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王には言えない内緒の話2

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「……何をすればよいのですか?」
「殿下に取り入りなさい」
フェリクスは事もなげに言い放った。
「はっきりと申します。あなたの評判を見込んでお願いしているのです」
「評判、とは」
「色を武器に臣下を骨抜きにして国を乗っ取ったとか? 捕縛した将軍が言っていましたよ」
ベアトリーチェの頬に朱がさした。羞恥と居たたまれなさでこめかみがぴくりと引き攣る。それでも言いたいことを飲み込んで、望まれていることを確認する。
「私にクリューガー陛下と、……一夜を共にしろとおっしゃるのですか」
どうか違っていてほしいと願いながらフェリクスを見つめるが、彼はにこりと微笑んで首を縦に振った。
「ええ、一夜と言わず必要なだけどうぞ。篭絡してくださって結構ですよ」
仕えるあるじを篭絡しろなんてけしかける理由に思い当たり、ベアトリーチェの鼓動が早くなる。
「つまり、ノイベルト様は謀反を?」
声を潜めて問うと、フェリクスは首を振った。
「まさか。私は一生を帝国と陛下に捧げています。そうではなくて、陛下に女遊びを教えていただきたいのです。このままではクリューガー家は彼の代で途絶えてしまう可能性すらありますから」
理解したものの、ベアトリーチェには荷が重い。
「私では力不足かと存じます」
もし噂通り本当に男を手玉に取ることを得意としていたなら、それとも美貌に自信があれば、一も二もなく了承しただろう。しかしベアトリーチェはどちらも備えていないという自覚があったし、有り体に言えば処女だった。
ヴァレンツァには貞節を重んじる国教があるものの、建前上一線を越えない嗜み程度の交際は貴族令嬢にも許されている。
とはいえ元々奥手なタイプのベアトリーチェは淡い恋くらいはしたことがあるものの、男性と付き合った経験すら皆無だ。
そんな自分を抱いても、レオンハルトが満足できるはずがない。むしろ失態を演じて彼を怒らせてしまう可能性の方が高い。
しかしフェリクスは取り合ってくれなかった。
「ご謙遜を」
「いえ、そうではなく……本気で申しております」
言いつのろうとするものの、指先で制される。
「これまで国内外の多くの令嬢が陛下に差し向けられました。それでも陛下のお眼鏡にかなう女性はいなかったのですよ」
フェリクスは小さく嘆息した。
「ですから、今までとは毛色の違う女性ならもしかすれば、と。もし成功すれば、陛下はあなたを悪いようにはしないでしょう。もちろん、ヴァレンツァに対しても」
それを出されると弱い。ベアトリーチェの立場は不安定で、国を立て直そうとしても嫌われ者の王女に皆がついて来てくれるかどうかもわからない。
――クリューガー陛下からの手助けがあれば、どれほど心強いか。
彼は強国の侵略を何度も退けた天才的な軍事の才能がありながら、本領を発揮するのは戦後だった。戦火で焦土と化した領地を人が住めるように整備することはもちろん、その後自活できるように産業や物流の道筋もつけてくれるという。
後から対価を絞り取るためだと言い疎む者もいるが、民衆の暮らしを思えば彼の行いは素晴らしいと思える。
「……できる限りのことをしてみます」
気づけば口から出ていた。自信はない。けれど何もしないでいるよりはいい。
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