ハズレ合コン救世主〜理系男子の溺愛は不言実行

乃木ハルノ

文字の大きさ
上 下
11 / 30

クリスマスイブよりも前に・その1

しおりを挟む
日本大通り駅で電車から降りると、優樹は小走りに階段を上がっていった。
改札を出ると、辺りを見回す。人待ちをしている様子の数名の中、頭半分ほど高い彼の姿を見とめて小走りで近寄っていく。
「ゴメン、お待たせ!」
ぺこりと頭を下げると、彼は緩やかに口角を持ち上げた。
「時間通りだよ」
「でもユウキくん、もっと早かったでしょ」
約束の時間まではまだ数分あるのだけれど、どのくらい前に来ていたのだろう。
聞いてもきっと、教えてくれない気がする。
行こうか、という言葉に従って、そのまま出口に向かって歩き始める。地上に出るエスカレーターに乗る時、彼がスッと一歩下がって優樹に前を譲ってくれた。
(そういえば……今日は手、つながないんだ)
 エスカレーターの手すりにつかまりながら、優樹は考える。
合コン帰りのあの夜は驚くべき積極さで翻弄してきたのに。少し物足りなさを感じてしまう。あれはなにかの間違いだったのかもしれない。
(勝手に期待して勝手に落ち込んで、そんなの自分勝手だよね)
せっかく彼と一緒にいるのだから、余計なことは考えずに楽しもう。そう決めて前を向いた時、背後の彼が声をかけてくる。
「お腹減ってる?」
「そこそこ。一応お昼は早めに食べてきたんだ」
行き先は有名なパンケーキカフェだ。この地にできてから久しいが、優樹はまだ行ったことがない。
雑誌やSNSで定期的に見かけてずっと気になっていた場所だけれど、行く機会がなかった。
「店までちょっと歩くから、その間にお腹減ってくるといいな」
彼は地図も見ずに優樹を誘導してくれた。海風に吹かれながら十分ほど歩くと、じきに赤レンガ倉庫が見えてくる。イベントでスケートリンクが特設されていたが、人はまばらだった。
倉庫を横目に奥に進むと、開放的なガラス張りのデッキテラスが目に入る。
「ここかあ……」
店構えをまじまじと見つめていると、そっと背中を押された。
「寒いから、中に入ろ」
「そうだね、予約の時間もあるんだった」
一旦倉庫の中に入り、カフェの入り口まで回る。
店内は白を基調とした明るくナチュラルな雰囲気で、客のほとんどが女性同士かカップルだ。それも女性たちはみな服装やメイクが小綺麗で、かわいい子が多いという印象を受ける。
(キラキラした場所にはキラキラした女子が集まるんだなあ)
優樹がそんな感想を抱いているうちに、彼は店員に予約の旨を伝えていた。案内されたのは、窓際のソファ席だった。当然のように奥のソファを優樹に譲り、彼は向かいのチェアに腰掛ける。
席につくとメニューが渡される。文字だけのそれを、優樹は上から順になぞっていく。
「え、っと……?」
てっきりメインはパンケーキだと思っていたのに、プレートやサラダばかりが続き、困惑してしまう。見かねた彼が、パンケーキならここだと指先で示してくれた。
「ありがとう。ユウキくんもパンケーキ?」
「いや、俺は昼も兼ねてるからカレーかな」
オーダー後、落ち着いたところで優樹は正面に座る彼にちらりと視線を走らせた。この間会った時はスーツだったけれど、今日は淡いブルーのボタンダウンシャツに薄手のセーターを合わせている。
(そういえば、ユウキくんっていつも襟のある服着てる気がする)
Tシャツとかニットとかもっと楽な服があると思うのに、なにかこだわりでもあるのだろうか。優樹がそう尋ねると、彼はああ、と頭に手を当てた。
「別にない。けど、前に学生と間違われたことあって」
「あらー」
童顔とは違うけれど、スレたところのない雰囲気がそう思わせるのかもしれない。どこか納得して、優樹はふふっと笑い声をたてた。
「最近じゃないから。会社入って二、三年目くらいの時」
憮然とした表情で彼が言う。
「ゴメン、バカにしてるわけじゃなくて」
「わかってるけど、複雑」
「若く見られるのは嬉しくないんだ?」
女子的には若見えするのは喜ばしいことだから、その感覚がわからない。
「嬉しくない。未熟だって言われてるみたいで」
「そんなことないと思うけど」
「それでも、男としては頼りがいがあると思われたい」
まっすぐに向けられた視線に絡め取られそうだ。なにげない会話をしていたはずなのに、心の底まで見通されるようなまなざしに体温が上がりそうだった。
彼への気持ちを自覚しつつある優樹にとって、こういった思わせぶりな発言は心臓に悪い。一般論ではなく、自分自身に対して頼ってほしいと言われているような気がしてしまう。
まだデートは始まったばかりだというのに、優樹はすっかり浮ついていた。
友人たちから会って気持ちを見極めろ、なんて焚き付けられたが、自分の気持ちに関してはもう疑いようがない。これまで散々勘違いだと自分を押しとどめてきたのに、自覚してからは抑えようもないくらい彼に惹かれている。
(恋なんて、男なんてって思ってたのに)
過去の不幸な恋愛の相手と比較するのも申し訳ないくらい、彼はいい人だ。男としてというだけでなく、人間的に好ましい。こうして一緒にいられるだけで、胸の奥にじわりと幸福感があふれてくる。
優樹はパンケーキをフォークの先でつつきながら、カレーをスプーンに山盛りにした彼の顔を盗み見た。彼は伏目のまま口を開けて、大きめなスプーンをぱくりとくわえる。もぐもぐと咀嚼する様子がかわいらしい。
 じきに嚥下して、すぐに次のひと匙。食べっぷりのよさが気持ちいい。
(昔、いっぱい食べる君が好き、なんてCMがあったなあ)
そんなことを考えていると、食事に集中していたはずの彼が急に視線を上げた。
「ん?」
「あ、えっと……」
彼の視線がなに? と問っていて、焦ってしまう。
「えっと、おいしそうに食べるなあって思って。ゴメン、見られてたら食べにくいよね」
どうにか差し支えのない部分だけを伝える。実際、半分は彼の顔に見とれていたのだけれど、そこは悟られてはいけない。
「食べかけだけど、いる?」
じっと見つめていた理由を、彼は食べたいからだと解釈したらしい。安堵しながら、この前も同じようなことがあったな、と思い出す。合コンの後立ち寄ったラウンジで、確かあの時はカツサンドを食べていたはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アラサーですが、子爵令嬢として異世界で婚活はじめます

敷島 梓乃
恋愛
一生、独りで働いて死ぬ覚悟だったのに ……今の私は、子爵令嬢!? 仕事一筋・恋愛経験値ゼロの アラサーキャリアウーマン美鈴(みれい)。 出張中に起きたある事故の後、目覚めたのは 近代ヨーロッパに酷似した美しい都パリスイの子爵邸だった。 子爵家の夫妻に養女として迎えられ、貴族令嬢として優雅に生活…… しているだけでいいはずもなく、婚活のため大貴族が主催する舞踏会に 参加することになってしまう! 舞踏会のエスコート役は、長身に艶やかな黒髪 ヘーゼルグリーン瞳をもつ、自信家で美鈴への好意を隠そうともしないリオネル。 ワイルドで飄々としたリオネルとどこか儚げでクールな貴公子フェリクス。 二人の青年貴族との出会い そして異世界での婚活のゆくえは……? 恋愛経験値0からはじめる異世界恋物語です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...