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会談に臨む2

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ベアトリーチェが階段を下り、ホールに降り立つと、視察団はようやく彼女の存在に気づいたようだ。はっとした様子の彼らに向かって、ベアトリーチェは声をかける。
「ようこそおいでくださいました」
両の手を腹部で重ね、軽く頭を下げると、しばしの沈黙が辺りを包む。
ゆっくりと頭を上げたところ、自国の衛兵も含め、皆一様に驚いたような顔をしている。
――ここへは来るべきではなかった?
それを忠言してくれる臣下はいない。信頼できる人々はすでに国を追放されているし、つい数日前まで城内を闊歩していた宰相やその取り巻きたちは逃げ去った。
だからベアトリーチェは自分の頭で考えて行動するしかなかった。自ら出迎えることが心証が良いのではと思ったからそうしたのだが、間違いだったのだろうか。
時間にすればほんの数秒の沈黙でも、不安でたまらなくなってしまう。
「出迎え感謝する」
沈黙を破ったのは、ベアトリーチェが先ほどレオンハルトだと認識した男性だった。彼はそこで言葉を切ると、ベアトリーチェに向かってまっすぐ歩を進めた。
近づくと、見上げるほど背が高い。厚い生地の軍服の下の身体は厚みがあり、しっかりと筋肉がついているのがわかる。
輝くブロンドの髪は襟足は短く整えられ、頭頂部は後方へ流して秀でた額を見せている。アイスブルーの瞳には、澄んだ水に一滴インクを垂らしたようなわずかな陰りがあった。
高い鼻梁にシャープな輪郭も相まって精悍な顔立ちの美形ではあるが、気難しげに真一文字に結んだ口元が近寄りがたさを感じさせる。
「レオンハルト・クリューガーだ。貴女はベアトリーチェ王女でよろしいか」
「……ええ、そうです」
王者の風格を漂わせるレオンハルトは、思わず膝をつきたくなるような威圧を放っていた。その気配に圧倒されてしまったものの、気を取り直して応じる。
するとレオンハルトはベアトリーチェに向かってまっすぐ手を差し出した。
その手に自分の手を重ねる。硬い手のひらの感触は剣を握る者のそれで、彼が軍人王という二つ名の通り、後方でおとなしくしているタイプの指揮官ではないと如実に語っていた。
「本日はどうぞよろしくお願いいたします」
挨拶を終えると、一同を応接室に案内することとなった。
応接室はホールと同じ一階にある。ホールから繋がるギャラリーを通り抜け、一つ角を曲がると第一応接室に到着する。ベアトリーチェの姿をみとめると、部屋の入口の左右にいた衛兵が敬礼の姿勢を取った。
彼らが樫の扉を開けると、明るい日差しの射し込む優美な応接室が姿を現した。
光を入れるための三連窓には異国風のダマスク模様のカーテンを襞にしたスワッグバランスがあしらわれている。
窓と向かい合う壁に掛かるタペストリーはユニコーンの姿が織り込まれており、ヴァレンツァで盛んな織物技術の集大成とも言える精巧な作りだ。
曽祖父母の時代からこの応接間を飾っているそれは、子供の頃からよく見慣れたもので、重圧に押しつぶされそうなベアトリーチェの心をほんの少し慰めた。
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