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第3章

第130話 (閑話)未来から殺しに来た。

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「いたぞ、こっちだッ」

「奴を捕らえろ!」

「ッ」

 深夜の路地裏を、教会の者たちが駆けていた。
 移送中に逃げ出した人物を追うためだ。

「ゼェ、ゼェ……な、なぜワシがこんな目に……ッ」

 その捜索から逃げている男が息を切らせてそう嘆く。

 追われているのは、神父だった。
 初老の神父。

 空は暗く、月は厚い雲に隠れている。

 不気味なほどに静かな夜だ。だからこそ、その初老の神父の声がやけによく響いた。

「あいつのせいだ……ッ。奴のせいで、ワシは全てを失った……ッ」



『聖女殺し』メテオノールは死んだ。
 聖地にて、蒼龍の一撃を受けて、教会の者たちの目の前で粛清された。
 それで、『聖女殺し』メテオノールの件は、カタがついたのだった。

 その後、教会本部に移送されることとなった人物がいる。

 それが、この神父であった。

 数々の独断専行と、教会の意に反する幾多もの行い。
 その審判を行うべく、本部に移送されることになったのだ。

 良くて、幽閉
 妥当が、死刑。

 どちらにしても、自由が与えられることはない。

 もちろん、神父という立場が剥奪だ。

 故にこれまで神父だった彼だが、今はただの罪人である。
 それが嫌だったため、移送中、隙をついて逃げ出した神父は、こうして現在教会関係者から逃亡しているというわけであった。

