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第3話 与えられるスキル

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「おい、やばいって……」

「先生、どうなるんだろ……」

「でも、自業自得じゃね。ちょっとスッキリしたもん」

 水晶を見た生徒たちに動揺が走る。担任が変質してしまったのもそうだけど、帰還だ。帰還の失敗を目の当たりにしたのだ。
 帰還できることは証明されたけれど、それに伴うリスクも見せつけられたのだ。

 そして、水晶の向こう側、担任の教師の断末魔の叫びを聞きつけたからだろう、教室のドアが開き、別の教師が入ってきた姿が映し出されていた。

 次の瞬間、ぎゃああああ! と絶叫をあげるその教師。
 それがまた騒ぎの火種となって、水晶の向こう側、つまり元の世界の教室が大騒ぎになっていた。

 こうなってしまった以上、今この場であっちの世界に戻ったとしても、必ず騒ぎになってしまう。

「すまない。心よりお詫び申し上げる」

 それを言った王が、謝罪をする。
 その謝罪は形式的なようなもので、心からその謝罪を受け取った者はこの場にはいないだろう。

 それがまたこの場にいる生徒たちの動揺を生み、場に緊張感が走る。

「ひとまず先ほど見てもらった通り、帰還はできる。もちろん、失敗のリスクも伴う。しかし、然るべき方法を使用し、我が国の魔術師総出で帰還の術を発動すれば、先ほどのようになる確率も限りなく低くすることができる。それは信じてもらうしかない」

 国王がそう言うと、そばに控えているローブ姿の者たちが一斉に頭を下げた。

「これで帰還することも可能だ。しかし、今一度考えてほしい。この国に残るという選択を。召喚された英雄であるお主達には、スキルの付与が可能だ。だから、それを行った上で、選択をしてはくれまいだろうか」

「「「……スキル!?」」」

 その言葉に、数人の生徒達が反応する。

「スキルって、ゲームとかで聞くやつだよな……?」

「つまり、私たちにも、そのスキルが貰えるってことなの?」

「うむ。では、早速その儀式に取り掛かる」

 王がそう言って、合図をすると、白い部屋の入り口の壁が動き、一人の少女が現れた。

 流れるような金色の髪。背中まで伸びているその髪が、彼女が歩くたびに静かな揺らぎを見せている。
 年は15~18歳ぐらいだろうか。真っ白い修道服を着ている彼女が、目を伏せながら歩いてくる。
 その手には、石板のようなものが抱かれていた。

 彼女の姿に、誰も彼もが見惚れていた。「綺麗……」や、彼女の姿に言葉を無くしている者もいた。
 それぐらい、美しい女性だった。

「お初にお目にかかります。私はこの国の第四王女フィリスティア・デレクトルと申します。この度はスキルの鑑定の儀を執り行わせていただきます」

「「「王女様……」」」

 女子生徒達が、彼女の姿に口を両手で覆って泣きそうになっていた。
 泣くぐらい感動したのだ。彼女は俺たちの前に来て、静かに礼をしてくれる。その仕草もどこか芸術がかって見えたのだ。

「まずは、スキルのご説明からさせていただきます。スキルというのは、この世界を見守って下さっている神、スリストス様が授けてくださるものです。かつてはこのスキルがあったからこそ、呪いの穢れ、呪神ロストルジアを消滅させることができたのです」

 どこか耳障りのいい声音。聴いているだけで、心が洗われていくようなそんな気分になる。
 ここにいる者達は、そんな声の主の彼女に見惚れていた。

 そして説明が続くと、彼女は石板を宙に掲げた。

「『神よ。英雄である彼らに、力を授けたまえ』」

「「「おお……!」」」

 光が生まれ、台座が生まれる。
 その台座と石板が共鳴し合い、彼女は石板をその台座へとセットした。

「では、これよりスキルの授与、及び、鑑定を行いたいと思います。どなたからスキルの鑑定を行いますか?」

 彼女の言葉に、生徒達は我先に……とはならなかった。
 やはり、帰還の術の失敗を目の当たりにしているからだ。未知のものは恐ろしい。だからどうしても、怯んでしまう。

「……じゃあ、僕からやります」

「「「!」」」

 そこで手を挙げたのは、一人の男子だった。
 サッカー部の生徒だ。

 彼が強ばった顔で、台座へと歩いていく。そして、その台座に手をかざした瞬間だった。

「「「こ、これは……!」」」

 どよめいたのは、周りにいた騎士の格好をしている者達。
 台座が金色に光り、光が部屋の中を埋め尽くし、俺たちの目にもそれははっきりと見えた。


【魔道騎士(パラディン)】 
 ランク☆☆☆
 最高級ランク。
 剣と魔法、どちらの扱いにも優れているスキル。
 英雄の資質あり


「おおおお! すばらしい! こんなに早く、英雄が現れるとは!」

「「「「す、すげえ……!」」」」

 国王の顔に驚きと、喜びが生まれる。
 自分たちのクラスから英雄が出たということで、周りのクラスメイト達も驚いていた。

「ははは、なんかすごいことになっちゃったよ?」

 本人はポリポリと鼻をかいており、周りにいた騎士達から大歓迎を受けていた。


「では、次の方、お願いします」

 その王女様の声で、次の順番が回ってくる。

 しかし……。

「「「…………」」」

 誰も、前に出ようとはしない。
 初めから最高級ランクのスキルが出たことで、出にくくなってしまったのだ。
 次に鑑定されたものは、嫌でも比べられてしまうだろう。どうせ鑑定をされるのなら、次の次、三番目ぐらいがちょうどいいだろう……と。スキルは知りたいけど、比べられたくない。そういう心理が働いているのだ。

「おい、お前行けよ。俺たちの生贄になってこい」

「ぐ……っ」

 ここで、俺は背中に痛みを感じた。
 背後、例の四人組の男が口の端を歪めながら笑っており、俺の背中を蹴ったようだった。

 突然の衝撃を受けながら俺は、前に出ることになる。
 後ろからは笑い声が聞こえ、俺は倒れないように地面に腕をついた。

「だっ、大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」

 慌てて、駆け寄ってきてくれたのは、この儀式を行ってくれていた、第四王女フィリスティア様だ。
 俺の手を取って、背中を支えるように立たせてくれて、膝をそっとはたいてくれる。

「痛いところはありませんか!? 念のために、回復魔法をかけておきましょう。ヒール」

 そう言って、彼女が俺の手を握ったまま、目を閉じて唱えると、俺の体が淡い光に包まれた。

 これは……。

「どうですか……?」

「あの、楽になりました……。ありがとうございました」

「ふふっ。どういたしまして。では、せっかくです。一緒に台座のところに行きましょうか」

 彼女はそのまま俺の手を握り、俺は彼女に手を引かれる形で台座のところに向かうことになった。
 後ろからは「チッ」と舌打ちが聞こえてきて、「羨ましい……」という声も聞こえた気がした。

「では、こちらです。どうぞ、お試しください」

 そして、俺が台座に触れた瞬間だった。

「「「な!?」」」

 バァン! とその台座が虹色の光を宿したと思ったら、木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 そして、部屋の中が虹色の光に包まれていて……。

 俺のスキルが、判明したのだった。


【大英雄(神)】(*****)】 
 ランク☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 最高級ランクよりも上の、神に等しいランク。

 全てのスキルを使用できる。あらゆる現象を起こすことできる。
 英雄を超えた、英雄。全てを超越し者。


「「「神……!?」」」


「…………嘘やろ!?」


 後ろで、クラスメイトの驚きの声が聞こえた。
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