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王には言えない内緒の話

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後に残ったベアトリーチェとフェリクスは立ち上がったまま顔を見合わせる。レオンハルトと比べると小柄だと思った彼も、ベアトリーチェと並ぶと差がある。
「何人くらいいらっしゃるかお聞きしても?」
「勿論です。しかし、その前に二人きりで少しお話しませんか」
フェリクスの甘い顔立ちが、ベアトリーチェに寄せられる。
「陛下の前ではできない話もありますので」
含みのある口ぶりに緊張が戻ってくる。敗戦国の立場としては断りようもない。
部屋の外に兵士を出して二人きりになると、もう一度着席する。
「噂では、あなたはひどい言われようですよ」
口火を切ったのはフェリクスからだった。
「ええ、存じています」
「否定なさらないので?」
「私が何か言ったところで、変わるものでもありませんから」
民衆が信じることが真実だ。国と民を守ることができなかったベアトリーチェに反論する資格はない。
「潔いですね。そんなあなたを見込んで、一つ助言をさせていただきます」
フェリクスは彼のあるじについて語った。
「陛下の弱点をお教えいたしましょう」
――どういうこと?
ベアトリーチェの眉がわずかに寄る。下手な反応をすれば今後の交渉に不利になるかもしれないという危機感が、彼女を慎重にさせた。
沈黙を守っているうちに、フェリクスが言葉を続ける。
「クリューガー陛下は質実剛健を地でゆく方です。戦場では勇猛果敢、時に冷徹。公平で厳格な司令官と言われています」
「存じております」
「けれど、ああ見えて女性には弱いのですよ」
「それは……意外です」
彼の見た目からは軽薄な印象はまったく受けない。けれどまだ妻帯はしていないはずだから、貴族の若者らしく恋に浮き立つことも許されるだろう。
そんなことを考えていると、フェリクスの薄い唇が笑みを形作る。
「色に溺れるという意味ではありませんよ。どちらかと言うと、あの方は軍と結婚しているようなタイプです」
暗に女っけがないと言っているのだろう。それならば納得できる。
常勝の強国ローゼンハイトの呼び名は、彼の父親が土台を築き、レオンハルトが確立したはずだ。
「それでもお母上が早世されたからでしょうか、女性が困っているところを見るのは耐えがたいようです」
「そうだったのですね」
そういえばこの会合の始まりに、ベアトリーチェの様子を気遣ってくれたことも記憶に新しい。しかし、フェリクスはそんな話をベアトリーチェにして、どうしようというのだろう。
彼の狙いが分からない。
「そのようなことを、私が知って良かったのでしょうか」
「ええ、ぜひ知っていただきたかったのです。あなたにも好機だと思いますよ。ヴァレンツァの復興をお望みでしょう」
国の復興はベアトリーチェの悲願だ。政治も産業もめちゃくちゃになってしまった自国を立て直したいと強く思っている。
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