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11月XX日、金曜19:57
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(とりあえず、今できることをしなきゃ)
場の会話が一段落した頃合いでシュッと手のひらを掲げる。
「そろそろラストオーダーの時間なんだけど、頼みたい人は言ってね。それと、連絡先交換しなくて平気?」
優樹の発言をきっかけに、みないそいそとスマホを手に取る。ひとまず最低限の役割は果たした。この流れで各自お好きなようにやってくれればありがたい。
コードリーダーを駆使して次々に連絡先を交換していく彼らを前に、優樹自身のスマホはテーブルの上に置いたままだ。
幹事というのは合コンの一番の功労者であるはずなのに、なぜだかこうして対象外の扱いを受けてしまうことが多いのだ。
(いいんだ。男性陣ともろくに話せてないしね)
全員に話を振って、注文を取り、空いたグラスや皿を片付けやすいように入り口近くにまとめ、その合間に自分の食事を進め、さらには密かに場のメンバーから送られるメッセージをさばく。実に忙しい。そのせいで食べた気はしないし、新たに出会った相手の名前もおぼろげだ。
要領が悪い自分が悪い。そう結論づけて、手元のグラスを一口あおった。
(わ、水っぽい……)
時間を置きすぎてぼやけた味のするカクテルに苦笑する。と、その時置きっぱなしになっていたスマホが急に震えだした。慌てて手に取る。
(誰……って、ユウキくん!? なんで?)
つい三十分前にメッセージが途切れてから音信不通だったのに、どうしたんだろう。
優樹の予定は知っているはずだから、連絡があるにしてもメッセージなら理解できる。わざわざ電話をかけてきたことが不思議だったが、緊急の用事かもしれないと思いあたり、戸口に身体を向けて通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『よかった、繋がった』
小声で応答すると、低い声が耳をくすぐった。
「ユウキくん? どうしたの?」
『お店、恵比寿のどこ』
「え、お店って?」
移動中なのか、電話の向こうで雑踏の音が聴こえる。
「俺、恵比寿駅にいるから」
「ええっ……!」
もしやと思った予想が的中し、驚きで一瞬言葉をなくす。
(なんで? 残業は?)
疑問符を頭に浮かべながらも、優樹は最適と思われる答えとして店名と予約名を手短かに告げた。
「ありがと」
それを最後に通話は途切れた。スマホを手に持ったまま呆然としていると、背中を叩かれる。
「ゆーきちゃん、どうしたの?」
「あ、ううん。飛び入り参加の連絡」
「えー今から?」
「どういう人!?」
「知り合いの男の子で__」
簡単に彼と出会った経緯と職業について伝える。と言っても、優樹が知っているのは職場がお台場のあたりであることと、理系の会社でエンジニアをしているということくらいだった。
(改めて振り返ると、私ユウキくんのことほとんど知らないな)
何度かフットサルサークルで一緒になって、その後は二人で数ヶ月に一度会っている。軽くランチとかお茶するくらいの気軽な仲になってから1年以上。
それなのにいざ説明しようとすると、難しい。
そんなにしゃべる方ではないけれど落ち着きがあって、気遣いができる人。優樹にとってのユウキくんとは、概ねそんな相手だった。そうこうしているうちに、個室の扉が開いて本人が登場する。
「ユウキくん?」
「……うん」
「いらっしゃい!」
「とりあえずそこ座れば。お誕生席~」
「どうも」
優樹の頭越しに会話が交わされた後、角を挟んだ左側に彼が滑り込んでくる。
「マスク……」
顔の半分をマスクで覆っていることに気づいて指摘すると、眠たげな目が二度まばたいた。
「風邪とかじゃないよ。これは予防と乾燥対策」
「そっか、喉弱いんだっけ」
「ん」
話しながら、コートをかけるためのハンガーを手渡すと、次いで反対側からテーブルをまたいでメニューを差し出される。
「ねえ、何飲む? これ、メニューね」
彼の動きが一瞬止まったのに気づき、優樹はハンガーを一旦引っ込めた。
「今からだと、単品で頼んだほうがいいだろうね」
「じゃあついでにラストオーダーの注文もしようか」
