上 下
27 / 28

第27話 チンピラたちには災いを

しおりを挟む
 とりあえず王都に来ることができて、ある程度王都の情報も手に入った。
 そうなると、あとはセレスさんが一番気になっていることもあるだろう。

『セレス、一度、王城にも行ってみましょうか。妹のフィリスティアちゃんに会いたいですよね』

「確かに会いたいですけど……今の私が会ってもいいのでしょうか」

『当たり前ですよ!』

 セレスさんは迷っているようで、その背中をロストルジアさんが押す。
 セレスさんはそのために、あの森にいたんだ。
 妹で『捧げ姫』だったフィリスティアさんを守るために。そして会うために。

 それが今、叶おうとしている。

『大丈夫です。遮断の魔法で、セレスが城に入れるように私が援護します』

「……ふふっ。ロストルジア様が力を貸してくれるのなら、頼もしいですね」

 セレスさんがくすりと笑っていた。
 どうやら、決まったみたいだった。

「もう王女ではなくて、死んだことになっている私が王城に行くのは、忍びないですが……無理でした。やっぱり一目でもいいから、フィリスティアちゃんのことを見たい。柴裂くんも一緒に行きますよね」

「あ、いえ、俺はもう少し街を歩いて、色々調べておこうと思います」

「そうですか……? あなたも、故郷の人たちと会わなくてもいいのですか……? 柴裂くんの儀式、気になりませんか?」

「た、確かにそれは気になりますけど……」

 さっき見かけたクラスメイトたちが言ってたもんな。
 柴裂くんの祟りを収める儀式をしよう! ……と。
 気にならないと言えば嘘になるし、あと、他にも色々、七宮さんのこととかも気にならないと言えば嘘になる。

 でも……なんとなく、近づきづらいものを感じてしまうのだ。

 なにより。


「おいおい! オメーら、ちょっとツラ貸せや!」


 直後、俺たちの背後から、肩をぶつける気配があった。
 ぞろぞろと数人のガラの悪そうな人物が、俺たちがいる路地裏へとやってきていた。

 俺は、ぶつけられる肩を交わし、セレスさんに被害が及ばないようにもする。

「ぷっ、こいつ、避けられてやがる。ダッセーの」

「うっせっ。おいおい、そこのにーちゃん。舐めてんのか、ゴラァ?」

「とりあえず、顔見せろや」

 数は5人。
 俺もセレスさんもフードを被っていて、反射的に武器に手を添えていた。
 どうやら相手は、カツアゲ目的で、絡んできたのだと思われる。

「ロストルジアさん。セレスさん。今のうちに」

『分かりました。ここは、あなたにお任せします。行きますよ、セレス』

「あっ、でも……」

「別行動をしましょう。セレスさんはフィリスティアさんの元へ、お行きください」

「……分かりました。シバサキくん……ありがとう」

 禍々しい魔力が展開される。
 そうすると、次の瞬間には、セレスさんの姿は消えていた。


「……? 今、一人、消えなかったか?」

「だよな? 気のせいか……?」

「おい、にーちゃん、何をした?」

 訝しみながら、詰め寄ってくる男たち。

「まあ、いいや。にーちゃん、ちょいとツラ貸せや? なぁに、悪いようにはしねえからよぉ」

「「「ぶひゃひゃ……! たっぷり可愛がってやるぜ」」」

 醜悪な笑みを浮かべながら、俺の胸ぐらを掴み上げる男たち。

 そして躊躇うことなく、俺の顔へと殴りかかってきた。
 人を殴り慣れている様子だ。
 その拳が俺に直撃する。他の男も拳を振り上げて、殴りかかってくる。全員同時に。全部俺の顔にクリーンヒットだ。

「死ねや、ザコが!」

「その顔、蜂の巣にしてやんよ!」


 そして……数分後。

「「「ぜ、ゼェ、ゼェ……びくともしねえッ、どうなってやがんだッ!?」」」

 俺の足元には、息を切らしたチンピラが転がっていた。
 自分の腕を押さえて、真っ青な顔をしている。

 俺は一歩も動いていない。
 奴らが、殴り続けて、その間もただ立っていただけだ。

 ……そしてもう、十分だろう。

 そろそろ、頃合いだ。


「ロスト・ドレイン」


「「「……ッッッ!?」」」

 直後、呪いの魔力が蔓延し、彼らに悲劇が襲いかかるのだった。


 *****************


「アニキ、アニキ……! しっかりしてくだせえ、アニキ……!」

「!? な、なんだ!? お、俺は一体……!?」

 王都の街の、ゴミ捨て場のあたり。
 そこで男たちは、ゴミにまみれながら目を覚ましていた。

「お、俺たちは、ここで何をしていたんだ……?」

 アニキと呼ばれたスキンヘッドの男が、声を震わせながら取り乱していた。

 自分たちは今……何をしていた? 
 なんでゴミ捨て場にいるんだ……。

 さっきまで……そうだ。殴っていたんだ。無性にムシャクシャした自分達は、ちょうどいいところに立っていたフード姿の奴をタコ殴りにしていた。
 そしてボロ雑巾になったそいつの有り金を全て毟り取って、酒でも浴びるように飲もうと思っていた。

