雨に濡れて光る小石

かと姉

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五月雨と秋雨の間⑴

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 雨の日は嫌い。靴が濡れて水が靴下にまで染みて気持ち悪いし、制服のスカートが濡れれば脛にまとわりつく。少しでも梅雨の気分を変えようと思って、この間、お母さんに綺麗な青い傘を買ってもらった。だけど、やっぱり何となく心が晴れない。
 このもやもやした感じは、雨のせいだけではなかった。四月に入学した中学は地元の公立ではなく、頑張って勉強して入った私立。合格したときは嬉しかったけれど、実際に通ってみると友達もあまりできないし、授業も思ったより退屈。こんなことなら地元の友達と同じ中学に行けば良かったな。

 そんなことを考えていると、背後から誰かが駆け寄ってくる音がした。
「清水さん!」
振り向くと170センチはあるだろうか、かなり背の高い、同じ制服の女の子がいた。でも、私、この子知らない。上級生の可能性もあるので、念のため敬語で話すことにした。
「あの、どなたですか?」
その子は一瞬ハッとしたような表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「私、三組の藤森っていうの。藤森愛実。よろしくね。」
「はあ。」
私は立ち止まったまま、藤森さんの顔を見つめていた。色黒で目が細い。
「清水さん、雨降ってきたから、傘に入れてくれないかな?」
私はやっと藤森さんが自分に声を掛けてきた理由を理解した。どうぞ、と言って藤森さんのほうに傘を差し掛ける。
「うーん。」
私は背が150センチちょっとしかない。だから、藤森さんは傘に入るために膝を曲げてかがんだ。
「あの、藤森さんが傘を持ってくれたほうが良さそうなんだけど。」
私が藤森さんに傘の柄を差し出すと、藤森さんは苦笑いをして、そうだね、と言って受け取った。
「じゃあ行こうか。」

 私たちは再び学校に向かって歩き出す。藤森さんが傘を差すと、傘は私の頭よりずっと上になって、視界が明るくなった。
「なんでこんな日に傘を持ってないの?」
私は尋ねた。
「あー、うち、歩いて15分くらいのところだから、途中で雨が降り出しても走ればなんとかなるかなーって。今日は5分くらいのところで降られちゃったんだけどね、あはは。」
歩いて15分の距離で、走れば何とかなるというのは私には理解不能だ。それに土砂降りだったらどうするのだろう。
「清水さんはバスだよね。三条さんちの近所に住んでるんだもんね。」
私は驚いた。
「何で知ってるの?」
「ほら、三条さんに教えてもらったから。三条さん、清水さんと同じ小学校でしょ? だから、三条さんに色々聞いちゃった!」

 みっちゃんこと三条未知は、唯一同じ小学校からこの中学に合格した子だ。塾も同じで仲は悪くない。そして三組にいる。
「みっちゃんは私のことを何て言ってる?」
藤森さんは、そうだねえ、とつぶやいて自分の差している傘を見上げた。
「よく本を読んでて物知りだから、分からないことは全部清水さんに聞く、って言ってた!」
「本当にそれだけかな。」
おしゃべりのみっちゃんのことだ、それだけで済むはずがない。しかし藤森さんは笑った。
「塾の難しい宿題をみんな教えてくれる、って。清水さん、すごいね!」
 私は何だか恥ずかしくなってきた。話を変えよう。

 「藤森さんは家がこの近くだと小学校はどこになるのかな? UかS??」
「Uだよ。うちの学校ってSの校区内でしょ? 私の家はギリギリSの校区から外れたところにあるの。だからU。」
私は頷いた。
「Uなら同じ小学校の子が何人もいていいね。」
「いやー、男ばっかりだよ! たまたまうちの小学校からは男子だけ合格したの。あいつら、嫌いじゃないけどさ、でもつまんないよね。」
 同じクラスにいるU出身の子を思い出したが、確かに二人とも男の子だった。
「いいじゃん、清水さんは隣のクラスだけど三条さんがいて。」
「まあ、ね。」

 そうこうしているうちに、校門まであと100メートルくらいのところまで来た。すると、藤森さんは突然かがんで傘を私に手渡してきた。
「私、部活のことで始業前に先輩と話さなきゃだから。そろそろ行くね!」
「あ、うん。」
私は傘を受け取った。
「バスケ部なの。見たまんまでしょ? じゃあね!」
 藤森さんは雨に濡れながら全力で走って行った。とても速い。あっという間に校門を通過して、姿が見えなくなった。
「今日、塾でみっちゃんに藤森さんのことを聞いてみよう。」
 つまらない一日に、ちょっとだけ楽しみができた。

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