 今も、神父を捕らえようと、教会の者たちが周囲を捜索中だ。

 追っ手はすぐそこまで迫っている。
 この神父が逃げ切れる可能性は、ほぼ皆無であった。すでにこの周囲一帯は包囲されているのだから。

 皮肉なものだった。

 今まで追う立場だったのに、追われる立場になるなんて。

「……なぜ、ワシがこんな扱いを受けなければならんッ。せめて、メテオノールはこの手で始末したかったッッ!」

 しかし、そのメテオノールはもういない。
 蒼龍の攻撃を受けて、死んでしまったのだから。

「ちくしょう……ッッ。ちくしょう……ッッ。ちっ、きしょぉ……!」

 神父は怒りを込めながら、壁を殴った。
 殴っても殴っても、怒りは収まらない。

 屈辱だ。

 奴に返り討ちにされたことも。
 奴をこの手で殺せなかったことも。

「あああ””……!! 思い出しただけでも、忌々しい……ッッ!!」

『おい! こっちから声が聞こえたぞ!』

『奴だろう。追え!』

「!」

 足音がこっちに近づいてくる。
 教会の者たちが、迫ってきていた。

 神父はしゃがみ、体を丸め、その追っ手に見つからないように小さくなった。

 情けない姿だった。


 そこに擦り寄る者が現れる。


「これはこれは、神父様。こんなところで、お似合いの格好ですね。ケケケッ」


「誰だ!」

 声が聞こえ、見てみると。
 そこにいたのは、異形の存在であった。
 巨大な目玉がぎょろぎょろと動いている、不気味な人型の存在。

 額には一本のツノ。

 魔族だ。

「穢らわしい魔族め……ッ! わしが神父と知っていながら来るとは、いい度胸だッ」

「ケケケ。いつまで自分が神父だと思っているのだ。今やお前は罪人だ。教会から除名された老害でしかない」

「なんだとッッ!」

 神父は拳を握って、わなわなと震えた。
 魔族にここまで侮辱されるなど、到底看過できなかった。

「だが、本当であろう? このままでは教会に捕えられ、処罰を受けることになる。それが貴様の未来だ」

「……くッ」

「だから、提案だ。我々魔族の力を、お主に授けようではないか」

「なにッ……?」

 魔族の魔力が高まる。

「我は上級魔族。この額の一本のツノがその証。二本あれば最上級。その上は、ない。……いや、それ以上ならば、我ら魔族の王族だ」

「な、何を言って……」

「さて……。貴様のツノは何本だろうか。楽しみだ」

 そう言って魔族は、元神父だった老人に近づいてくる。

「や、やめろ……。ワシは、外道にはならんッ」

「すでに外道であろう。ゴミクズよ」

 そうして、魔族が老人の首を絞めて、その手から魔力を一気に送り込んでいた。

「ぐ、あああああああああああああああ……!!」

「ケケケ……ッ。さあ、どうなることやら」


 * * * * * *


 その数分後。
 そこにあったのは、異形の姿になった元神父の姿だった。

 どろどろの体。
 肉が張り裂けて、目玉が膨張し、骨が溶けて、化け物のような形になっている。

「チッ。失敗だ。やはり、こいつでは足りないか。また不良品を作り上げてしまった」

 魔族が舌打ちをし、唾を吐きかける。

「シテ……、コロ……シテ……」

 神父だった男は、死を望んだ。
 苦しかった。
 息もほとんどできない。死んだ方がマシの痛みが全身を襲う。
 もう、生きていたくなかった。

 生きていること。それ自体が罰に思えた。

「しかし、聖職者の中から上手く見つけることができれば、我ら魔族の復興は揺るがない。こうなれば……やはり奴をこちらに。黒龍……!」

 野心をたぎらせた面持ちの魔族が笑う。

「シテ……、コロ……シテ……」

 そうして異形になった神父を放置して、魔族がこの場を後にしようとしていた時だった。


 パリンッと何かが砕ける音がした。


「ぐあぁ……ッ」

 魔族の腹が貫かれていた。

 そこにいたのは、フードの姿の人物。
 深夜の暗い路地裏に、どこからともなく現れていた。

 手が引き抜かれる。

 ごぼりと血を吐きながら、魔族は息途絶えた。

 瞬殺だった。

 そのフードの男は魔族の死骸をバチバチッと己の魔力で消滅させると、今度は異形になった神父の方に目を向けた。

「シテ……、コロ……シテ」

 神父は死を望んでいた。

 誰でもいい。
 今はただこの苦しみから解放されたい。

 そうして風が吹き、フードが外れ、先ほど魔族を始末した人物の顔が晒される。

「!」

 異形になった神父はその顔に驚愕した。

「き、貴様は……メ…テ…………」

 見間違いかと思った。

 なぜなら……、いやーー。

 けれど……。
 それでもよかった。

 今は誰でもいいから、この苦しみから自分を解き放って欲しかった。

「…………」

 フードの人物は何も言わない。
 何も言わず、異形の神父に向かって魔力を放ち、バチバチと弾ける魔力でそれを撃つ。

 刹那、神父の体は霧散して、黒い残滓となった。

 それを確認した彼は、この場から姿を消した。

 彼がどこから来てどこに向かったのか。
 それを知るものは、今はいないーー。



      ーー完ーー





**********************************

 これで一旦、完結になります。
 (投稿が遅れて申し訳ございませんでした…)
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 新連載を開始しました。

 優秀すぎた俺が隠居生活を決め込んだ結果。~鍛治とポーション作りを始めたら、思っていたのとは違う方向に注目を集めてしまっていたらしい~

 というタイトルのファンタジーの作品になります。
 もしよろしければこちらの方も、是非、よろしくお願いします。
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みんなの感想(7件)

まほろば
2022.04.10 まほろば

刀身が頭身に誤変換されていますよ

解除
伊予二名
2022.02.25 伊予二名

51話。君らはそれで良いかもしれないが、読者はもやっていますよ。報いは無いのですか。少なくとも食ってクソするだけの芋虫と化した神官と村長は生きたまま魔物に喰われてもバチは当たらんぜ。パクパクですわー(・ω・)

解除
おゆう
2022.02.23 おゆう

幼馴染みとくっつくハッピーエンド物かと思ったら、女を侍らせる方のやつか(笑)。

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