上 下
12 / 34

11ブックカフェ

しおりを挟む
気を取り直して目ぼしい本を数冊選んで席に戻ると、友紀くんが紙面から目を上げた。
「おかえり、いい本見つかった?」
「うん、旅行のガイドブック。気分だけでも味わいたくて」
「旅行する予定はないの?」
「行きたいんだけど、最近は一緒に行く相手が見つからなくて」
「俺と行く?」
「んー、ん? 友紀くんと私が?」
友紀くんとは一緒に旅行に行くだなんて考えたことがなくて、思わず目を大きく見開いてしまう。異性の友人との旅行ってありなんだろうか。前にフットサルチームで男女混合でスノボに行くような話を聞いたことがある。今どきは普通のことなのかもしれない。
でも今の文脈だと二人の旅行?
頭の中で討論していると、私の反応がなかったからか、友紀くんが目を泳がせる。
「待って、変なこと言ったかも。忘れて」
気まずい思いをさせてしまったみたいだ。
いやでも、二人きりだとしても私と友紀くんに限って何かあるわけないし、純粋に行く人がいないならということなら変に意識するのもおかしい。
「そんなことないよ。友紀くんはどこに行きたい?」
慌てて尋ねると、彼は少し考える様子を見せた。
「どこかな。そんなに遠くなくて、落ち着いた所がいいかな」
「温泉とかかな」
「そうだね、冬だし」
冬の温泉なんて最高だ。できればご飯が美味しい所がいい。
「そういえば、今グランピングっていうのも流行ってるみたい。キャンプの道具が全部揃ってて、気軽にできるんだって」
「へえ。初めて聞いた。ゆきさんってアウトドア平気なんだ」
「そんなに経験はないんだけど、嫌いじゃないよ」
旅行談義に花を咲かせながら買っておいたコーヒーに口をつける。具体的な旅行計画にはならなくて、ほっとしたようなせっかくの旅行機会を逃して残念なような。
話が一段落したところで、せっかくブックカフェに来たんだからとお互い読書に精を出すことにした。
友紀くんは電子がどうという鈍器になりそうな分厚さの難しげな本を、私はガイドブックを開く。
美しい風景や美術品、ゴージャスなホテルの内装、物珍しい現地の食事、そしてスーパーで買えるプチプラお土産などの写真をじっくり眺める。
時間も忘れて旅行気分に浸っているうちに、持ってきた本を全部読み終えてしまった。
本を閉じて一段落したところで、すっかり凝り固まっていた身体を椅子の上で伸ばす。
スマートフォンを確認すると、もう一時間弱は経っている。
読み終えた本を返して新しい物を探してくるつもりで隣の友紀くんに声をかけようとするけれど、真剣な様子で紙面を追っていたから躊躇する。
(集中しているみたいだし、声かけない方がいいかな)
そう判断して、静かに席を立った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】フォルテナよ幸せに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:1,627

破談前提、身代わり花嫁は堅物御曹司の猛愛に蕩かされる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:23

【完結】夫とは閨を共にいたしません!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:877

お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:32

勃たない低級魔導士のジョブチェンジ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:245

処理中です...