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夜這い1

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その日の夜、湯浴みを終えたベアトリーチェは早めにメイドを下がらせた。疲労を感じているのは、久々に他人と長く会話したからだろうか。
このまま眠りたいところだけれど、そうもいかない。
レオンハルトはこの城に長く滞在するつもりはないと言っていた。例の件を実行するなら早い方がいい。
彼と二人で話してみてこんな計画が成功するはずもないという思いが強くなっている。
怖気づいてもいたが、どうせ黙っていても断罪される運命だ。
――それならせめて、あがいてみよう。
半ばやぶれかぶれな思いで、レオンハルトの訪問からずっと枕の下に押し込めておいた例の品物を取り出す。
今夜決行しなければきっとこの決意も萎れてしまう。これまで国が傾いていく様を見ているしかなかった自分がほんの少しでも貢献できるなら。
自己犠牲の気持ちを胸に、ベアトリーチェは震える手でポーチを開けた。

最低限の準備を終えると、自室を出る。夜の城内はしんとして、ひどく侘しい。
元々使用人の数が少ないうえ、トライデントの兵士たちの世話のために手を取られているのだ。
ただ、今のベアトリーチェにとっては都合がいい。
夜更けに男性の部屋に忍んでいくところなんて誰にも見られたくなかった。
ネグリジェの上から防寒用のガウンを一枚羽織り、レオンハルトの滞在する部屋に向かう。手すりを握りしめながらゆっくりと階段を下ると、程なくして賓客用の部屋の並ぶ場所へ出た。
一番手前の客室に、彼はいるはずだ。扉の前に立ち、どうやって声をかけようかと逡巡していると、中から呼びかけられた。
「誰だ」
誰何の声を受け、ベアトリーチェは胸に抱いたポーチをぎゅっと抱きしめた。
「夜分に失礼します、ベアトリーチェです……」
震える声で応じると、すぐに内側から扉が開かれた。
「どうした」
扉の向こうに立つレオンハルトは、困惑の表情を浮かべている。
それはそうだ。ベアトリーチェと彼は、戦勝国と敗戦国の代表同士でしかない。こんな時間に訪ねるのは非常識だ。
「あ、あの、」
うまい返しが浮かばず声を上ずらせていると、レオンハルトは一歩下がって部屋の中へとベアトリーチェを誘った。
「中で話そう。廊下は冷えるだろう」
「すみません」
先に立つレオンハルトの背中を追って、室内に足を踏み入れる。
彼は飾りのないシャツを纏っていた。ベルトは解いているが、下はまだ軍服のままだ。
昼に会ったときはしっかりと上げられていた前髪は今は下ろされて、薄明かりに鈍く光を放っている。
隙のない軍服姿と比べると、少しだけ雰囲気が和らいでいるような気がした。
「それで、こんな時間に何の用だ?」
訪ねてきた理由を問われ、ベアトリーチェは浅く息を吸った。
「レオンハルト様、私と一夜を共にしていただけませんか」
抑揚のない声で要望を告げると、整った眉がはっきりとしかめられる。
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