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つぐない1
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ほかほかとした布で肌を撫でられるのは心地よかったが、ひどく落ち着かない。
最初に顔、首筋を通って次は手先。幾度か湯ですすぎながら拭われる。レオンハルトは、その見た目に反して存外繊細な触れ方をする。
異性、しかも一夜を共にした相手に触れられているというのに、彼があまりにも淡々と作業的なので、意識する方がおかしいような気がしてくる。
それくらい丁重で甲斐甲斐しく、妙に手馴れているように感じた。彼の肩書を思えば、不思議だ。かしずかれて世話をされるのが当たり前の立場であるはずなのに、どうしてこんなに人の世話をすることに馴れているのだろう。
軍では何でも自分自身でできるように訓練するという。そのせいかもしれない。
あれこれ想いを巡らせているうちに、二の腕までが拭き終わる。
「少し服を緩めてくれ」
「は、はい」
後ろにまわったレオンハルトに指示されて、胸下のリボンを緩める。すぐに襟元がくつろげられて、背中の半ばまでが空気にさらされた。
寒さに肌が粟立つが、すぐに温かな布をあてがわれる。背中全体を程よい力で拭われるうちに寒さも忘れ、すっかり安心して身を任せていた。
背中が済むと、今度は足先へと移った。足の指から膝下までを終えると、彼はようやく手を止めた。
「膝上に触れられるのは、さすがに抵抗があるだろう」
「ええ、後は自分でします」
レオンハルトに一旦寝室から出てもらっている間に、太ももと腰回りを処理する。気になっていたぬめりを拭い取ると、手巾を内側にたたみ直してからボウルに沈めた。
ボウルを満たす湯はぬるくはなっていたが、完全には冷めきっていない。これなら、最初は熱湯だったのではないかと思う。
レオンハルトはそんなそぶりは見せなかったが、火傷なんてしていないだろうかと今さらながらに心配になる。
「終わりました。ありがとうございます、さっぱりしました。」
戻ってきた彼の手に注視すると、指先から手の甲にかけて少し赤くなっているようだった。
「あの、レオンハルト様、手を火傷していませんか」
「ああ、これか? 大したことはない」
本当だろうか。そうだとしてもなるべく早めに冷やした方が良いように思える。
「それより先ほど気がついたのだが、服が破れているようだ」
逆に指摘を受け、ベアトリーチェは縫い目が裂けてしまっている脇の部分を手のひらで覆った。
「恥ずかしい話ですが、無理に引き抜こうとして失敗してしまったんです」
「本当に? 俺が破ったのではないか」
「いいえ、まさか。閣下には優しくしていただきました」
「強姦した相手に向ける言葉ではないな」
恥じるように目元を伏せ、レオンハルトは吐き捨てた。
「強姦された覚えはないのですが……」
「本当にすまなかった。初めてがこんな経験で、さぞ嫌な想いをしただろう」
「いえ、陛下?」
最初に顔、首筋を通って次は手先。幾度か湯ですすぎながら拭われる。レオンハルトは、その見た目に反して存外繊細な触れ方をする。
異性、しかも一夜を共にした相手に触れられているというのに、彼があまりにも淡々と作業的なので、意識する方がおかしいような気がしてくる。
それくらい丁重で甲斐甲斐しく、妙に手馴れているように感じた。彼の肩書を思えば、不思議だ。かしずかれて世話をされるのが当たり前の立場であるはずなのに、どうしてこんなに人の世話をすることに馴れているのだろう。
軍では何でも自分自身でできるように訓練するという。そのせいかもしれない。
あれこれ想いを巡らせているうちに、二の腕までが拭き終わる。
「少し服を緩めてくれ」
「は、はい」
後ろにまわったレオンハルトに指示されて、胸下のリボンを緩める。すぐに襟元がくつろげられて、背中の半ばまでが空気にさらされた。
寒さに肌が粟立つが、すぐに温かな布をあてがわれる。背中全体を程よい力で拭われるうちに寒さも忘れ、すっかり安心して身を任せていた。
背中が済むと、今度は足先へと移った。足の指から膝下までを終えると、彼はようやく手を止めた。
「膝上に触れられるのは、さすがに抵抗があるだろう」
「ええ、後は自分でします」
レオンハルトに一旦寝室から出てもらっている間に、太ももと腰回りを処理する。気になっていたぬめりを拭い取ると、手巾を内側にたたみ直してからボウルに沈めた。
ボウルを満たす湯はぬるくはなっていたが、完全には冷めきっていない。これなら、最初は熱湯だったのではないかと思う。
レオンハルトはそんなそぶりは見せなかったが、火傷なんてしていないだろうかと今さらながらに心配になる。
「終わりました。ありがとうございます、さっぱりしました。」
戻ってきた彼の手に注視すると、指先から手の甲にかけて少し赤くなっているようだった。
「あの、レオンハルト様、手を火傷していませんか」
「ああ、これか? 大したことはない」
本当だろうか。そうだとしてもなるべく早めに冷やした方が良いように思える。
「それより先ほど気がついたのだが、服が破れているようだ」
逆に指摘を受け、ベアトリーチェは縫い目が裂けてしまっている脇の部分を手のひらで覆った。
「恥ずかしい話ですが、無理に引き抜こうとして失敗してしまったんです」
「本当に? 俺が破ったのではないか」
「いいえ、まさか。閣下には優しくしていただきました」
「強姦した相手に向ける言葉ではないな」
恥じるように目元を伏せ、レオンハルトは吐き捨てた。
「強姦された覚えはないのですが……」
「本当にすまなかった。初めてがこんな経験で、さぞ嫌な想いをしただろう」
「いえ、陛下?」
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