワザと立てて吸い上げた。
「あぁっ、イク……ッ、いっちゃう……!」
一気に昂まった射精感に大夢が喉を震えさせると、市井は先端のくびれだけを口に含んで、右手で茎を緩急をつけて扱き、もう片方の手で袋をやわやわと揉んで追い込む。自慰では出来ない、人から与えられる性器への愛撫に、歯を食いしばって耐えていた大夢が堪えきれずに市井の口の中で爆ぜた。
市井は、大夢がそのまま力尽きて後ろに倒れて動けなくなるかと思ったが、大夢は泣きそうな顔で手を差し出して縋ってきた。
「は、吐いてっ。すぐっ、ココに吐いてっ、煌人さんッ」
その大夢のあまりの動揺ぶりに、市井は自分ですら想像しなかった行動をしてしまった。
――ごくん。
「……あ、飲んじゃいました」
「え……、え? うそ……ウソウソウソっ、うそーっ」
目に涙を溜めて青ざめる大夢が可愛くて、余計に市井は笑顔になるのだが、大夢は罪悪感と混乱で指先を震えさせて市井の頬と唇をペタペタと手のひらで触れ、本当に飲んでしまったことを確認してくる。
数秒、現実の衝撃に黙りこんだ大夢が、何事か閃いた様に顔を上げると、今度は自分も市井のを飲むと言い出して市井を驚かせた。
「いや、俺が好きでしたことなんで、そんな無理に」
「無理じゃないですっ」
男に二言は無い、と、市井をベッドに座らせると、二人の場所を入れ替えるように、大夢が床に膝立ちになって市井の長い足の間に身体を入れて、股間に顔を埋めてきた。
「あ……ん、んむ……んくっ」
「――くっ」
拙い舌の動きが、お尻の締め付けとは違う刺激で、当たり前だが気持ちいい。
大夢も市井のものを咥えるのは二回目だったし、むしろ市井のだから抵抗もなかった。
先程市井がしてくれたような動きを真似したり、自分がされたら気持ちいい場所を丁寧に、一生懸命に舐めてみる。
だが、暫く頑張っても顎が疲れるだけで、自分が悶えたほどに市井の反応は大きくなく、不安になって口に含んだまま質問してみた。
「気持ひ、ひょくない?」
上目遣いで見上げて、モゴモゴと唇と舌を動かすと、変化があった。
「んっ……ッ」
市井が眉を寄せて、僅かに熱っぽい吐息を漏らし、口の中に苦味が広がって硬さが増したのだ。
(煌人さんが、可愛い……っ)
気持ちよさそうな市井の姿にきゅーんとなって、顎が怠くても咥えて吸うのを繰り返す。口を大きく開けたままでいるのがいよいよ辛くなってくると、大夢は市井のものから口を離し、鈴口にチュっと口付けてから重い竿に手を添えると、頬ですりすりし、口以外で外側からうんと可愛がった。
亀頭を握り込んで手のひらでクニュクニュ捏ね回し、長さをなぞるように幹に舌を這わせながらほっぺたも使って根元まで擦り下りると、袋にキスしてから、その真ん中をぱくんと食む。
大夢の顔の正面に、ずしりと竿が圧し掛かる様は、市井の視界を刺激して大いに昂らせた。
「大夢、……大丈夫?」
気遣う言葉に、しかし熱い吐息が乗っていて、市井がどんどん興奮しててきているのが分かった。
「らいじょうぶれふ……」
口の中でタマを転がし、しばらくモゴモゴと続けてから離すと、今度は太い竿の根元から先端に向かって、長い距離を舌でチロチロ舐め上げ戻っていく。
張り出た傘の括れの部分に到達して、大夢自身が市井にしてもらって気持ちいいその弱い部分を集中的に舌先で擦ると、やはり市井もそこが好きだったようで、先端から滲み出てきた先走りの汁が零れ落ちてくる。次々溢れるそれを掬うように舌に絡めて、もうぱんぱんに腫れている亀頭に塗りつけるようにレロレロと円を描いて舐め回してから、口の中に唾液をいっぱい溜めると、再び深く、口の中に市井を沈めていった。
「っ……、くッ」
市井が息を詰めた事が分かって勢いを得た大夢が、徐々に早さを上げて頬を窄めて舌を使う。
「ちょっ……いったい、どこで練習したんですか……っ」
