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十三歳、淡い初恋、片想い
エマとルークとテオ
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「ルーク、お前ももらえば?」
とっさにルークを見つめると、空中に浮かせたスプーンをこちらに軽く差し出された。
「交換する?」
「……う、うん」
少しだけ逡巡して、エマは小さく頷く。
「口、開けて」
食べさせてくれるつもりらしいルークに内心はひどく動揺しながらも、言われるままにうっすらと唇を開く。
「それじゃ入らない。もっと」
指示通りに隙間を広げると、そっとスプーンが差し込まれた。
味がわからない。閉ざした唇の間から冷たいスプーンが抜け出ていく感覚だけがやけに生々しく残される。少し遅れて、香り高いラムの風味が鼻に抜けていった。
「大人な味だね……?」
口角を引き上げてなんとかひねり出した感想を口にすると、ルークの眉が片側だけ上がる。
「あ、私のもあげるね」
いそいそとスプーンにバニラアイスを盛り付け、さてどうやって受け渡すべきかと考えながらルークに目を向けたところ、すでに口を開けて待っているのがわかった。
震えそうな指先に力を入れてゆっくりと腕を伸ばしていくと、迎えるようにルークの体が前のめりに近づいてくる。
視線の先で薄い瞼が伏せられて、銀灰色が隠された。瞼の際、目頭から目尻にかけて徐々に長くなり淡い光を透かしているまつ毛に陽の光が淡く透けている。
肘から先ほどしか離れていないこの距離顔を向かい合わせるのはどのくらいぶりだろう。エマがルークの顔をまっすぐ見つめられるのは、こちらを見ていないとわかっている時だけだ。
「ごちそうさま」
「うん……」
エマの視線に気づかないまま、ルークは体を引いて元の位置に戻る。
スプーンを器に残ったバニラアイスに差し込むと、抵抗もなく沈み込んで底にぶつかった。カツンと音が響き、焦りながら手を浮かせた。上品な店でがさつな音を立ててしまったことが恥ずかしい。
スプーンの上で溶けかけた白が揺れている。雫が落ちないよう器の上に固定したまま口を寄せていき、ぱくりと先端を咥えた時、テオが声を上げた。
「関節キスだな」
笑い交じりに告げられた言葉の意味を理解して、エマは頬を火照らせる。
「え……は!?」
考えないようにしていたことをつまびらかにされて、思わず声高になる。
ルークが口をつけた後のスプーンをそのまま使う。意識すると変な態度を取ってしまいそうだったからあえて感情を動かさないようにしていたのに、どうしてわざわざ指摘するのか。
乱された感情を隠そうとして、エマはテオを睨みつけた。
「それを言うならテオだってしたでしょ。ばかみたいなこと言わないでよ」
語気を強めて言い放つも、テオはにやにや笑いをやめない。
「ちょっとからかっただけでそんな顔真っ赤にするんだからお前って可愛いよな」
この場合の可愛いが褒め言葉じゃないということはよくわかっている。
単純だとかお子様だとか、テオはそういうことが言いたいんだろう。
「馬鹿にしないでよ」
「馬鹿にしてるわけじゃねえけど」
ならその人の悪い笑顔はなんなのか。不平等な交換も受け入れてやったのに、とんだ恩知らずだ。
エマは強くスプーンを握りしめた。
「ルーク、エマに勘違いだって言ってやって」
ルークの名前が出た瞬間、エマの心臓がきゅっとすくむ。頬がじんわりと熱い。
受け流せば済むテオの軽口への過剰反応を子どもっぽいと思われるだけならまだいい。万が一にも秘めた想いを悟られてしまったらと思うと気が気でなかった。
ちょうどカップの縁に唇をつける寸前だったルークは突然水を向けられたことに困ったように眉を下げる。
「テオ、あまりいじめるなよ。で、エマもそうやって反応するからテオが調子に乗るんだ」
どちらの味方をするでもなくさらりとかわすルークの発言はテオとエマのやり取りを単なる親しい幼なじみ同士の戯れだと受け取ったことを示している。
エマはほっとしながらも少しだけ残念に感じていた。
異性として認識されていないから、ルークは動じない。こちらときたら必死で平静を装いながら、テオにひと口要求された時からルークにも同じようにするかもしれないと考えてそわそわしていたというのに。
想いを告げるどころか好意を匂わすような言動さえもできていないのに、脈がないと再確認すれば落ち込んでしまう。
「まあ、エマのことからかいたくなる気持ちもわかる。すぐ顔に出るし。そこが可愛いって言うならそうなんじゃないか」
カップを浮かせたまま反対の肘をテーブルについて穏やかな目線を寄越しながら言葉の爆弾を投下され、エマは胸を押さえる。
勘違いしてはいけない。ルークの可愛いに他意はなく、からかった反応がおもしろいというだけのことだ。
彼がそう言うということはこの想いはまだ伝わっていない。片思いも両の指で数えるようになった今、エマもそろそろ焦りを感じていた。
「だろ? やっぱりお前が悪い」
テオの手にくしゃくしゃと髪をかき回され、首がぐらぐらと揺れた。もう、と口先で文句をつけながら、エマはされるがままになる。
最後にヘアバンドの位置を直されたかと思うとテオが立ち上がる。
「じゃあ俺、先行くわ」
