ハズレ合コン救世主〜理系男子の溺愛は不言実行

乃木ハルノ

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その朝

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――どこにいるんだろう。
意識が浮上してまだぼんやりした頭で考えたのは、そんなことだった。天井の見慣れない照明を見上げて、まばたき三回で記憶が戻った。
はっとして起き上がり、すぐに服を身に着けていないことに気づく。慌てて布団の中へ戻ると、昨晩起こったあれこれの断片が頭の中に浮かんでは消え、ドッと鼓動が騒ぎ出す。
彼は今、部屋にいない。いなくてよかった。心を整理する時間がある。
ベッドの中から手を伸ばして、床の上で一箇所にまとめられた服の山をつかむ。一番下に埋もれていた下着を手探りで履いて、次はTシャツ。そこまで着ると、ようやくベッドの上に起き上がった。
その他のものも身につけて、そろっと足を床につける。その状態で手ぐしで髪をとかした後、立ち上がってリビングへ向かった。
「おはよ」
扉を開けると、キッチンカウンターの向こうにいた友紀が声をかけてくれた。
「おはよう……」
寝起きそのままの顔を見られるのもさることながら、昨晩のことが思い起こされて、目を合わせていられない。
「洗面所借りるね」
顔をうつむけながら逃げるようにリビングを離れ、洗面所に足を向ける。
顔を洗って歯を磨いて、パウダーと色つきリップで薄化粧を終える。鏡に向かって最終チェックをしてから、またリビングへ。
ちょうどコーヒーマシーンが稼働していて、蒸気の上がる音とともに香ばしい香りが流れてきた。
「ゆきさん、こっち」
カウンターの前にいた彼に手招かれ、近づいていく。
向かい合って立つと、両手を広げられた。ハグの催促だと気づき、もう一歩前へ出る。長い腕が背中に回り、強く抱き寄せられた。
彼はどうやらスキンシップが好きなようだ。他人事みたいにそう思って、身体を預ける。健全な触れ合いなのに、妙に胸が騒ぐ。
「よかった、ちゃんといる」
噛みしめるような彼の言葉に、顔を上げる。
「いるよ」
「うん」
肩口に顔をうずめられて、なんだかかわいいなんて思ってしまう。横を向くと、まだセットしていないらしい跳ねた毛先が目に入った。それを手のひらで撫でつける。
すると彼が顔を上げて、同時に顎先をすくい取られた。
「んっ……」
油断しきったところに見舞われた口づけを心地よく受け入れてしまっている自分に気づき、お腹のあたりがくすぐったくなった。ただのハグも触れるだけのキスも今はまだ慣れないけれど、いつかこれが当たり前になるのだろうか。そうなるといい。
彼と迎えた朝がこんなにも愛おしくて、優樹は口元がゆるむのを抑えられなかった。笑みの形作られた唇に本日二度めのキスが落とされる。

#おしまい

以降は後日譚・エピローグを更新します。
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