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レオンハルトの訪れ2

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「ええ、城のみんなが頑張ってくれました」
どうにか思考を切り替え、応じる。
「そういえばこの城は、規模の割に人が少ないような気がするのだが」
触れられたくないことに言及されて、ベアトリーチェは顔をひきつらせた。
「特に執事やメイド長など、上に立つ者の不在が目立つ」
「それは、……」
対外的には、難しい性格でのベアトリーチェが気に入らない使用人をすぐに首にするということになっている。
宰相たちがベアトリーチェを孤立させるために仕組んだことであるが、側近であるフェリクスがその噂を信じているのだから、きっとレオンハルトもそうだろう。
――私が至らないせい。
結局、この一言に尽きる。だが、ベアトリーチェが口を開く前に、レオンハルトが続けた。
「兵士たちには自分のことは自分でするように教育している。明日からは食事も洗濯も場所を借りるくらいになるだろう」
「……お気遣い、ありがとうございます」
責められるかと思っていたため、拍子抜けをする。
「長居するつもりはない。明らかにするべきことが解決すれば、俺たちは城を出る」
そこでいったん言葉を切って、レオンハルトはベアトリーチェを見据えた。
「貴女にも関係することだ」
レオンハルトの瞳が、ひたりとベアトリーチェをとらえる。彼は今回の戦争の責任の所在を調査中だと語った。
「確認が取れるまで貴女の身柄を預からせてもらう」
寒色の瞳が、ベアトリーチェに注視している。その眼差しに一切の感情は見られない。
何も答えないベアトリーチェに焦れたのか、レオンハルトは軽く首を傾げ、尋ねた。
「何か言っておきたいことはあるか」
「いいえ。すべてお任せします」
首を振ってみせると、レオンハルトは眉を寄せた。
「貴女が国を傾けたという証言があるが、それに対しての申し開きは?」
「……ありません」
宰相か大臣か、それとも城内の誰かだろうか。証言というくらいだから、確かな情報筋があるはずだ。
信じてほしいと言えたらどんなにいいだろう。でも、ベアトリーチェにはできない。
――嫌われ者の王女。あなたが何を言おうと、誰も信じない。
――誰かに助けを求めようとすれば、城の者がひどい目に合う。
――我々の傀儡でいれば、誰も傷つかない。
宰相たちにかけられた呪いのような言葉に縛られて、抜け出せない。
口を閉ざすベアトリーチェを見て、レオンハルトは何か言いたげに目を瞬いたものの、それだけだった。
「気が変わったら知らせてくれ」
そう言い置いて、彼は退室していった。
ベアトリーチェは椅子から立ち上がることもできず、まつ毛を震わせた。
レオンハルトはベアトリーチェに非があると見なせば、躊躇なく罰を与えるだろうという予感があった。
恐ろしいと思うと同時に、ベアトリーチェはどこか安堵してもいた。
自分が断罪されることで、この事態が治まるなら。今まで国が傾いていくのを眺めているだけだったことを思えば、できることがあるというのは救いのように感じていた。
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