テオは制服のポケットから取り出したくしゃくしゃの札をテーブルに置くと、そのまま店の出入り口に向かって歩いていってしまった。
とっさにルークを見つめると、空中に浮かせたスプーンをこちらに軽く差し出された。
「交換する?」
「……う、うん」
少しだけ逡巡して、エマは小さく頷く。
「口、開けて」
食べさせてくれるつもりらしいルークに内心はひどく動揺しながらも、言われるままにうっすらと唇を開く。
「それじゃ入らない。もっと」
指示通りに隙間を広げると、そっとスプーンが差し込まれた。
味がわからない。閉ざした唇の間から冷たいスプーンが抜け出ていく感覚だけがやけに生々しく残される。少し遅れて、香り高いラムの風味が鼻に抜けていった。
「大人な味だね……?」
口角を引き上げてなんとかひねり出した感想を口にすると、ルークの眉が片側だけ上がる。
「あ、私のもあげるね」
いそいそとスプーンにバニラアイスを盛り付け、さてどうやって受け渡すべきかと考えながらルークに目を向けたところ、すでに口を開けて待っているのがわかった。
震えそうな指先に力を入れてゆっくりと腕を伸ばしていくと、迎えるようにルークの体が前のめりに近づいてくる。
視線の先で薄い瞼が伏せられて、銀灰色が隠された。瞼の際、目頭から目尻にかけて徐々に長くなり淡い光を透かしているまつ毛に陽の光が淡く透けている。
肘から先ほどしか離れていないこの距離顔を向かい合わせるのはどのくらいぶりだろう。エマがルークの顔をまっすぐ見つめられるのは、こちらを見ていないとわかっている時だけだ。
「ごちそうさま」
「うん……」
エマの視線に気づかないまま、ルークは体を引いて元の位置に戻る。
スプーンを器に残ったバニラアイスに差し込むと、抵抗もなく沈み込んで底にぶつかった。カツンと音が響き、焦りながら手を浮かせた。上品な店でがさつな音を立ててしまったことが恥ずかしい。
スプーンの上で溶けかけた白が揺れている。雫が落ちないよう器の上に固定したまま口を寄せていき、ぱくりと先端を咥えた時、テオが声を上げた。
「関節キスだな」
笑い交じりに告げられた言葉の意味を理解して、エマは頬を火照らせる。
「え……は!?」
考えないようにしていたことをつまびらかにされて、思わず声高になる。
ルークが口をつけた後のスプーンをそのまま使う。意識すると変な態度を取ってしまいそうだったからあえて感情を動かさないようにしていたのに、どうしてわざわざ指摘するのか。
乱された感情を隠そうとして、エマはテオを睨みつけた。
「それを言うならテオだってしたでしょ。ばかみたいなこと言わないでよ」
語気を強めて言い放つも、テオはにやにや笑いをやめない。
「ちょっとからかっただけでそんな顔真っ赤にするんだからお前って可愛いよな」
この場合の可愛いが褒め言葉じゃないということはよくわかっている。
単純だとかお子様だとか、テオはそういうことが言いたいんだろう。
「馬鹿にしないでよ」
「馬鹿にしてるわけじゃねえけど」
ならその人の悪い笑顔はなんなのか。不平等な交換も受け入れてやったのに、とんだ恩知らずだ。
エマは強くスプーンを握りしめた。
「ルーク、エマに勘違いだって言ってやって」
ルークの名前が出た瞬間、エマの心臓がきゅっとすくむ。頬がじんわりと熱い。
受け流せば済むテオの軽口への過剰反応を子どもっぽいと思われるだけならまだいい。万が一にも秘めた想いを悟られてしまったらと思うと気が気でなかった。
ちょうどカップの縁に唇をつける寸前だったルークは突然水を向けられたことに困ったように眉を下げる。
「テオ、あまりいじめるなよ。で、エマもそうやって反応するからテオが調子に乗るんだ」
どちらの味方をするでもなくさらりとかわすルークの発言はテオとエマのやり取りを単なる親しい幼なじみ同士の戯れだと受け取ったことを示している。
エマはほっとしながらも少しだけ残念に感じていた。
異性として認識されていないから、ルークは動じない。こちらときたら必死で平静を装いながら、テオにひと口要求された時からルークにも同じようにするかもしれないと考えてそわそわしていたというのに。
想いを告げるどころか好意を匂わすような言動さえもできていないのに、脈がないと再確認すれば落ち込んでしまう。
「まあ、エマのことからかいたくなる気持ちもわかる。すぐ顔に出るし。そこが可愛いって言うならそうなんじゃないか」
カップを浮かせたまま反対の肘をテーブルについて穏やかな目線を寄越しながら言葉の爆弾を投下され、エマは胸を押さえる。
勘違いしてはいけない。ルークの可愛いに他意はなく、からかった反応がおもしろいというだけのことだ。
彼がそう言うということはこの想いはまだ伝わっていない。片思いも両の指で数えるようになった今、エマもそろそろ焦りを感じていた。
「だろ? やっぱりお前が悪い」
テオの手にくしゃくしゃと髪をかき回され、首がぐらぐらと揺れた。もう、と口先で文句をつけながら、エマはされるがままになる。
最後にヘアバンドの位置を直されたかと思うとテオが立ち上がる。
「じゃあ俺、先行くわ」
テオは制服のポケットから取り出したくしゃくしゃの札をテーブルに置くと、そのまま店の出入り口に向かって歩いていってしまった。
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