市井の抗議する言葉が、褒めてくれてる意味に受け取れて、嬉しくなる。
じゅぼじゅぼと唾液を絡めて吸う淫靡な音に、大夢もまた、自分の淫らな行為に高ぶりを感じのめり込んだ。
大夢の髪を撫でていた市井の手が、前後するリズムを誘導するように、吸いながら引いた頭を押し戻すように添えて手伝ってくる。
「んッ、ンッ……んっ」
「……っ」
市井の苦味と一緒に、口に溜まった唾液をリセットしたくて、一度ごくんと飲み込んで喉を締めた大夢の動きに、市井が息を呑んで堪えた。
「……それっ、ヤバかった」
「…………」
市井の感想に、大夢の目が悪戯を思いついた様に細まると、大夢は深く咥え込み直して舌の根元と喉奥を使い、小刻みに飲み込む動きを何度も繰り返して猛然と追い込む。
「んくっ、んくっ、んっんっ、んくっ」
口に含まれて吸い上げられる直接的な快感と、どんどん重くなっていく垂れ下がる袋にそっと手を添えて優しく揉む動き、呼吸をする度に鼻に掛かった声を上げる大夢の姿は、市井の聳り立つ欲望を、満たして爆ぜさせるに十分だった。
「――っ」
太腿にぐっと力を入れて、大夢の粘膜へ直接生で注げた充足感に、市井の先端から何度も欲望が吐き出される。
「……んっ、……んっ」
どんどん口の中に貯まる量に、慌てて喉を上下させて大夢は飲み込んだが、受けきれなかったものが隙間から溢れて、涎と一緒に顎から垂れた。
それを片手で受け止めて、大夢はゆっくり口から竿をズルリと出すと、鈴口に唇を付けて、尿道に残ったものがなくなるまでチュウッと強く吸い上げて市井を呻かせた。
「まっ、待って待ってっ、スゴ過ぎ!!」
思わぬ才能を発揮させた大夢に、市井が慌てて腰を引く。
「……よかった、ですか?」
ベトベトの口周りを指で掬うように拭いながら、上目遣いで聞いてきた大夢に、その腕を引っ張って立ちあがらせ、ベッドに連れ込んでシーツへ一緒に沈み込んだ市井は、冷たくなった大夢の身体を包み込むようにギュッと抱きしめ感嘆を漏らす。
「……最高でした」
吐精後の、まだジンジンと痺れるような余韻を楽しみながら市井が満足の吐息を零せば、大夢が嬉しそうにはにかんで市井の胸に顔を埋めて甘えた。
「飲まれると……ちょっと困りますね。……なんていうか、申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ちと……それと、嬉しい気持ちもあって……」
感想を言葉にした市井に、大夢が思わず笑う。
「あはは、俺と、おんなじです。あー……でも、先にされた分、俺の方が困ったんですよ? 申し訳ない気持ちで、いっぱいになりましたから。その……おいしくない、のに」
今度は市井が笑った。
「やっぱり、おいしくないですよね? あははっ」
「ふふっ、はい、おいしくないです」
同じ感想に二人で笑い合って、見つめ合うと、顔が近づいて、唇が重なる。
舌を絡め合い、唇を吸い合って、呼吸を交換し合う。
「んっ、……二人の味が、するね。……おいしい?」
市井が舌を絡めながら聞いてきた。
「あははっ、ん……ンッ、ん……おいしく、ない……れす」
チュッとその舌を吸いながら、大夢が市井の唾液をすする。
「れも……煌人さんの、らから……ンッ、おいしいって、……思っちゃいます」
二人の涎とそれ以外のもので口の周りを濡れ光らせて伝えてくる大夢に、市井は愛しさが言葉に出来ないもどかしさを、スキンシップで補った。抱きしめ直して髪や肩にキスをして、背中や太腿を撫でて、指先で大夢の温かさを感じながら、耳元で優しく言葉を返す。
「うん……。俺も、大夢の、おいしかった。……また、しようね」
「……はい」
市井の腕の中で、甘く優しい時間を与えられ、大夢は心から幸せを感じていた。
市井の気持ちは撫でられる指先からも十分に感じられたし、大夢だって、同じ気持ちだった。
