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後日譚:好きの理由2
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合コンの誘い。日時と店のURLを記載した上で、不特定多数に宛てたわけでない個別のメッセージ。それは二人の関係に一石を投じた。
届いた時に衝撃のあまり思わず立ち上がったことを覚えている。残業中だったため、隣の席の上司が目を丸くしていた。
冷静でないことを自覚して、すぐさまスマホを片手に階下のコンビニに向かった。いつものルーティンで購入したホットコーヒーが、やたらと苦く感じたのを覚えている。
出会ってから彼氏がいる様子もなかったし、いわゆる恋バナらしきものを彼女の口から聞いたことがなかったから、完全に油断していた。
合コンに出るということは、恋人を探しているということだ。その相手に自分以外が立候補する可能性に思い当たり、焦燥感が胸に広がる。
自分自身が参加して恋の芽をつぶすことができれば最上だが、間の悪いことに指定された日は就業一時間前にプロジェクトの中間報告会議が入っていた。
今までの経験上、時間通りには終わらないはずだ。何なら会議後の慰労会までがセットになっている。
プロジェクトリーダーとして欠席するわけにはいかない。
『仕事をないがしろにするな。仕事ができてこそ男だ』というのが、普段寡黙な父からの唯一の教えだった。
ひとまず断りのメッセージを入れて、その先のことを考える。慰労会は不参加でも構わない。会議が終わってから駆けつければ、ぎりぎり間に合う可能性がある。
確実ではないから自分の中だけにとどめておく。
そしてXデー。質疑応答まで確実に済ませ、会議室を出ると手早く荷物をまとめる。と、背中越しに声がかけられた。
「先輩慰労会欠席なんですか」
OJTで面倒を見ている新入社員だった。プロジェクトのメンバーではないが、勉強のためにと会議に出席していた。
「うん。今日はちょっと、外せない用事があって」
「残念です」
しゅんと肩を下げるので、出ようとしていた足を止める。
「何か悩んでる? 聞こうか?」
もしそう早めに聞いておいた方がいい。予定を考え直していると、後輩が慌てたように両手を振った。
「いや、そういうんじゃないです! 神谷先輩と話したかっただけで……すみません、用事あるのに」
「それならいいけど、何かあった時は遠慮しないでいつでも言って」
「はい。ありがとうございます」
「ごめんな、今度ちゃんと時間作るから」
今度こそ職場を後にする。少し時間を取られたけれど、誤差の範囲で焦るほどの時間ではない。
エレベーターを待つ間、スマホを操作してメッセージを打ち込む。
__今日、恵比寿だっけ?
急な変更があって見当違いな場所に行っては困る。
返信があるか、そもそもメッセージに気づくかどうかもあやしいものだ。もし向こうが盛り上がっていたら、スマホを見ることもないだろうから。
エレベーターに乗り込んで階下へ向かう間もスマホを握ったままだ。エレベーターのドアが開くと同時にスマホが震えた。
通知欄に出た名前をひと目見て、少し肩の力が抜ける。
送られてきたメッセージを確認すると、自然と口元が緩んだ。
帰りたい、ということはどうやら彼女は飲み会を楽しめていないらしい。
――それならまだチャンスはある。
もう後回しにはしない。全力で落としにかかると心に決め、恵比寿へ向かった。
届いた時に衝撃のあまり思わず立ち上がったことを覚えている。残業中だったため、隣の席の上司が目を丸くしていた。
冷静でないことを自覚して、すぐさまスマホを片手に階下のコンビニに向かった。いつものルーティンで購入したホットコーヒーが、やたらと苦く感じたのを覚えている。
出会ってから彼氏がいる様子もなかったし、いわゆる恋バナらしきものを彼女の口から聞いたことがなかったから、完全に油断していた。
合コンに出るということは、恋人を探しているということだ。その相手に自分以外が立候補する可能性に思い当たり、焦燥感が胸に広がる。
自分自身が参加して恋の芽をつぶすことができれば最上だが、間の悪いことに指定された日は就業一時間前にプロジェクトの中間報告会議が入っていた。
今までの経験上、時間通りには終わらないはずだ。何なら会議後の慰労会までがセットになっている。
プロジェクトリーダーとして欠席するわけにはいかない。
『仕事をないがしろにするな。仕事ができてこそ男だ』というのが、普段寡黙な父からの唯一の教えだった。
ひとまず断りのメッセージを入れて、その先のことを考える。慰労会は不参加でも構わない。会議が終わってから駆けつければ、ぎりぎり間に合う可能性がある。
確実ではないから自分の中だけにとどめておく。
そしてXデー。質疑応答まで確実に済ませ、会議室を出ると手早く荷物をまとめる。と、背中越しに声がかけられた。
「先輩慰労会欠席なんですか」
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「うん。今日はちょっと、外せない用事があって」
「残念です」
しゅんと肩を下げるので、出ようとしていた足を止める。
「何か悩んでる? 聞こうか?」
もしそう早めに聞いておいた方がいい。予定を考え直していると、後輩が慌てたように両手を振った。
「いや、そういうんじゃないです! 神谷先輩と話したかっただけで……すみません、用事あるのに」
「それならいいけど、何かあった時は遠慮しないでいつでも言って」
「はい。ありがとうございます」
「ごめんな、今度ちゃんと時間作るから」
今度こそ職場を後にする。少し時間を取られたけれど、誤差の範囲で焦るほどの時間ではない。
エレベーターを待つ間、スマホを操作してメッセージを打ち込む。
__今日、恵比寿だっけ?
急な変更があって見当違いな場所に行っては困る。
返信があるか、そもそもメッセージに気づくかどうかもあやしいものだ。もし向こうが盛り上がっていたら、スマホを見ることもないだろうから。
エレベーターに乗り込んで階下へ向かう間もスマホを握ったままだ。エレベーターのドアが開くと同時にスマホが震えた。
通知欄に出た名前をひと目見て、少し肩の力が抜ける。
送られてきたメッセージを確認すると、自然と口元が緩んだ。
帰りたい、ということはどうやら彼女は飲み会を楽しめていないらしい。
――それならまだチャンスはある。
もう後回しにはしない。全力で落としにかかると心に決め、恵比寿へ向かった。
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