周囲の働きかけで、話が進んでいく。オーダー内容が決まると、『ユウキくん』が店員を呼び止めて、全員分の注文を通してくれた。その後ようやく脱いだコートを室内のコート掛けに収める。
ほどなくして人数分のグラスが届き、最後の乾杯が行われた。
「ようこそユウキくん! 飛び入り参加に乾杯!」
飲み会の終盤は間延びしがちなものだが、彼の登場がいいカンフル剤になったようで、場は盛り上がっている。
彼を中心に会話が盛り上がっているようなので、優樹はやることがなくなってひと息つくことができた。
手元のアイスティーをすすりながら、ちらりと横目で彼をうかがう。すると、ちょうど目が合ってしまった。目をそらすのもおかしいと思い、優樹は視線を合わせたままへらりと笑いかけてみた。
彼の方からは、どういう感情か判別のつかないまなざしがじっとそそがれている。すでにマスクは顎まで下ろされていた。
(本当は来てくれてありがとう! って拝みたいくらいだけど……)
今彼は、他のメンバーから質問攻めにされているところで、優樹が話しかけるような隙はなさそうだった。
彼が来てくれたことで、ついさっきまで沈んでいた気持ちがウソのように楽になっている。参加者たちが自主的に行動し始めて、優樹の仕事が減ったというのも大きい。
場の空気を変えてくれた彼に、感謝しきりだ。この埋め合わせは必ず、と心に決める。しかし疑問なのは、彼が来てくれた理由だった。
残業もあったようだしこの飲み会も終盤なのに、わざわざ駆けつけてくれたということは、きっと何か理由があるはずなのだ。
(やっぱり出会い的なもの?)
自分が婚活中だからというのもあるが、合コンに参加する理由として一番ありえる理由だろう。それならちゃんと叶えてあげなくては。
そう決めた時、ちょうど二次会についての話題が上がった。
「ユウキくん来たばかりだし、二次会した方がいいよね、ゆきちゃん!?」
呼び寄せた手前、ちゃんと彼が楽しめるようにしなくては。優樹は二次会の会場を物色するためスマホに手を伸ばしながら、色よい返事をしかける。けれど言葉をつむぐ前に、横から発言権を奪われてしまった。
「ううん、いかない。ゆきさんは俺と帰る」
「ん!?」
場の会話が一段落した頃合いでシュッと手のひらを掲げる。
「そろそろラストオーダーの時間なんだけど、頼みたい人は言ってね。それと、連絡先交換しなくて平気?」
優樹の発言をきっかけに、みないそいそとスマホを手に取る。ひとまず最低限の役割は果たした。この流れで各自お好きなようにやってくれればありがたい。
コードリーダーを駆使して次々に連絡先を交換していく彼らを前に、優樹自身のスマホはテーブルの上に置いたままだ。
幹事というのは合コンの一番の功労者であるはずなのに、なぜだかこうして対象外の扱いを受けてしまうことが多いのだ。
(いいんだ。男性陣ともろくに話せてないしね)
全員に話を振って、注文を取り、空いたグラスや皿を片付けやすいように入り口近くにまとめ、その合間に自分の食事を進め、さらには密かに場のメンバーから送られるメッセージをさばく。実に忙しい。そのせいで食べた気はしないし、新たに出会った相手の名前もおぼろげだ。
要領が悪い自分が悪い。そう結論づけて、手元のグラスを一口あおった。
(わ、水っぽい……)
時間を置きすぎてぼやけた味のするカクテルに苦笑する。と、その時置きっぱなしになっていたスマホが急に震えだした。慌てて手に取る。
(誰……って、ユウキくん!? なんで?)
つい三十分前にメッセージが途切れてから音信不通だったのに、どうしたんだろう。
優樹の予定は知っているはずだから、連絡があるにしてもメッセージなら理解できる。わざわざ電話をかけてきたことが不思議だったが、緊急の用事かもしれないと思いあたり、戸口に身体を向けて通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『よかった、繋がった』
小声で応答すると、低い声が耳をくすぐった。
「ユウキくん? どうしたの?」
『お店、恵比寿のどこ』
「え、お店って?」
移動中なのか、電話の向こうで雑踏の音が聴こえる。
「俺、恵比寿駅にいるから」
「ええっ……!」
もしやと思った予想が的中し、驚きで一瞬言葉をなくす。
(なんで? 残業は?)