ただ、嬉しさと同じくらい、これが全部自分の願望が見せる夢なのかもしれないという不安も頭の片隅にどうしてもあって、幸せを感じれば感じるほど、今を信じたくて泣きそうになってしまう。
(俺の事を好きになってくれる人なんて、今までいなかったのに……。どうしてこんなに……、俺に優しいんだろう……)
市井みたいに容姿が整っているわけでもない、取り柄があるわけでもない。それどころか、出会ってから市井に見せた姿は、お世辞にもかっこいい場面が、一度もないのに。
それなのに市井の眼差しは、大夢を蕩けるように見つめている。
「煌人さん……」
そのお返しに出来る事なんて、大夢からも、市井の髪を撫でて、逞しい肩にキスを返して、気持ちが伝わるようにと市井を見つめて、もう一度唇にキスを強請る事だけだった。
何も持たない自分には、今の気持ち全てを曝け出す以外、思いつかなかった。
誰かに望まれることを、これ程自分が欲しがっていた事に、望まれて、初めて気がついた。
「大夢……、もう一回、大夢のナカに入りたい……」
「……はい。俺も……煌人さんが欲しいです」
――最初は、肉体だけの欲求だったかもしれない。
「うんと、エッチなことしてもいい?」
「……もうずっとされてますよ?」
――泥酔とか無茶ぶりとか、誤解とか。いろいろなことがあって。でも、彼だから、求めたし、求められたその欲に応えたくなった。
「乳首でまだ、ごめんなさい、してもらってなかったんで」
「ん、アッ……、うそっ、ソレ、今からっ……!?」
――同性とか、雇用関係とか、嫉妬とか。何度もあった葛藤なんて、ブレーキどころか、むしろ燃料になっていて。
「大丈夫。ゴムはシーツの下にも、枕カバーの中にも、パソコンデスクにも、カーテンレールの上にもありますから。俺が大夢のナカで何回イッても、大夢はずっと乳首のことだけ考えてられます」
「えっ、それって……エッチもするし、アッ、やぁ……、乳首も触り続けるってこと……っていうか、部屋中にゴム用意してませんかっ!? はぅッ、ちょっと……待っ」
「部屋中に、ではないですよ?」
「ですよねっ。すみませ……」
「家中に、ゴムとローション準備してるんで。体位変える毎に場所を移しても対応できます」
「冗談……ですよね?」
「……大夢への愛を疑われたくないので、本気モードでエッチなことする準備してます」
「何言って……アンッ、アッ、やァんッ! ……あ……あ……挿いってぇ……」
――だから、恋の始まりにも気づかなかった。
「あぁ……、すごくトロトロなのにキツくて……あったかい。……大夢、俺の上に乗って。……うん……そこで好きに腰振ってもいいし、……動けない? なら、……突いてあげ、るっ」
「――アぁンッ。ンあッ、……アンンッ、あっやっ、アッアッ、あんっ!」
「ほらっ、これならッ、両手でおっぱい触ってあげられるッ……、んっ、すごいッ、摘むたびに、キュッキュッ締め付けてくるっ。俺のこと、好きって、喜んでるっ」
「あっ、アーッ、あぅッ、俺ッ、幸せ過ぎて……怖いっ。……はっ、ァッ……ど、して、俺なんかに……ッ、わかんない……けどっ、クゥンッ……好きぃ……っ、煌、人さ……だいす、きぃっ」
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「……はい……ッ、んっ、うぅ~……はいっ」
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「むか~しっ、昔、あるとろころに……っ、タワーマンションを建てた男がいました……っ」
「ふははっ、ァッ、ちょ、突然何それ……、アハッ、なんで今、昔話……アアンッ」
――それくらい、いつの間にか、この恋に落ちていた。
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