 それなのに……今は、ゴミ捨て場に頭を突っ込んでいる。

「……ッ!? あいつが、何かしやがったのか!?」

 アニキは激昂した。

 そして、思い出した。

 さっきのやつは、どれだけ殴ってもビクともしなかった。反撃もしてこなかったそいつを殴ったら、むしろこっちの拳が破壊されそうになるほどだった。

 それを思い出すと、まるでコケにされたような気分になった。

「ふざけやがって! 俺を舐めるとは、いい度胸だ! ちくしょうッ!!」

 アニキは、怒りのままに近くの壁を殴る。八つ当たりだ。

「砕け散れッッ! 俺の自慢の拳を喰らってッッ!」


 ボギッッ!


「……!? ンギイイイイイイイィィィィ!?!?!?!?」

 しかし、砕け散ったのは、アニキの拳の方だった。

「「「あ、アニキ!?」」」

 壁を殴り、右手を粉砕骨折した兄貴に、駆け寄るチンピラたち。
 しかし、足を踏み出した途端、全身に重さを感じ、そのまままとめて地面に顔をぶつける。

「「「「ンギイイイイイイイィィィィ!?!?!?!?」」」」

 ぶつけた鼻が粉砕骨折をして、顔が悲惨なことになってしまった。

「な、何が起きてやがる……!?」

 そして、ステータスを確認して、恐れ慄いた。


 ・『状態』 怨念。
 レベル、ステータスが弱体化し、筋力と体力が低下し続ける。
 弱体化したステータスは元に戻らず、また上げ直す必要あり。



「な、なんでこんなことに……」

 ザコになっていた。

 チンピラたちが一人残らず、ザコになっていた。

 ステータスが絶え間なく減少し続けていて、近年、この辺り一体を仕切っていたチンピラたちは、謎の怨念を受けて、ザコになっていた。

「!? ま、まさかあいつが!」

 それしか考えられなかった。


 ーー『ロスト・ドレイン』ーー

 対象のステータスを没収し、相手に懺悔を与える魔法。
 誤った使い方をすれば、術師に呪いが跳ね返ってくる禁断の魔法でもある。

 しかし、今回は使用用途が正しかったため、チンピラたちは一人残らずに懺悔の対象になった。

 ザコになったチンピラたちは、これから先、大変苦しい思いをするだろう。
 しかし、何も問題ない。この辺りの裏路地付近ではこのチンピラたちが仕切っていたこともあり、住人たちは大迷惑をしていたのだ。

 だから、チンピラたちがザコになった結果、王都は少しだけ平和になったのだった。




「……ふーん。あいつ、生きてたんだ」

 そしてーー。

 そんな場面を見ていた少女が、一人。
 この世界で生きてきた者たちとは違う、異世界の魔力を宿している少女。

 その少女はフードを深く被ると、口元に笑みを浮かべながら、この場を後にして、いなくなった彼の後を追うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

おばあちゃんが孫とVRmmoをしてみた

もらわれっこ
ファンタジー
孫にせがまれて親の代わりに一緒にログイン、のんびりしてます 初めてなのでのんびり書きます 1話1話短いです お気に入り 4 百人突破!ありがとうございます

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて

青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。 両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。 妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して…… ゆるふわ設定ご都合主義です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

神のマジシャン〜魔法はやはり便利です!〜

重曹ミックス
ファンタジー
最近、VRMMOが発売された。 それは今までは無かった魔法や剣を使って戦闘ができるゲームで老若男女問わず大人気。 俺もそのゲームの虜だった。 そんなある日いつしかそのゲームの公式の魔法を全て使えるようになり《賢者》とまで呼ばれていた。 その後は、魔法を組み合わせて発動してみるという感じの日々を過ごす。 そんなある日、ゲームから出て寝たのだったが起きると知らない森に倒れていた。 これもいつものように、ゲーム付けっぱなしだったから、ということにしたかったが、どうやら来てしまったらしい。 ――異世界に――。 そして、この世界には魔法が存在しないようだった。正確には存在を知られて無かったっといった方がいいだろう。 何故なら、実際に魔法は使えた。さらに空気中に魔力もあるようだ。 俺は異世界で魔法使う生活をすることとなった……。 しばらく過ごしその世界にも慣れ始めるが、自分がここに来た――来ることになった理由を知ることになる。 ­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-- これを読んでると「主人公の力既にスキルとか必要無くね?」「何が目的で力を付けようとしてんの?」といった疑問が出ると思いますがそれは敢えてそうしています。後にそのことについて詳しいことが書いてある部も書きます。また、神については最初の方ではほとんど関与して来ないです。 ノベルアップ+、なろうにも掲載。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...