疑問符を頭に浮かべながらも、優樹は最適と思われる答えとして店名と予約名を手短かに告げた。
「ありがと」
それを最後に通話は途切れた。スマホを手に持ったまま呆然としていると、背中を叩かれる。
「ゆーきちゃん、どうしたの?」
「あ、ううん。飛び入り参加の連絡」
「えー今から?」
「どういう人!?」
「知り合いの男の子で__」
簡単に彼と出会った経緯と職業について伝える。と言っても、優樹が知っているのは職場がお台場のあたりであることと、理系の会社でエンジニアをしているということくらいだった。
(改めて振り返ると、私ユウキくんのことほとんど知らないな)
何度かフットサルサークルで一緒になって、その後は二人で数ヶ月に一度会っている。軽くランチとかお茶するくらいの気軽な仲になってから1年以上。
それなのにいざ説明しようとすると、難しい。
そんなにしゃべる方ではないけれど落ち着きがあって、気遣いができる人。優樹にとってのユウキくんとは、概ねそんな相手だった。そうこうしているうちに、個室の扉が開いて本人が登場する。
「ユウキくん?」
「……うん」
「いらっしゃい!」
「とりあえずそこ座れば。お誕生席~」
「どうも」
優樹の頭越しに会話が交わされた後、角を挟んだ左側に彼が滑り込んでくる。
「マスク……」
顔の半分をマスクで覆っていることに気づいて指摘すると、眠たげな目が二度まばたいた。
「風邪とかじゃないよ。これは予防と乾燥対策」
「そっか、喉弱いんだっけ」
「ん」
話しながら、コートをかけるためのハンガーを手渡すと、次いで反対側からテーブルをまたいでメニューを差し出される。
「ねえ、何飲む? これ、メニューね」
彼の動きが一瞬止まったのに気づき、優樹はハンガーを一旦引っ込めた。
「今からだと、単品で頼んだほうがいいだろうね」
「じゃあついでにラストオーダーの注文もしようか」
周囲の働きかけで、話が進んでいく。オーダー内容が決まると、『ユウキくん』が店員を呼び止めて、全員分の注文を通してくれた。その後ようやく脱いだコートを室内のコート掛けに収める。
ほどなくして人数分のグラスが届き、最後の乾杯が行われた。
「ようこそユウキくん! 飛び入り参加に乾杯!」
飲み会の終盤は間延びしがちなものだが、彼の登場がいいカンフル剤になったようで、場は盛り上がっている。
彼を中心に会話が盛り上がっているようなので、優樹はやることがなくなってひと息つくことができた。
手元のアイスティーをすすりながら、ちらりと横目で彼をうかがう。すると、ちょうど目が合ってしまった。目をそらすのもおかしいと思い、優樹は視線を合わせたままへらりと笑いかけてみた。
彼の方からは、どういう感情か判別のつかないまなざしがじっとそそがれている。すでにマスクは顎まで下ろされていた。
(本当は来てくれてありがとう! って拝みたいくらいだけど……)
今彼は、他のメンバーから質問攻めにされているところで、優樹が話しかけるような隙はなさそうだった。
彼が来てくれたことで、ついさっきまで沈んでいた気持ちがウソのように楽になっている。参加者たちが自主的に行動し始めて、優樹の仕事が減ったというのも大きい。
場の空気を変えてくれた彼に、感謝しきりだ。この埋め合わせは必ず、と心に決める。しかし疑問なのは、彼が来てくれた理由だった。
残業もあったようだしこの飲み会も終盤なのに、わざわざ駆けつけてくれたということは、きっと何か理由があるはずなのだ。
(やっぱり出会い的なもの?)
自分が婚活中だからというのもあるが、合コンに参加する理由として一番ありえる理由だろう。それならちゃんと叶えてあげなくては。
そう決めた時、ちょうど二次会についての話題が上がった。
「ユウキくん来たばかりだし、二次会した方がいいよね、ゆきちゃん!?」
呼び寄せた手前、ちゃんと彼が楽しめるようにしなくては。優樹は二次会の会場を物色するためスマホに手を伸ばしながら、色よい返事をしかける。けれど言葉をつむぐ前に、横から発言権を奪われてしまった。
「ううん、いかない。ゆきさんは俺と帰る」
「ん!?」
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